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鎌田慧の現代を斬る/「自衛隊」が侵略軍化する核武装論

■月刊「記録」2003年12月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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 イラクへの自衛隊派兵が具体化してきたのに、あたかも呼応するかのように、イラク国内では米軍をはじめとする占領軍へのゲリラ活動が活発化してきた。
 11月15日には、北部ムスルで米軍ヘリ2が墜落し、米兵17人が死亡した。その3日前には、イラク南部のナシリアでイタリア軍が駐屯する警察本部に自爆テロが仕掛けられ、イラク人を含む30人前後が死亡している。さらに11月2日には、米軍ヘリがロケット弾で撃墜され兵士16人が死亡。このほかにもヘリコプターの墜落事故や爆弾による攻撃などもあり、イラク戦争がはじまってからの死者は、11月16日現在、米兵だけで420人に迫る勢いだという。そのうち178人が、いわゆる「戦後」の死者である。
 このようなゲリラ活動の激化により、米英の占領スケジュールは変更を余儀なくされた。
 15日には、米英暫定占領当局(CPA)とイラク統治評議会が、来年6月末までに占領統治を終了させることで合意した。この計画によれば、全18州で部族長や指導部などが議員を選出して暫定国民議会を設立。そののちイラク国民の直接投票による制憲会議議員を選出し、憲法草案をつくって国民投票で承認を得る。それから総選挙が実施される予定という。占領体制の下で憲法制定、選挙をへて新政権樹立という当初の方針は、反米感情の昇まりのなかで頓挫した。
 しかし油田を抱えるイラクを、アメリカが簡単に手放すはずがない。暫定国民会議の議員選出には、米占領当局が圧力をかけることができる。またイラク人による新政権発足後も、米英軍を主力とする連合軍は駐留する見通しが強い。つまりゲリラ攻撃の対象となる表舞台からは去ったように見せかけ、イラクを統治の手綱は離さない作戦だ。
 すでにアメリカのネオコンは、石油利権・復興利権・市場の自由化など、自国の大事資本、なかでもネオコン議員に近い筋の大企業にたいする優遇策を実施してきた。国連の統治を否定し、ひたすら利権拡大に走ってきたのである。
 こうした状況におけるゲリラ闘争の活発化は、フセインへの支持だけをしめすものではない。自国に侵略してきた米英およびその同盟軍にたいする抵抗闘争であり、イスラム文化を蹂躙する侵略者への反撃でもある。
 これまでもたびたび指摘してきた通り、当初いわれていた大量破壊兵器の存在は証明できず、発見すらされていない。つまり「大量破壊兵器」とは、侵略戦争の旗印、侵略のための神器であった。いまやその化けの皮もはがれ、ブッシュの正義は虚構の正義となった。開戦前にアメリカ政府が主張した「イラクによるウラン購入疑惑」、イギリス政府による「イラクは45分で大量破壊兵器の配備が可能」などという侵略を正当化するブラック・プロパガンダも、とうの昔に破綻している。
 結果、13万人にもおよぶイラクの米兵は、なんのために、なにを守るのかという「戦争の理念」を米兵は喪失した。そのうえ、いつゲリラから襲撃されるかわからない恐怖のどん底にいる。その精神的負担を考慮に入れれば、外敵を追い払おうとしているゲリラ側の士気が、どれほど米兵を圧倒しているかがわかる。

■安全地帯の政治家は駐留を叫ぶ

 しかしミサイルの飛んでくる心配のない母国で、SPに守られながら暮らしている政治家の鼻息は荒い。これだけの無駄死を目の当たりにしながら、ブッシュはなおも撤退しないといいはっている。19人もの死者をだしたイタリアのベルルスコーニ首相も、脅しには屈せず撤退はしないと豪語している。
 また、アメリカの姑息なコイズミも、派兵中止とはいわないでいる。岡本行夫首相補佐官にいたっては、「『一人でも死んだら撤退』という、テロリストが待っているようなステートメントは言えない」と発言している。実際、自衛隊に死者が出ても、「日本政府は断固撤退しない」といいはるのだろう。自衛隊員の死は、米英軍と「犠牲者」を共有することを意味する。その結果、イラクにたいする強い敵対感情が、日本のなかで醸成されるにちがいない。
 しかし自衛隊の死は、被害者の死ではなく、あくまでも加害者の死であり、侵略者の死である。侵略軍とともに行動する軍隊は、侵略軍でしかない。死の感傷から事実を見誤ってはいけない。
 米国追従の日本は、すでに攻撃対象となってしまっている。11月15日にトルコの首都イスタンブールにあるユダヤ教礼拝所(シナゴーグ)に自爆テロを仕掛けたアルカイダ傘下の組織は、次のような声明を発表しているからである。
「犯罪者ブッシュとその追従国(特に英国、イタリア、オーストラリア、日本)に告げる。死を呼ぶ車はバグダッドやリヤド、イスタンブールでは止まらない」
 この声明は、日本が自動車爆弾テロの標的になることを強く示唆している。このような行動をけっして支持するものではないが、自衛隊員がアラブ人に侵略軍と映れば、ゲリラやテロリストに狙われて当然である。小泉は、そうした結果を予測できる「魔の選択」をしたのである。
 しかし、より心配なのは自衛隊員の死ではなく、むしろ自衛隊員によるイラク市民の殺害だ。自衛隊がイラク人を殺害すれば、イラク市民の反日とゲリラの徹底抗戦という泥沼のスパイラルにはまってしまう。
 ベトナム戦争での米軍兵士の死者は、5万8千人とされている。しかし、ものの本によればベトナム戦争で精神的なダメージを負った人たちは、それ以上に達するという。戦争は武器だけの闘いではない。不断の神経戦である。殺す側も、殺される側も精神的に重大な負担をともなう。ましてやゲリラ戦ともなれば、すべての場所が戦場となり、心休まる暇がない。だからこそベトナムでは、米軍による非戦闘員である村民の大虐殺が頻発した。ソンミ村の大虐殺などは、そうした歴史的な教訓である。
 イラク戦争開始以来、米兵の死者は400人を超え、ベトナム戦争の最初の3年間での死者を上回っている。米軍が撤退しないかぎり、米兵の恐怖は極限にむかって進んでいく。

●血税で危険を買う愚行

「安全な地帯」に進軍するなどといっている自衛隊も、その存在が狙われることにより、周辺を戦場に変えてしまう。侵略した自衛隊員に安全地帯などはない。自衛隊の存在自体が恐怖を招く悪循環だ。恐怖を取り除こうとすれば、市民への検問を強化され、過剰防衛による市民殺害の可能性は高まる。
 イラク派兵法(イラク復興特別措置法)は、その第17条で武器の使用を認めている。法律によって交戦が認められているのだから、自衛隊員は「自衛」のためにためらわずに引き金を引くだろう。この既成事実は追認され、正当防衛という名による武力攻撃が承認される。
 イラクへの派兵は、経済的にも大問題である。米政府から強制されたイラク復興の分担金は、50億ドルと見積もられている。しかし戦況の悪化によっては増えるとの予想もある。さらに自衛隊をイラクに派兵するための経費が、総額で数百億円とも見積もられている。「ドロボウに追い銭」である。まじめに働いている人々からは税金をふんだくり、その血税を侵略につぎ込んで人々を危険にさらす。許されることではない。
 派兵にともなう備品は、年内の派兵に間に合うよう防衛予算を使っての購入がはじまっている。イラク派兵を国会が認めていない状況での暴挙である。憲法9条の遵守どころか、この国はシビリアンコントロールさえ外れてしまっている。さらに防衛族でもある石破茂防衛庁長官は、14日に来日したラムズフェルド米国防長官にたいして、自衛隊の早期派遣を表明した。自国民の生命を危険にさらして平然としている「軍事オタク」の防衛庁長官は、辞任させるべきだ。
 イラク戦争にかんして、日本の米軍基地が大きな役割を果たしていたことも忘れてはいけない。ラムズフェルド米国防長官は、さっそく沖縄を訪問し米軍基地で兵士を激励した。アメリカの世界侵略に、沖縄の米軍基地がどれほど大きな役割を担っているかが透けて見える。
 基地の縮小を訴える稲嶺恵一沖縄県知事との対話では、ラムズフェルドは基地縮小の具体策には言及しなかった。それどころか騒音問題はむしろ減少していると反論し、米軍基地がもたらす「被害」を訴える知事に露骨な不快感を示したと報道されている。軽くみられたものだ。
 小泉首相の無分別によって、日本はこれまで親日的だったアラブ諸国と日本はまっこうから敵対することになり、テロルの対象として名指しされるまでになった。イラクへの派兵を阻止し、憲法改悪の歯止めにするためにも、さまざまな地域での集会やデモ行進などの抗議行動が、さらにさらに必要とされている。

■国会に溢れる核武装派議員

 11月9日に終わった衆議院議員選挙は、自民党が前回議席を上回る237議席、民主党が40議席の躍進と伝えられている。とはいえ、これで野党が勝ったと喜ぶものはいない。イラク派遣と改憲を主張している「改革」という名の小泉「軍拡」路線は、選挙によって否定されなかったのは、マスコミ主導の二大政党論に幻惑されたからだ。
 そもそも民主党は、自民党と体温のちがい程度の差しかなく、体質自体はおなじだ。それは有事三法に民主党が賛成したことにも、よくあらわれている。このさして変わり映えのしない2党にマスコミは鈴や太鼓で誘導した。
 そのため、かつて社民党や共産党に投票していた人たちの多くが、民主党に投票した。これは自民党政権を変えたいという要望が強かったためだ。「死に票」になるぐらいなら、二大政党の「野党」にいれたい、との心理である。
 一方で自民党への支持も堅調だった。有権者がどの党にどれだけ投票したかを示す絶対得票率では、「棄権・無効」の割合が前回より増えているにもかかわらず、比例区で17から20パーセントへと増えている(『朝日新聞』11月10日 朝刊)。選挙の顔として小泉首相が全国を走り回ったことを考えれば、小泉のデマである「改革」にいまだ期待しての投票と考えられる。
 そして有権者の最大勢力は、自民と民主の絶対得票率を合わせたほどの数字、40パーセントをたたきだした「棄権」だ。いまさら投票しても変わりようがないという、政治にたいする絶望が、この数字から伝わってくる
 しかし、このどうしようもない政治的退廃の裏で、改憲派と核武装派の国会議員が、いままで想像もできなかったほど増えていることがわかった。
 『毎日新聞』がおこなったアンケート調査によれば(11月11日 朝刊)、当選した衆院議員の17パーセントが核武装の検討を肯定している。
 核武装検討に肯定的で、なおかつ改憲賛成となると、自民党で42人、民主党で8人、保守新党(アンケート時)1人、無所属1人となる。
 これは時代の危機といえる。すでに憲法改悪に必要な国会議員の3分の2の票を集めるのに苦労はない。それどころか核武装に突き進むことさえ、現実味を帯びてきた。

■原発費用の国民負担をもくろむ電事連

 核武装議員を物質的に支えているのが国内の過剰プルトニウムである。
 現在、使用済み核燃料は、イギリスやフランスでプルトニウムを取り出されて日本に逆送されている。使用済み核燃料の再処理を国内でできるようになれば、原爆の原料であるプルトニウムを大量に生産することができる。
 こうした危険を背景に電気事業連合会(電事連)から発表されたのが、核燃料サイクルにかかる総費用である。06年から再処理工場が操業し、72年間で廃止するまでの費用が、21兆7千億だという。そののち19兆円に訂正されたが、問題なのは、なぜ電事連がいまごろになって発表したかである。
 これまで廃棄物の処理費について、いっさい発表されなかった。原発の発電コストがいちばん安いと主張するのみであった。ところが発表された19兆円の経費を発電コストに組み入れると、天然ガスや石炭での発電と比べて高くなる可能がでてきた。原発推進派が唱えていた経済的優位性は崩れたといえる。
 電力自由化の前なら、政府とグルになって電気料金を上げればよかった。しかし新規事業者と競争が始まっている現在、値上げには抵抗が強い。それで電事連が仕掛けたのが、公的資金投入の議論を呼び起こすための数値発表である。
 いままで秘密にしてきた数値を時期をみて小出しに発表し、自分たちの窮状を訴え、国民へ負担を押しつけようとする深慮遠謀だ。
 ついに電力会社も、将来のコスト負担に音を上げはじめた。原発の見通しはますます暗い。勝手に進めてきた原発政策のツケを税金に回すなど許されるはずもない。 核武装という妄想を止めるためにも、よりいっそう原発を拒否する強固な運動が必要とされている。 (■談)

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