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だいじょうぶよ・神山眞/第33回 就職活動の苦難2

■月刊「記録」2002年6月号掲載記事

*          *          *

 その日はなぜか11月だというのに、少し動くと汗ばんでしまうほど暖かい春を思わせるような陽気だった。駅のホームから電車が来るであろう方向へ目を向けると、線路が立ち昇る水蒸気でユラユラと揺れて見えるほどであった。
 こんな陽気なのに、ぼくはスーツにネクタイを締め、同様に正利もブレザーにネクタイといういでたちであった。
(今日はしくじるわけにはいかない)ぼくはそう思った。これ以上この正利のためだけに時間を割くわけにはいかない。今日は正利の面接であった。
 ぼくには、正利のほかにも受け持っている担当児童がいる。そのなかの一人が、先日学園に火事を起こした原田だ。彼のことも気にかかっていた。
 高校3年である原田は、会社からすでに就職内定を受けてはいたものの、火事による精神的なショックから、未だにほとんど口も利けぬ状態であった。
 しかし週末には、そんな原田を連れて、ぼくは内定先であるY市の工場へも行かなくてはならない。
 一部の企業には、内定を出したあとに、施設の出身者に対してもう一度、出生やら生い立ちやらを調べるところがある。とはいっても、いざ担当者に会ってみると、意外と施設そのものへの知識は少ない。
 素行が悪くて施設に入れられたのでは? どこかに障害があるので施設に入っているのでは? などと思っている人たちがほとんどだ。
 そこでぼくはまず、彼らに「施設に入ったのは、この子自身に問題があるのではなく、この子の親に養育能力がなかったからなのだ」ということを説明しなければならない。
 まあ、この2点さえ理解してもらえれば、たいていの担当官は、すぐに納得し、安心してくれるのだが。
 だが、原田には火事の件もあった。火事の原因は、原田によるタバコの不始末なのだ。
 火事のこと秘密にしておくべきか、ぼくは迷っていた。正直に言ってしまえば、原田の内定は取り消されてしまうかもしれない。そうなると原田は、火事のショックに加えて、さらに心労を重ねてしまうことになるだろう。

■あわや遅刻!? の面接会場

 それにしても、いつまでたっても電車が来ないのだった。
 余裕をもって学園を出て来たぼくと正利であったはずなのに、刻一刻と面接の時間は迫ってくる。そもそもこの路線は、工場の従業員たちの送迎のために造られたようなもので、一般の人間にとっては、あまり利用価値のあるものではないらしい。時刻表を見ると、朝と夕方には本数が多いのだが、昼間は極端に少なくなっている。 苛々しつつ電車を待ち、やっと来た電車にぼくと正利は飛び乗った。腕時計を見ると、なんとか面接開始の20分前くらいには到着できそうだ。そこで、工場の名前がついた駅でぼくたちは条件反射のように飛び降りた。すぐ目の前には、工場の正面玄関があり、ぼくたちは息を切らして建物に飛び込んだ。
 だが、受付で面接すべき部署名を告げたぼくたちに、なんということか、受付の人は、面接会場は隣の駅だという。
 そんなバカなと思ったが、事実なのだから仕方がない。急いで時刻表を確認してもらうと、次に電車が来るのは30分後。ああダメだ。間に合わない。完全に遅刻である。隣の駅まで徒歩で何分かかるか、血相変えて尋ねるぼくに、「20~30分でしょう」と、またまた受付の人は軽く言う。
「20~30分」という表現は、普段よく使い、よく使われる言葉である。しかし、こんなときの曖昧な表現には、本当に苛々させられる。20分ならギリギリ間に合うし、30分なら遅刻である。10分も面接に遅刻したら、まず落ちると思ったほうがいい……。
「正利! 歩くぞ」
「あぁー」
 歩くしかないのだ。必死になって線路の脇を、ときどき走りながら歩いた。道に迷うことはなかった。工場は隣の駅まで間違いなくつながっているほど大きなものだったから。
 汗まみれになって、なんとか会場に、時間ギリギリに到着したぼくは、思わず天を仰いだ。まだ、ぼくたちには運が残っているようだ。あとは約束の部署へ向かうだけだ。
 会場は、だだっ広い体育館であった。部署といっても、おのおのが部屋で仕切られているわけではなく、フロアのあちこちに、机がかなりの間隔をあけて点在している。その机のかたまり一つひとつが一つの部署になっている。そんな感じであった。
「どうも、こ、こんにちわ、よろしくお願いします」
 汗を拭きつつ、ぼくは工場長と、先日学園で会った主任に頭を下げた。 (■つづく)

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