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首都高速道路500円通行の正義 第17回/「いい年をして退職金を捨てるつもりか!」

■月刊『記録』96年1月号掲載記事

■投稿が道路公団の逆鱗に

 裁判所というと何か厳めしく近寄りがたい感じがします。裁判は日本社会においてはまだ特殊な出来事で、訴える方も訴えられる方も特別な目で見られがちです。しかし時代の変わり目には予想外の出来事が起きます。確かに、ごく普通の平和な時代であれば、こんな痛快無比な出来事は絶対に起こりません。
 厳めしく、近寄りがたい裁判が菊地哲夫殿の手にかかると、実にマンガチックになり、面白おかしく進んでいくのです。皮肉なことに首都高きっての切れ者といわれる生田目氏の登場がいっそう舞台を面白くします。目立ちたがりのわが菊地殿は、弁護士先生のお世話になることもなく自分で準備書面を書きイソイソと裁判所へ足を運びます。
 これがまた面白い。彼は専門的な法律の知識はありません。法律は常識なり、たったこれだけの理論で、プロの弁護士集団と首都公団2000人の組織と互角にやりあっているのです。この痛快さ。そしてまたまた面白い。彼にとっては素晴らしいライフワークであり、対する首都公団は青色吐息なのです。
 そもそも物語は1988年2月、菊地氏が神奈川新聞に投書したことに始まります。彼は、この交通渋滞解消には首都高に車を入れない目的で外環状線の建設が絶対に不可欠であると説きました。しごくもっともな話です。
「近年都会地の用地確保が至難で用地回収ができれば道路が9割方完成とさえいわれている」と説明し、用地回収の難しさを説き、代替地提供の絶対的な不可能さを説く。これまた当たり前なことです。「前向きで善処します」と役人特有の問題先送りの姿勢を堅く戒めてもいる。そしてそれらの解決策に河川敷の利用を説いているわけです。固有地を生かすことにより用地回収の必要はなくなる上、現在の建設技術は河川敷道路建設には何の障害もないと説き、例として10キロメートルの海をまたいだ瀬戸大橋建設の説明を続けるあたり、全く至極もっともな話なのです。
 そして、建設計画の東京横断道路の受皿である川崎縦貫道に多摩川を利用すべし、とまことに具体的理論をも展開しています。最後は、「高速道路を河川敷に建設しようという意見は何も私だけが主張しているのではない。すでにいろいろな人がいろいろなメディアで発言している」として具体的な実行が急務であると結んでいます。一片の疑問の余地もなく、ごくごく当然の当たり前の諸意見ではないですか。彼の処女作である『はみ出し首都高マンの当番日記』(オーエス出版社刊)にも書かれている内容です。
 しかし驚くことなかれ、このいやになるくらい当たり前の意見が公団の逆鱗に触れた。「生意気な野郎だッ」というわけです。バカげた話ではないですか。公団は完璧に勘違いをしている。1日110万台に上る我々利用者の通行料金で生計を立てている身を忘れている。前から感じていたことですが、何か権力者のような振る舞いするところがあり、国民(利用者)を見下しているところがある。一片の奥ゆかしさもない。へりくだるところが全然ない。
 首都高公団の諸君ッ!長いつきあいゆえ真心をこめて親心でいうのだが、本当に気をつけた方がよい。君達に権力などありはしない。全くの錯覚である。君達は原点に戻らなければいけない。

■逮捕・連行された

 しかしながらです。何だかんだと裁判はおもしろおかしく幕を開けます。以下、裁判所に提出された正式書面より抜粋しながらことの推移を追っていくことにします。泣く子も黙る裁判所へ提出された正式な書面ですぞ。
 神奈川新聞に投書をした2ヶ月半後の1988年11月17日10時ごろのことです。仕事中の菊地氏に対して上司の後閑所長いわく、「午後、西田神奈川管理部長が用事があって、ここに来るから必ず居るように。これは業務命令だッ!」
菊地「用事は何なの」
後閑「何だか知らない‥‥」
てな具合の珍問答で物語が始まったのです。
 この会話から公団の日常の様子をかい間見ることができます。ところで後閑氏しかり岩手のナマハゲ・・・いや生田目氏しかり公団は珍しい名前の持ち主が多い、それにもまして面白いのは皆さんの役職の好きなこと! 所長・部長・課長・係長は当たり前のこと、西田神奈川管理部長などといちいち役職名で呼んで舌を噛まないかと感心します。もっとも菊地氏自身が「神奈川管理部第二班長」というすさまじい肩書をもっているのですが。
 菊地氏は、「業務命令なんていって用事がわからないはないだろう。じゃあ 俺が聞いてくる」と連絡を取ったものの、西田神奈川管理部長は不在、楠田次長も全く聞いていないという。そこで菊地氏が出かけようとすると後閑所長と坂本副所長が、「業務命令、業務命令」を連発しながら血相をかえて彼の両手をつかんだ。菊地氏はしかたなく2人に両方を抱えられ、車で神奈川管理部部長室へ連れられていく。
 途端に異様な光景が展開される。児玉課長・松原課長・長尾課長らがにげられないように玄関を固めたのだ。ジャリの喧嘩じゃあるまいし、馬鹿者どもが何をやっているのかと思いませんか。読者諸君、信じられないことではあるけれど、課長だ部長だののバカバカしいこの書面は裁判所に提出された正式な書面ですぞ。厳めしく取っ付きにくい裁判所も愛すべきところがあるのです。
 公団の日々のレベルがいかに低いかおわかりいただけるかと思います。このバカな奴らが国作りに必要な根幹的な道路行政の一翼を担っていると思うと腸捻転になってしまうほど腹が立つ。

■退職金を人質に

 菊地氏は刑事事件の逮捕連行にも似た格好で首都高速道路公団本所9階、特別会議室に連れてこられました。テーブルの上には録音テープ、マイクが用意され異様な雰囲気です。生田目人事部長(出ましたナマハゲ!大統領!)、井口人事課長他2人が着席、厳かにナマハゲ氏がいいます。「あなたの懲戒処分が決定したので処分書を交付します」。開けてビックリ玉手箱、「停職3ヶ月、この期間中の給与(年末特別手当を含む)は支給しない」。世の中にこんなことがあってよいものだろうか。しかし、あるはずのない、あってはならない出来事が目前で始まったのです。つまり公団は世の中ではなかったことになります。
 生田目人事部長は厳かに、「2・3付け加えるが、懲罰委員会ではもっと激しい処分すべきの意見が大半だったが、君や家族のことを考えこの程度にした。これからはおとなしくするだろうな。この処分でガタガタしたら26年勤続1700万円の退職金がなくなる。懲戒解雇になるよ。政治家やマスコミにこの件を話したら処分をもっと重くする・・・・」。私が面白おかしく作文しているのではない。正真正銘、裁判所に提出された正式書類です。まるでヤクザの物言いではないですか。
菊地氏「この処分に意義申し立てをしたい」
生田目氏「そんな必要ないよ」
菊地氏「こっちが必要です。裁判でさえ一審二審三審とあるでしょう」
生田目氏「何度も繰り返すが、いい年をして退職金を捨てるつもりか‥‥」
菊地氏の準備書面はこう続いています。
「およそこんな言葉のやりとり後、その場を引き下がったが決してこの処分を納得して引き下がったのではありません。退職金をたてに取り個人の生活権までも人質に取るやり方は類を見ない卑怯の典型である。子どもを人質に取り身代金を要求しているのとかわりがない。自分達が何をやり、何をやろうとしているのかさえ自覚がない。首都道路公団などと思い上がりもはなはだしい。チャンチャラおかしくて臍でお湯も沸かない」。
準備書面は続きます。
生田目氏「お前は裁判をちらつかせた!何で裁判なんかやるんだ」
菊地氏「不服審査請求もできない公団では裁判しかないでしょう。裁判することが反省の足りない理由ですか」
井口氏「そらあそうだよ(何と下品な課長さんだろう)」
生田目氏「受けて立つよ!お前はトンマだな。公団と裁判して勝てると思っているのか!」
 ナマハゲもよくいう。私が公団の理事長になった暁にはナマハゲ君は側近として地獄の特訓をし叩き直すことにする。今までの罪の償いをしてもらう。井口君は面倒臭いのでクビにする、面倒は見られない。私も忙しいし、疲れる。(■つづく)

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