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保健室の片隅で・池内直美/第14回 ハッキリと映った少年たちの顔

■月刊「記録」1999年3月号掲載記事

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 1999年1月。アルバイトを終え、くたくたになって家に帰って、いつもと同じようにテレビをつけると、どのチャンネルも同じ報道をしていた。まず夕方六時のニュース。テレビからは「東京都港区のお台場で、20代の若い男が小学校三年生の男の子に刃物をつきつけて人質にしている」という解説が流れている。
 犯人の男性は、しっかりとテレビに映されていて、生中継を見ていた私は、そのまま犯人逮捕の瞬間までしっかりと見せてもらった。警視庁の捜査員が犯人を事件発生から約二時間後に逮捕し、男の子は無事保護された。 そして、同じ日の夜のニュース。「……東京台場で、16歳の少年が、小学三年生の男の子を人質にして……」と伝えた。犯人は愛知県小牧市に住む16歳の無職少年だったというのだ。
 聴きながら、思わず自分の耳を疑った。先ほど、小学生の男の子を人質にしていたその少年が、とても16歳には見えなかったというのもさることながら、バッチリ顔を映されてしまったことによる、彼の人権の侵害についてを一瞬、考えたのだ。

■どの顔も少年のものだった。

 16歳の少年は、確かに悪いことをした。だが、20代であるという思い込みから、しっかりとテレビに顔を映されてしまったことについては、同情してしまう。
 この事件が起きて数日後、私のもとに一通の手紙が寄せられた。手紙には、「被害者側の人権についてどう思うか」との質問が書かれていた。たしかに、あのとき人質になった小学生の男の子は、人質となっている間中テレビにナマで報道され、局によっては顔や名前まで公表されてしまっていた。私は見てはいないが、記者会見を開いたりまでしていたという。
 けれども人権は、被害者だけのものではないだろう。加害者も結局は未成年だったし、それならば将来があるだろうに、名前や顔を報道してしまったのは、ちょっとやりすぎだったような気がする。
 九七年に起きた神戸での小学生連続殺傷事件で加害者であった少年Aも、ある週刊誌に写真が載せられた。少年Aと比較すると、事件の規模は小さいが、ある芸能プロダクションに所属していた芸能人の四人の少年が、未成年の飲酒とタバコを週刊誌にすっぱ抜かれ、しっかりと顔写真を掲載されて、芸能生活を終えたという例もあった。
 どの事件も、すべて偶然なのだが、私はしっかりとその顔を見ている。屈託のない笑顔も険しい表情もあったが、どれも少年のものだった。
 先の小学生人質事件では、事件発生から二時間が経過した頃、加害者の少年に警察官が言った。「ここでは寒いから、別の場所に移って話をしよう」と……。
 報道を聞いていて、私と母は二人で苦笑した。別の場所に移ろうなんて「そんなこといわれたって、ふつうは動かないよねえ」なんて。
 ところが、今まで座っていた加害者の少年は、おもむろに立ち上がったのだった。立ち上がろうとした動作の最中に、スキをつかれて警察官に両側から取り押さえられた。夜のニュースで加害者の年齢を聞いた時、驚くと同時に、この行動を思い出してやたらに納得した。そして、この少年のあまりに幼い、ばか正直さに、なんだか少しだけホッとした。
 大人ぶっていたって、しょせんは子どもだ。よく観察していれば、その行動は、ばか正直で幼い。前にお話した万引きする少年少女もそう。私のアルバイト先で、しょっちゅうトイレに隠れてタバコを吸っている中学生の少年もそう。
 かなり都会から離れた地域だからか、隣近所とのつきあいが残る土地柄か、中学生が隠れてタバコを吸っているのを私たちは見逃したりはしない。きちんと怒ってあげるのが、周りで彼らを見守ってやれる者の役目だ。
 そんな時、私たちは、なにも「タバコを吸うのがいけない」などと叱るわけではない。親の前で堂々と吸えないのなら、トイレに隠れたりして、人に迷惑をかけなきゃ吸えないのなら、堂々と吸えるようになるまで待ちなさいというだけだ。とても小さなことだけれど、それを注意してあげる人のいない場所では、きっと犯罪は増えていくのだろうと思っているから。
 子どもたちに自覚が足りないから、年齢に心がついていっていないから、少年犯罪があとを絶たない。でもそれは、少年に限ったことでは決してないのだ。

■向き合うことをやめてはダメ

 連日耳にする、さまざまな事件。子どもが引き起こす事件は、その年齢からすると凶悪犯罪かもしれない。
 でも、大人だって信じられないような殺人事件を繰り返してる。電車のなかでは、おじさんが痴漢行為を平気でしている。おばさんは、主婦売春や万引きでストレスを発散している。
 だけど、彼ら大人はあまりテレビに出てこない。警察に捕まったって、新聞の端っこに名前が載るか載らないかで終わってしまう。だから目立たないだけだ。
 お昼のワイドショーでは、援助交際をする女の子が出てきて笑う。おやじ狩りにあったおじさんがおびえてしゃべる。連日、新聞・テレビをにぎわす少年犯罪に、世の中が偏見の目を向ける。
 大人は、マスコミの作り上げた少年少女像におびえ、目の前で、未成年者がタバコを吸っていても、何もいわなくなっている。万引き現場を発見しても、何もいわなくなっている。いつ自分がねらわれるか、そればかりを考えて、できるかぎり関わり合わないようにしようとする。大人よりも子どものほうが、大きな犯罪を犯すようになったと嘆き、「今の子どもの考えが、さっぱりわからない」という。
 けれども、正面から堂々と向き合うことをやめてしまったら、大人の思いなんか子どもには通じるはずもない。先生や生徒、先輩や後輩といった縦の関係が薄れてきている今、子どもの上にしっかりと立つ者が姿を見せなかったら、単純で思慮のない子どもたちは、すぐに、大人の上に立てるような気になってしまう。
 たしかに最近、子どもが犯した凶悪犯罪のいくつかが、世間を騒がせた。だが、凶悪犯罪を犯す子どもを生んだのは、人に迷惑をかける子どもを見逃してきた大人の責任でもある。偏った報道をしてきたマスコミにも責任がある。偏った考えをもった大人にも、小さな責任を感じてもらいたい。
 行きすぎた報道で、少年少女の人生をボロボロにしていいのだろうか。どの事件も、どうしてもう少し慎重になれなかったのか、一瞬でも彼らと同じ目線で物事を考えられなかったのかと、考えてしまう。
 報道で明らかにされた、犯罪を犯した少年の顔について話をする前に、自分の心にある、自分自身の顔について考えていかなければならないと思う。
 偶然とはいえ、しっかりと見てしまった六人の少年の顔を、できるだけ早く忘れようと思う。彼らと同じような人生を、自分が、そして自分の子どもが犯さないように。私もまだ自分自身を磨き直さなければならない年齢なのだから。 (■つづく)

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