ホームレス自らを語る/ハートの弱い人は暮らせない・川田義則(47歳)
■「新・ホームレス自らを語る」収録
* * *
■毎日コンビニに通っている
ホームレスでも、自慢ばかりしているようなヤツはケンカになる。逆にハートの弱い人はテントで暮らし続けることなんてできないよ。
俺も、365日、毎日コンビニに通っているんだ。「ここの場所は取れない」と、他のホームレスに思わせるんだ。雨はもちろん、雪の日だって休まないよ。じっと店の人が弁当を出すまで待っている。他のヤツが割り込んできて、弁当を持っていったりした場合は、走って追っかけて「俺のもんだから」って話をするよ。なぐらないけれどな。一番に必要なのは、やっぱり食べ物だから、こういうことがすごく重要なんだよ。
あまり汚い格好で店の周りをウロウロしていると、店の人やビルの管理人にも迷惑がかかるから、身だしなみにも気をつけなくちゃいけないよね。そういう風にしているから、店も期限切れの弁当を段ボール箱に入れて、そのまま出してくれるんだ。店員さんに会えば、「すみません。もらっていきます」と声をかけるしね。
■ウソついてんじゃねぇよ。警察か?
でも毎日通っていると、とんだ目に遭うことだってあるよ。
冬場でね。朝七時に店近くで待っていたら、いきなり近くにベンツが止まったんだよ。チンピラみたいなのが車から出てきて、「おたくさん、何しているの?」って聞くんだ。何しているったって、弁当を待っているんだけどさ(笑)。
そのうち今度は、ベンツから歳のころ40代後半ぐらいのがっちりした男が、車から出てきたんだ。光ったシルクの生地でさ、グレーのダブルのスーツなんだけれど、生地が光ったシルクなの。いかにもヤクザっていう格好だよね。親分だったんだ。
「オマエ、どっかで見たことあんなー」とか言うんだよ。「ないですよー」とか答えたら、「ウソついてんじゃねぇよ。警察か?」とか怒ってんだ。
どうやら警察に自宅を見張られていると勘違いしたみたいなんだ。毎日、マンションの近くで見張っているからさ(笑)。間の悪いことに、たまたま一緒に行った仲間がイヤホンでラジオを聞いていたんだよ。警察無線に見えたんだろうな。まあガタガタ言われたけれど、そのときは、これで終わったんだ。
さすがにそのあとは待つ場所を少しだけ変えたよ。でもコンビニの近くから離れるわけにはいかないからね。 最初にどなられてから、しばらくたってさ。また、例の親分がベンツから降りてきたんだ。「てめーら、殺すぞ」って。
「バカヤロウ! オマワリなのはわかってるんだ。おまえらが気になってしょうがないから、ウチの女房は心配しすぎでまいってるんだ」だってさ。
さすがに二度目は、しびれを切らしてたんだね。殴りかかってきそうだったから、少し腰を浮かしたら、胸をドンとド突かれたよ。まあ、軽くだけれどさ。
自分から女房がまいっているなんて話すぐらいだから、よほどせっぱつまっていたんだろうな。監視されていると誤解して、ノイローゼにでもなったのかね(笑)。 怖いかって? いや、怖くないよ。だって俺は住所不定なんだから。怖くなったら、ここから逃げ出せばいいんだからさ。
コンビニの弁当を自分のバッグに移しかえようとしたところで、私服刑事が飛び出してきたこともあったよ。「ちょっと待ってください」と言われてね。バッグを開けさせられたんだ。覚せい剤の受け渡しとでも疑われたのかな。
ホームレスだとわかると、刑事さんが「頑張ってください」と言っていたな(笑)。
こうやって集めた弁当も、余ればこの公園にいるホームレスに全部渡しちゃうよ。ここにかけてある笛を鳴らせば、ベンチに寝ているホームレスが集まってくるし、こっちのラッパを鳴らすとテントを張っている仲間が集まるように決めてあるんだ。昔はいちいち仲間を呼んでいたんだけれど、毎日のことだと面倒くさくてさ。あっ、笛? もちろん拾ったんだよ(笑)。何でも落ちているから。
■5ヵ月ほどで公園に戻ってくる
もうホームレスになって3年たつよ。いまは47歳だね。
ホームレスを始めたのは、7月からなんだ。最初は、駅の西口にあるビルのすき間で寝ていたんだ。涼しかったから。それから、ここの公園に移って、最初は便所の前あたりにいたのかな。寒くなってきて、その年の12月ぐらいからテントを作り始めたんだ。
警察が公園を回るから、1年に1回はこのテントもバラさなくてはいけないんだ。最初、テントがある状態で写真を撮って、バラしたあとにもう一度写真を撮る。もう暗黙の了解でね。写真を撮り終えたら、さっさとテントを組み直し始めるんだよ。
ホームレスのなかには、酒を飲んでいてさ、警官にいろいろ言うヤツもいるんだ。でも警察には、「ハイハイ」と従っておけばいいんだよ。べつに追い出そうというわけじゃないんだから。俺なんか警察に名前を書いて提出しているからね。血液型まで聞かれるんだよ。毎年聞かれるから、「去年も答えたよ」と言ったら、「いや、変わったかもしれないから」だって(笑)。
ホームレスのための自立支援センターなんかもあるけれどさ、俺は住民票を移せないから。いろいろあってね。福祉なんかも、家族に連絡がいくと困るから使えないんだよ。でも、自立支援センターに入ってもさ、仕事を見つけられない人も多いみたいだよ。
うん、体は悪くないね。ここのホームレスがテレビに取り上げられてから、医薬品や毛布を持ってきてくれる学生がいたりするし、食べ物には不自由してないから。万一病気になったら、役所の福祉課に行くか、救急車を呼べばいいんだしね。助けてはくれるからさ。
現金収入はいっさいないな。たまに臨時の収入があるぐらい。といっても買うものといったら、ガスボンベぐらいだからな。ガスがなくなったときは、仕事をしている仲間に買ってもらっているよ。
服なんかは、夜中に回るとけっこうゴミとして出してあるから。クリーニングに出したあとに捨ててあったりするし。汚いまま出してあれば、自分で洗えばいいんだし。
生きるのに困ることはないけれど、やっぱりここを脱出したいな。ここから出ていくのが一番いいんだよ。でも実際には、仕事を見つけて出ていった人も、5ヵ月ほどで戻ってくる場合が多いよ。もちろん警備の仕事したりして、アパートを借りている人もいるよ。近くに古いアパートで女が自殺したの。それで家賃が安くなって、元の仲間が住めるようになったんだ。
家に住むのがこんなに大変なことだと思わなかったよ。ホームレスになる前は、なんで公園で人が寝ているのかわからなかった。寝いている人を見ると何している人だろうと思っていたからさ(笑)。金があるときは使っちゃうしね。金がなくなってからあわてても遅いんだよ。俺だって、まさかホームレスを経験するとは思わなかった。金がなければ働けばいい。そう思っていたものね。
きっと、みんなそう思っているんだろうね。この公園にも、いろんな人が来るよ。小学生の子どもを連れてきた女の人もいたよね。30いくつと言っていたかな。東北の人だったな。いつの間にかいなくなったけれど。
そうそう、覚せい剤中毒が来たこともあった。ナイフを仲間に突きつけて、時計とか金とかかっぱらっていたんだ。仲間から連絡を受けてあわててテントを出たら、そいつが逃げるんだよ。追いかけて捕まえたら、今度は500円を差し出したから、「そんなんじゃねー」って殴りつけてやったよ。そういえば、最近、そいつを見ないな。 (■了)
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