« 首都高速道路500円通行の正義 第10回/警察ご招待で不払い開始 | トップページ | 靖国を歩く/第2回 各人に眠る「軍人精神」の魔力(『記録』編集部) »

靖国を歩く/第1回 巨大な筒に首を突っ込んで(『記録』編集部)

■月刊『記録』01年11月号掲載記事

        *        *        *

 今年8月、小泉首相の公式参拝によって、靖国神社は揺れに揺れた。結局、「8月15日にいかなる批判があろうとも必ずする」と語っていた首相は、13日に急遽参拝。公式参拝だったのかどうかを明らかにすることもなく、うやむやにコトを収めたようだ。しかし中国や韓国は、この参拝に強く抗議し続けている。おそらく来年の8月も、靖国参拝は大きな政治問題になるだろう。
 ところで、そんなに小泉首相が行きたい靖国神社が、どんなところだか皆さんは知っているだろうか? 多くの『記録』読者は、あのバカでかい大鳥居をくぐった経験は、ないのではあるまいか。
 かくいう私も行ったことがない。編集部から歩いて5分ほどの距離なのにである。いやじつのところ、政治的な意思を持って行かなかったわけではない。
 毎年、御霊祭りになると、浴衣姿のお姉さんが九段下周辺に大量出没し、浴衣フェチの私は大興奮していたのが、お祭りのベストタイム(6~7時)は編集部が最も活気づいている時間と重なる。そのため浴衣見学に靖国に行く時間などなかったのである。また、靖国神社内にある遊就館には他で見られない代物が並んでいるとも友人から聞いていたのだが、わざわざ見に行こうとも思わなかった。今年の8月には、小泉首相の公式参拝に合わせて取材にでも行こうかと思っていたら、テレビで首相の参拝が終わったことを告げられた。つまり出向くチャンスが、とんとなかったわけだ。
 しかし今回、「靖国行けば何か書くことあんだろ。近いんだから行ってこい」という指令が編集長より下され、来年の夏に向け、他誌に先駆けて靖国神社の情報をお伝えすることとなった。
 で、「回天」である。
 その巨大下水道管のごとき筒は、戦没馬慰霊像という馬の銅像ほど近くにある。直径1.35メートル。完全な形で展示してあれば、全長16.5メートルもあるそうだが、そこに展示されていたのは「スクラップ化寸前に回天生存者より発見、奉納された」もので、およそ7~8メートルといったところだろうか。
 この訳のわからない筒が、いきなり凄みをもって迫ってきたのは、筒の横に添えられた説明文を読んでからだ。
  「回天(人間魚雷)四型胴体」
 そう、海の特攻隊、人間魚雷の一部であった。よく見れば筒の上部、ハッチを取り付けてあったはずの場所には、人1人がやっと通り抜けられる程度の穴が空いている。その穴をくぐり、ハッチを閉められたなら、2度と開くことはない。潜望鏡を覗き、敵艦に向かって真っ直ぐに突き進むだけだ。
 回天は、93式魚雷を改造したものである。追尾システムとして人間を搭載した魚雷ということになるだろうか。それでも試作の段階では、操縦士の脱出装置も考えられていたというが、兵器の性能が落ちることを理由に計画から消えた。
 少し日が傾きかけてから行ったこともあり、回天の中は暗かった。せっかくだから中で横になってみよかとも思ったのだが、人通りも多く、立ち入り禁止の柵もあったため、そこまではできなかった。そこで筒の先から首を入れて中を覗いてみた。気が狂いそうだ。閉所恐怖症なら5分といられないだろう。いや、押入れなど狭い場所に入り込むのが大好きで、むしろ大きな部屋などで落ち着かない貧乏性(本当に貧乏)の私でさえ、こんな中に10分とは耐えられない。
 とにかく直径1.35メートルという圧迫感がすごい。しかも実際の出撃となれば、私が立っていた場所には、1.55トンの炸薬が詰め込まれるのである。
 これは悲壮だ。空からの特攻だって十分にやりたくないが、潜水艦からそっと発射され、通信装置すらない魚雷を操って敵船に突入するのだけは絶対に嫌だ。回天に首を突っ込んでみればわかる。生理的な恐怖感ともいうべき何かを感じるのである。
 説明文によれば、「無気泡酸素魚雷利用の一方途として、海軍中尉黒木博司、同仁科関夫によって着想され、鋭意研究の結果、巨艦も一発で轟沈させる威力をもつ兵器となった」という。なんと106名の兵士が、この魚雷に乗り込んで亡くなっている。ほとんどが20前後の若者だったという。
 発射から爆発まで、各人が何を考えていたのかはわからない。ただ回天の機関は発動したら停止再起動が効かないため、心変わりなど許されない構造だったことは事実だ。
 たとえ英霊が靖国に帰ってきたとしても、自分を死に追いやった回天を見たいだろうか。少なくても戦後民主主義の中で育った私なら見たくない。黒い筒に首を突っ込みながら、漠然とそんなことを考えた。   (■つづく)

|

« 首都高速道路500円通行の正義 第10回/警察ご招待で不払い開始 | トップページ | 靖国を歩く/第2回 各人に眠る「軍人精神」の魔力(『記録』編集部) »

靖国を歩く/奥津裕美・『記録』編集部」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/389724/6784484

この記事へのトラックバック一覧です: 靖国を歩く/第1回 巨大な筒に首を突っ込んで(『記録』編集部):

» 閉所恐怖症克服 [閉所恐怖症]
閉所恐怖症を克服し、閉所にいても自然にいられる幸せを感じませんか?^^ [続きを読む]

受信: 2007年6月29日 (金) 00時28分

« 首都高速道路500円通行の正義 第10回/警察ご招待で不払い開始 | トップページ | 靖国を歩く/第2回 各人に眠る「軍人精神」の魔力(『記録』編集部) »