« だいじょうぶよ・神山眞/第25回 約束破り | トップページ | ホームレス自らを語る/いま恋愛中です・筑紫一彦さん(52歳) »

ホームレス自らを語る/別れた女房とよりを戻したい・佐藤純一さん(47歳)

■月刊「記録」2000年9月号掲載記事

*          *           *

■酒が元で傷害事件を起こす

 32か、33歳だったと思う。仕事の帰りに友人と飲み屋で一杯ひっかけていたんだ。そのうちに友人がほかの客に絡まれて、殴り合いのケンカになった。ボクは止めようとして割って入ったんだけどね。相手の男は止めに入ったボクにも殴りかかってきた。それにボクの友人が顔からダラダラと血を流していてね。それを見てカーッと熱くなっていた。無我夢中で男に殴りかかっていった。酒も入って酔っていたし、ただ夢中で訳もわからずに殴り続けた。(※佐藤さんは偉丈夫で屈強な体躯の持ち主である)
 ほかの客たちに止められて我に返ったとき、相手の男は床にぶっ倒れてハアハアいって血だらけになっていた。半身不随の大ケガだったらしい。ほかの客に止められてなかったら、相手が死ぬまで殴り続けていたかもしれない。警察が呼ばれて傷害の現行犯で逮捕され、拘置所に三ヶ月間入れられた。裁判で執行猶予がついたから、刑務所には行かないで済んだけどね。
 そのころ、ボクは電気工事の会社で働いていてね。裁判が済んで、仕事の仲間や上司は会社に戻ってくるようにと誘ってくれたんだ。でも、どうしても戻る気になれなかった。みんなが事件のことを知ってるからね。ボクのことを凶暴な男だと見るかもしれない。そんな仲間の視線のなかで働くのはつらいと思ったんだ。
 しばらく失業保険で食いつないでから、アルバイトで働くようになった。ボクには電気工事の資格があったから、アルバイトだけでもけっこうかせげたんだ。それを覚えてしまって、だんだんに遊びグセがついてしまったんだな。

■浮気が女房にバレてしまった

 生まれたのは中部地方のある町。家は旧家で、ちょっとした資産もあった。大学になかなか受からなくてね。動物が好きで獣医になりたかったんだ。オヤジが国立大以外は金を出さないって言うから、旧二期校のS大農学部を狙ったんだけど三浪してもダメだった。
 いい若いもんが田舎町でブラブラしていると目立つからね。それでオヤジの知り合いの代議士に預けられて秘書をやらされた。でも、政治の世界なんて汚いもんだよ。道路を通す計画があると、さっと土地を買い占めちゃったりして、私腹を肥やすことしか考えていない。だから、すぐにイヤになって辞めた。
 そうしたら極道をしている叔父に預けられて、その口利きで海上自衛隊に入れられた。横須賀に配属になって、ターター船というミサイル船の甲板員になった。下っ端の雑用係だよ。最初の三ヶ月間だけは訓練もきびしかったけど、あとは楽なもんだった。
 訓練航海で世界一周をしたこともあるよ。三ヶ月くらいかけて世界の海を回るんだけど、途中七、八ヶ所の港に燃料や食料補給のために寄港するだろ。艦隊を組んで船が港に入っていくと、どこでも桟橋には商売女たちがズラッと並んで待っていてね。ああいう女たちには、士官よりもボクたち水兵のほうがもてたから、いろんな国の女と遊んだよ。
 自衛隊には三年いて満期除隊で、海士長で辞めた。旧陸軍でいうと伍長くらいだね。それで東京に出てきて電気工事の会社で働くようになった。24、25歳くらいだったんじゃないかな。結婚したのは29歳のときだね。仕事先で知り合ったんだけど、九州出身のいい女だった。ボクが傷害事件を起こしたときも、いやな顔一つしないで逆に励ましてくれたよ。
 ところが、2年くらい前だったか? ボクの浮気がバレてしまってね。それで女房は怒って九州に帰っちゃったんだ。浮気の相手は飲み屋の女。その女に小さな子どもがいて、ボクにもなついてかわいくてね。ボクたち夫婦には子どもがなかったから、よけいにかわいかった。その子がディズニーランドへ行きたいっていうんで、ある日3人で遊びに行ったんだ。そうしたら、そこを女房の知り合いに見られてバレてしまった。
 女房に逃げられてから、何もかもがイヤになってね。バッグ一つに荷物を詰めて、アパートを引き払ってここ(新宿中央公園)に来て住むようになった。
 こういう暮らしも、のんびりしていていいもんだよ。こういう生活があって、いろんな人生があることがわかって、いい経験をさせてもらってるね。はじめは充電期間のつもりで、一年したら出ていこうと思ってたけどやめられなくなったよ。
 公園に小屋をつくって住むようになったのも、ボクは早いほうだった(※佐藤さんはベニヤ板とブルーシートでつくった小屋で暮らしている)。いまじゃ、みんなが真似して、この公園でも小屋で暮らしているのが増えたよね。
 仕事? してるよ。いまは一週間働いて、一ヶ月遊ぶってふうだけどね。働きたいと思えば、いつでも回してもらえるんだ。電気工事の仕事じゃなくて、日雇いの土工だよ。電気工事のほうは仕事道具を盗られてしまってね。でも、日雇いのほうがいいよ。体を使うだけで、煩わしい人間関係がないからね。
 この公園にも悪いのがいて、仲間が日雇いでかせいだ金をピンハネしているヤツがいるんだ。ヤクザまがいのヤツさ。ボクは屈しないよ。「いつでも来い」と言ってある。ボクも体を張ってるからね。弱い者イジメは大嫌いだよ。
 ヤクザの世話にならなければ、ボランティアの世話にもなっていない。プータローにはプータローのプライドがあるからね。弁当でもタバコでもいつでも手に入れられる。余れば年寄りや女のホームレスに配ってあげるようにしている。誰の世話にならなくてもやっていけるよ。

■好きな酒をずっと断っている

 いま考えているのは女房との復縁のことだよね。女房さえ戻ってくれたら、またアパートを借りてちゃんと働こうと思っている。これまでに女房を迎えに3回も九州まで行ったんだけどね。なかなか首を縦に振ってくれないよ。女心はむずかしいもんだ。
 例の傷害事件を起こして以来、大好きだった酒を断っている。正月だってコーラしか飲んでない。酒を飲めば熟睡できると思うけど、一回でも飲んでしまえば終わりだと思うしね。いまは女房と復縁できるまでって誓いを立てて断っている。
 ボクは詩を書いているんだよ。路上に寝転がる生活をしながら、そこで見たこと、感じたことを、詩に書いて残している。いつだったか、高校生が訪ねてきてね。ボクに詩を書いてくれと言うんだ。なんでも都知事から一般の人、それにホームレスまでの詩を集めて、現代の東京都民の万葉集をつくる計画だという。ボクが詩を書いてることを、誰かに聞いたんだろうね。
 ほら、この『マンヨウシュウ』(九段高校文芸部編)って詩集に載っている「限りない愛」が、そのときボクがつくった詩だよ。読んでくれるかい?

私は私は生きている生きている今日も/都会の巨大なビルディングの狭間…/押しつぶされそうになって/(略)/情熱はどこに行ってしまったんだろう/空に浮かぶ雲のような人生のレールがあったのに/逆の人生を歩んでしまった私…(一部抜粋) (■了)

|

« だいじょうぶよ・神山眞/第25回 約束破り | トップページ | ホームレス自らを語る/いま恋愛中です・筑紫一彦さん(52歳) »

ホームレス自らを語る/大畑太郎・神戸幸夫」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/389724/7130916

この記事へのトラックバック一覧です: ホームレス自らを語る/別れた女房とよりを戻したい・佐藤純一さん(47歳):

« だいじょうぶよ・神山眞/第25回 約束破り | トップページ | ホームレス自らを語る/いま恋愛中です・筑紫一彦さん(52歳) »