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ホームレス自らを語る/公園で始まった陣痛・長尾康子(44歳)

■「新・ホームレス自らを語る」掲載記事

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■テレビにも週刊誌にも出演した

 私ね、何も持っていないけれど子どもがいたの。最初が33歳のときの子ども。4月14日生まれ。名前は、浩一(仮名)です。
 そのときもホームレスをしてたんですよ。子どもを生むときは、人が少ない方がいいと思って、大阪駅の近くにある公園の木陰で生んだの。痛かったよ。3000グラムもある大きい子どもだったし。
 たまたま犬を連れた奥さんが近くを通りかかって、救急車を呼んでくれたんです。もう子どもは生まれていたけれど、へその緒はつながったままだったから、血を見て奥さんも助けてくれたんでしょう。
 いや、そのときも恋人はいないですよ。子どものお父さんは誰か知らないの、私も。
 子どもが生まれてからは、福祉(地方自治体の福祉課と思われる)でアパートを借りてくれて、そこで暮らしていました。でも2歳ぐらいのときに、子どもと別れたんです。福祉が連れていっちゃったんですよ。育てられないと思ったんじゃないかな。
 いや、もう子どもには会いたくないですよ。それまで生んだことなかったから知らなかったけれど、子どもはかわいい、かわいいだけじゃないの。苦労するのよ。モノも言わないし。
 もう子どもとは会いません。別れちゃったんだから。私はそんなに強欲じゃないから。いまでは人間を生んだとも思えなくなってきているの。生んだのは犬だったかもしれないってさ。
 ついこの間も、子どもを生んだの。
 ほら、これ。「H13、11、16 AM11時19分 2945グラム 身長47・5センチ」って書いてあるでしょう(長尾さんは、小さなポーチからプラスチックできたピンクの腕輪を出した。病院で子どもが使っていたものだった)。15日の朝9時から入院したんですよ。陣痛の痛さにビックリしちゃったから。ボランティアの女の人に連れて行ってもらったの。今度は助けてくれる人がいたから安心でした。入院していたのは一週間。退院したら公園の木の葉っぱがすっかり落ちていて、ずいぶん変わったなって。
 いや、恋人なんかいたことないよ。SEXしても、しなくてもできるんだから、きっと私が生まれたときに、もうお腹に子どもが入っていたんじゃないかな。
 娘の名前は、和美。子どもを育てようと思ったけれど、行くところはないし。福祉で世話になると、寮に入らなくちゃいけないでしょ。ボランティアの人も頑張ってくれたけれど、寮に入るのは嫌だから。でも子どもと二人で生活しても、浩一ができたときと同じになっちゃうし。だから子どもを(施設に)預けてもいいと思って……。
 テレビとか週刊誌に出た(テレビ出演は事実)こともあって、通る人、通る人が食べ物なんかを心配してくれてくれるんです。あそこにあるピンクのうさぎももらったの。記念ですね。

■顔を包丁で

 1957年3月生まれです。2歳のときに、お母さんは亡くなったそうですよ。お父さんから聞いたから、本当かウソかわからないけれどね。それから小学一年のときに、お父さんが再婚したんです。六年ぐらいまで一緒に暮らして離婚。それから中学二年のときに、また再婚したのね。連れ子がいたの。それで家族が多くなったから、ジャマ扱いされたんです。それで施設に入れられたんだ。
 それから二年間は、施設で暮らしたの。私はこう見えても、中学までは出ているんですよ(笑)。中学を卒業してからは、どこかの工場で働いていたんです。でも、そういう仕事は長続きしないよ。二年いるかいないかかな。
 それで家に帰って、家から風船を作るような工場に働きにいったの。ほら、細長いビニールに入ったアイスのお菓子があるでしょう。二つにちぎって吸う安いアイス。それから靴の形を整えるビニールの風船とか。そういうものを作っていたの。そこは一ヶ月ちょっといました。そのあとは生活保護をもらって、病院に通っていたんです。
 その当時ですよ。右腕に入れ墨を彫ったのは。ほら、男の名前とバラが描いてあるでしょ。痛くなかったよ。私、頭が弱いから、忘れないように名前を書いてくれたんじゃないかしら(笑)。うんうん、無理矢理じゃなくて、ひまだったから彫ることにしたの。名前を入れた人は、恋人に近い人でしたよ。でも、家が複雑だから結婚できなかったのね。
 あっ、この左手の傷? これはね、包丁で刺されたの。スナックで手伝いをしていたのよ。刺したのはヤクザ屋さんで、どうしようもない人だった。もちろん知ってる人だよ。店に入ってきてさ、カッとしたんじゃない。発作的にですよ。台所から包丁を持って来て、こういう風に包丁を頭の上にふりあげてね。顔を狙ってきたんです。怖いから悲鳴を上げて、顔の前に手を出したんです。その上から包丁で斬りつけられて。あまりよく憶えていないんだけれど、病院で10針縫ったよ。
 顔の傷(左唇の端から頬にかけて3センチ程度の切り傷がある)? これはつい最近斬られたんだ。今年の正月明け、寝泊まりしていた東京駅でね。その当時は、品川のラーメン屋で働いてたんだけれどさ。一緒に働いていた従業員だよ、斬りつけたのは。
 ほら、お金持ちが持っているような小さなバッグがあるじゃない。そこからカッターナイフを出して、いきなり斬りつけたの。口からボタボタと血が流れてきたんですから。何でかなんて知らないよ。頭にカッと血が上るプー太郎みたいな人だったから。人を斬っても何にも思わない人だったんだよ。
 通報してカネでも取ってやればよかったと思ったけれど、ヤクザ屋さんみたいだから何されるかわからないもの。そりゃ、当たり前だよ。何でも警察に言える訳ないだろう。5000円渡されて、「病院に行け」って言われて終わり。
 いい生活には恵まれなかったですね。でも、もう男はいいよ。面白くないもん。だいたい何もない者同士で暮らしても何にもならないからさ。まあ、仕事をしている人でもいらないかな。 

※★森さんの話はつじつまが合わない部分が多々あったので時間をかけて話を聞き、そのうえで多少混乱していると思われる発言についても、彼女の心情を表すと判断した個所については、そのまま収録することにした。 (■了)

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