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鎌田慧の現代を斬る/「異常なし」社会の崩壊過程

■月刊「記録」2002年10月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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 いまさら社民党の批判をするのも、気の抜けたビールのようなものである。しかし憲法改悪へと突き進む政治状況下で、護憲にこだわる政党の消長は日本の社会にとって見過ごすことはできない。
 これまで何度も批判してきたが、社民党の古い体質と判断停止には呆れるばかりである。たとえばJRから解雇された国労組合員を見捨てるばかりか、「四党合意」というデタラメで国鉄解体をはたして自民党と結託し、国労分裂に手を貸す犯罪行為。政党買収というべき政党助成金もいまだに受け取りつづけ、国会はもちろん党内でも問題にしてしないグズ。薬害エイズ訴訟で官僚と闘いつづけた川田悦子議員が東京21区で立候補したさいには、なんと対立候補を擁立する官僚体制。田中康夫が再選をはたした先頃の長野県知事選では、判断停止の自主投票。それ以前におこなわれた田中康夫知事にたいする不信任決議案では、社民党系の社会県民連合は議場から退席し、可決を手助けした。土木関係企業と密接な関係をもつ議会派と決別できないのだから、あまりにもヒドイ。
 こうした醜態をさらすのは社民党の奥底に、自民党と談合する55年体制の沈殿物が蠢いており、その暗部に党が支配されているからである。ズブズブの不気味な底なし沼体制では、土井たか子党首や福島瑞穂幹事長、保坂展人議員などが、どんなにかんばっても足もとから沈んでいくばかりだ。今後の選挙でさらに敗退をつづけるのは、まちがいない。
 社民党が潰れても、それはみずから蒔いた種であり、自業自得というものだ。ただし憲法、とりわけ9条を護る一角が崩れ去っていくのは忍びないし、影響も大きい。キチンと責任をとるべきだ。
 再生のためには、古い体質が染みついた党官僚と、どう決着をつけるのかが問題となる。内部で徹底した対決がはじまらないかぎり、党がズルズル崩壊していく道は避けようもない。
 55年体制の醜悪なオデキの露呈は、村山富市政権だった。このとき日米安保や原発を容認し、無原則、無責任、ゴマスリ政党へと突き進んだ。日本の軍国化が不安視され、原発が崩壊過程にむかっているいま、社民党が裏切ったツケを抱えて力を失っているのは皮肉である。もし55年体制の崩壊時に、改めて結党以来の方針を高く掲げていたなら、現在、先見性のある政党として、反有事法体制や原発批判でも影響力をもっているはずだ。有事法制や「共謀罪」の導入反対などに大きな影響力を発揮できたにちがいない。なにかあっても「異常なし体制」で自己判断なく過ごしてきた社民党は、ダメ日本の申し子である。

■内部告発者を東電に報告

 私が原発を批判するのは、そのすべてが不正だからである。それは原発の建設の過程であれ、運転時であれ、事故を起こしたときの対応であれ、すべて一貫している。秘密と不正の巣窟なのだ。
 8月29日、経済産業省の原子力安全・保安院の発表によって、東京電力の破損隠しスキャンダルがあきらかになった。これも、いままでごく当たり前に電力内を支配していた行動の一部があきらかになっただけのことで、驚くにあたいしない。
 今回の問題の発端は、電力会社の自主点検にかかわっていた社員の内部告発だった。そこから約2年間にわたる経産省の生ぬるい調査にたいして、シラを切り通してきた東電だったが、ことし8月に突如、捜査に協力的となり、原発の損傷をもみ消した事実を経産省に伝えたとか。この中には、炉心隔壁(シュラウド)にひび割れが見つかったのに国に報告しなかったなど、大事故につながりかねない事態もふくまれていた。
 しかしウソつき東電の本領発揮はここからだ。スキャンダルに社員がかかわっていたことを初めて認めたのが、事態公表から3日目。そののちトラブル隠しの方法もかなり悪質だったことが発覚。福島第1原発では、ひび割れの見つかったシュラウドを取り替え、シートで隠して国の検査をやり過ごした。緊急炉心冷却システムで見つかった損傷の兆候には、金属部品を取り付けたあとに周辺を色まで塗ってごまかしたという。
 といっても、今回の問題の根本に、経産省の体質が深く関係していることを忘れてはいけない。
 あらためていうまでもなく、日本の原子力行政は原子力推進体制である。アメリカ従属の中曽根康弘などの指導を受け、旧通産省は率先して「原子力」の旗を振ってきた。その実行に強力な“力”をあたえたのが、九電力体制という地域独占である。9つの電力会社に電力事業を独占させ、欧米諸各国と比べて割高な電気料金を保護する一方、政治力と補助で政府の方針に逆らわないよう縛りをかけた。
 この悪の構図では、ピッチャーとアンパイヤがおなじ仲間である。どんな問題が発生していても、「ストライク(異常なし)」と判定しつづけてきた。今回、重大事故が発生する前に、隠しきれなくなった審判が「不正」を告発したが、経産省が原発の安全に気を配っているわけではない。それが証拠に、シュラウドにひび割れの疑いのある福島原発1基、柏崎刈羽原発2基は、運転停止処分にさえしていない。毎日新聞(9月3日)によれば、「疑われるトラブルが軽微な原子炉まで停止したら、電力供給に支障が生じかねない」と、経産省は説明しているという。
 経産省の原発推進政策を阻むものは、誰であろうと許されないのだ。かつて四国電力社長が、「原発は時期尚早」と経済雑誌で発言し、旧通産省からゴツンされて撤回した一幕もあった。
 もちろん今回の事件でも、経産省が狙ったのは事故隠しであった。原発の点検作業を担ってきた米ゼネラル・エレクトリック(GE)元社員から、東電の破損隠しについて経産省保安院に内部告発があったにもかかわらず、実質的な調査に入らなかった。
 それどころか告発者の情報を東電に漏らしたという。行政が内部告発者の名前を、内部告発の対象会社に教えるなど、人間としてのモラルに反するばかりか、公務員としての重大な犯罪行為である。
 こうした不誠実な態度によって内部告発から公表まで2年間もかかったにもかかわらず、保安院は「告発者保護を最優先にしたため」などと長いあいだサボっていた理由を説明している。わずか2週間余りでバレるウソをつくぐらいなら、「国策としての原子力政策のスピードを落とさないためだった」とハッキリ発言すればいい。1970年中頃には、東電の報告書に書かれた原発損傷の兆候を、旧通産省官僚が「異常なし」と書きなおさせた事実も判明している。なにがあっても「異常なし」の大本営発表は、原発推進が国策だからだ。国策のためには、国民が死んでも仕方がないと官僚たちは考えている。
 どんな事故が発生しようとも、原発推進。むかし軍隊、いま官僚。玉砕覚悟で戦艦大和を沖縄に派遣したり、特攻隊を無目的に突っ込ませていた旧軍部の無責任体制が再現されている。

■カネカネカネの“金”子力発電所

 経産官僚と一体になって原発を進める自民党の政治家も、東電のスキャンダルは気にする様子もない。福田官房長官は、政府の原発を見直す可能性について、「全くない。安全が保障されれば、環境的にもコストからみても、現状ではこれに勝るものがない」(『毎日新聞』9月3日)と明言している。どうしようもない無責任さだ。
 JCOのような大事故も起き、存在自体が危ない原発の安全基準さえ守れない電力会社の体質があきらかになっても、「異常なし」「安全だ」としかいわないのは、自民党自体が崩壊過程に入っていることをしめしている。
 これほどいい加減な企業姿勢を東電がもちつづけられたのは、日本最大の電力会社として財界・政治家・マスコミ、そのすべてを牛耳ってきたからである。
 今回のスキャンダルで東電を退陣する5人の経営陣も、荒木浩会長は日本経団連の副会長、那須翔相談役は同評議会会議長、平岩外四相談役は同名誉会長を務めていた。歴代の東電社長は、財界で君臨するのが当たり前だったのだ。古くは木川田一隆氏が経済同友会の代表幹事まで登りつめているし、水野久男氏は東京商工会議所副会頭にもなった。先述した平岩外四氏など12年間も経団連副会長を務め、そのあと経団連会長になったという。自社の不正に目をつむり、経済界で大きな顔をしていたとは、たいした神経のもち主である。
 政治家にも強い影響力を発揮するのも、東電の「お家芸」である。そう、お得意の献金攻撃だ。『朝日新聞』(9月13日)によれば、2001年には役員の少なくても35人が、自民党の政治資金団体などに総額605万円を個人献金した。「個人のやり取りの問題で、一切関与してない」と、東電は個人献金を説明したようだが、「個人のやり取り」が聞いて呆れる。ちなみに電力九社まで献金の対象を広げると、役員の87%、228人が3390万円を個人献金したことになる。いわゆる「実弾」が飛び交っていたわけだ。
 これまでもわたしは、原発社会がカネに汚染されていることを強調してきた。原発立地地域あるいは原発予定地では、カネを巡る荒廃が極端なまでに進んでいる。カネなしでは運転できない原発を、わたしは“金子力発電所”と名付けている。こうした地域の状況については、『日本の原発地帯』(岩波書店)『原発列島を行く』(集英社新書)などにも詳しく書いた。
 悲しいかな現状に変化はない。9月13日の『朝日新聞』が報じたところによれば、島根原発に隣接する島根町は、ことし中国電力からとみられる匿名の寄付3億円を受け取った。昨年もおなじく匿名で6億円も寄付されたという。原発立地点の鹿島町にいたっては、ことし7億円にのぼる匿名希望の寄付を受けている。こうした足長おじさんを装った危険への「代償工作」を、各電力会社はごくあたり前のように、実行してきた。住民のほっぺたをカネで叩く電力会社の基本的なスタンスは、中曽根以来の手法である。
 ただ、これだけ安全が脅かされると、カネだけでは地域にフタをできない。今回のスキャンダルにより、福島県知事や新潟県知事および地元市町村は、プルサーマル計画の白紙撤回にむけて動きだした。また経済産業省の村田成二事務次官も、「(プルサーマル計画は)まったくの発想を変えた取り組みが必要となるかも」と話している。ついに行政側からも、疑問の声があがりはじめた。
 プルサーマル計画は、核燃料廃棄物を再処理工場に運びプルトニウムを取りだして再利用する。そのため計画の中断は、六ヶ所村に建設中の再処理工場の存在自体を問い直している。実際、事務次官の発言にたいして、木村守男・青森県知事は「理解に苦しむ」と語っている。知事の心情はともかく、1兆円以上も投資した再処理工場は、原子力船むつのように膨大な無駄遣いとして終わりそうである。
 核燃料サイクル自体が見直されることになれば、原発から発生する廃棄物をどこで処分するのか。使用済み核燃料を一時保存する中間貯蔵所の建設を、各電力会社は進めていが、そこが最終処分地となれば、どの自治体も容認しない。もちろん一時保存を認めさせるのもカネだ。
 中間貯蔵所を誘致している青森県むつ市の杉山粛市長は、貯蔵約40年間で国から322億円入るという皮算用を披露した。すでにむつ市は、施設の立地可能性調査を実施しているため、年間1億4000万円の交付金を国から受けている。まさにカネカネカネの異常事態である。電力会社が地域や政治家に払う金は、電力会社を選択できない消費者からむしり取った電気料金だし、各自治体に払われる交付金は国民の血税である。一企業にすぎない電力会社が、まるで土砂降りの雨のようにそのカネをばらまいている。それが黙認されてきたのは、マスコミが原発のカネに汚染されているからである。
 東電の破損隠しは、原発の根元を揺るがせる問題になってきた。これをどう運動化するかが問題だ。もはや社民党や共産党、まして民主党などはアテにできない。いままで以上に市民ネットワークを強化し、政府と原発会社に強く抗議の声をあげることが求めれられている。

■アジアの平和政策のために

 9月17日、小泉純一郎首相が朝鮮(朝鮮人民共和国)を訪問したのは、彼のなりの世論対策であり、大ばくちだった。その結果、拉致された13人のうち8人が死亡していたという、最悪事態が判明した。
 小泉の行動で評価できるのは、ハンセン病裁判で控訴しなかったことぐらいだ。それさえ元ハンセン病の人たちの熱意と世論に、小泉が敗北して実現したものだった。
 訪朝前、『週刊新潮』や『週刊新潮』は「朝鮮征伐」のような反朝鮮キャンペーンを張っていたが、これはきわめて見苦しい。アジアの平和をつくるには、南北朝鮮の平和的な関係、日本と朝鮮の平和的な関係および朝鮮とアジア全体との関係をぬきには考えられない。アメリカ一辺倒の小泉が朝鮮にでむいたのは、ブッシュのOKがあってのことだが、平和のための日本と朝鮮との国交回復の端緒にはなるだろう。
 拉致事件の遺族の方の心情は察するに余りある。しっかりとした事実確認と解明、こんごの対策が絶対に必要だ。しかし朝鮮は、孤立化させられてからも、いろんな国との関係をもとめはじめている。アジア全体の平和政策を考えるうえでも、大人のつき合いによって、新たな時代をつくるべきだ。(■談)

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