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だいじょうぶよ・神山眞/第32回 就職活動の苦難1

■月刊「記録」2002年5月号掲載記事

*          *          *

 さて、畳屋との面接である。畳屋のご主人は、わざわざ自分から学園のほうへ出向いてくださった。いかにも気の良さそうな風貌をした人だ。住み込みということになれば、このご主人のご家庭に正利はやっかいになる。 あんな薄ぼんやりしたヤツを、ご主人はともかく、奥さんや子供たちが受け入れてくれるのだろうか……。
 そして面接の日がやってきた。

■畳屋の適正身長

「おーっ、あんたが正利くん?」
 開口一発、ご主人はそう言った。目を見開き、しげしげと正利の全身を眺め回している。
「ああ、あんたがそうかぁ……、正利くんかぁ…、あぁぁだめだなぁ、こりゃぁ…」
 なんと、いきなりである。いきなりのNGである。
 おい、正利、部屋に入れと、ぼくが正利を呼び、あー、といつものように正利が部屋に入ってきた。そして数秒後にこの言葉、つまりNG宣告である。
 ぼくは思った。たしかに正利はひと目見てNGを出されても仕方がない男だ。それにしたってこの前の製本所の女寮長といい、この畳屋のご主人といい、人を見る目がありすぎやしないか。
「そりゃあないですよ。どうしてダメなんですか。理由を聞かせてください」
 とりあえずぼくはこう聞いた。こう聞くしかない。こうでも言わなければ会話が成り立たない。
「イヤ、ダメだよ。背が高いもの。こんだけ背が高い人は畳職人には向いてないんだよ」
 本当かー!? ぼくは思わず耳を疑った。ということは畳職人には背が高い人はいないということになるではないか。いや、まて、たとえば2mの大男が畳職人に向かないと言われたならしょうがない。しかし正利の身長はせいぜい175㎝である。平均より少し高いだけではないか。
「背が高いって言ったって、こいつ、たかだか175㎝ですよ」
「うん、そう、やっぱりねぇ。背が高いよ。無理だなあ」
 とりつく島もないとは、まさにこのことである。
「こんだけ背が高いとねぇ、ほら背中を丸めてする仕事だろ、腰痛めてみんな辞めちまうんだよ」
 なるほど。しかし腰を痛めるかどうかよりも、とにかく雇ってほしいのだ。
 だが、この後もご主人の毅然とした態度には、まったくつけいる隙がない。そして説得を繰り返すぼくの隣で、畳屋に紹介してくれた主任は、二人のやりとりをただニヤニヤ聞いているだけである。当の本人である正利も部屋に入ってきてから挨拶はおろか返事一つしてはいない。
 次第に、ぼくは、これ以上食い下がるのがバカバカしくなってきた。
(そうだ。もう終わったのだこの話は)
(つまりだ、正利が畳職人になることはないのだ)
(さあ、もう次に行こうか)
 ぼくはさっさと心を切り替えた。

■捨てる神あれば…

 製本所もダメ、畳屋もダメ。もはや絶望的……。
 と思いきや、捨てる神あれば救う神ありとはこのことだ。数日後、またもや正利には就職話が一件、持ち上がってきたのである。
          *
 うちの学園を卒園した25歳の男性が、ある大手鉄工所の工場で主任を任されているという。そして、なんとその彼が、じきじきに学園に人材をスカウトしに来たのである。なんでも今、臨海地域に工場の新設・増設をしているとのことで、人手が致命的なほど足りないというのだ。
 ぼくは、彼から話を聞きながら、同時に正利を猛プッシュした。そしてすかさず窓の外に、中庭でぼんやり小学生たちのバスケットボールを眺めていた正利を見つけ、呼び寄せた。
 相変わらず挨拶もせず、仏頂面で主任の前に立ちつくしているあいつ。
 こりゃぁまた、いかんかな……。
 一瞬、そう思ったのもつかのま、この主任何を思ったか、正利に面接を受けてみろと言うではないか。
「本当ですか? ありがとうございます」
 ぼくが立ち上がり、その手を握ると、
「まあ、挨拶ができて、人並みの運動神経があれば、まず面接には落ちませんから」と彼は言う。
 いや、もうありがたいけど、何がなんだかさっぱりわからない。正利は現に今、挨拶もできずにいるではないか。中庭でぼーっとするしかないほど運動神経もゼロだ。それが彼にはわからないのだろうか??
 ぼくには、なんとなく嫌な予感がした。 (■つづく)

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