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鎌田慧の現代を斬る/JR偽装倒産

■月刊「記録」1996年8月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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■JRは2重の不法だ

 国鉄分割から10年目を迎えるというので、さいきんでは、テレビ・新聞などのマスコミでもこの問題をあつかうようになってきた。
 問題は大きく分けると2つある。
 1つは、分割に反対していた国鉄労働組合の組合員を中心に、解雇された1047人の問題が解決していないということだ。
 もう1つは、国鉄清算事業団に残された旧国鉄債務の問題だ。債務は今年3月までで27兆6千億円にもなり、年間の日払いは1兆3千億円に達している。さらに、国鉄が分割された時点から比べて、長期債務は2兆1千億円も増えている。しかも、これらの債務はそのまま国民に押しつけられようとしているのだ。
 そもそも分割民営化は中曽根康弘首相(当時)が行なった政策だが、彼は、「1人の首切りも出さない」と国会で豪語していた。ところが実際は、分割政策に反対した労働者を大量に解雇したうえ、9年経ってもこの問題は解決されようとしていない。

新幹線の運転士を売店に回すなどの不当な配置転換で、国鉄は彼らをいじめ抜いた。さらには「人材活用センター」という場所に、国労の活動家たちを集めて、いっさい仕事を与えないでいた。
 僕は「留置場に送られた政治犯だ」と表現した。仕事から外して島に流したようなものだ。国鉄がJRになったあと、彼らを採用せず、結局クビにしてしまった。このような処置は、地方労働委員会でことごとく不当労働行為だと認められ、中労委でもほぼ同様の見解が示された。また現在係争中ではあるが、最高裁判所でも労働者側の主張が認められた判決もある。
 労働裁判所というべき公の労働委員会で、不当労働行為だと認定して、法律にもとづきJRは謝罪文を掲載したにもかかわらず、まだ採用していないのはどういうことか。不当労働行為というのは、労働法違反であり、その行為を認定されてなおかつ採用しないということは二重に不法だ。法治国家である日本で労働委員会の決定を守らないのは異例の事態だ。
 理由のない解雇を国が押し進めたため、景気が悪くなったら、簡単に弱者をリストラする風潮ができてしまった。また当時、国鉄民営化に反対ならクビにしろと動労が主張したことにより、自分に対立する組合はどうなってもいいというような風潮もつくられた。日本の労働運動に非常に悪い影響を与えたことは間違いない。

■国民の金を大資本が略奪

 東日本・西日本・東海のJR3社は黒字で、営業努力のたまものと言っているが、黒字は初めから予想されたことだ。もうかる部分をそのまま引き継げば、黒字になるのは当たり前。誰が経営してももうかる。ローカル線など儲からない路線を切り捨てて、売店などで運転士たちを働かせ、もうけをあげてきたが、これはすべての地域の住民や労働者に犠牲を押しつけて上げた利益だ。
 これらJR3社に対して、経営が厳しいのは北海道・四国・九州のJR3島とJR貨物だ。利益をあげるのが難しいのは、分割当時からわかっていたにもかかわらず、見切り発車してしまった。
 国鉄民営化は偽装倒産の方法そのものだ。会社を潰して、労働者をいったんクビにして、言うことをきく労働者だけを再雇用し、もうかる部分だけで再建していく偽装倒産は、悪徳経営者がよくやる手法だ。このようなきわめて前近代的な方法を、国家レベルで実施したのが、一般に国鉄改革といわれる代物だ。
 さて、27兆6千億円まで膨れ上がった債務だが、当初、赤字は国鉄用地とJRの株を売って埋め合わせることになっていた。この計画は、バブル経済まっさかりの時期のものだった。
 当時、東京や大阪などでの都心に広い土地が全くなくて大きなビルが建設できず、建設業界や不動産業界が困っていた。当時は中央・千代田・港の3区を中心にして、ものすごい土地買い占めが行なわれ、土地を売らない商店にはトラックが突っ込むなど、地上げ屋が起こした悪質な事件が連日報道されていたのを覚えている人も多いだろう。零細商店なども金で頬をひっぱたかれて追い出された。当時の土地は膨大な需要見通しがあったが、供給量は不足している事態だった。ウォーターフロントの建設計画なども、このような状況を改善するため、東京湾を埋め立ててビルディング街を造ろうとする計画だった。
 さらに都心の土地を少しでも供給するため、国有地を民間に払い下げていこうする方針を国がつくった。国鉄用地売却もこの方針に沿って立てられたものだ。実は国鉄の土地売買の前にも、都心の公務員住宅が政府の方針にもとづいて販売された。当時、これらの土地は暴騰して買い手が殺到したのだ。
 結局、土地を売った金で国鉄の赤字を一気に埋めようとする、バブル経済をあてこんだ大プランはバブルとともに沈んだ。日本で一番強かった労働組合を潰して、労働運動を静かにさせてしまおうとした試みは、一応成功したのだろう。国労のバッチを付けているだけでも処分し、言うことをきかないとJRに採用しないなど脅しをかけ、国労は分裂させられた。当時、40万ぐらいいた組合員も、現在では3万人ぐらいに減っている。しかし後に残された問題はかなり大きい。
 分割民営化は、国民が税金で支えた国鉄の財産の収奪と、労働運動を潰すという2つの目的があった。当時は民活という言葉が流行したが、要するに大資本を活性化するプランだった。
 株式上場も、国民の金を株主が略奪していく構造そのものだ。国民の土地と国民の金を、大資本が喰っていくのだ。当時、NTTの株は高騰し、国鉄本社だった丸の内の土地も、1坪8千万~1億円といった声があった。土地を買って、ビルを造ってもうけていくという思惑が外れて、こんどはそのツケを国民に回すということを政治家と大資本が一体になってやったのだ。
 今後も分割から10年ということで、御用学者を中心にさまざまな宣伝が出てくると思うが、彼らがいくらJRは頑張ったと言っても、前述のようにそれは当たり前の結果に過ぎず、むしろ思惑がはずれて増えた借金をどうするのかといった問題が重要だ。
 国鉄処分のやり方が悪質であったのは、国鉄つぶしの3羽ガラス(3悪人)とされた井出・葛西・松田の3人が、もうかるJR3社の社長にスンナリ納まっていることからもわかる。自分達で会社を分割して、社長に納まる下克上だ。

■時代に逆行の廃線

 分割以前から合理化の名の下に、収益の上がらない路線は、どんどん切り捨てられた。鉄道は公共事業だから国民の足を確保しなければいけないのに、もうからないという理由だけで切り捨ててしまい、周辺の過疎を促進させてしまった。北海道では使われなくなった駅を中心に、周りの集落が壊滅状態のところがいくつもある。当初、廃線の代わりに代替バスを走らす計画を立てていたが、鉄道とともに生きてきた町は結局壊滅してしまった。
 例えば松江から中国山地を抜けて山陽本線に通じる島根県の木次線は、今でもかろうじて走っているが、JR西日本が上場されると廃線になるのではと地元の人は不安に感じている。株式会社は、合理化によって利益を追求する。公共性とか住民の便利さは考えなくなるだろう。住民が便利になるとか、生活が豊かになるとかいう方向で国鉄の改革が進んでいない証拠だ。
 鉄道には「我田引鉄」という言葉もあるほどで、政治家が地元への土産にするとの批判もあるが、少なくとも住民の要望は存在する。政治家が利権にからんで引っ張ってきたという問題はあるにせよ、多くの地域に鉄道が走るのは悪いことではない。公害は生まないし、資源を喰うこともなく、より安全だ。最近はそういった観点から、鉄道が見直されてきている。ところが時代に逆行して鉄道を切っていくという政策を取っているのがJRなのだ。

■土建屋行政のなごり

 さらに新幹線の問題がある。国鉄の赤字が増えたのは、新幹線建設の赤字を引き延ばし、解決しないうちに利子が雪だるま式に膨れ上がったのが原因だ。何しろ新幹線が登場するまで国鉄は黒字だったのだ。
 新幹線は政治的な利権の対象で、田中角栄の利権も大きくからんでいる。今まで政治家の利権の道具として使われきたから、分割民営化以後は政治家との関係を切れると国鉄経営陣は公言してきたが、現在、新聞を賑わしている整備新幹線問題では、旧態依然として、政治家主導である。
 民間企業としてのJR各社が、リスクを背負って新幹線を走らせるのなら問題はないが、JRは新幹線の建設費をカバーできず、自治体の負担を求めている。これは旧国鉄と全く同じ構造だ。あれほど政治に利用されないといっておきながら、また国の資金を使って整備新幹線をつくれといっているわけだから、公共性の強い交通を民営化するという試みは失敗したというべきだ。
 地方行政も新幹線と引き替えに、多くのものをひきうけてきた。青森県の核燃料サイクル施設の建設などもそうだ。長崎県の場合は、原子力船「むつ」の入港の条件と、長崎新幹線が利用された。新幹線は中央政府にとっても、政治的利用の大きな手段となっていた。
 整備新幹線に関して、96年7月16日の朝日新聞は、「7月16日には都内で国会議員140人を含む500人が参加して建設促進総決起大会も開かれる」と報道している。しかし、新幹線の建設経費は上がる一方だ。東北新幹線の建設では、8800億円の予算が組まれたが、実際には2兆6600億円もかかっている。なんと計画の3倍だ。上越新幹線にしても、4800億円の予定が1兆6300億円もかかってしまっている。
 新幹線ができると便利になると思い込んでいるが、新幹線の開通にともなって在来線が切られるので、国民は高い運賃を払わなければならなくなる。出張旅費が浮くので大企業にとっては便利かもしれないが、これから造ろうとしているところは、国民生活にそれほど多くの利益をもたらすとは思えない。もちろん、あったほうがいいのだろうが、なくて困るといった問題でもない。空路も発達してきている。それでも政治家が造りたがっているのは、土建屋行政のなごりだ。

■カード破産の日本国家

 現在日本は、放漫経営が破綻して公債発行高で220兆円にのぼっている。それがこれからの若い連中に押しつけられ、一方では、湾岸戦争や米軍への思いやり予算など無駄に金を使っている。なんと96年度の米軍駐留経費の総額は、約6400億円にもなる。今の繁栄のためにだけに、後の世代にツケを回している。日本はところかまわず金を使ってカード破産の一歩手前のような状態なのだ。
 その金を貸しているのは銀行だが、銀行は国鉄の場合でも金利はちゃんと回収している。だから年間1兆3千億円の金利は銀行に払っているのだ。日本の経済も行き詰まり、政治改革も議論されているが、10年前の大盤振舞の政治、経済構造は、今でも変わっていない。さらに責任を取る人もいない。大臣も高級官僚もすぐ変わってしまう。
 大資本と結託した政治が変わらない限り、日本は後世に大きなツケを残し続けることになる。(■談)

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