« だいじょうぶよ・神山眞/第29回 学園の火災 | トップページ | ホームレス自らを語る/辛抱が続かない・中島昭良さん(54歳) »

鎌田慧の現代を斬る/「戦争国家」にむかう日本の台頭

■月刊「記録」2004年1月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

*           *           *

 昨年の暮、イラクのサダム・フセイン元大統領が拘束された。アメリカが宣伝のために流した映像とはいえ、拘束直後の様子は「独裁者の末路」そのものだった。それはルーマニアのチャウシェスクやパナマのノリエガ将軍の姿を想い起こさせるものでもあった。日本に逃げ込み、現政権からの責任追及を日本政府が阻止しているペルーのフジモリなどの例もあるが、多くの独裁者の最期は哀れである。
 ともあれ、いま懸念されているのは、ブッシュ米大統領の悪行を消しさろうとするマスコミ報道である。忘れてはいけないのは、そもそもイラク攻撃は、大量破壊兵器があるとの理由でおこなわれた。ところが、いまだに大量破壊兵器は発見されず、イラクの危険性をことさらに強調した政府の情報操作が発覚し、大義なきイラク戦争への批判が米英国内でも高まっていた。そうした状況下でのフセイン拘束であった。
 アメリカに捕まえられたことによってフセインは完全な敗北者となり、「戦勝国」大統領のブッシュ支持率は上がりはじめている。フセインの悪事を裁判で追及するようになれば、イラクを攻撃した米英の悪事が帳消しになりかねない。「勝てば官軍」となるのが腹立だしい。 フセイン拘束後、たまたまNHKの衛星放送で流れたABCテレビのブッシュ米大統領単独インタビューを見た。「フセインにたいして、どのような刑罰をあたえるのか」というキャスターの質問に、ブッシュはニヤリと笑って「極刑を受けるべきだ」と答え、あわてて「量刑を決めるのは、イラクの市民だ」とつけ加えた。
 フセインの首に2500万ドル(約27億円)もの懸賞金を掛け、彼の2人の息子を殺害し、大統領府をメチャメチャ攻撃しても、ブッシュはフセインを殺害できないできた。父親から受け継いだ恨みを、いまようやく果たした気持ちだろう。しかし外国の大統領を自国の軍隊で捕捉し処刑するとしたなら、それは侵略そのものである。そのうえ法廷さえひらかれないうちに、他国の大統領の極刑を主張するなど、思いあがりもはなはだしく、フセインに負けず劣らずの極悪大統領ぶりといえる。自分の罪深さにおののくべきだ。
 こうしたなかでの唯一の救いは、「罪の追及は公開の裁判で、適切な法に基づいた法廷で、そして人権法を含む国際的な規範と基準にのっとって行われなければならない」と、アナン国連事務総長が発言したことだ(『朝日新聞』12月16日)。さらにアナン氏は、「国連は死刑を支持しない」とも明言している。これは米国が訴追の中心となり、フセインを死刑にしようとしていることへのいち早い牽制球で、アメリカの横暴にたいするささやかな抵抗といえる。

■議論もできず、テロを呼び込む小泉

  一方、小泉純一郎首相は「復興事業」という大義名分によって、自衛隊をイラクに派兵しようとしている。その装備に加えられたのが、無反動砲と110ミリ対戦車弾である。どちらも対戦車用の火器だ。ちなみに無反動砲の有効射程距離は約700メートル、1分間に4~5発発射できる性能をもつという。これは防衛ではなく、攻撃のための火器としか考えられない。そもそも戦車と戦闘状態になることを想定しているのだから、海外での武力行使を禁じた憲法違反はあきらかである。
 また、防衛とは攻撃される前の攻撃を含むため、相手が攻撃するとしないとにかかわらず、隊員が危険だと思ったら先制攻撃をかけることになる。つまり戦闘状態では、どこからを正当防衛と限定するなどできない。そもそも戦場に火器を携えて行く軍隊など、攻撃のためでしかなく、「自衛」などありえないのだ。
 フセイン拘束によって、これから、イラクのゲリラ活動がどうなるのかはわからない。小泉は「テロには屈せず」といいつづけている。16日の参院外交防衛委員会では、「テロの脅しに屈したら一番喜ぶのはテロリストだ。対決は覚悟しなければならない。東京でもテロがあるかもしれない」(『朝日新聞』12月17日)などと暴言を吐いた。国民の安全を考えるのは、政治家の第一の義務である。日本政治家のトップに位置するものが、自分の政治の結果として「東京にもテロがあるかもしれない」などと、しゃあしゃあいってのけるのは、無神経だ。
 日本がイラクに派兵するから、東京がテロ攻撃のターゲットにされたのである。なんのことはない、小泉の言動がテロ発生の危険性を高めているだけだ。その因果関係を抜きにして、「とにかくテロに屈しない」といいつづける無責任さは許せない。
 さらに自衛隊派兵にたいする国会の論争について、「『話せばわかる』っていうもんじゃないらしいね」と記者団に語っている。「話せばわかる」は、民主主義への思いを込めた犬養毅元首相の言葉だ。結果として犬養の言葉は5・15事件の青年将校には通じることなく、彼は殺された。しかし銃を持つ相手と通じ合おうと努力はした。一方の小泉は、野党相手の意思疎通をあきらめているようだ。国会で論議を尽くして決定していくという民主主義的な感覚さえないことが、ここでも明らかになったといえる。

 ブッシュは、「イラクで命の危険を冒した国だけが、契約を得ることができる」と述べた。つまり人を殺したものだけが分け前にあずかれる、と「強盗の論理」を世界に押しつけたのである。そもそも「復興」とはいえ、破壊したのはアメリカとイギリスである。国連決議さえ取り付けられなかったマフィアまがいの攻撃を、日本は派兵という形で承認しようとしている。そして復興事業のおこぼれを待っているのである。
 だからこそ日本の財界は、派兵に反対しない。中東へのエネルギー依存度が高い日本は、派兵こそ国益にかなうというのが建前である。たとえば『琉球新報』(2003年12月11日)には、つぎのような財界人のコメントが並んだ記事が掲載された。
 「中東地域の平和と安定的発展はきわめて重要」と指摘のは、北城恪太郎経済同友会代表幹事だ。山口信夫日本商工会議所会頭は、「復興、人道支援、日米安保条約、テロ撲滅などを考慮すれば、国際社会の一員としてできる限りの協力をするのは当然」。日本経団連の奥田碩会長も「あくまでも国連の傘の下で」と条件を提示しながらも、「(自衛隊は)必ず出て行かなければならない」などといっている。
 この3人は日本企業を代表する役職に就いている。彼らの役目は、中東ではもちろん日本でも日本企業で働く会社員を守ることにある。それが企業人の責任であるはずだ。ところがテロリストから狙われる可能性を高める自衛隊に派兵に賛成し、各企業の社員をテロ攻撃にさらしても、利権を稼ぎたいらしい。この非人道的な発想は、小泉の非情な派兵決断とまったく同様である。それどころかテロ発生にともなう経済ダメージさえ、財界指導者には興味がないようだ。とにかく目の前の「エサ」にまっしぐら。強盗アメリカになついた野良犬の風情である。
 アメリカによる「イラクの経済復興」は、アメリカ中心の連合国暫定当局(CPA)が新外国投資法によって進めてきた。その内容はといえば、イラクの国営企業を解体して民営化し、外国資本の参入を可能にする上、関税を周辺諸国と比べて格安に設定し、なおかつ06年1月1日に関税の完全廃止まで盛り込んだものだ。イラクを植民地にする法律である。イラク商工会議所のバルダウィ会長が、「復興を口実に資源や富を奪おうとしている国がある」(『日本経済新聞』12月9日)、と不信感を表明したのも当然だ。
  「1人、2人殺すと殺人だが、大量に殺せば英雄だ」という言葉もあるが、大規模な破壊は、一大プロジェクトをつくりだす「英雄の所業」らしい。敗戦国を完全にしゃぶり尽くすのが、「復興」であり「民主国家の設立」である。それがブッシュ・アメリカの論理である。
 こうした復興の方針を決めるのは、ブッシュを支えるネオコンの幹部たちである。以前にも指摘したとおり、この幹部のバックに巨大なネオコン関連企業がついている。07年までで550億ドルともいわれる復興費は、すでにハリバートンやベクテルなどのネオコン関連企業に回っている。そのうえ最近の報道によれば、ハリバートングループは、ガソリン代として米政府に6100万ドル、およそ65億8千万円の水増し請求をしていたことがあきらかになったという。
  「強盗企業」にモラルを求めるは無理なことだが、イラクの混乱期になんでもありの状況だ。戦争はもともと汚いものだが、今回のように当初から商売としてはじめられた戦争の汚さには呆れるほかない。
 米国が投下したクラスター爆弾も大きな問題だ。米英軍が使ったクラスター爆弾は、約1万3000発。その子爆弾、約190万発が地上に散乱したという。この爆弾により1000人もの死傷者が発生したといわれており、今後も深刻な被害を生みだすにちがいない。
 クラスター爆弾は、ジュネーブで採択された「特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)」でも規制されている。ただし規制内容は、使用後の不発弾の除去への努力をうたったにすぎない。さすがに国際世論は使用規制を求めているが、アメリカは規制強化に反対している。これでは戦争終結後も、なんの罪もない人々を殺しつづけることになる。
 さらにアメリカは、前回の湾岸戦争から大量の劣化ウラン弾をイラクに使用しており、すでにイラク国民に重大な被害をあたえている。広島・長崎の教訓をなんら学ぼうとしないアメリカの傲慢さには、激しい怒りを感じる。スミソニアン博物館で、原爆を投下したエノラゲイ爆撃機を堂々と展示する無神経さにも通じるものだ。

■モラルを無視して利益追求にはしる奥田

 日本経団連は、ことしの春闘で従来の年功型賃金をやめ、成果主義型賃金に全面的に転換する方針を固めた。すでに昨年、定期昇給の凍結・見直しがおこなわれた。さらにことしは、ベースダウンまで実行するという。労働者の賃金は、いうまでもなく生活給である。プロ野球選手の報奨金とはちがう。生活ギリギリの賃金を成績によってさらに下げるなど、やらずぼったくりの方法でしかない。
 しかし大企業の労働組合はほぼ御用組合となっており、「ごもっとも、ごもっとも」と企業側の理屈を認めるだけ。中小企業では、銀行や取引先の元請け会社から倒産寸前まで圧力をかけられ、労組を組織する余裕さえない労働者も多い。労組の組織率は20パーセントを切り、労働者の5人に1人しか組合員がいないのは、こうした現状を反映している。
 一方の日本経団連は、不況に乗じて、労働者への圧力を強めつづけている。日本経団連は日経連と経団連という日本の二大財界団体を統合したものである。そのトップに君臨している奥田碩会長は、これまでにも消費税16パーセント引き上げを提案するなど、てまえ勝手にコトを進めてきた人物である。自身が会長を務めるトヨタ自動車でも、02年度で1兆4千億円もの過去最高の計上利益をあげているのに、賃金抑圧の先頭を走ってきた。日本企業で利益のトップを占めてきた会社なのにである。日本経団連の会長がトップに君臨し、最高利益をあげる企業が賃金を抑えたことで、他の自動車メーカーばかりか黒字企業もトヨタに追随した。この悪影響は大きい。 また、ネオコン関連企業が政治家を取り込むことで巨額の利益をあげているのを見習うかのように、奥田は政治資金を復活させ大企業が政治家に圧力をかけられるようにし、経団連のさらなる強化を目指してもいる。このようなトップが経営するトヨタが、企業モラルを喪失していることは、ある意味、当然といえるかもしれない。 昨年10月には、50億円の脱税を名古屋国税局から指摘され、20億円追徴もの追徴課税をされた報道された。労働者からだけではなく、国家からもカネを搾り取ろうとする企業姿勢には驚くばかりだ。
 さらに12月には、自動車整備の国家試験の問題を、試験の検定委員を務めるトヨタの社員が系列のディーラーに漏らしていたことが発覚した。系列会社にまで漏らす手口は、かなり大がかりなものだが、担当課長を解雇することで、トヨタはお茶を濁している。こうしたの問題処理の仕方をみても、トヨタが利益だけを追求し社会的なモラルのない企業であることをしらしめている。
 さらに戦争国家にむかう日本での重要な問題がある。少年法の破壊だ。
 現在、少年の氏名・年齢・住所および本人と推測できる記事や写真を報道することは、少年法で禁じられている。ところが少年法は、捜査中の少年には明確には適応されていない。この隙間に警察庁が入り込んだ。少年に公開捜査の道をひらくよう、青少年育成施策大綱に盛り込んだのである。
 犯罪をおこした少年を特定できないようにしているのは、更生した少年を世間の好奇な目から守るためであり、更生を成功させるためである。
 少年であっても凶悪犯罪なら氏名や顔を公開してよいという理屈は、『フォーカス』が神戸事件で少年の顔写真を公開した記事掲載の言い訳とおなじである。つまり、当時あれだけ物議をかもした記事の作り方を、公の機関が認めたということだ。
 氏名や写真をあきらかにする公開捜査がおこなわれることで、どれほど治安がよくなるのかは不明だ。それより、少年の将来が心配だ。公開捜査を決めた警察庁は、公開捜査に踏み切った根拠すらしめしていない。
 11月、わたしは千葉市で16歳の少女が殺された事件を取材した。その事件は、墓地でひどい暴行がおこなわれたこと、また加害者の青年が多重の債務を抱え、ローン会社からカネを借りられなくなったため、偽装結婚で被害者の戸籍に入ってカネを借りていたことで注目された。主犯格の青年は22歳、その「共犯者」となったのが、16~18歳の少年4人であった。
 この事件はたしかに陰惨なものだった。しかし罪を犯した少年たちの周辺を丁寧に取材すると、そこには彼らが抱える孤独が浮かび上がってきた。このような犯罪こそ、大人の責任と救済する力が問われている、とも感じた。
 しかし少年は、「刑事処分相当」の処遇意見をつけられ家裁送致となった。つまり成人とおなじような裁判を受けることになったのである。
 少年法の改正にさいして、逆送致は慎重にされるべきだという声が強く、実際にしばらくは慎重に判断されてきた。しかし前例があれば、判断は少しずつ慢性化し、慎重さは失われていく。最初に凶悪犯罪であるという理由で突破すれば、あとは月日とともに厳しい処分が一般化していくものである。
 とにかく日本政府は、ことあるごとに国民の人権を剥奪する方向にむかっている。そのため人権にたいする攻撃を、御用新聞や御用評論家や御用ライターをつかっておこなっている。これこそ国内での戦争体制強化である。イラクへの派兵とけっして無縁ではない。
 ことしこそ軍事国家への歩みを止めなければならない。戦争反対の声をあげ、選挙で民意をしめしたい。そう強く思っている。 (■談)

|

« だいじょうぶよ・神山眞/第29回 学園の火災 | トップページ | ホームレス自らを語る/辛抱が続かない・中島昭良さん(54歳) »

鎌田慧の現代を斬る/鎌田慧」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/389724/7216037

この記事へのトラックバック一覧です: 鎌田慧の現代を斬る/「戦争国家」にむかう日本の台頭:

» 銀行 自動車 ローン その3 [銀行 自動車 ローン]
関西アーバン銀行 パーソナルローン(マイカーアシスト車購入型 ...新車、中古車... [続きを読む]

受信: 2007年7月21日 (土) 12時32分

« だいじょうぶよ・神山眞/第29回 学園の火災 | トップページ | ホームレス自らを語る/辛抱が続かない・中島昭良さん(54歳) »