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ホームレス自らを語る/175円の万引・中谷勝彦(51歳)

■月刊「記録」2001年7月、8月号掲載記事

*        *        *

■何といっても不況が響いた

 オーディオには凝ってたよ。部屋にあったAV機器は、総額で200万円以上はしたと思うな。一番気に入っていたのは、真空管のアンプ。低音と高音が無理なく出る。聞いていて疲れないんだ。普通のアンプがドンドンって音なら、真空管のアンプはド~ンって感じ。音が部屋に漂うんだよ。
 仕事から帰ってアンプのスイッチを入れると、部屋の灯りがちょっと暗くなる。それから真空管が温まるまで、じっと待つんだ。
 演奏が始まったら、音を調整する。低音を少し上げたりさ。まあ、機械マニアだからね。いじりたくて仕方ないんだよ(笑)。聴いていたのは、クラシックだな。家ではロッシーニが多かった。
 マッキントッシュがICで真空管に近い音を出すアンプを発売するっていうから楽しみにしていたのに、手に入れる前にホームレスになっちまった。
 不況が響いたよ。大手の自動車会社で、オーディオやらカーナビやらのオプション部品を取り付けていたんだ。忙しいときには、1日に200台近い車が工場に流れてきたのに、最後は1日に24台とかだからね。九時に始業して、10時か11時には仕事が終わっちゃう。社員は整備士になるための勉強会なんか開いていたけれど、俺はフリーだったから自分の事務所に帰るしかない。 その1年半ほど前には、4時半に起きて7時から仕事をしていたりしたのにな。カーコンポ一台を取り付けて1万1000円ぐらい。おいしくない空気清浄機の取り付けだって、30分ぐらいの作業で1650円入ってくる。取り付けた分だけ賃金がもらえるから、月に70万ぐらいの収入はあった。それが不景気になって14万円になっちゃった。それで結局、リストラ。

■20年以上サラリーマンをしていた

 実はね、リストラになる1年8ヵ月前までは、20年以上サラリーマンをしていたんだよ。販売店に出向して、オーディオなんかを取り付けていた。でも製品を納めるルートがウチの会社を通さなくなって、取り付け手数料しか入らなくなった。それで会社がカーオーディオの取り付け業務をやめちゃったんだ。
 でも俺は、ずっとそんな仕事をしてきたから続けたかった。で、自動車会社の社員にグチをこぼしていたら、「会社を辞めて自分でやればいいじゃないですか」って言われたんだ。「そうか」と思って辞めたんだよ。
 自分で仕事をやり始めてまず驚いたのは給料だよ。こんなにもらっていいのかと思ったもの。辞める前が28万円ぐらいだったのに、いきなり70万円ぐらいになったんだから。それに会社の上司にうるさいことを言われることも、怒られることもないからね。とにかく楽しかった。
 自分で仕事をしていたときは、人間関係もよかったよ。オーディオの修理箇所が見つからなかったりすると、俺が呼ばれてね。隣で作業した社員の人とも仲が良くて、互いの仕事を手伝ったりしていた。会社に行くのが楽しくて仕方なかったよ。
 まあ自分で仕事をするようになったから、不況になってすぐに仕事がなくなったんだろうけれどね。
 仕事がなくなっても、どうなるんだろうと思ったよ。求人情報誌の『ガテン』や『アルバイトニュース』を見たり、職安に行ったりしたけど、数ヶ月でダメだと思ったな。四五歳を過ぎて、何の資格も持たない男が職を探しても見つからない。器具を取り付ける技術があっても、やっぱり機械の中身が直せないと職にありつけないんだよね。
 それに俺は、左目が強い乱視の上に、メガネをかけても0・3程度の視力なんだ。普通免許さえ取れないんだから。募集のあったフォークリフトの運転なんか、どうやっても無理だよ。もし目が悪くなかったら、人生は変わっていたかもしれないと思うけれどね。

■おまえを身内だと思わない

 一ヶ月後に割れる手形があったし、貯金もあったから半年間は食べていけたんだ。でも、そのあとがね。もう両親もいないから、兄妹に頼るしかなかった。でも妹は、難病で生活保護を受けているから世話になれないし。結局、アパートからも近かった兄の家に世話になったんだ。でも所帯を持つと、人が変わってしまうんだよ。もうひどいんだから。
 最初、5万円の家賃と食費を払う約束だったんだけれど、全然仕事が見つからなかったから払えなくなってさ。借金はどんどんふくらんでいくしね。居候して1年間ぐらいかな、兄貴に20万円を渡されて「これで出て行け」と言われたんだ。「俺は、おまえのことを身内だとは思っていないから」とまで言われて。
 行くあてもなかったけれど、とにかく兄の家を出てサウナやビジネスホテルを泊まり歩いた。サウナは好きだったよ。でも20万円なんて、あっという間になくなるね。三度食事して、2500円を払ってサウナで寝て、ビールでも飲んだら7000円ぐらいすぐいっちゃうでしょ。せいぜい25日ぐらいしかもたなかったもの。
 とりあえずバス停のベンチで寝るようにしていたんだけれど、雨が降ると屋根がほしくなる。それで見つけたのが、兄貴のやっているボウリング場だったんだ。でも、そこで寝起きしていたら兄貴がやってきたんだ。「ここで寝るのはやめてくれ」ってさ。やっぱり顔が似ているから、従業員が気づいて兄貴に知らせたんじゃないかな。
「もう金も使い切ったよ」なんて話をしたら、財布から1万円を抜いて、小銭入れに入っていた金をジャラッと出したんだ。10円だとか100円とか全部出して、1万円札とともに俺に手渡した。「これで飯でも食え」って。
 俺の不満そうな顔を見たからかな。「俺だって、月3万円でやっているんだ。1日1000円あれば十分だろ」って言い放った。
 でも、妻帯者と独身は違うんだよね。自宅に帰れば、タダで食事が食べられるわけじゃないからさ。1日1000円じゃあ1日三食として、当時は一回の食事で牛丼も食べられない。まあ、カネをもらって、そこを立ち去るしかなかったけれど。「身内だと思っていない」と言われたぐらいだからね。

■遂に逮捕された

 そのあと、いよいよカネがなくなってきて、どうしていいかわからなかったんだ。ほら、ホームレスなんかしたことないでしょ。だからどうやって食事にありつくのか、どうやって仕事を見つけるのかを知らなかったの(笑)。
 それで万引を始めたんだよ。5回ぐらいは店の人に捕まったかな。でも、誰も警察を呼ばなかった。酒屋のおやじに見つかったときは、「この商品はあげるから二度と来ないでくれ」って懇願されたからね。個人商店で客を警察に突き出したりすると、信用が落ちるらしくてさ。
 でも7月に遂に逮捕されたよ。コンビニで175円のサケ缶を盗んだら、おまわりが来た。女性店員しか働いていない時間帯を狙って、何度か万引していたんだけれど、俺が泥棒だってうすうす気付いていたんだろうな。防犯用のビデオテープも回っているしさ。たいした金額でもないのに、普通、警察を呼ぶかと思ったけれど仕方ないよね。
 警察では、名前やら本籍地を聞かれたな。それから被害金額について聞かれた。「175円のサケ缶です」って答えたら、あんまり被害金額が少なくて警察も驚いてたよ。「書類送検になるんですか?」と俺が聞いたら、それは否定したな。でも、えらい説教をくらったよ。さすがにそれからは、万引する気もなくなった。
 それに説教の最中、警官が手配師のつかまえ方を教えてくれたんだよ。「駅周辺でウロウロしていれば声がかかる。そうしたら仕事ももらえるし、カネも入る」ってね。そこの警官は優しくて、電車賃を300円ほどくれたうえに、最寄りの駅まで車で送ってくれたんだ。

■会社なんて薄情なもの

 たしかに池袋で歩いていたら手配師が声をかけてきた。建築現場の後片付けの仕事だった。でも、ホームレスの仲間ができてからは、仕事にも行かなくなった。目が悪いから建築現場に向かないし、エサにも困らなかったから。一番最高で、ヒレカツ弁当を13個拾ったことがあったからね。仲間五人で仲良く暮らしてたんだ。いまは一人で住むようになったけれどね。
 しかし会社なんて薄情なもんだよね。去年の5月かな、長く勤めていた会社に行ったんだよ。そうしたら社長が1万円しか渡さないの。しかも「やるんじゃないぞ、貸すんだぞ」なんて何度も言われて。サラリーマン時代は、給料の二倍三倍の利益を会社に渡していたのにさ。元社員がこんなことになっているのに、器が小さいよね。少しぐらいは社長も変わっているかと思ったら、少しも変わっていなかったな。
 きっと先代の社長だったら、そんな扱いはしなかったと思うよ。入社してちょっとたったころかな、派遣先の工場で車のガラスを割ったことがあってね。作業のジャマになるので、後部座席に置いてあった段ボールを外に出したら、そこにガラスが入っていて割れちゃったの。工場から連絡が行ったんだろうね。社長からすぐに電話が来たよ。
「ケガはないか」
 それが社長の第一声だった。俺のミスなのに。
「ガラスをくるんだら、誰が見てもわかるように『ガラス』と書いておくのが常識だろ。今度、俺が工場に言っておいてやるから」なんてうれしいことを言ってくれた。俺が入社して4、5年後に、その社長も亡くなったけれども。あの社長が生きていたら、ずっと会社で働いていたかもしれないな。
 ホームレスになってつらいのは、雪の日だよね。寒くて仕方ないから地下道に入るだろ。でも地下道で座ると、ガードマンが飛んできて注意するんだから。それぐらい勘弁してほしいよ。  (■了)

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