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ホームレス自らを語る/健康のための土木作業員・村田重一(56歳)

■月刊「記録」2001年1月号掲載記事

*            *           *

■運送会社を経営していた

 ポケットのお札が縁で、女房と結婚したんですよ。24歳だったかな。当時、僕はタクシー会社に勤めていて、彼女は同じ会社で事務員をしていました。事務といっても僕ら運転手の制服を洗濯に出してくれたり、雑用もこなしていたんです。
 いつだったかズボンのポケットにお札を入れたまま、彼女に制服を渡してしまってね。きちんとポケットを確認しくれた彼女が、クリーニング屋に出す前にお金を僕に返してくれたの。つき合い始めたのはそれからかな。 夫婦仲はうまくいっていたんですよ。結婚して一年後には、子どもも生まれた。当時の僕は、女房の弟と一緒に運送会社も経営していてね。収入はかなりあったんですよ。
 でも僕が33歳ぐらいのときに、女房が腎臓を患いましてね。入退院を繰り返しながら、すぐに人工透析が始まりました。保険で戻ってきたとはいえ、すごいお金がかかったんです。一週間に70万円ぐらい飛んでいったと思う。
 最初の入院で、医者からは生きても五年ぐらいだと宣告されました。もちろん本人には告げなかったけれど。言えないよね。
 子どもも小さかったし、発病した当初は大変だったな。ほら、運転手だから女房の容態がいきなり悪化しても連絡がつかないんですよ。いまみたいに携帯電話があるわけでもないしさ。入院しているときはまだいいの。自宅療養中のときなんか八歳の子どもと女房の二人きりでしょ。子どもも不安だよね。それでも一年間ぐらいは、自宅療養を続けていました。

■妻と死別した

 でも、都会の暑さはこたえるから、実家の新潟県で通院したいと言い出してね。人工透析の患者はあまり水分をとれないんですよ。いまは知らないけれど、女房なんかはタオルに水を染み込ませて、それで口を潤していたぐらいだから。東京で汗かいたりするのは、本人もつらかったんだろうね。
 それで子どもと一緒に実家に帰りました。東京を離れるときには、車で病院から駅まで送っていきました。でもね、彼女の親戚が5、6人いたから、女房とは話す時間もなかった。親戚の皆さんに挨拶して、世間話をしながら電車を待っていたんです。彼女も弟と話していたし、僕は彼女に何も言わなかった。まあ、実家で療養を始めてからは電話を何度ももらったけどね。
 彼女が実家に戻ってから、僕は離婚したんですよ。なんでも、彼女が障害者として認定を受けるのに、独身の方が都合よかったらしいんだ。国から補助金をもらうための離婚ですよ。医療費もかかって、彼女の実家もずいぶんと負担していたしね。何の争いもなく、静かに離婚は決まりました。
 最後に電話で話したときには、元気だったんだけどな。明るい声でさ。
「子どもが自転車ほしがっているから、送ってちょうだい」なんて電話があってさ。東京から自転車送るんじゃ大変だからってお金を送るって約束したんです。そうしたら死んじゃってね。
 長女で、しっかり者。でも病気には勝てないよね。頑張って続けてきた仕事も、女房が死んだのを機に辞めました。女房の弟が実家に帰って仕事をするというから、会社をすべて譲ったんだ。そして子どもも彼に育ててもらうことにしたんです。
 僕は運転手だから、家をあけることも多い。子どもを育てるのは無理でした。一緒に仕事をしていた義理の弟なら、絶対に信頼できるし。

■35歳で肺を患う

 女房と子どもをなくして仕事も替わったんだから、35歳のときはいろいろあったよね。でも、まだ激動は続いたんだ。
 タクシーの運転手として仕事を再開してしばらくたって、肺を患って倒れたの。痛いんだこれが。骨が内臓に刺さるような痛みというのかな。痛くて眠れないんだから。レントゲンを撮ってすぐに入院ですよ。
 当時、寝ないで仕事をしていたからね。僕は水筒にレモン水を入れていくの。それで眠くなると飲むわけ。すぐに目がさえるから、二時間ぐらいの睡眠で走り回っていた。当時は、相撲のハネとか明治座のハネとか、お客が出てくる時間は全部頭に入っていたんだ。かせいだね。100万円ぐらいは取っていたんじゃないかな。若かったからな、無理がきいたんですよ。でも、入院することになって、このタクシー会社は辞めることになりました。
 退院して、体を大切にしなきゃなと思いましたよ。さすがにね。それでタクシー会社は辞めることにしたんです。いくらもうかっても、倒れたんじゃ仕方ないから。どんな職業が健康にいいか考えましたよ。やっぱり体を動かすのがいいかなと思って、土工をね。
 当時は若かったし、すぐに採用されましてね。退院して3日後には働いていたの。遊んでいると退屈でしょ。ずっと働いてきたからね。だから退院したら休もうとは思わなかったですよ。
 ただし勤めた会社は忙しかった。1ヶ月に28日ぐらい働いていましたから。しかも昼夜昼と連続で仕事に出たりするの。土工は雨が降ると仕事できないでしょ。で、納期が迫ってくると、夜でも仕事になっちゃうわけ。 いやー、とにかく休めないんです。カゼをひいたときなんか、「休む」と電話をかけたら社員が迎えにきちゃうんだから。「仕事に行きましょう」って。で、連れて行かれちゃう(笑)。そんなことが続けば、いい加減嫌になるでしょ。それで会社を辞めました。

■再度の起業も失敗

 また当時は肺の病気の後遺症があったから、体もきつかった。なぜかいきなり胸が痛くなって、それが3ヶ月も続いていました。うつぶせだと苦しくて眠れないし、仰向けだと痛くて眠れない。仕方ないから肩を下にして、そっと横になる。それでも仕事を休もうとは思いませんでした。働くのが好きでしたから。
 医者には「夜寝ない職業はダメ」と言われまして、今度は昼だけの土工に職を替えました。しばらくの間は胸の痛みに苦しんでいたけれど、そのうちすっかり治っちゃって。不思議ですよ。一生病気とつき合うことになる、なんて医者から言われていたのに、後遺症もなくなり、胸もきれいになりましたからね。労働はきつくてもタクシーのように神経をすり減らさなくて済んだので、体にはよかったんでしょう。健康のために土工を選んで正解でした。
 そのうち仕事で知り合った仲間と会社を興しましてね。3人でクロス屋を始めたんです。壁紙を貼る仕事ですよ。小さな仕事から取っていってまあまあ順調だったけれど、つぶれちゃいました。
 それから会社を転々としたけれど、フリーになったのは52歳かな。そしたらこの不景気でしょ。飯場に入れても、仕事があるのは週2、3日ですから。1日1万円としても、週で2、3万円でしょ。ところが飯場での宿泊料金を1日に3000円も取られるんですよ。そうすると仕事のない週は赤字。とてもやっていけませんよね。でも仕事をしないと、貯金もどんどん減っていきますからね。それで貯金のあるうちに、アパートを引き払いました。

■いまは避難している状態

 この河川敷なら家賃もいらないからね。ここから土工に通っていたこともあるけれど、いまは古本屋と契約して週に3日、本を集めています。
 知ってます? うどんとかならば安売りで三束100円で買えるし、卵だって一パック100円で売っている。ジーンズやシャツだって近所の店に行けば、やっぱり100円で手に入る。米は五キロで1500円かな。ガスコンロで自炊すれば、貯金を使わなくたって生きていけます。酒も飲まないし、風呂は区民センターで入れるし。
 残ったお金でギャンブルをするときもありますよ。一点買いして、勝ったら防寒着だとか靴だとか、値の張る品物を買うの(笑)。
 いまでも姉さんとは連絡を取っています。いくらアパートを移っても保証人が必要でしょ。だから会っていなくても連絡が途絶えたことはありません。たしかに頼ろうと思えばできるのかもしれないですね。まあ、いまは自分で選択して、ここに住んでいるわけだから。もう少し景気がよくなったらどうするか考えますよ。とにかくいまはここに避難している状態ですから。
 ねえ、目の前に高速道路が走っているでしょ。ここは意外に事故が多いんですよ。出口の看板があって、それからカーブ。先が見えないから運転手が無理な車線変更をするんでしょうね。それで事故を起こしちゃう。きっと先の見える位置に看板があれば、事故は減ると思うんですよ。先が見えればね……。 (■了)

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