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鎌田慧の現代を斬る/地獄へのガイドが日本を襲う

■月刊「記録」1999年3月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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■米国は恫喝、小沢は扇動

 長野オリンピック疑惑や所沢ダイオキシン汚染騒動など、以前から噂されていた真実が表面化して、大騒ぎとなっている。とはいっても、現在もっとも危険なのは、国会で論議されている「日米防衛協力のための新指針」(ガイドライン)問題である。
 以前も、この問題について扱ったのだが、ことの重大性を考えて、あえてもう一度問題点を整理してみたい。 日本の政治状況は、よりいい加減にすすんでいる。その象徴ともいえるのが、中村正三郎法務大臣である。先月も報じた通り、憲法を守るべき法務大臣でありながら、「軍隊ももてないような憲法を作られて、それが改正できないという中でもがいている」などと彼は発言した。にもかかわらず彼はいまだに大臣に居座り続けている。法務大臣が憲法を無視するなど、言語道断といえるが、憲法を守る義務は国会議員にさえあるのだから、本来なら議員を辞任しても当然である。首相は法務大臣を即刻ヒメンすべきだ。
 さらに国会では、憲法改正の糸口をつくるために「憲法調査委員会」の設置に、自民党・自由党はもちろんのこと、民主党まで賛成を表明した。基本政策大綱に「一〇年程度かけてあるべき憲法を議論する」などとある公明党も反対しそうもなく、憲法改正の防波堤となりえるのは社民党・共産党・新社会党という少数派となってしまった。
 まったくおなじ翼賛体制で議論が進んでいるのが、ガイドライン関連法案だ。反対しているのは、社民党と共産党と新社会党という少数派。民主・公明両党は修正によって、自自連合の野望を認めようとしている。
 一月中旬に来日した米国のコーエン国防長官は、ガイドラインについて「日本との安全保障関係を明示するもので、『とりで』だと思っている」と語ったうえに、国会での法案修正について「日本政府も、迅速な対応ができないために国益が損なわれるようなことは望まないだろう」などと、日本の主権にたいする恫喝を加えた。
 このように日本の戦争化へむけた動きは、急ピッチに進みつつある。それにつれて国会議員の発言も、過激さを増している。
 ウルトラ小沢一郎は、テレビ朝日の討論番組で「マフィアの親分でも『私は殺人は実行しません。金をだしてやらせる』というのが、一番悪い」というたとえを使って、多国籍軍への自衛隊参加を主張したという。
 一九九〇年、中東に展開した多国籍軍に総額一〇億ドル(当時のレートで約一四五〇億円)もの金を日本政府はカンパし、国民から総スカンをくらった。どうやら小沢は、当時のことをまったくちがう角度から反省しているようだ。前回はカネをだしてやらせた。こんどは自分で殺していく。アメリカの鉄砲ダマ志願である。そのためか、コーエンは、小沢自由党を説得できる内容にガイドライン関連法案をまとめるよう自民党に圧力をかけている。

■「周辺事態」ならどこでも出兵

 高村正彦外務大臣の発言もすごい。
「ある事態が国家間の紛争でない場合にも、その事態が我が国の平和と安全に重要な影響をあたえる場合には、『周辺事態』に該当する」と衆議院外務委員会で発言したのだ。よその国で起こった内戦やクーデターなども「周辺事態」とするというムチャクチャな拡大解釈をしめしたものだ。さらに彼は、「相手に日本攻撃の意図がなくても、周辺事態になりうるのか」という質問にたいしても、「絶対にありえないことではない」と述べている。なんと、アメリカ得意の「低強度紛争」(ゲリラ戦)への介入の片棒を担加させられることもふくまれるようだ。
 日本が攻撃された場合に自衛隊が発動すると、日米安全保障条約には決めている。これは、「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という日本国憲法第九条二項の非戦・反戦の精神を著しく踏みにじるものとはいえ、それでもなお、自国への攻撃に限定していたところに、武力行使のムヤミな拡大を抑えるという殊勝さがあった。 ところが、今回のガイドラインでは、日本が攻撃されるかどうかに関係なく、「周辺」で戦争がはじまった場合には、自衛隊が出動できるようになる。そればかりか高村外務大臣が認めたように、外国で内戦あるいはクーデターが起きても、自衛隊が協力させられるようになるのだ。つまりガイドラインは、自衛隊を米国軍の用心棒に仕立て上げるようとしているのである。
 しかも「周辺事態」の定義は、きわめて曖昧である。まず「周辺」が特定できない。朝鮮半島での混乱や台湾と中国の紛争の激化すれば、安保条約が定める極東に含まれるとして、当然、自衛隊が出動する。だが安保条約を根拠にして、極東でもない中東に自衛隊が出動するとなれば大きな問題となる。ところがガイドラインの「周辺」はすべてを解決する。「周辺」は地域概念ではないという子どもだましの理屈によって、極東以外の地域にも自衛隊は出動できるようになるからだ。
 さらに問題なのは、「事態(戦争)」かどうかを判断する権限を日本がもたないことである。そもそも戦争をおこなうかどうかは、善し悪しを別にして、その国の政府の決定事項である。ところがガイドラインでは、「周辺事態」を国会で事後承諾するという。事後承諾というのは、国会の承認事項ではない。ただ既成事実を追認しているだけである。つまり国会の機能を放棄していることになる。シビリアンコントロールなど、影も形もなくない。結局、米軍の出動だけを頼りに「周辺事態」かどうかを決めることになりかねない。

■戦争反対で処罰

 さらに恐ろしい事実も指摘しておきたい。
 それはガイドライン関連法案が、国家総動員態勢を想定していることだ。「有事」という言葉のもとに、行政・国内産業・自治体・市民生活のすべてが米軍の戦争に協力させられる。
 野呂田芳成防衛庁長官などは、「自治体が一般的な協力をするのは常識だ」と国会で答弁し、さらに「(首長の判断に反して、業務を拒む自治体職員がいた場合は)重大な違反なら当然処罰される」と言い切っている。これは自治体の民主主義が消滅することをしめしている。職員個人の戦争反対への意志さえ処分の対象にされるなど、戦時体制とまったくおなじ状況だ。
 その処罰の対象になりかねない米軍への協力は、現在、一〇項目が明らかにされている。
 まず地方公共団体の長にたいして求める協力項目は以下の三つある。
・地方公共団体の管理する港湾の施設の使用
・地方公共団体の管理する空港の施設の使用
・建物、設備などの安全を確保するための許認可
 国以外のものにたいして依頼する協力項目は、民間と地方公共団体に分かれており、民間には次の四項目が定められている。
・人員及び物資の輸送に関する民間運送事業者の協力
・廃棄物の処理に関する関係事業者の協力
・民間病院への患者の受け入れ
・民間企業の有する物品、施設の貸与
 一方、地方公共団体にたいして依頼する協力項目は、以下の三項目となっている。
・人員及び物資の輸送に関する地方公共団体の協力
・地方公共団体による給水
・公立病院への患者の受け入れ
 では現実問題として、この一〇項目で協力が収まるのかといえば、これがまたちがうようなのである。「この一〇項目に限らない。周辺事態でどのようなことが必要になるのか、我々にもまだよくわからない」などと、防衛庁幹部が語っているのが、その証拠だ。これまた米軍主導の内容といえる。
 そもそもガイドライン関連法案は、米軍の動きしか頭にない。「(ガイドラインの)対象は米軍であり、日米安保条約の目的に合致すれば、日本は支援する。米軍でさえあれば、多国籍軍であろうが、国連軍であろうが構わない」などと外務省が発言しているが、この発言こそガイドラインの本質を透けて見せるものだ。とにかく米軍の戦争のためならなんでも協力するという奴隷根性だけが、ガイドライン関連法案を貫いているのである。

■傲慢さに磨きをかけた自民党

 ガイドライン関連法案の問題点はまだまだ無数にある。これが立憲国の議論であるのかと憤激に耐えないほどだ。その一つが後方支援の問題だ。
 この件では、「戦争状態に協力する武器弾薬の輸送が、憲法上可能だ」と小渕恵三首相が発言している。武力を用いない平和の精神を、日本国憲法は世界にむけて積極的にしめしているはずだ。ところが武力によって国際紛争を解決しようとする米国に、戦争の物質的な基盤である武器や弾薬を運ぶことが可能だと、首相が発言しているのだから国民をバカにしている。明らかに憲法の精神を踏みにじっている。
 武器や弾薬の輸送が武力の行使と一体化していない範囲なら、憲法九条に抵触しないと、首相は言い抜けているようだが、常識で考えてもらいたい。武器・弾薬は戦争で使うためにあり、戦争は武力の行使そのものである。それを一体化していないから、などと言い逃れ、一体化するかどうかは具体的な事例に則して個別におこなうなどというのだから、とんでもないひとだ。
 これほど無論理・身勝手な答弁が国会で堂々とおこなわれていること自体、野党がいかにバカにされているかをしめしている。自民党のこうした傲慢な態度を可能にしたのは、小沢自由党との共闘である。これはかつての自民党にさえなかった図々しさである。
 ガイドライン関連法案は、日本が戦争協力するための法整備である。しかしこれほどの事態であるにもかかわらず、国民的な関心がいまだに盛り上がっていない。またガイドラインの問題について発言・執筆しているライターも多くはない。国会で承認され、法案が通る前に反対の声をあげる必要がある。だからこそ今回もこの問題を扱った。
 このままでは国会機能を喪失させ、日本を戦争に巻き込み、官庁民間企業総ぐるみで戦争に協力させられる法案が現実のものとなってしまう。米軍にすべての決定権を委ねたガイドライン関連法案では、国民の意志とは無関係に米国の指示に従って戦争に突入していくことになるのだ。本来、地域住民のためにある地方自治体が完全に中央政府に束縛され、その中央政府が米軍により強く束縛されるという図式は悪夢でしかない。
 しかも現在、野党の反撃は決定的に弱い。民主・公明両党は自民党案を少し緩和した形でお茶をにごそうとしていることを考えれば、完成した国会の翼賛体制最大の鬼っ子として、ガイドライン関連法案が成立するのは時間の問題だ。
 また、ガイドライン関連法案にたいする反対の世論が形成されていない。これでは、基本的人権や憲法九条の平和主義が実質的に骨抜きにされても、誰も文句をいえる者がいないことになる。戦争に駆りだされて、はじめて自分の悲劇を呪うことになりかねない。
 現在、不況さえ解決できればすべて良しというような世論が形成されている。その陰で、ガイドライン関連法案が日本を地獄の道へガイドしようとしているのである。 (■談)

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