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鎌田慧の現代を斬る/モラル崩壊の謀略「産業再生法」

■月刊「記録」1999年9月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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■タカリ産業勢ぞろい

 自自公ファッショ準備政権は、懸案のガイドライン関連法を片付けたあと、国会の会期を強引に延長させ、愛国心鼓吹(こすい)のための国旗・国歌法を成立させた。さらに、監視国家のための盗聴法を強制採決、暴走ぶりに歯止めはかかっていない。国民総背番号制の導入、憲法調査会設置関連法の成立と、有事体制、憲法改悪への地獄の道を突進している。これから右翼ライターが大手をふるってバッコしよう。
 これらの悪法のあとに控えているのが、産業再生法である。この法律を簡単に説明すれば、勝手に企業が土地を買い込み、景気のよいときに莫大な利益を生みだした生産設備を、不況になったからと国に買い上げさせるものだ。
 いうまでもなく経団連の意見に従った法律だが、この虫のよすぎる要求には驚かざるを得ない。昨年はじめには、放漫経営で破綻寸前となった銀行に、「公的資金」という名目で湯水のごとく税金をつぎ込んだ。この方法を産業界全体に応用しようというのが、産業再生法である。
 この法律の原型は、重厚長大産業主導で進んだ「産業競争力会議」でつくられたものだ。その旗振り役が鉄鋼業界である。鉄鋼業界は市場産業のさいたるもので、景気が良くなると設備投資を拡大し、景気が悪くなれば休止するという極めて荒っぽい経営をしてきた。こうした経営を支えてきたのが、通産省を交えた鉄鋼製品のカルテルであった。つまり需要が落ちてくればメーカー同士が談合して生産量と販売価格を調整し、値段を上げてきたのだ。そうした国家依存の体質が、こんどの産業再生法にそのままもち込まれている。
 産業競争力会議において、今井敬・経団連会長(新日本製鐵会長)が、過剰設備の廃棄によって生まれる遊休地を、住宅・都市整備公団などが買い上げるように提言したのは、彼らのタカリ体質を如実にあらわしている。 もちろん産業再生法がらみでうまい汁を吸おうとするのは、重厚長大産業だけではない。たとえば工場跡地を売り飛ばすことについて、三井不動産会長の田中順一郎は次のように語っている。
「大都市圏の低未利用地の活用が必要である。例えば、臨海部の工場跡地などで、今後必要となるリサイクル施設などを組み込んだプロジェクトを展開し、活用していくべきである」
 あるいはこうもいう。
「都心の空洞化を防ぎ、活力を維持していくためには、住居機能に加えて、商業・娯楽・福祉などの機能を集積し、連携させるミックスドユース(多用途近接)の都市づくりを地区計画制度を活用して進めるべきである」(月刊『Keidanren』九九年八月号)
 大工場を作るという名目で、農民の土地や漁民の海を奪ってきた大企業は、不要になるとこんどは「低未利用地」などと名付け、政府に買い上げさせる。さらにゼネコンが自治体を巻き込み、その土地で都市づくりをおこない、加えて不動産業者が周辺の土地で一儲けしようとする。なんと調子のいい連中であろうか。日本の経営者は、シビアな経営など心がけるつもりはないのだ。放漫経営によって経営が息詰まれば、政治家を動かし、国の資金で救済させることができる。大蔵官僚は天下り先の銀行を救い、通産省は天下り先の鋼鉄や造船、電機メーカーを救う。これらを見越した、まともな経営など考えない、インチキ賭博である。

■経団連の要望を丸飲み

 経団連副会長の前田勝之助は、月刊『Keidanren』(九九年八月号)に寄せた文章で、産業競争力会議に経団連が提出した提言の柱の一つが、そのまま政府の産業競争力強化対策に盛り込まれたことを明らかにしたうえで、次のように書いている。
  「株式交換制度、会社分割制度、新再建型倒産手続きについては今国会から来年の通常国会にかけて逐次上程される方針が明らかにされた。また、『分社化に係る手続き』や『ストック・オプションの対象の拡大』、『事業再構築のための資金供給の円滑化』などの諸策については、早期実現の観点から『産業再生法』と称する特別法として、会期延長された今通常国会中に実現されることになった」
 つまり経団連の要望を政府が丸飲みしただけだ。八百長国会では自分の経営失敗のツケを補わせ、延長国会でも大企業救済に突進させた。
「企業が負っている過剰な債務のために、資本不足に陥り経営が立ち行かなくなる場合には、株主や経営者が責任を負う必要があろう」
「九九年三月には七兆円を超える(銀行への)公的資本増強が行われた。こうした事態を招いた銀行経営者の責任は重大である。経営判断の失敗という点以外にも、不良債権隠しのような違法な処理が行われていたケースが少なからず指摘されており、こうした場合も含め責任の所在を明確にしていく必要がある」(『経済白書』九九年度版)
 近年甘い見通しばかり書き立ててきた『経済白書』でさえ、政府と企業の癒着による税金投入がモラルハザード(倫理観の欠如)を招いた可能性を認め、責任の所在を明らかにしろと書いている。にもかかわらず、なんら経営者の自己責任は追及されぬままに、彼らの救済策がつぎつぎと打ちだされている。これぞ企業にはカネ、市民にはムチという自自公ファッショ政権の結末を示している。
 経営者の責任を不問にするという点で、産業再生法は許せない法律だ。だがこの法律の問題点は、そればかりではない。「産業再生」という名前の下に、債権切り捨てばかりか、工場の廃棄と労働者の解雇が公然と認められる。つまり経営者が労働者をクビにするさいに、「産業再生のためであり、国の方針だ」と堂々といい逃れできるようになったわけである。
 企業における労使関係は、あくまでも経営者の責任であったはずだ。ところが小渕政権と無責任な財界によって、「首切り法」が策定されることになった。これまでにも職業安定法と労働者派遣法がすでに改悪されており、このままでは、勤労者はなんのバックアップもない、ハダカの存在になってしまう。
 さらにこの首切り法が異常なのは、公的支援を望む企業が所轄の官庁にリストラプランを提出し、認定を受けることである。その認定の基準とは、経営資源が有効に活用されるかどうかであるという。しかし経営の実績などまったくない官僚が、「経営資源」の評価をするなどむちゃの極みだ。
 何度もくり返すように官僚と財界は癒着している。財界のいいなりになって、天下り先を確保するのが官僚の悪癖だから、どれだけ厳密に認定が行われるかは定かではない。しかも官僚が経営を統制していけば、統制経済になってしまう。ここでも口では市場経済といいながら、形勢不利になると国に下駄を預ける日本企業の悪習が繰り返されている。
 これまでの日本の歴史をみても、経営が行き詰まると国営にし、資本が強くなると国営企業を民間に払い下げてきた。そのいったりきたりで、財閥が形成されてきたのである。イギリスでもすでにサッチャーリズムによる民営化推進の欠陥が明らかになり、どのように雇用を守るかという議論が起きている。日本はレーガン時代のクビ切りをマネて、国家主義によるクビ切りによって、国力の浮上を図っている。これまで経営者が盛んにいってきた、「運命共同体――お前らが一生懸命働けば悪いようにはしない――」という約束を裏切るものだ。いまさら労働者に自己責任を要求してクビ切りするなど、許されるものではない。

■インチキ商法を国家が推奨

 政治も経済も自自公のやりたい放題である。
 じつはこの秋、中小企業の大量倒産が心配されている。一年前に実施された中小企業むけ融資の返済が、秋にははじまるからである。思うように景気が浮揚しない現状では、その支払いに行き詰まる企業が続出するだろう。大企業むけに大量に投入された資金のおこぼれで食いつなぐ中小企業には、根本からの安定など得られるはずもない。
 現在までに銀行や企業の債務に投入された国家資金は、総額五〇〇兆円におよぶとされている。国債の大量発行や、「公的資金」という名の税金投入は、最終的に国民にツケが回されたものだ。つまり国民にたいする大量収奪が、国会を通じて堂々とおこなわれている。
 いま銀行預金金利は、ほぼゼロに等しい。生活防衛上、なんらかの投資によって資金の有効利用を図りたい庶民にたいして、まず、銀行倒産の場合、一千万円以上の預金は切り捨てる、と脅し、リスキーな株式投資に誘導しようとしている。かつて、老人の貯金を大量に収奪した経済革命倶楽部やオレンジ共済組合のようなインチキ商法を、国家が奨励しているようなものである。
 すでに庶民は、荒野にハダカで立たされている。対岸に渡るためのロープを張り、そこを伝って渡れ、と政府はいう。ロープの下にはセーフティネット(福祉の網)はない。落ちたものは死ねということだ。
 こうしたヤラズボッタクリの政策が堂々とまかり通るのには、マスコミの弱腰が大きく影響している。労働組合の御用化、野党の退廃、国民の無関心。この三種の神器によって日本の滅亡は、ますます近づいている。 (■談)

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コメント

 これが実行されたら非正規雇用の増大、労働条件の悪化が懸念されます。マスコミは問題を詳細に報じませんがやはり圧力がかかっているのでしょうか。

・労働者派遣法上のいわゆる26業務の拡大
・いわゆる自由化業務における派遣期間制限の撤廃
・いわゆる自由化業務における派遣労働者への雇用契約申込義務の廃止
・労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準の見直し(偽装請負を認める)
・企画業務型裁量労働制に関する対象業務の早期拡大
・解雇の金銭解決制度の早期導入

2007年度日本経団連規制改革要望
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/058/index.html

投稿: 財界のモラル | 2007年7月 7日 (土) 01時15分

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