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首都高速道路500円通行の正義 第16回/公団職員・菊池哲夫物語

■月刊『記録』95年12月号掲載記事

■公認ブラ勤デーが出勤扱い

 世の中には奇人変人がたくさんいます。私なども最たるものですが、実は700円の首都高を500円で通行している程度です。上には上がいるものです。とても彼にはかないません。その名を菊池哲夫さんといいます。私が首都高で大騒ぎしいた頃、彼は隠れフリーウエイクラブ会員でした。立場上会員であると公表できなかったのです。それもそのはず、驚くなかれ彼の職場は首都高速道路公団だったのです。勤続27年、神奈川管理部第二班長というれっきとした公団職員なのです。これを変人といわずに何と呼ぶ。しかも、ただの変人ではありません。一味も二味も違う爽やか変人です。今回は痛快無比、公団職員菊池哲夫物語です。
 現代はとかく生活防衛のために自分自身を偽って日々を過ごすのもやむなしとする風潮ですが、彼は公団職員でありながら私と会い、堂々と意見をいいます。「和合先生、実に素晴らしい。断固としてご自分の信念を貫き通すことは誰でも出来ることではありません。私は和合先生が正しいと思います。少しでも先生にあやかって、筋を通していこうと思っています」と、そろそろ人生の年期が入った菊池さんが正義感に燃えて青年のよう。ちなみに彼はなぜか私を先生と呼び、あんまり先生を連発するものだから、他に先生がいるのかしらんとその辺を見渡したものです。
 菊池さんは「公団の公認ブラ勤デー」という仰天話を始めました。当初は「和合さんはこんなことに興味があるかな」というふうな顔つきで、「公団職員によるソフトボール大会です。東京杉並の日本興業銀行のグラウンドを借り切って平日2日間にわたって開催されます」などと、「興味があるのかな?」などと探るような仕草で話し続けます。その頃の私は、公団のどんな些細なことでも見逃すまいと必死でしたから、とにかく耳をそば立て目を輝かせてうなずいていたので、彼もよしとばかり勢い込んで続けます。
 それは全職員1500人の3分の1にあたる500人が職場別に15チームに分かれて熱戦を繰り広げ、過去10年間も続いています。しかも出勤扱い、つまり給料が支払われるのです。全くふざけた話ではないですか。菊池さんのデータによると、年間ブラ勤デーはソフトボール大会、バスケットボール大会など合計4日間で、延べ2000人が参加、人件費は何と1億円。1億円ですぞ!ちなみに私の通行料金不足はたった200円ですぞ!考えてもみて下さい、この支出は全て我々の通行料から支払われるのです。
 関係者に配布する資料がまたすばらしい。「ソフトボール大会の実施について」などと仰々しい表題で始まり、「福利厚生の一環として、標記大会の別紙要領により実施されたい。支部大会については開催日時、場所及び参加チーム数などを事前に人事部長宛報告されるように依頼します。以上 人事部長印」などと、バシッと人事部長印があざやかに押されています。ページがまたがって境目には割印がバシッと押されています。よほどの重要書類なのでしょう。一枚一枚通し番号まで打ってあります。
 ルールについても厳粛に定められています。以下最も厳粛に設定されていると思われるいくつかのルールをご披露致します。
◎各チームは試合の都度、試合開始10分前までに登録選手名簿を本部に二部提出するとともに試合開始予定時間にはゲームが出来る状態で集合する(小学校の野球大会か?)
◎男子登録選手は全員必ず一試合一度、女子登録選手のうち一名は常時選手として試合に出場しなければならない。なお、女子選手の交代は女子選手同士で行なう(公団はよほど女性不足らしい)
◎組み合わせはトーナメント方式とし、試合は一ゲーム七イニングまで行う。ただし、勝敗の決まらない場合は代表選手九名のジャンケンで勝敗を決定する(もしや値上げを100円にするか200円にするかもジャンケンで決めているのか)
 そしてお待ちかね。あまりのバカらしさに泡を吹いて卒倒する内容が素晴しく厳正かつ公正な言葉で締めくくられているこのルールをばご覧あれ。「大会当日は業務上特に必要のある職員を除き、全員参加する事。参加者については通常勤務したものとして取り扱う」・・・・どうだまいったか。全く素晴らしい。

■営利誘拐犯と同手口

 そして、ある日の衝撃的な電話で菊池哲夫物語はクライマックスを迎えます。「そんなバカな話があるか!」と声を振るわせて菊池さんが怒っていて、なかなか興奮が収まりせん。話を聞いて吃驚仰天、公団から懲戒処分になったというのです。停職3ヶ月、この期間中の給与(年末特別手当を含む)は支給しないとの内容でした。公団の生田目人事部長は、「懲戒委員会では もっと厳しい処分にすべきの意見が大半だったが、君の家族のことを考えこの程度にした。これからおとなしくするだろうな、この処分でガタガタしたら、26年間勤続1700万円の退職金がなくなる。懲戒解雇になるよ」と言い放ったのだそうです。
 真っ正直すぎる彼に仕事上で大ミスがあったとは考えにくい。表向きの原因は神奈川新聞への投書でした。88年9月3日付読者欄オピニオンに掲載された「河川敷利用で高速道路の建設を」という至極立派でもっともな渋滞解決策です。ところが公団は職員はこういうことをやっては困る、だから給料を止めるというのです。なお生田目部長は、「政治家やマスコミにこの件を話したら処分をもっと重くするぞ!」ともつけ加えたそうです
 一体天下の公団組織の内部はどうなっているのだろうか。原因はどうあれ、これはひどい。たぶん値上げで窮地に追い込まれた公団がとりあえず内部反乱の芽は摘み取っておこうと考えたのでしょうが、生活権を盾にとって抑え込む手法はまことに卑劣、子どもを誘拐して身代金を請求しているのに等しい。菊池氏が「異議申し立てをしたい。再審請求をしたい」というと、「そんなものはない」(生田目)「その録音テープを下さい。(公団はその席上テープをとっている)」(菊池)「そんな必要ないよ。何度も繰り返すが、いい年をして退職金を捨てるつもりか・・・・」(生田目)。
 繰り返しいう。このやり口は営利誘拐と同じで、相手を抑え込む方法としてはこれ以上下劣な方法はない。堂々と議論を交わし、その上で決まったことには従うというのが民主主義ではないか。

■道路公団は最低のゴミ集団

 この話を聞くまでの私は、さまざまな批判をしてはいるが、行政を基本的には信じていました。確かに程度は低いけれど、それなりに一生懸命にやっているとの思いもありました。しかし甘かった。フリーウエイクラブ関西の時と同じように公団は最低のゴミ集団でした。これが我々の税金で生活しているのです。
 私は、「しまった。2人目の山口さんを出してしまった」と衝撃を受けました。しかし菊池氏はこれくらいではへこたれません。「和合さん、ここは引きます。丁度いい、3ヶ月の長期連休を楽しむことにします。この屈辱は絶対に忘れません。定年までほんのわずかしか残っていません。公団とのやりとりはそれからにします。その時は応援して下さい」。応援するもしないもそんなことは当たり。彼の心境を思い計るとまたまた重責を感じ、「公団め今にみていろ」とエネルギーがメラメラと燃えてきます。
 屈辱の3ヶ月の冬眠から覚めると公団は菊池さんの生活権を人質に最後の切り札を突きつけてきました。生田目人事部長は、「お前は和合と会っただろう。何しにあんな人間に会うのか、あれとは絶対に会わない、一切電話もしない、手紙も出してはならない。約束しなかったら停職を延期する」と脅してきたのです。何だろうこれは。日本は本当に民主主義の国だろうか。旧ソ連よりもっとひどい。彼はこの条件を飲みました。「今に見ていろ」との心を奥深く秘めて苦渋の決断をしたのです。
 それから7年、めでたく定年退職した菊池氏は今や快進劇の真っただ中。公団との裁判もほとんど勝訴に近く、値上げに合わせて本も出版し、テレビ出演も果たしました。当時のエネルギーはまだ燃え盛っています。彼は、「和合さん、首都高との裁判は素晴らしいライフワークです。もうこれはほとんど私の生き甲斐です。もうこれしかありません。あの事件がなければこれほどのものは手に入りませんでした」といいます。公団も大変だと思うが、ひとつ頑張ってください。(■つづく)

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