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保健室の片隅で・池内直美/第12回 梧桐勢十郎になりたい友人

月刊「記録」1999年1月号掲載記事

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■型破りな生徒会長

 学園モノといわれるマンガのなかには、生徒会長が出てくるものが多い。
 女の子が読む学園モノは、定時制高校の話や、新設高校を舞台にしたものなど、感動モノが多く、おもしろおかしく描かれたモノはごく一部だ。しかし、そんなごく一部のマンガのなかの生徒会長でさえ、マジメで優秀というのがお決まりのパターンだ。
 そんな当たり前の生徒会長のいるマンガによって、私の生徒会長のイメージは作られた。生徒会長イコール頭がいいマジメちゃんだと。
 しかし生徒会長を主人公としたあるマンガに出会ってから、イメージはうち砕かれた。そのマンガを好きな友人が、よくこういっていた。「私、『梧桐勢十郎』になりたいのよ」と。
 とは、『明稜帝梧桐勢十郎』という、男の子向けのマンガの主人公だ。
 明稜高校の生徒会長である彼を中心に、学校モノのキーワードであるイジメや部活動、恋愛、教師、ケンカなどが描かれている。
 学校の生徒会長ときくと、やはりお堅い人間をイメージしてしまうけれど、この梧桐勢十郎は、堅いといえば堅いけれど、それ以上にとにかく暴力的なのだ。
 同じ生徒会のメンバーを「下僕」と呼び、イジメられている生徒には追いつめるような言葉を連発する。
 そして最近では見かけなくなってしまったような乱暴者だ。集団にならないとオヤジ狩りができない現代の少年とは違い、この主人公は一人でも暴れている。今の学校に、こんな個性的な生徒会長のいるところはないだろう。
 このマンガはある男の子がイジメにあい、学校に転校してくるところから始まる。
 自分は何もしていないのにイジメられる。逃げなかったらイジメられる。自分の居場所を求め、自分の住める世界を求めてこの学校へ転校したきたのに、転入早々、勢十郎の暴力現場を見てしまう。そして、この転入生は突然、生徒会の役員に任命されてしまうのだ。
 今までイジメをうけてきた彼は「下僕」と呼ばれ、暴力的な生徒会長の下で高校生活を送らねばならないことを知らされ、自分に残された道は死だけだと信じこんでしまう――。
 ふつうの学校に、とんでもなく場違いな生徒会長がいて、校則よりも暴力でまわりを振り回していく(まとめていく)姿に、あっけにとられてしまう。転校生を加えた生徒会がどういう行動で学校をまとめるのか、本当に学校をまとめられるのか、どんどんストーリーに引き込まれていく。
 生徒会長は、自殺しようと考えていた男の子に間接的にこう言う。「死にたいのなら、俺が殺してやる」と。 その子を殺した罪を一生背負って生きてやる。その方が、寂しくないだろうから、というワケだ。
 人に対して、正面からぶつかっていくことが、時に相手を傷つけてしまうこともあるけれど、反対に相手を救うことになることも多いと思う。
 人の寂しさに気づいてあげられる人が、とても少なくなっている今、かなり過激な方法だけど、生徒会長は、人の寂しさをわかってあげられる人だ。このマンガでは、この転校生の男の子だけでなく、そういった寂しさをもった生徒と、それに気づいて手を差しのべる生徒会長という基本線が学校という空間に織り込まれ、なかなか読みごたえがある。

■人の寂しさに気づけるか

 先にあげた友人は、本当にこのマンガが大好きで、コミック誌に連載されているうちから読み始めたらしく、何かというと、梧桐勢十郎の名前を挙げていた。
 彼女にとっては、一昔前でいう、金八先生のような存在らしい。
 こんな生徒会長がいれば、ぜったいにイジメは起こらない。先生が生徒をいじめるなんてことはなく、生徒が先生をイジメることだってもちろんないだろうと。
 耳にタコができるくらい、同じことを聞かされた。
 そして私も、梧桐勢十郎に魅せられた。
 彼女が梧桐勢十郎になりたいというのは、彼のように人の寂しさに気づいてあげられる人間でありたいということなのだろう。私もその友人と同じように、人の寂しさに気づいてあげられる人間になりたいと思っている。 イジメる側が悪いとか、イジメられる側が悪いとか、イジメの真相を知らない人がよく議論しているけれど、この生徒会長は学校をよく観察して、イジメについてよく調べ上げ、原因の一つひとつをきちんと解決しようとしている。このマンガに学びたいのは、生徒が生徒をまとめていく姿勢と、最後の決断を下すのが生徒会長ではなく、問題となっている人物自身であるということだ。 現実の子どもに、自分の力で解決しようという姿勢が見られるだろうか? 最後の決断を下す勇気があるだろうか? 人の寂しさに気づき、その寂しさを他人にうち明けることができるだろうか?
 この学校(明稜高校)での出来事は、現実味としては無理が感じられるものの、そこで繰り広げられるドラマには、今の学校にはない温かいものが感じられる。
 彼の前から一度消えた昔の友達が、彼の前に戻ってくる。その友達は、昔のうらみを晴らすために戻ってきたのだが、うらまれているほうもそのことはハッキリ覚えている。だからよけいおもしろい。たとえ昔のことであっても、答の出なかったものごとに対してきちんと受けとめる。
 友達とケンカして、そのままケンカ別れ。ふと振り返ると、そこには誰もいなくて、ひとりぼっちの孤独感だけが自分に残ってしまったことがある。それがどうしてなのか、このマンガを読んでわかった。勝負ごとでそこそこの成績をとったけれど、なぜトップにはなれなかったのか、それもこのマンガでわかった。

■過去があって今があるのに

 勢十郎にはたくさんの敵がいる。彼に向かっていく敵は、だいたい寂しがり屋だ。勢十郎は、どんなに無視されている者だとしても、対等に相手をする。誰もが寂しがりやだと知っているから。
 みんなが無視する子に対して、自ら進んで相手をするというのは難しいものだけど、対等に、かつ楽しそうに相手をしていく姿には、今、子どもにはない勇気を感じさせられる。
 今の学校組織に足りないものは、過去を受け止めようとする姿勢ではないか。生徒の一人一人に過去というものがある。学校がその過去まで含めて面倒をみなければ、イジメや不登校が解決に向かうこともないだろう。
 自分のことを例にあげるのもなんだが、私は小学三年生の時に茨城の学校へ転校してきた。土地になじめず、たいした友達のないまま中学まで卒業し、なんとか入った高校は中退してしまった。地元に友達と呼べる人がいるといい切れる自信はない。
 同じ通信制高校の友達にそんな寂しさを訴えると、だいたい同じ答えが返ってくる。
「私は、今の香苗しか知らないから」と。
 そう言われると、話はそこで終わってしまう。それ以上に、何の相談もできなくなってしまうのだ。
 中学生の時にも同じような経験をした記憶がある。中学受験の失敗を引きずって落ち込んでいた時、先生に「昔のおまえを知らないから」と、突き放されてしまったのだ。先生は中学受験の失敗なんか忘れて、今の人生を思いっきり楽しんでほしかったのかもしれない。でも、当の本人はそうはいかない状態だった。
 できることなら、それに気づいてほしかった。
 自分からいい出せなかったのはよくなかったかもしれない。でも、子どもの過去を切り離し、今だけをみて話をするのは、必ずしもいい結果を生むばかりではないように思う。
 あまりの速さで時代は変わっていくから、その疑問に答えを見つけだしたころには、もう、世の中が変わっているかもしれない。しかしどんな形であれ、疑問が解けた時は、胸につかえていたものがやっととれたような、そんな安ど感を覚えることができるだろう。
 勢十郎とは違っていても、個性的で、人の寂しさに気づいてあげられる人が一人でも増えたら、学校は本当に変わっていくのかもしれない。 (■つづく)

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