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内部告発・豊島区は税金泥棒/第9回 旧態依然の対応

■月刊『記録』98年5月号掲載記事 

           ※        ※        ※

 二月一日は父の命日だった。
 その日は、いつものように宿直室で朝を迎えた。頭の片隅で父を思いながら、普段と変わらぬ仕事を淡々と片付けていた。父の命日であることを除けば、普段と変わりない日常だった。
 だが八時二〇分に事件が起こる。
 鈴木敏万総務部長・高橋計之職員課長そして職員課の職員三人が、いきなり宿直室に入ってきたのだ。五畳程度の広さしかない宿直室は、人で埋まった。
 間の悪いことに、私は区民からの電話を受けている最中だった。電話を切るわけにはいかない。突然の侵入者を椅子から見上げながら、電話対応を続けていた。そんな私に、高橋課長の声が響いた。
「これから処分を行います」
 こちらの都合は関係なし。何だがわけがわからないうちに、いきなり一五日間の停職処分が言い渡されようとしていた。
「あと一〇分で仕事が終わるので、待ってくれませんか」
 どうにか電話を切り、私は一〇分だけの猶予を申し出た。だが、それも無視。
 「組合には話を通してあるんですか?」
 ただ黙って処分されるわけにもいかない。そこで、本来なら私を守る立場にある組合の意向を確認した。
「通している」
 高橋課長は眉一つ動かすでもなく答えた。
「本当ですか?」と聞くと「本当だ」と言う。動じる気配さえない。
 仕事中だというのにいきなりの処分。総勢五人を引き連れた威圧的な対応。そんな状況で行われた役所の処分など、「はい、そうですか」と簡単に認められるわけがない。怒りが腹の底から昇ってくるのを感じた。
「組合に確かめてくる」そう言い放つと、私は席を立った。その途端、和田課長はいきなり前から両手で、私の肩を押さえ、力を加えて私を席に戻そうとした。私は「何をする」と言って課長を押し返す。すると課長の足は、私に手をかけた状態のまま、ずるずるとうしろへさがっていった。
 処分説明を読んでいた総務部長は慌てた。「もういい」と読むのを中断し、処分説明書を手にしたまま退席した。職員課長と他の職員もこれに従った。しかし一~二分すると、宿直室の引き戸が一〇センチほど開き、高橋課長がその間から顔を横にしてのぞかせた。「渡すよ」と言って部長が持って出た処分説明書を内側にすべりこませた。
 処分など受ける理由はない。そう感じた私は「返す」という言葉とともに説明書を職員課長につき返そうとした。だが、すでに引っ込められかけていた、職員課長の手には説明書は収まらず、音もなく床の上を滑っていった。課長はゆっくりとB5判の説明書を拾い、戻って行った。

■腐敗に気づけない役所人

 かなり乱暴な処分だった。今までも役所の横暴な態度には驚かされてきたが、ここまで唐突で強引な処分は記憶にもなかった。役所が私を力技でねじ伏せるために全力を投入しているのを感じた。そして、その先頭に立っていたのが高橋課長だったのだ。
 九二年の秋、私は高橋課長と組合役員及び同僚も交えて、勤務問題解決について話し合ったことがある。もちろん話し合いは平行線をたどった。
 健康を保たつために、以前の勤務体系に戻せと主張する私と、決められた規則に従わないならすぐにでも辞めろと迫る課長。私の要求に対する彼の答えは、たった一言「寝ぼけたことを言うな」だった。結局、「いずれあなたに対しては、法に照らして厳正に処分する」という高橋課長の言葉で会議は終わった。このとき上司には腰が低く、部下には厳しいと評判だった課長の処世術を肌で感じた。とはいえ、この後いきなり一五日間の停職処分がくるとは思ってもいなかったのだが……。
 私を処分させるには、役所にとって、高橋氏はもってこいの人物だったろう。誤った論理であっても上の出した判断なら、彼は信じて疑わない。事情を検討すれば、私の要求はまっとうなものであるとわかるのだ。それが証拠に、表だって逆らいこそしなかったものの、私を応援してくれていた職員は少なからずいたのだ。しかし、根っからの公務員であった彼は、悪しき役所の掟をもって私を断罪することに疑問を抱かなかったのである。
 もっとも、そんな彼を単純に責めるわけにもいかない。役所とは、そんな人間を育てる場所なのだ。ウミは前例となって、外部に知られることのないまま、ますます役所全体を腐らせていく。内部の職員は、誰も腐敗を止められない。なぜなら腐敗に気づくことさえないからだ。
 九六年に豊島区池袋のアパートで、親子の餓死死体が発見されたのを憶えているだろうか。新聞・週刊誌でずいぶん報道されたものだ。豊島区役所がどういった体質をもつのかを理解してもらうために、この事件をあえてここで紹介したい。
「とうとう今朝までで私共は食事が終った。明日からは何一つ口にするものがない。少しだけ、お茶の残りがあるが、ただお茶を毎日飲み続けられるだろうか」
『週刊文春』(九六年六月二七日号)に公開された日記には、貧困によって食べられなくなった親子の壮絶な様子が綿々と記されている。病弱な息子を抱えた七七歳の老女には、働く力もなく、年金以外に現金を得る方法もなかった。
 この親子の尋常ならざる状態に、はじめに気づいたのは、餓死した母親から国民年金の免除申請書とともに、生活の窮状の書かれた手紙を受け取った豊島区の年金課職員だった。この職員はすぐに福祉事務所に連絡し、生活保護の対象になるのではないかと問い合わせた。ところが福祉事務所は、「他の課の個人情報で動くのはプライバシーの点から問題」(九六年七月四日『東京新聞』)として、取り合わなかったばかりか、なんの行動も起こさなかったのである。

■貧困者を常習者と言う役所

 遺体が発見されたあとにも、親子の生活状態が事細かに記された日記について、「シュレッダーで処分した」などと、都議からの問い合わせに嘘をついていたという。もちろんこの発言はすぐに撤回され、親子の日記は白日の下にさらされることとなった。そしてこのときの福祉部長は高橋氏である。
 結局、事件発覚から二ヶ月後には、職員の対応に責任を取らせる形で、高橋氏をはじめ福祉事務所長に一カ月の減給、助役にけん責、相談係長に文書訓告という処分が下された。
 餓死するほど困った人を目の前にすれば、普通ならば理屈抜きで助けてしまうのが人間だろう。だがそんな人間的な感情を、役所は許さないのだ。
 仕事を探しに行くお金がない。食べ物を買うお金がない。そんな理由で役所を訪ねてくるホームレス風の人物に対して、「常習者には金を渡さない」という指示が福祉事務所から出されていたのは、その非人間性を示す好例だろう。しかも役所の基準では、たった二度の訪問で「常習者」というレッテルが貼られていた。
 酷寒の夜に訪れる救いを求める手へなど、たとえ常習者であろうとなかろうと貸さざるを得ないと感じるのが人間ではないか。私も宿直日に何度か貸し出したことがある。そうするとたちまち「五十嵐がどんどん貸すから、仕事がやりにくい」などと同僚からクレームが出るのだ。
「役所などにたのむ様にと、おしえられましたが、私共は普通と違う丈に、一般の人同様にはしてもらえないでせう。今後どうして生きて行くのでせうか。
 早く死なせて下さい。子供と私を一緒に死なせて下さい。外に方法がありません」(九六年六月二七日号『週刊文春』)
 餓死した親子がなぜこのように追い込まれたのか、私には痛いほどわかる。発言力をもたない経済的弱者に対して冷やかな役所の体質が原因なのだ。そして現在も、その状況は改善されていない。余りにも旧態依然である。 (■つづく)

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