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患者よ、「がん治療」を選択せよ!

■月刊『記録』97年1月号掲載記事

『患者よ、がんと闘うな』の著書で医学界に衝撃を与えた近藤誠医師と、“エホバの証人”の無輸血手術を含め、約6000件の手術を手がけてきた日本屈指の外科医大鐘稔彦医師が日本のがん治療を一刀両断する。本当に必要ながん治療とは何か。患者はがんをどう捉えればいいのか、熱い論争は日本の医学界の現状に大きな疑問を投げかける。

       *       *       * 

■早期がんで全摘?

●大鐘 近藤さんが『患者よ、がんと闘うな』を書いたことにより、手術や抗がん剤の投与を多くの患者が拒否し始めたとも報道されています。
 私はこのような傾向は非常に良いことだと思っています。外科医とすれば、切らなくてもいいものを切ってきたような罪悪感にとらわれる本かもしれませんがね。
 近藤さんの理論がまぎれもない事実としたらどえらいことで、我々外科医は発想の転換を強いられるでしょう。
 半年前に、私のいとこが早期がんと診断されたと言って、相談に来たんですよ。場所が悪いから全摘(※ここでは胃を全部切り取ること)と言われたんです。胃の上部でね。早期がんで全摘はきついだろうと思いまして、彼の地元のがんセンターの内科を紹介しました。外科に行ったらすぐに切られるでしょうから。
 近所の医者に内視鏡で診てもらったときは、グループⅤ(※生検で得られる病理組織診断の分類法で、Ⅰは正常、Ⅱはやや異常あり、Ⅲはかなり異型が強い、Ⅳは悪性に近い、Ⅴは完全に悪性)だからすぐ外科で切ってもらえと言われたそうですが、がんセンターで再検したところ、グループⅣだったそうで、外科にも相談を持ちかけたらしいんですが、すぐに手術するのではなく、しばらく様子をみようということになったんです。
 これには驚きました。がんセンターも変ったなあ、と思いましてね。最近電話したら、まだ切っていないと言っていました。半年経ちます。つい最近の検査で、やっとグループⅤになったと言っていましたね。とはいっても5ミリぐらいの大きさですから、内視鏡で切れるものならそうしましょう、ということになったようです。ただし、深達度を調べてからということらしいんで、エコーで調べてから、ということらしいです。
 私からみると、がんセンターが早期がんとはいえ半年間も経過をみるのは画期的なことですよね。

●近藤 それで患者の容態は、たいして変わらなかったでしょ?

●大鐘 ええ、変わってないようです。

●近藤 私も何人かのがん患者を、手術しないで様子をみています。ほかの病院では、内視鏡的な治療もできず、患部をふくめた臓器の切除だと言われた患者なんですが、容態は変わらないんですよ。

●大鐘 先生の理論が正しいとすれば、容態はずっと変わらないわけですよね。

●近藤 まあ、ちょっとは変わってもいいんですけれども(笑)。なかには、これからどんどん大きくなるものがたまたま紛れているということもありますからね。ただ原則的に、検診でみつかるものは、どんどん大きくならないと考えています。

●大鐘 ただし、その理論を根拠づける長期にわたるフォロースタディーはないわけですよね。
●近藤 ええ、まあ。しかし、検診で見落としたケースを集めて、人とか人単位で集計しているんですよ。そのなかで比較的かたよりの少ないと思われる結果をみると、がんはむしろ大きくなっていないんです。これはケースの集め方が影響すると思います。あちこちの病院から、医者の印象に残ったものを取り上げるというような調査は信用できません。医者の印象に残ったような例は、ほとんど進行がんなんですよ。そうなると、早期がんは進行がんになる、というような調査結果を生んでしまいます。現に、現在はそのように言われているわけですからね。
 一方で、ひとつの施設内で集計したものなど、偏りの少ない調査結果では、がんが大きくならないケースが多いようです。
大鐘 ただ一般には、早期がんでも%の割でリンパ節転移があると言われています。そのため外科医によっては、D2(※D1~D4は、リンパ節転移の程度を表す記号で、Ⅰ群の付属リンパ節郭清をする手術がD1、段々深部、遠隔に行くにつれてD2、D3、D4となる)を原則、へたするとD3までしている医者もいます。近藤さんが言われるように、D1とD2で治療効果に差がないならば、これはえらいことです。えらいことというのは、近藤さんの理論どおりならD1の手術で済みますから、手術の安全性も上がり、外科医として非常に楽ちんですからね(笑)。

●近藤 リンパ節転移の問題ですが、胃がんのリンパ節切除は、乳がんからの類推からきているんです。リンパ節を大きく切除すれば乳がんの治癒率は高くなるとハルステッドが言い、その学説ががん手術の先駆けとなったわけです。それが胃がんなどに応用されたわけです。
 ところが本家本元の乳がんでは、リンパ節切除の延命効果は否定されています。どうして胃がんでは、このような方法が残っているのでしょうか。まず、ここに矛盾があると思いますね。

●大鐘 近藤さんは、リンパ節転移があっても死なないが、血行性のものは死んでしまうとお考えですか。

●近藤 原則的にはね。胃がんでは、ほとんど例外がないと思います。大腸がんでは血行性転移でも治るケースがあります。臓器ごとに考えなればいけないケースもありますが、一般論から言えば、血行性転移があればだめだけれども、リンパ節転移は少し特殊な転移だと考えています。胃でも乳房でも、リンパ節転移があっても治る人はたくさんいます。乳がんの場合などは、ハルステッド手術(※乳癌で乳房のみか、大小胸筋までゴッソリ取り除く手術)をしてもしなくても治る率が同じという調査結果が出ています。つまりリンパ節転移は、治療してもしなくても同じだと思われます。その論理を胃に当てはめれば、早期がんのリンパ節転移には手をつけなくとも良いのではないかという方向に、理論は向くと思うんですよ。
 リンパ節転移というのは、いままでは全身転移への発進基地だという考え方がありました。宇宙人が侵略してくる前に基地を叩こうという話ですね。でも、それは一面的な見方かもしれません。リンパ節に転移があるために、体の免疫力が高まっている、といった考え方もできるわけです。
 ですから、リンパ節にしても滅多やたらと切っていいものかと考えてしまいますよね。

●大鐘 リンパ節は基地ではないと?

●近藤 胃がんでは、まだそこまで断定はできないまでも、乳がんでは、基地ではないという考え方に傾きます。

●大鐘 ただしリンパ節は転移の経路になりますよね。だから乳がんでも、リンパ節に大きな塊があるのは放っておけないという考えになると思うんですが……。

●近藤 そこらへんは場合を分けなければいけないと思っています。はっきり、がっちりとあるリンパ節を治療するな、と言ってはいません。
 乳がんでも腋の下のリンパ節が腫れているようなものは後で悪さをする可能性がありますから、取るように指示しています。全部が悪さするかは別問題ですがね。
 ただ日本の現状は、リンパ節に何もなくとも、微細な転移はあるかもしれないにしても、リンパ節を根こそぎ取ってしまうでしょ。そこに疑問を持っているんです。
 少し話が違うかもしれませんが、乳がんではリンパ節が腫れていないものは、腋の下を切除せずに、乳房温存療法で乳房とともに放射線を腋の下に当てるようにします。再発率はハルステッド手術とまったく変わらないですね。理論的には放射線をかけなくとも生存率は変わらないですよ。ただし、再発率は上がりますが。これは外国で行われたくじ引き試験(※被害者をくじ引きで選び、治療を受ける側と受けない)で、一致してみられる結果です。

●大鐘 乳がんにおける温存療法というのは、確かに画期的だったと思いますね。これは近藤さんの啓蒙の然らしめるところかもしれません。私も数年前から、乳がんに対しては乳房切除のみを行い、背中から筋皮弁をもってきて一期的に乳房再手術を行っていますが、大変喜ばれますよね。

●近藤 そうです。そういった目で、お腹の中の手術も再度見直すと、ずいぶん違うのではないかなと思います。

●大鐘 確かに乳がんでは、切除する量は非常に小さくなってきていますからね。
手術が抵抗力を下げる

●近藤 イタリアのくじ引きの試験では、ハルステッド手術と乳房温存療法を比べて、転移がなかった人は生存率が同じでした。腋の下のリンパ節転移があった人については、ハルステッド手術の方が生存率が%弱悪い結果が出ています。それは従来の理論では説明がつかない。同じならともかくね。
 結局、再発が多かったのが死亡理由になっていますが、なぜ多いのかといえば、ハルステッド手術みたいな大きな手術をすると、抵抗力が下がり、局所再発や全身転移などが出てくると考えられます。そういう可能性を考えない限り、この結果は説明がつきにくいでしょう。がんの性質は、メスを入れても変わりませんのでね。

●大鐘 ハルステッド手術自体は、胸筋を余分に取るだけで、お腹の手術と違って、そんなに浸襲がきついとも思いませんが。
●近藤 そうです。だからこそ腹の手術は、もっと問題があると考えられます。

●大鐘 保険の点数を見ても、ハルステッド手術の方が、胸筋温存に比べて点数が低いんですよね。それは温存の方が技術的に難しいということを示しています。残すほうが難しいんですよ。

●近藤 そうですね。確かにハルステッド手術の方が簡単ではありますが、術後の経過を見ていると、局所再発が多いですね。せっかくハルステッド手術をしたのに、ポツポツとがんが出てくる例が多かった。それは、長い目でみると3割ぐらいにみられます。
 原発病巣は手術で取ってしまっているわけですから、血行性の再発ということでしょう。結局、根こそぎ患部を取ったために、組織の防禦機構にダメージを与え、再発しやすくなっているのではないでしょうか。

●大鐘 ところで、胃の話に戻りますが、早期がんで、Ⅱ群まで達しているがんは、がんもどきではないといえますか。それとも、そのようながんもどきもあるのか……。

●近藤 がんもどきは定義の問題です。一番大切なのは、そのがんが命取りになるのか、ならないのかということです。命取りに直結するのは、例えば血行性転移であり、腹膜転移であって、リンパ性転移ではありません。放っておいても、そのまま大きくならない人もいます。そういう例は乳がんで報告されています。また、転移があっても取ってしまえば問題ないと考えられます。
 取れば治るということは胃がんの肝転移なんかでは考えられないでしょう。ひとつとっても、他にいくらでも出てきますからね。
 ですから、がんの定義をしなおして、治るか治らないかの観点から、Ⅱ群のリンパ節転移があっても、血行性転移がなければがんもどき、としたわけです。つまりリンパ節転移があるがんもどきというのは、僕の定義にはあります。
大鐘 最近は、D4まで手術が行なわれているんですよ。それで生存率が上がったという統計結果を学会でも出していました。私もD3まではやっていたんですが、CEA(※がん胎児性抗原)が2年ぐらいして徐々に上がってきて、16番(※胃がん規約によるリンパ節の番号で、大動脈傍リンパ節を指す)がどうも大きくなってきているものがありましてね。そうなると、かねての私の疑問は少し解けたかな、と感じ、やはり番まで取らなければいけないのかと、思ったんですがね。まあ、先生にしてみたらとんでもないことなわけですよね。(笑)

●近藤 私は、もう少し確かめてからやってほしいと思いますね。結局、周到なくじ引き試験なしにある手術をして、ある人が長生きをしたからといって、手術のために長生きしたとは限らないですよね。同じようなグループ、同じような患者さんを集めて、それを2つに分けて調査するという方法でないとね。

●大鐘 でも、そのような調査結果はないでしょ?

●近藤 ないです。今までの成績で比べると、非常に大きな差が出て、くじ引き試験だとあまり変わらないということはよくあるんですよ。例えば肝臓がんのエンボライゼーション(※動脈塞栓術。がんの栄養血管にスポンゼルなどの塞栓物質をつめてその血行を断ち、がんの壊死を謀る)でも、他の病院や今までの成績と比べてみると非常に成績が上がったという報告が出ていますが、一方でフランスでのくじ引き試験では、ほとんど結果が変わらなかった。

●大鐘 TAE(※エンボライゼーションと同義)に関しては、私は劇的によくなった経験があるんですよ。

●近藤 確かに、1つ1つみていくと良くなる例もあります。けれども全体としては副作用の方が大きいですよね。それで命を縮めている人もいるでしょう。

●大鐘 でも効く人もいますよね。

●近藤 もちろん。

●大鐘 私の経験では、1本の太いフィーダー(※栄養動脈)に養われているがんにはTAEが劇的に効くという印象を持っています。

●近藤 いずれにしても、そういう療法をやっていくうちに、非常によく効いた患者さんや、長生きした患者さんに当たります。しかし、事前の判断として患者全員に当てはめるには、統計的な調査が必要だと思うんですよ。

●大鐘 そうかもしれませんが、経験的には非常に太いフィーダーがある場合はやってみる価値は大きい、と思うんですよ。

●近藤 確かに大鐘さんはそういう経験をなさっているわけです。それでも人づつ治療をする群としない群とに患者さんを分けて治療の効果をみた場合には、確実に同じ答えがでるとはいえないと思うんですよ。確かに太いフィーダーがない人よりは、ある人の方が効くかもしれませんが。まあ、これは少し水掛け論になってしまいますね。
 同じ治療をしたときに、同じように延命するとは限りません。いろんなタイプの患者さんが混じっている場合には、1人に効いたからといって、全員に行う根拠にはならないと思います。
 この手の話は、抗がん剤で最近よく出てますね。胃がんや大腸がんでは、抗がん剤を使っても生存率曲線が変わりません。でも一部のがん患者にはよく効く。だからやりましょうと、抗がん剤の専門家が言うんですよ。でも、それはおかしな話でしょ。よく効くというのが、人に1人だったり、人に1人だったりするわけです。それに当たるかどうかは、やってみるまでわからない。でも副作用はほとんど全員にある。1人によく効いて、全体としては生存率が変わらないのは、残りの人なり人なりが命を縮めているからです。結果的にみて、効く患者さんが出たからといって、全員にやる事前の判断根拠にはならないわけです。

●大鐘 ただ、同じタイプの人になら効くでしょうね。TAEに関しては、他の患者でもやはり太いフィーダーがある患者には、よく効きましたからね。

●近藤 そうかもしれません。まあ、TAEにしても抗がん剤治療にしても、この人は延命するだろうというファクターが事前にわかっていて、そういう人達だけにするなら、まだ理解できます。しかし無差別に全員にするのは問題ですよね。
 例えばTAEにしても、無差別にやったくじ引き試験の結果は差がないわけですからね。数ヶ月は延命しているんですが、何年か経つと生存率は同じになってしまいます。
 研究者自身も、これは副作用が大きいため、延命期間を考えても勧められる治療ではないと言っています。

●大鐘 しかし効くか効かないかは、やってみないとわかりませんよね。TAEにしても、副作用が強く出るかさえもやってみないとわかりません。まったく副作用が出なかった患者さんもいましたからね。
 そこらへんをどう解決するかという問題ですが、闘ってみないとわからないんじゃないかと思うんですよ。(笑)

■1度はやってみる

●近藤 これは自分の本にも紹介しているのですが、1回やってみるという方法はあります。抗がん剤というのは、普通は3サイクルだ、6サイクルだというふうに用意されているけれども、試しに短期間やってみる。とはいっても胃がんや大腸がんなどは、効果がない可能性があまりにも高いわけですが。
 9割以上の人が、強い副作用に悩まされます。そういう治療を受けてみて、患者さんが納得するという方法はあります。これは患者さんが決めるべき問題です。
 私は何もかもあきらめろと言っているわけではありません。そういう誤解があるようですけれどもね。患者さんの問題だと言っているのです。患者さんによっては、5%の人にしか効かないのであれば、最初からその治療を受けないという人が出てきてもいいと思うんですよ。

●大鐘 だいたい、1回試せば、効果のほどはわかりますよね。

●近藤 それはわかります。でも副作用でひどい目に遭っている人をたくさん見ていますから、私から勧めるほどのものではないと思っていますが。どうしても試してみたいと思う患者さんもいますから、そういう人にまでやるな、とは言えません。

●大鐘 自分が主治医の場合と、そうでない場合とでは違いが出ますか。

●近藤 私のところは、8年くらい前から、ほかの医者が患者を回してこなくなりましたからね(笑)。だから私の患者は、全部私が主治医です。
 昔は乳がんばかりでしたが、最近は本を書くようになったせいもあって、胃がんや大腸がんの患者さんも来院します。

●大鐘 先ほども少しふれましたが、先生が書いておられたように、D1とD2の術後の生存率がまったく変わらないというのであれば、我々外科医は、このリポートを謙虚に受けとめなければいけませんね。

●近藤 ヨーロッパでの死亡率はD2で%ですが、日本では1%だという結果を示されていました。では日本全体の手術レベルは本当に高いのかというと、相当に疑問ですね。
 国立がんセンターの公式のデータをみると、確かに1%ぐらいですが、京都の大学病院でのデータでは、歳以上で2・5%、歳以上で5%の死亡率です。しかも歳以上は、D1手術が標準だったんですよ。また、この調査は1ヶ月以内の死亡しかカウントしてませんが、ヨーロッパでは在院死亡ですから、1ヶ月を越えても一度も退院できない人は数に入っています。1ヶ月ぐらい死亡を引き延ばす技術は、現在ではそう難しくないですからね。日本でも在院死亡数をカウントすれば、死亡率はもっと増えるでしょう。倍とか、3倍とかね。そう考えると、日本で1%だというのは強引な気がします。

●大鐘 そうですか。私はD2では、ほとんど合併症を起こしていませんがね。

●近藤 雑誌などで発言する人は、みんな自信持っていますから1%以下だと自負されるでしょうが、日本全体の現状がそうなのかというと、そんなことはないですよ。ある開業医などは、早期胃がんで外科に送ったらバタバタ手術死されてしまった。それで早期発見、早期死亡だなんて言いだしています。

●大鐘 なるほど(笑)。

■フラフラで退院

●近藤 そのような現実を考えると、胃がんの手術も考えてしまいますよね。
 僕の診ている患者さんは、腹膜転移が明らかになって2年生きていますからね。何もしていない。一度も手術していないのに、最近はますます調子が良くなってきています。
 もう少し詳しく説明すると、奥さんが乳がんで、私の患者だったんです。その関係で彼の胃がんが発見されたとき、私が診ることになりました。「命に未練はないから手術は受けない」と彼は宣言していて、私も様子を見ていたんですよ。
 その後奥さんを亡くされて、やけ酒を飲んだのが原因になったのか、みるみる体重が減って急激に痩せてきたんです。これはダメかと思ってCTで調べてみたら、腹膜が盛り上がったのがあちこち見えるわけですよ。それで骨盤だけに放射線をかけたわけです。その治療が終わったら、下痢はあるものの、調子は良くなってきたんです。CTでみると、ほかのところにも盛り上がった部分が見えるわけですがね。それから2年、だんだん体重も増えてきています。

●大鐘 そうすると、免疫力が高まったということですか。

●近藤 おそらくね。最初、首のところに固いしこりがあったのも、消えてきているんです。本当に不思議だな、と思っています。

●大鐘 そうですね。免疫力ということで私が考えるのは、大学病院やがんセンターなんかが、術後1週間かそこらで患者をところ天式に出してしまうでしょ。ひどい例では、胃の全摘を受けて2週間で出されたおじいさんがいましたよ。もうフラフラで。
 大塚のがん研でも、手術した後は近くの病院で診てもらえといって退院させています。みていると2~3週間で出された患者は非常に予後が悪いんです。長期の入院による、ゆっくりとした療養が必要だと思うんですよ。

●近藤 私は日常生活に戻ること自体は、悪いと思っていません。ただ体力を消耗するような、激しい生活はもちろんだめだと思います。

●大鐘 だからサナトリウムのようなところで、ゆっくり養生する必要がありませんか。

●近藤 私は手術そのものに問題があると思っているので、養生の問題だけでは何とも言えませんね。もちろん心身がリラックスできる環境が、術後に良いとは思っています。同じ手術をしたのであれば、病院にいるよりはサナトリウムのようなところで生活したほう結果は良くなるでしょう。
 しかし、根本的な問題は手術にあると思います。先ほどの話でも、胃がんが最初に発見された時には、微小な腹膜転移があったと思われます。1年後ぐらいに臨床的に明らかになってきていますから。そのときにメスを入れていると、すでにばらまかれた腹膜転移が、メスが入ったところで増殖して、生命を奪うと思います。
 これは元フジテレビアナウンサーの逸見政孝さんの手術でもいえることです。前田外科で手術を受けた時から腹膜転移があったことは明らかです。そして、再発はメスを入れたところに出ています。お腹の縫い合わせたところには、5センチ×センチのがんが出ています。メスを入れるということは、がんにとって再発しやすい状況をつくる可能性があると思います。根元的な問題ですね。

●大鐘 私自身はメスを入れた部分から再発するとは、あまり感じていません。やはり取り残した部分から出てきます。だから私は、きれいに切り取れる見込みが立つ場合以外は、手術をしてはいかんと思っています。まあ、なかなか厳しいことなんですが……。
 ただ乳がん学会でも、がんそのもののボリュームを減らすことが意味がある、と言っていますよね。

●近藤 乳がんについてはそうですね。抗がん剤は、乳がんに効くことがはっきりしていますから、ボリュームを減らさないと抗がん剤は役にたちません。ただし胃がんや大腸がんは、抗がん剤治療で生存率が上がるという証拠がありませんから、がんのボリュームを減らす意味は少ないと思います。

●大鐘 進行がんに関してはどうですか。とりあえず胃だけは取るということは、考えられませんか。

●近藤 治療するならば、動脈注射か何かで抗がん剤を入れておいた方が、むしろ長生きできるのではと感じています。腹膜転移がある時にメスが入り傷を付けてしまうというのは危険だと思うんですよ。メスが入ると血管新生が盛んになりますから、がん細胞が爆発的に増えるのではないでしょうか。だからこそ逸見さんは、傷口にセンチにもわたってがんができてしまった。

●大鐘 それは羽生富士夫(元東京女子医大消化器病センター所長)さんが、手術する前ですよね。

●近藤 そう、前田外科の手術です。傷口が洗われてがん細胞が付いて、それが腹壁の両方に入ったとしか考えられない。

●大鐘 羽生さんがやったあとはどうなんですかね。結局、多臓器不全ですか。

●近藤 もう1回、腹膜に取り付いて、腸閉塞状態になったようですが、最後は多臓器不全でしょう。

●大鐘 羽生先生は私の師にあたる人ですから、私としては辛いところがあるんです。いつもお会いすると、近藤さんのことばかりおっしゃるんですよ(笑)。とはいえ、私があの症状の患者を切るかと言われれば、まず切らないと思いますが……。

●近藤 彼も全部は切り取れなかったでしょうね。個も腹膜転移があれば、もっと多くのがんがあったでしょうから。

■保険点数が切らせる

●大鐘 大腸がんについてはどうですか。私はボールマンⅡ型(※)には、絶対的に手術が良いと思っているんですよ。

●近藤 大腸がんについては、胃がんとは別の論議が必要だと思います。生物学的に違うかもしれないし、何よりも大腸が長いということが、部分的に切り取ったときのダメージの少なさと関連しています。

●大鐘 大腸がんの中にも、本当に悪いものがありますよね。ものすごい勢いで転移を起こす。しかし、原発巣を取らないで放っておけばいずれ腸閉塞を起こします。近藤さんは、症状が出てから切っても良いとおっしゃってますが……。

●近藤 閉塞までいかなくても出血などでわかるわけですから、それからでも遅くはないと思うんです。

●大鐘 なるほど。確かに日本の現状は、やりすぎの感がありますね。症状が出る前に、やたらポリープを取っていますからね。非常に保険点数がいいからです。ポリープ1個取るだけで1万円ですからね。一度に取るのは損だというわけで何回にもわけて取るわけです。本当に小さな、5ミリのものまで取っていますよ。内視鏡で見て取るとはいえ、事故もかなりあります。もちろん技術の問題もありますが、だいたい技術があると自負している医者に限って事故を起こすんですね。自信過剰で取り過ぎるからでしょう。
近藤 高齢者が増えてきていることもあります。老人の大腸壁はもろくて弱い。高齢者は、いろいろな意味で弱いんですよ。内視鏡でも麻酔を使いますが、それで死んでしまったりします。作家の井上靖さんも、内視鏡で死にかけていますからね。

●大鐘 ボールマンⅡというのは、ヴィーラスアデノーマからきていますか?

●近藤 それは断定できないですね。アデノーマからボールマンⅡになるという説は、いま大反対があるんですよ。ボールマンⅡというのは、阿蘇山みたいなクレーター状になっていますが、それならば腺腫(※腺上皮細胞が増殖して、結節状・乳頭状を呈する腫瘍。一部は悪性化してがんになるともいわれる)のてっぺんが削れたようなものがみつかるはずです。ところが、みつからない。そうすると、一夜にして腺腫からボールマンⅡになるのかということになりますよね。
 アデノーマがん化説の人には、そういう反論が加えられているのです。ボールマンⅡなんかも、結局、ポリープからではなくて、平坦なところから新しくポコッと出てきたと考えたほうが矛盾が少ないと思います。

●大鐘 アデノーマなんかは、放っておけばいいと。

●近藤 見つかったものについては、積極的に放っておきなさいとはいっていないですがね。放っておいたら、がんになる可能性を否定することはできないわけですから。

●大鐘 ヒトへモ(※ヒトヘモグロビンの略。免疫反応を用いた使潜血反応で、食餌の影響を受けない)をスクリーニングするのは、日本だけですよね。あれは非常に画期的なもので、そのおかげで救命率が上がったという説に関してはいかがですか。

●近藤 検診でがんを発見して、そのがんについて生存率を計算し、前よりも高くなったから有効である、という論法は、通用しません。外国にそのような論法を持っていけば、こぞって反対されますよ。

●大鐘 『患者よ、がんと闘うな』では、がん検診の効果がないと書いてありましたが、先ごろ、日本臨床細胞学会で検診による救命率は、海外では3%、日本では%と発表されてました。

●近藤 日本で行った調査はくじ引き試験ではありませんからね。くじ引き試験をしなければ、必ず生存率は高く見えるんです。
 検診をすると、僕がいう「がんもどき」みたいなものがたくさん見つかるでしょ。そうすると生存率は高くなります。それは発見の効果であって、治療の効果ではありません。放っておいていいものを見つけ出して治療し、生存率が高くなっても、意味がないのではないでしょうか。この私の反論に、生存率が上ったと主張する側は再反論できないのです。
 たとえば肺がんのくじ引き試験では、肺がん検診は無効という結果が一致しています。それは検診をしても、放置しても肺がんの死亡数が同じだったからです。ところが見つかった肺がん患者は、検診群のほうが生存率が高いんです。それは矛盾のようにみえるけれども、発見したがんの数は増えるが、死亡した数が同じだから生存率は高くなるというだけです。
 たくさん発見された早期がんは、放置群の方にもあったはずです。これは死を招かない。だから死亡数は同じなんです。検診群でよけいに発見された分については、放っておいても大丈夫なんです。このようなことは、ほかの臓器でもあるでしょうから、検診をした人だけ集めて検査しても意味はありません。

●大鐘 肺の場合は2センチ以下は早期がんと呼ばれますが、見つかったがんが、がんもどきか、そうではないのかを、どうやって判断しますか。

●近藤 それは判断できません。見つかってしまえば、現状では治療を受けるのは、やむをえないと思います。誤解されているのかもしれませんが、がんもどき理論というのは、早期発見理論に対するアンチテーゼです。検診を受ける時に考えればいいわけです。

●大鐘 2センチぐらいというと無症状の場合が多いから、スクリーニングしなければ見つかりませんよね。その後4センチになり、咳が出てきて発見された時に治療を開始すればいいと?

●近藤 その前提も問題です。4センチのがんは、2センチのときに見つかるのかという問題になるわけです。症状の出るようなものというのは、スーと大きくなってきていますからね。いくら検診を繰り返していても、2センチの段階では見つからなかったのではないかと思うんですよ。
 私もそうでしたが、私達の頭の中では、検診で発見された早期がんというのは、大きくなるのはまず確実という思いがどこか抜けないんですね(笑)。

●大鐘 抜けませんね。でも肺がんは大きくなりますよね。胃の早期がんのように、何年も同じ大きさということはありません。
肺がんにもがんもどきはある?

●近藤 肺では検診で見つかったような早期がんも、たちが悪いはずだと思うんです。ところが早期発見しても成績が同じというわけだから。

●大鐘 くじ引き試験というのは、発見されて一方は無治療で、一方は治療をしてということですか。

●近藤 いやいや、発見したら治療するんですよ。それは検診をするかしないかのくじ引き試験ですからね。発見したがんを放置するわけではなくて、検診しないで放置するわけです。発見したがんについては、治療します。

●大鐘 放置した乳がんについての報告はどうですか。

●近藤 『患者よ、がんと闘うな』で示した報告は、くじ引き試験の結果ではありません。あれはハルステッド手術が普及していない時代のことですから。

●大鐘 乳がんを放置することが現代にも通じるのかどうかについては、いかがですか。

●近藤 乳がんについては、かなり通じると思うんですよね。まあ、ある程度大きくなっていれば、治療しても変わらないだろうと。お腹の中のがんについては、乳がんよりもっと手術による負担が大きい分野でもあるので、そういう点からすると、乳がん以上に寿命を縮めている可能性があると思います。

●大鐘 そうですね。ところで、肺にがんもどきというのはあるんですかね。

●近藤 それはあるでしょ。あるからこそ、さっきお話したメイヨーの試験でも、発見したがんの数を見ると、定期検査はせずに病状が出てから発見されたのは160人で、検診を繰り返した方は206人です。人多く発見するということは、非検査群は人分は見つからないで放置されたわけですよね。ところが死亡率が変わらなかったのですから、人のほとんどは死ななかったわけです。だから、がんもどきはあります。
 見つかったがんが大きくなるというのは、放っておいた結果がないわけですから、本当に大きくなったどうかはわからないんですよね。
 繰り返しますが、発見されてしまったものを積極的に放っとけと言っているわけではないんですよ。治療法を考えようと言っているんです。放射線治療では、2~3センチぐらいの部位に限定して照射できる施設もあって、患者さんにはそこで治療をしてもらっています。いまのところ防衛医大にしかないんですけれどもね。酸素なんかを吸わせて、あまり呼吸性移動がないようにして、照準してぐるっと回すときれいになくなりますよ。
 一般的に放射線治療は手術に比べると、体に与える影響は非常に少ないですからね。上手な人がやればですが。

●大鐘 それは外科医も一緒ですよね。
 卵巣がんのためさる日赤病院で最初手術を受けた患者さんがいたんですよ。半年後に再発した時には取りきれなかったらしいのです。3度目に出てきた時に、もうやることないからあとは放射線治療くらいだろうということになり、がんセンターの放射線科を紹介したところ、内診をした上でのことなのか、もちろんしてなければもっての他ですが、何をやってもダメだからホスピスに行きなさい、と言われて、私のところに来たんですよ。ところが私が内診してみたら、なるほど相当なシロモノだが、しかしわずかに可動性がある。これは取れるんじゃないかと思い、「ホスピスはいつでも行けるから、まずは外科に入りましょうよ」と勧め、最初に放射線治療を行いました。がんが相当大きかったですからね。そうしたら半分の大きさになりまして、その段階で手術を決行。直腸と膀胱の一部も合併切除しましたが、現在4年が経過して元気でいます。これは放射線と外科治療がうまくかみ合った例だと思うんです。
 しかし、放射線だけでは治らなかったですよね。そう考えると、オペは良かったと思うんですよ。
●近藤 確かに手術をして良かったケースでしょうね。ただ、手術するか、しないかは、個々の患者や医者の判断によりますし、結果論の場合も多いんです。そのケースはよかったけれども、結果論の部分もあると思います。一般的には、手術をしてがんがポコポコと出てくるケースも多いのですから、やらなければ良かったという人もいます。
 人間の体は、すべてメカニズムがわかっているわけではありませんから、例外のない議論はないわけです。個々のケースが違う中で、どう判断していくかは難しいですね。
 最終的には、患者が決めればいいと思っています。だから、この『患者よ、がんと闘うな』という本も、無駄な闘いはするな、過剰な治療は受けるなということをいっているだけです。合理的な治療を受けろ、といっているわけです。大鐘さんが治療した卵巣がんの患者さんも、合理的な治療の範疇に入っているでしょう。
 けれども全員にとって合理的かというと、疑念もあるわけです。そこら辺が事前の判断として難しいんですよ。卵巣がんの転移というのは、腹膜にあちこち出ているのが原則なわけですから、そういう事情をわかって患者さんが治療を受けるかどうかが問題ですね。
 もっと一般的にいえるのは、乳がんの場合は、ふつう肝臓の転移があると、ほかにもたくさんあって、これを手術しようとする人はほとんどいないでしょう。
●大鐘 大腸がんの肝転移は手術をしますけれども。

●近藤 そうですね。大腸がんは、例外的に肝臓にがんがとどまっている可能性が高いですから、転移巣を取れば何割かはそれで治ってしまうことがあります。これも手術を受ける患者さんの問題になってきます。

■転移なき再発はなし

●大鐘 たぶん、これは近藤さんと意見が合うと思うんですけれども、「転移なき再発はなし」というのが私の考えですが、いかがでしょう? つまり、将来再発を起こしてくるものは、目には見えなくとも手術の時すでに転移があったと。無から生じてきたわけではないと、考えるのですが。

●近藤 それはそうでしょうね。それはかなり当たり前の話だと思っていました。

●大鐘 いや、再発というと、一般の人には無から新たにできた、というイメージがあるんですよ。しかしそういうことはありえない。きれいに取れたものは、新たにがんが出てくるということはありえませんよね。

●近藤 無から生じているそれが再発だ、という考えは、一般の人にはあるんですかね。

●大鐘 最初の手術の時にすでに転移があったとは、患者は思わないんですよ。
 非常に自家撞着に陥ったのは、大腸がんを切るときに、下腸間膜静脈から肝臓に抗がん剤を入れていたんです。つまりミクロの転移があるだろうとの想定のもとに入れていたんですよね。でも、そうすると術後の免疫力がガクっと落ちることが懸念されます。矛盾に悩みながらやっていました。
 もうひとつわからないのは、乳がんなどでは7~8年たっても転移が起こってきますよね。だから、乳がんはいちおう年診なければいかんといわれています。そうすると、がん細胞は、その間は血中を堂々巡りしているだけなんでしょうかね?

●近藤 いやいや、私はそうは考えていません。原発病巣は取っている場合ですよね。

●大鐘 そうです。

●近藤 取ってしまうと、血液の中をがん細胞はそんなに流れていないだろうといわれていますから、7年後に出てくるのは、7年間転移部位にあったんだろうというふうに考えられます。

●大鐘 もし血中にあれば、腫瘍マーカーは上がりますよね。

●近藤 いや、そうとは限らないでしょう。量が少なければね。かなり大きくなっても、乳がんなどは腫瘍マーカーがなかなか上がりません。

●大鐘 そうすると、血中で堂々巡りを続けるというのは、普通ではあり得ないですよね。

●近藤 ありえないというといい過ぎですが、がん細胞というのはかなり弱くて、血中に入ったらすぐに死んでしまうと考えられています。たとえば原発病巣からどんどん血中に入っても、転移して生き残るのは、1万個に1個ぐらいではないかといわれているのです。

●大鐘 そうですか。転移なき再発はない、とは考えていたんですが、どうして2年3年のスパンを経て出てくるのかと、考えていたんですよ。

●近藤 それはかなりゆっくり増殖したか、もう1つは免疫機能が弱った時に大きくなるということでしょう。ただし、一般論としては、原発病巣と同じスピードで育っていくということになっています。原発病巣が大きくなるなり方とパラレルであるというような報告はあるわけです。

●大鐘 それは確かなのですか。原発が倍増すれば、転移巣も倍増すると。

●近藤 一般論としてはと言っている意味は、そうではない例外もありえるからです。転移する時に、がん細胞の性質が変わったのか、行った先の土壌が合っていて速くなったり、合わなくて遅くなったりということはありえるのです。いくら何でも原発病巣ができる前や、原発病巣を取ってから転移したということはないですよね。
 そこら辺にいろいろけちを付ける人がいるのですが、アメリカ人のカルテをひっくり返し、元東大教授の草間悟さんが原発病巣と転移病巣の大きくなるスピードを比べて、一般論としてパラレルであると出しているわけです。
大鐘 草間さんは、分裂の時間から計算して原発巣の大きさが0・1ミリあたりに転移のピークがあるといっているんですよね。1個の細胞の大きさは0・01ミリなんですよね。

●近藤 がん細胞の大小に関しては、異論もかなりあるのです。自治医科大学の病理の人が、がん細胞の大きさは、0・02~0・04ミリだみたいなことをいってきたんですが、0・01ミリで計算するというのは、コリンズ以来の、だいたいの約束事なんです。結局、だいたいの傾向がわかればいいわけですから。
 それから乳がんの場合には、0・01ミリというのは、小さすぎるわけではないんです。そういうがん細胞もあるわけですからね。
 どういう手術をしていくかと考えると、これまで原発病巣をもろともきれいに取り去るのが原則でしたが、なるべく人間の体の抵抗力を残して、リンパ節も転移がありそうだと思われるものだけ取るというように変わっていくべきだと思います。

●大鐘 それは外科では、「strawberry picking(つまみ取り)」といって、軽蔑される手法なんですよ(笑)。

●近藤 けれども乳がんで温存療法が成果をあげていることを考えれば、似たような話でしょ。
 今までがん細胞の周辺を大きく切除するようにしてきたから、このような話をすると奇異に感じますが、今がん治療が始まったと考えると、決して変でないと思いますよ。原則に戻るわけです。臓器を切れば切るほど免疫力は落ちていきますからね。症状がない人の体を切って、取る前より具合がいいことはないですから。

●大鐘 では早期がんが見つかったとしても慌てる必要はない、症状が出てからでも遅くない、というわけですね。しかし、患者さんは2年、3年も経過を見れるでしょうか。本当にがんもどきなのか、ひょっとするとある日突然進行がんに転じて取り返しがつかないことになりはしないか、そんな不安から逃れられるでしょうか。

●近藤 場合を分けて考えればいいのではないでしょうか。場合によって、それぞれ患者が考えるでしょう。手術がいいという人もいますからね。

●大鐘 さきほどおっしゃっていたように、外科医が手術を強制するのではなく、患者の選択に任せるべきだというわけですね。

●近藤 ええ、そうです。たとえば胃上部にがんがあったりしたら、胃全摘になってしまうわけでしょ。そこまでする必要があるのか、ちょっと考えないといけないと思うんです。今までだったら、何が何でも胃全摘となりましたが、がんもどきかもしれないとう可能性があれば、ちょっと立ち止まって考える人も出てくるでしょう。選択肢が広がったと思います。
 もう1つは食道がんですね。食道がんは、やはり世界的にみても、放射線で治療すべきです。

●大鐘 それは私も異論はありませんし、私自身食道がんにかかったら、第1選択は放射線治療ですね。近藤先生にお願いしますよ(笑)。

■医者が当惑しているだけ

●近藤 まあ、この点に関する反論は少なかったですね。だいたい、がんもどき辺りに反論が集中て、代わりの治療法があるということには、反論がなかったように思います。それから乳房温存療法のように、臓器の切除を限局すべきだという主張にも反論はなかったですね。手術に関しては、リンパ節切除がいいのかどうかという反論だけです。
 これはアメリカの十数年前と同じです。そのころのアメリカでは、外科医は乳がんでもハルステッド手術がいいと主張していましたらね。その状況と現在の日本の状況は、よく似ています。
 日本では医者からの誘導がありますから、なかなか手術を否定できませんよね。しかしアメリカでも、乳房温存療法の率は低かったのですよ。ヨーロッパは高かった。それは医療経済体制の問題で、大きな手術をするほどお金がいっぱい入る仕組みがあったからです。そのような問題を少なくするために、アメリカでは制度を整えました。

●大鐘 遅れている日本の医療が、この本に刺激を受けたことは間違いないようですね。

●近藤 医療現場が混乱していると報道されたりしていますが、それは医者が当惑しているだけなんです。患者がいろいろ説明を求めるから、困っているんですよ(笑)。いままでどれだけ患者さんに説明してこなかったのかの証明になりますね。

●大鐘 がんに関しては、民間治療も問題ですよね。『%がんは治る』という本がありましたよね。あの手の類はまずインチキだということを一般の人も悟らなければいけないのに、ついつい手に取ってしまう。『がん戦争』とかのテレビ番組でも、この手のものを肯定的に取り上げてましたからね。

●近藤 民間療法というのは、二面性がありますからね。患者さんがやりたいというのを押さえつけることはできません。確かに、がんが治るかもしれない可能性は否定できませんから。抗がん剤だって、効く人もいれば効かない人もいます。しかし証明されていないものを、それで治りますよと断定して高いお金を取るというのは許せません。
 医者不信から民間療法に行き着くこともあるでしょう。だいたい民間療法をしている人はやさしそうだということがありますからね。まあ、お金をもらえるならやさしくもなるか、という気がしますけどね(笑)。

●大鐘 『患者よ、がんと闘うな』は、もっと売れなければいけないと思いますね。そして、真剣に、冷静に考え、ディスカッションすることが必要かと思います。でも、もう少し読みやすいといいんですが……。

●近藤 この本は一般の読者がその気があれば読解できて、しかも専門家の批判に耐えられるようにデータを入れてと、両方の効果を狙っていますので、これ以上やさしくするのは難しいですね。例外的なことを入れるとページ数が増えてしまうし、すっと理解できないと思い、あまり書いていないのですが、今後はその辺も書いていこうと思います。

●大鐘 ヒステリックな反応ではなくて、この本から様々な議論と展望が生まれれば、日本の医療界も変わっていくでしょう。

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