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だいじょうぶよ・神山眞/第29回 学園の火災

■月刊「記録」2002年2月号掲載記事

*            *            *

 学園の居間で、ビデオを観ていたぼくと正利の背後で、突然、激しく警報が鳴り始めた。
 ちょうどビデオを半分くらいまで観たときであった。火災報知器の音だ。けたたましく鳴った。しかし、不思議なもので、ぼくもあいつもそのとき、まったくびっくりしなかった。
 誤報だと思ったのだ。いつものことだ。しょっちゅう起こるなにかの誤作動で、また警報が鳴ったのだろう。そう、タカをくくってしまった。
 一度思い込んでしまうと、避難作業がおろそかになる。とりあえずあいつを屋外へ避難させようという気にもならない。
(だが、やはりぼくも職員の一人だ。一応、確認ぐらいはしておくか)
 そう思い、とりあえず、ビデオを一旦、停止させた。
「おい、ちょっと確認してくるよ」
 と、あいつに言うと、ビデオを止められたあいつは不機嫌そうに、
「ああー」とだけ言った。

■常習犯の言葉をうのみにし

 どうやら、2階の高校生寮の火災警報機のセンサーが反応したらしい。ぼくは、のそのそ階段を昇った。途中、高校2年生のマキに会ったので、
「何があったか?」と一応、聞いた。
 すると、マキは、「何もないよ」と言い、当たり前のような顔をした。しかし、ここで気づくべきだったのだ。マキは嘘つきの常習犯だった。あの平然とした顔をいま思い返すにつけ、もしかして、彼女はすべてを知っていたのかもしれない、と思う。
 だが、今頃疑ってみても仕方がない。そのときぼくは、うっかり彼女の言葉をうのみにしてしまい、職員室へ引き返してしまったのだ。通りかかった先生に「大丈夫ですよ」なんて、のんきに声までかけながら。
 思えばこれが、発見を遅らせたような気がする。
 しばらくして、振り返ると、すでに黒い煙が2階の奥の部屋からモクモクとあふれていた。
 その瞬間、目の前が真っ暗になった。膝がガクガクくした。
「助けなくては」「子供たちを避難させなくては」
 そんな考えはまるで浮かばない。
「大変なことになってしまった!」
 ただ、ただ、そう思った。夢でもこんなのは見たことがなかったからだ。

■こいつらの頭大丈夫か?

 学園の火事の原因は、結局、タバコの不始末だった。しかも高校生の……。
 高校生がタバコ? と、疑問をもたれるだろうが、もちろん施設内ではタバコは禁止である。しかし、禁止イコール従うという図式はどうやら、ここの子供たちの頭にはないらしい。
 それどころか、常識的に考えてみても、頭の構造を疑うようなことをやってのけていた。
 彼らは禁止されているタバコを隠れて吸っただけでなく、吸い殻がみつかってはまずいとでも考えたのか、それらをゴミ箱へ捨てた。しかも、その上に丸めたティッシュを山ほど盛っていたのである。
 ゴミ箱の中にあった、火の残った数本の吸い殻が、ティッシュに引火し、炎上し、ついにはガラスをバリンバリンに割り、悲鳴と怒号を学園中に巻き起こす火事にまで発展させたのだ。
 吸い殻の上にティッシュを盛ったらどうなるか、考えてみてもわかりそうなものなのに。いったいどうなっているのだろうか。幸い、怪我人が出なかったのが、救いといえば救いだろうか。
 おかげでこの火事を境に、ぼくの今までの勤務には、新たな仕事が加わった。高校生2人の学校への送り迎えである。高校生を学校まで送迎するなんて、なんて過保護だ! などと怒っている場合ではない。そうなのだ。この2人こそが火事を起こした張本人だからである。いわば監視というわけだ。
 事の重大さに当事者の二人は、しばらくは食事も喉を通らなくなり、言葉を発することもなくなった。だが、そりゃあそうだろう。自分たちのタバコの不始末で、施設の5分の1が燃え、使い物にならなくなってしまったのだから。
 ところで、第一発見者であるぼくはというと、こちらにもいろいろ支障が出ていた。
 まず、やはり食事が喉を通らなくなった。1日5食から6食は当たり前だった食欲が、まるでなくなってしまったのである。まあ、食べない分には、他人に迷惑をかけるわけでもないので、これはいいとしても、もう一つのほうが問題だった。なんと、30分以上、学園から離れた場所にいられなくなってしまったのである。 (■つづく)

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