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だいじょうぶよ・神山眞/第66回 瀬戸際の交渉

■月刊「記録」2005年3月号掲載記事

*            *             *

 正利、お前はいったいどこで何をし、どこで誰と会い、その時々で何を思い、何を感じてきたんだ。
 そして一つひとつの質問のあとに、ぼくはこう問いただすのだ。
  「そのとき、おまえはおれのことを思い出したか? もし思い出したなら、その瞬間どう思った? 会いたかったか? それとも会いたくなかったか? 懐かしく思ったか? 我慢はできたのか?」
 ぼくは正利の肩をつかんで、そう問いただしたかった。
たのむ正利、答えてくれ!
 口をきいてくれない。何を聞いても何が周りで起きていても全く口を開こうとしない。
 いや、もしかすると何か言葉を発していたのかもしれないが、今、思い出そうとすればするほどラーメン屋で久しぶりに対面した正利は、無表情にぼくを無視していた。
 その頃には、仕事先から戻ってきた正利のお姉さんも店に合流し、ラーメンを食べ終えたぼくらは、別の場所に移動することにした。
 正利の表情から何かを読み取ったのか、お姉さんは   「正利と2人きりで話したい」と、ぼくに伝えてきた。
 とりあえずぼくらは、近くにあったファミリーレストランに入り、正利とお姉さんは、少しぼくから離れた場所に席を取って話を始めた。
 しかし、眺めていると、話し合っているという様子にはどうしても見えない。なにかお姉さんが一方的に正利を問いつめていて、正利のほうは、ただイヤイヤをしたり、ウンとかヤーとか言っているだけのようだった。
 しばらくして、ぼくも話に加わった。話に加わる瞬間、少し加わることが恐かった。正利の真意をいよいよ知ることになるのだと思うと、さっきの素っ気ない無表情が思い出され、やはり少し恐かったのだ。
 だから、
  「先生、とりあえず、先生のところに戻らせます」
 と言ったお姉さんの第一声に、ぼくはホッとした。
 しかし同時に次の言葉にガクリときた。
  「でも正利は、先生に怒られたことが恐かったから、戻りたくないって言ってるんです」
 ああ、いったいどっちなのか、はっきりしてほしかった。経過も経緯も正利の気持ちもお姉さんの意向も、何もかもすべてを取っ払ってしまいたい気分だった。ぼくは結論だけを聞きたかった。ぼくが今、一番知りたいのは、明日のぼくと正利だ。ぼくと正利は明日、一緒にアパートの一室にいられるのか? それともやはり別々の場所で過ごさなければならないのか? それだけが知りたいのだ。
  「あぁ、それはそうでしょうね。ぼくも少し怒りすぎたのかなって、毎日、毎日、反省していました。ぼくは何か…キレるっていうんですか、いったんカッとなると、どうも見境が効かなくなってしまうようなんです」
 と、すまなそうに、そして冷静に、落ち着いて、しかもハキハキした口調でぼくは答えた。
 ここで何としてもお姉さんの信用を勝ち取っておかなければならないのだ…。
  「正利、ごめんな。オレも怒りすぎたよ。すまなかった、許してくれな」
 正利をみつめて、こう言いつつぼくは心のなかで別の言葉を叫んでいた。
 答えてくれ、正利! ここでお前がいい返事をし、許してくれれば、お姉さんはお前をぼくに預けてくれるのだ。
  「あー」
 だが、正利の答えにぼくはがっかりした。正利はやはり無表情のままだった。嫌そうに「あー」としか答えてはくれなかった。
 だが、まあいい、上出来だ。何も答えぬよりはずっといいだろう。
 …と思いきや、いきなりお姉さんが加勢した。
  「正利! お前、今のアパートのおじさんのところに住んで、ラーメン屋で働くなんて、お姉さん許さないよ!」
 なんとお姉さんは力強く正利にこう言い放ったのだ。 勝利のゴングがぼくの頭のなかで鳴った。
 勝った。ぼくは勝ったのだ。ふたたび正利を手に入れることができるのだ。神様はぼくにもう一度チャンスを与えてくれそうだ。
  「お姉さん、わかりました。今回は本当にすまなかったと思っています。今度こそは、しっかりとやらせてもらいますから」
 頭を下げつつ、しかし一方でぼくは自分を罵ってもいた。
 ぼくは本当にバカな男だ。なんでこんなことに躍起になっているんだろう。ここで正利とは離れるべきなのだ。ラーメン屋と張り合って、正利を取り合う必要など、いったいどこにあるのだろう。 (■つづく)

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