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鎌田慧の現代を斬る/暴言政治家と暴発工場と自爆労働者

■月刊「記録」2003年10月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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 歴史的ともいえる小泉純一郎首相の訪朝によって、金正日総書記との日朝首脳会談が実現し、「日朝平壌宣言」の著名が実現したのは、昨年の9月17日であった。
  「この宣言に示された精神及び基本原則に従い、国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注する」と、宣言されている。
 また「国際法を遵守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認した」、「核問題及びミサイル問題を含む安全保障上の諸問題に関し、関係諸国間の対話を促進し、問題解決を図ることの必要性を確認した」との文言もある。
 過去の歴史を乗り越え、新しい時代を築こうとする意思と希望に満ちた宣言である。日朝の国交正常化によって、アジア地域の平和と安定に大きく貢献しようと精神が、この宣言に満ちている。
 日本側が植民地支配した過去の歴史を謝罪し、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)も、金正日総書記が拉致の事実を認め謝罪した。これも国交正常化へのひとつの道筋だった。しかし、このとき、はじめて明らかにされた「5人生存、8人死亡」という拉致の事実は、日本人にとってあまりにも衝撃的だった。このため、アジアの平和のために国交正常化に努力するという道筋は置き忘れられた。それどころか、いまはかつてないほど、平壌宣言の趣旨とは逆に、北朝鮮にたいする敵意が強まっている。
 拉致の全貌を明らかにしようとしない北朝鮮側の態度により、北朝鮮にたいするひとびとの不信感が募っていったのはまちがいない。しかし、連日おもしろおかしく、まるでダボハゼのように、北朝鮮の問題を取りあげ、拉致家族の被害者感情を増幅するような報道を繰り返したことで、北朝鮮にたいする憎悪と嘲笑が拡大されたのも事実である。マスコミに煽られた民衆の敵対・差別意識は、さらに事態を混乱させている。
 日朝平壌宣言がしめした方向と逆に、北朝鮮との敵対関係が拡大することに無策でいる小泉首相の政治的な責任は重い。マッチポンプというより、放火して、それを軍備拡大に利用しているようなものだ。
 有事法制が衆参国会議員の90パーセント以上の賛成によって迎えられ、イラク派兵法も成立した。ミサイル防衛や航空母艦の建造などにも予算がつき、日本の軍事大国化は、極端なまでに推し進められようとしている。
 こうした状況に、タカ派の小泉首相はほくそ笑んでいるかもしれない。しかしアジア全体を不安にさせる軍国化が、ますます日朝の国交正常化に悪影響をあたえていることを、どのように考えているのだろうか。
 韓国は、北朝鮮と平和的に折り合いをつけるために腐心している。彼らの平和にむけた粘り強い行動は、日本と対照的だ。大衆の悪感情に火をつけ、軍国化を進めるているだけの小泉首相とは、月とスッポン、度量と責任感がちがう。
 このような国交正常化の停滞について、自民党総裁選挙でまったく触れられなかったのは不思議である。これではまるで、北朝鮮はハメられたようなものだ。総裁候補者の主張は、誰が経済を活性化するかということだけで、まるで茶番である。
 ところがマスコミは、2年前とおなじように、あたかも大統領選挙のような大々的な報道をしている。たかだか自民党内の派閥選挙が、各紙の一面トップである。
 2年前の総裁選は、森喜朗があまりにもヒドイ首相だったため、批判をふくめてマスコミが過熱した。いわば特殊事情である。ところが新聞・テレビには、前の報道に追随するという傾向が強い。若い記事なら、なおさら前に書かれた記事をマネして、自分の記事を書くパターンが多い。そのため論点すらない総裁選に、2年前とおなじようなバカ騒ぎを繰り返している。
 マスコミの報道では、総裁選があたかも国民投票のように扱われた。しかし、国民のほとんどは投票すらできない。所詮、コップの中の嵐、党内の権力闘争でしかない。
 この茶番が連日報道されている影響は、確実にあらわれている。総裁選の候補者である小泉純一郎首相、藤井孝男元運輸相、亀井静香前政調会長、高村正彦元外相の4人は、全員が憲法改訂論者である。このように好戦的な体質をもつ候補者が、無批判のマスコミ報道を通して世論に影響をあたえている。報道することにたいするテレビや新聞の記者たちの自己意識があまりにも低すぎる。
 それどころか読売新聞などは、総裁選にかこつけて憲法改正論議をするよう社説で促す有様だ。
「総裁選は、憲法改正など国のあり方にかかわる問題を議論するいい機会だ。首相が踏み込まないなら、ほかの三氏が論戦を挑めばいい。そうした論戦があってこそ、総裁選は活性化する」(読売新聞 2003年9月9日)
 これまでも読売新聞は、右傾化誘導の一翼を担ってきた。最近の社説の表題を並べてみよう。
 8月3日には、「教育基本法 次期通常国会で改正を目指せ」。自由と平和を謳い、憲法改訂論者から忌み嫌われている教育基本法を、やり玉にあげている。8月15日の敗戦記念日には、「平和教育 理念と方法の見直しが必要だ」、翌日には「住基ネット “情報漏れ”懸念なくす努力も必要」と並ぶ。中立を装い、自民党と一体となって平和を攻撃するなど、報道機関として許されない。

■自宅が爆破されても当然なのか?

 こうした現代のファッショ的な世相を体現したのが、石原慎太郎都知事の発言である。
 北朝鮮の国交正常化に努力した田中均外務審議官の自宅に爆弾が仕掛けられたことにたいし、「爆弾が仕掛けられてあったり前」といった。
 政治家が右翼のテロを容認した暴言として、さすがに自民党内の議員からも批判を浴びたが、批判を受けても石原は次のように強弁している。
「私は、この男(田中外務審議官)が爆弾仕掛けられて当然だと言いました。それにはですね、私は爆弾仕掛けることがいいことだとは思っていません。いいか悪いかといったら悪いに決まっている。だけど、彼がそういう目に遭う当然のいきさつがあるんじゃないですか」(朝日新聞 2003年9月12日)
 日本には、5.15事件や2.26事件などのように、テロやクーデターによって軍部が強化されてきた歴史がある。そうした過去の教訓を、石原はまったく踏まえていない。
「起こっちゃいけないああいう一種のテロ行為がですね、未然に防がれたかもしれないけれど、起こって当たり前のような今までの責任の不履行というのが外務省にあったじゃないか」(朝日新聞 2003年9月12日)などという発言は、政策がちがえば、テロがあっても当たり前ということである。さらに調子に乗って、彼は1960年に浅沼稲次郎社会党委員長が、右翼少年に刺殺されたことに触れ「世の中ってのはそういう繰り返しでね」(朝日新聞 2003年9月17日)とテロを容認している。
 言論にこだわる作家としてはもちろん、民主主義を担う政治家であれば、けっしてありえない発言である。彼が自分の家に爆弾を仕掛けられたり、刺されたりしても、「当たり前」というのだろうか。
 さらに驚いたことに、自らの選挙応援演説で飛びだした発言を、亀井静香は批判すらしない。「知事は文学者。具体的に爆弾をしかけるのがいいと思っているはずがない」とかばってさえいる。埼玉県知事も「拉致家族の思いを感情的に考え、ああいう発言になったことに同情する」と追随している。
 意見のちがいを暴力的に解決しようとする動きが批判しない風潮が、自民党の総裁選に絡んで明らかになったことに、現在の暗黒状況がみてとれる。

■ブッシュは戦費の取り立てに来日

 国政を担う政治家でいいたい放題なのが、鴻池祥肇特区担当相である。かつて長崎市で起こった中学生による男児誘拐殺人事件では、「加害者の親は、市中引き回しのうえ、打ち首にすればいい」と発言。東京渋谷で発生した4女児監禁事件では、「小6の4人も、加害者か被害者か分からない」などといい放った。
 そして今度は、ODA(政府開発援助)について、「中国へあれだけ金を送っている。それで感謝していない。靖国神社にお参りしたら文句を言う。そんな国にODA(を拠出するの)はもういっぺん見直さなければならないのではないか」(朝日新聞 2003年9月9日)などと発言した。大臣としての発言にも、首相は知らん顔だ。
 カネをくれてやっているという意識の醜悪さと、反省なき歴史観が、公然とあらわれている。それでも閣僚を辞めろという話はでていない。だいたい紐付きのODAにより、海外のODA援助国から訴訟まで起こされている日本のODAについて、「援助したから感謝しろ」などとよくぞいえるものだ。
 さらに13日におこなわれたタウンミーティングでは、「自衛隊は軍隊。それを中途半端な解釈でできている」「憲法の中に位置づける必要である」(朝日新聞 9月14日)などと、小泉親方に追従して、憲法改正によって自衛隊を軍隊にするよう示唆する発言まで飛びだした。 こうした暴論に歯止めをかける世論がなくなり、世論を喚起する報道さえない。むしろ同調・促進するような状況に、日本沈没の恐ろしさが感じられる。
 暴言といえば、イスラエルのオルメルト首相代理がアラファト議長について「殺害することも選択肢の一つだ」と発言した。パレスチナでは「マフィアのようだ」と批判の声が高まっているというが当然であろう。
 こうした暴言のバックグラウンドにあるのが、アメリカによる他国への干渉支配である。軍事力を背景としたアメリカの暴力が、世界中に暴力的な思考をばらまいている。
 10月中旬にはブッシュ大統領も来日し、小泉首相と会談する予定だ。米日ファッショ化の象徴ともいえる会談で、ブッシュはイラク攻撃の後始末のカネを日本に請求するという。小泉とブッシュは、お笑いの「盟友ぶり」を発揮し、多額のおみやげをもたすことになりそうだ。 外務省高官は数十億ドル規模になると予想しているようだが、アメリカの当面の復興コストは500~750億ドルともいわれる。現地の混乱状況を考えれば、外務省の計算通りにはいかないだろう。
 日本国内には失業者が溢れ、経済問題や過労によって自殺が増えている。そうしたなかアメリカの無謀で勝手放題のツケを負担するなど、許されることではない。将来の展望を欠いた非理性的な人殺しを公然と主張する政治が、日米両国によって進められることに、わたしはつよく反対する。

■工場爆発が見せる暗い予兆

 末期的な政治状況のなか、産業界でも不気味な予兆をしめしている。各工場での爆発事故だ。
 9月3日、新日本製鉄名古屋製鉄所で、ガスタンクが爆発した。このガスタンクは高圧ガスが蓄えられていたのに、39年間も外部検査が放置されていた。そうした安全への意識低下が、15人もの重軽傷者を生みだすこととなったのである。
 そして9月8日には、ブリヂストン栃木工場で火災事故が発生した。これはゴムを伸ばすローラーの異常過熱により、引火したとみられている。しかし出火場所にスプリンクラーも設置されておらず、燃え広がる一方であった。結果として地域住民5032人に避難が呼びかけられ、250人が避難する事態となった。
 これらの事故は、1963年11月に起こった三川炭坑での炭塵爆発事故を思い起こさせた。石炭をベルトコンベアーで運ぶさいに発生する炭塵は、水を撒いて爆発防止すべきなのに、安全対策をサボって爆発。死者458人、それ以上の一酸化中毒の重症患者が発生した大事故である。
 あたかも40年前の事故とおなじような事故が、あいついで自動車の関連工場で発生して、自動車生産にダメージをあたえた。このことが、自動車中心に発展してきた日本の経済に暗い予兆をしめしている。
 こうした事故は、歯止めのない人員削減と安全よりもコストを優先する大企業の経営によって起こった。企業のもっとも弱い部分を痛撃した事故ともいえる。
 9月17日には、軽急便の名古屋支店に刃物をもった男が人質を取って立て籠もり、ガソリンを撒いて爆死した。この爆発に巻き込まれ、警官2人、支店長1人が死亡している。
 かつてブリヂストンの東京本社に元工場幹部職員が押しかけ、社長室で切腹自殺したことがあった。ブリヂストンのきわめて非人間的なリストラが招いた事件である。今回の立て籠もりと爆発事故も、その発端となっているのは軽急便のやはり労働問題であった。
 各種報道によれば、この会社は自社ドライバーをもたず、運送業者と個人契約をするため「配送内職」と呼ばれていたという。開業支援準備金や代理店登録料の条件にたいする不満が、国民生活センターにも寄せられ全国で00年度は400件だったが、02年度は837件にも急増していた。厳しい経済状況のなか、リストラなどに遭って事業をはじめた人も少なくないようだ。
 容疑者は経費込みで105万円の車を購入し、頭金の60万円を支払い、45万円を月払いで返済しながら配達業務をつづけていたらしい。
 彼が会社に要求した支払い残金は、7~9月分25万円だった、という。3ヵ月で25万円である。つまりこの問題の本質は、安い・早いを謳ってきた宅配サービスの体質にあるともいえる。
 これから小泉首相は郵政を民営化するという、郵政でもおなじ問題を引き起こすつもりなのか。民営化による労働者の低賃金化と過剰なサービス強要は、リストラが広まるなかますます強まっている。
 日本の資本主義も、政治状況とおなじく異常事態となっている。こんなやつらに無理心中されるのでは、救われない。(■談)

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