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鎌田慧の現代を斬る/空の女工哀史

■月刊「記録」1996年7月号掲載記事 (表記は掲載当時のままです)

■鎌田慧(かまたさとし)・・・ルポライター。新聞記者を経てフリーになる。著書に『痛憤の時代を書く』『コイズミという時代』『自動車絶望工場』『家族が自殺に追い込まれるとき』『壊滅日本』『ドキュメント屠場』など多数。 

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ガルーダインドネシア航空の事故で、スチュワーデスの問題が問われている。緊急時に意志疎通できるスチュワーデスがいなかったのは、安全管理上の問題である。スチュワーデスは安全要員だのだ。
 最近、少し頼りなげなスチュワーデスが国内線にふえている。1年ほど前から、アルバイトスチュワーデスの採用が本格化したからだ。日本航空・全日本空輸・日本エアシステム・日本アジア航空・エアーニッポン・日本エアーコミューター・ジャパン=エア=チャーターの航空7社では、現在2000人のアルバイトスチュワーデスが乗務しているといわれ、96年度上半期にはさらに1000人以上もの採用が見込まれている。

 全日本空輸の普勝清治社長は6月4日の会見で、アルバイトスチュワーデスからの正社員採用について、今秋の100人枠に加え、来年度も100人以上を採用すると発表した。
 1996年6月、運輸省の航空審議会答申において、人件費削減の中心として発表。8月には亀井静香運輸大臣(当時)が、「安全性に問題がある」と発言して導入が再検討されたものの、94年9月には採用が決定した。 当時のマスコミ各社の論調は、「アルバイトの導入に反対をとなえる亀井発言は、スチュワーデスになりたい女性の夢を壊すものだ」といったものだった。しかしこのような論理は、問題の本質を握りつぶしている。この問題は、労働運動史において重大な意味をもっているのだ。
 航空会社は人件費の削減を盛んに唱っているが、バブル期には海外の土地を買いあさり、ホテルなどを建設していた。しかも円高で燃料の輸入費が大幅に下がり、かなりもうけている。バブル経済に乗って浮かれていたツケを、スチュワーデスの雇用に回すのは、あきらかにおかしい。経営者の責任が問われるべきだ。
 航空企業は公共性が高い。それは何よりも安全性を重視しなければいけないからだ。スチュワーデスは、ただのお茶くみではない。出発に際してはエンジン音を聞き、運航中も窓から外部の状況を確かめ、コックピットから見えない部分を補強して、安全に航空機が運行できるようにしている。
 もちろんシートベルトの確認など、乗客の安全を確保するのも大きな仕事だ。安全業務に携わるスチュワーデスの人件費を削ることは、安全より利潤を重視した企業の体質の現れだ。

■俗情を利用する航空会社

 スチュワーデスやパイロットの高給は安全保障の面から社会的に認知されてきた。つまり高い賃金は既得権として保証されてきたのだ。航空各社は、この既得権をはく奪しようとしている。
「社員の賃金をいじるわけではない」と会社側はいうが、労働条件が重大な改変に瀕しているのは明らかだ。アルバイトスチュワーデスの賃金は、地上勤務が1100円、乗務が1800円となっている。この時給を年収換算すれば約250万円となり、社員の半額以下になってしまう。スチュワーデスの人気にかこつけてアルバイト制度を押しつけるのは、やり方がきたない。
 またスチュワーデスやパイロットは華やかな職業のため、やっかみをうけやすい。本来、他人の労働条件を劣化させる必要などないのに、やっかみを利用して世間の俗情を喚起し、高賃金を押しつぶそうとする会社側の策略に、新聞社は乗ってしまった。
 華やかで高給な職業を切り崩せば、それを突破口に他の労働者の賃金もカットできる。今後、整備士などの航空会社全体の賃金にも影響をおよぼすだろう。一方で会社側は、スチュワーデスの華やかなイメージを売りにして宣伝を作り、安全業務に携わる専門職という実体を隠している。安全面から考えれば、スチュワーデスはベテランの方がよいのに、排除しようとする動きも問題となっている。これは一種のセクシャルハラスメントだろう。

■臨時工制度の復活

 今後は職場の退廃も大きな問題となるはずだ。
 同じ職種の中で賃金階層を意識的につくり、アルバイトから何人かを正社員に採用するシステムでは、アルバイトと正社員の間に大きな溝ができる。正社員への窓口を狭くすればするほど、アルバイト内で競争が起き、経営者の好きな条件で働かせることができる。1年ごとの契約更新で3年契約という厳しい労働条件のなかで、労働者は言いたいことも言えず、上司への点数稼ぎを余儀なくされる。このような前近代的な労働条件は、臨時工制度と全く変わらない。アルバイトスチュワーデス問題は、アルバイトに名を借りた臨時工制度の復活だ。
 臨時工とは、雇用期間があらかじめ決められている労働者をさす。52年の朝鮮戦争停戦以後、臨時工は急速に増加し大きな社会問題となった。しかし高度経済成長の過程で、労働組合が臨時工の本工化闘争に力を注いだこともあり、本工に登用される臨時工も増え、臨時工制度は撤廃されていった。
 本工になりたいと願う臨時工の希望を悪用することで、臨時工は会社や上司に従属させられた。また自分の下に差別集団があることで、本工は安心していた。このような職場環境は社会そのものを悪くしていく。さらに不況ともなれば、臨時工は本工を守るために、まっ先にクビを切られた。
 差別は職場内だけに止まらない。宿舎も本工がきちんとした寮なのに対して、臨時工はボロ長屋を与えられただけだった。本工化闘争で、「臨時工は本工の防波堤ではない」「臨時工も人間だ」といったスローガンが掲げられたのは、このような理由がある。

■プライドが状況を混乱

 近年、サービス産業においてアルバイターが増えてきている。いつでもクビにでき、身分保障もなく、賃金が安く、社会補償費のかからないアルバイターは、固定費をどれだけ安く抑えるかに悩む企業にとって、うってつけの存在だ。ところがアルバイター自身は、そのように考えていない。
 アルバイトスチュワーデス問題でも、安全性に影響が出ると論じると、アルバイターをバカにしていると反論される。同じ能力を持った者が、同じ仕事をしながら賃金や身分において差別されているの現状を考えれば、どちらがアルバイターをバカにしているかわかるだろう。

■経団連の方針のさきがけ

 こうしている間にも、問題は深刻さを増してきているのだ。航空労組連絡会の会議では、アルバイトスチュワーデスが発言できない事態も出てきている。平均給与が13~14万円といわれるアルバイトスチュワーデスは、働かなければお金をもらえない。有給休暇もない。病気でも会社を休めない。国際労働機関(ILO)でも、パート労働条約が採択され、フルタイム労働者との差別は国際的に認められていないにもかかわらずだ。
 またアルバイトスチュワーデスは国内線を中心に勤務するため、今まで国内線勤務だった正社員は国際線に乗務しなければいけなくなった。そのため家庭を持っているスチュワーデスは、家庭での生活を犠牲にしなければならない。
 アルバイト制度発足当初は、ジャンボ1機あたり新人乗務員は3人以下と決められていた。ところが現在では、アルバイト10人に対して社員が3人といった飛行機も出てきている。新人ばかりの飛行機で、何か事故があればどうなるのか不安だ。このような状況に乗客は無関心だが、命に関わる問題とわかっているのか。
 多くの問題をはらむアルバイトスチュワーデスは、すぐにでも正社員にして、問題を解決すべきだ。ところが、このような前近代的な雇用体系を経団連は推奨している。
 エリートである社員と使い捨ての柔軟雇用グループにわけて雇用する方針を経団連は打ち出した。アルバイトスチュワーデスは、実質的に経団連の方針のさきがけとなっている。
 アメリカでは三菱自動車でのセクシャルハラスメントが大きな問題となった。日本国内でさえ近代的な職場を作れない日本企業が進出先で批判を招くのは当然だろう。このことは何年も前から私も指摘してきた。問題として表面化しにくいアジアでも同様の問題が起こり、いずれは逆襲されるだろう。もう一度、企業のあり方を見直すべき時期にきている。(■談)

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