« だいじょうぶよ/第一回 殴り倒して気分は真っ暗 | トップページ | 鎌田慧の現代を斬る/ヤラズボッタクリ介護法成立に怒る »

鎌田慧の現代を斬る/大不況を生きる

■月刊「記録」1997年12月号掲載記事 (表記は掲載当時のままです)

        *           *              *

■貧乏人殺しの政府の犯罪

 最近、日本経済の先行きの困難さを、週刊・月刊誌が競うように特集記事にしている。政府はこれまで緩やかな景気回復にむかっていると言い続けてきたのだが、ついにどうしようもない破綻を引き出したのは国家である。すでに三、四年前から、不況は深刻化していたのである。にもかかわらず消費税の値上げなど、政府は逆手の経済政策をとり続けた。これによって余計に経済的な混乱を極めてきたのだから、政府の態度は人殺し的である。
 バブル景気に大盤振る舞いしていたゼネコンの倒産が相次いでいる。東海興業は七月に五一一〇億円の負債を抱えて倒産しているし、多田建設は一七一四億円、大都工業は一五九二億円という巨額の負債を記録した。まさに大型倒産のラッシュである。しかしゼネコンの倒産は、これから本番を迎えようとしているのが実状なのだ。 建設だけではない。銀行も統廃合の方向にあり、三洋証券も三七三六億円の負債を抱えて倒産した。さらに大規模な海外進出を図り、人々の目を引いていたヤオハンも倒産。ダイエーに資金を肩代わりしてもらう状態となっている。このような状況のなか、莫大な不良債権を抱えている銀行がさらに融資を引き締めようとしているのだから、今後、中小企業へも倒産が波及する。そもそもこの経済混乱は、バブル期の放漫経営が破綻したものだ。しかもそのバブルを煽ったのが政府だった。
 たとえば中曽根康弘首相は「舶来品を買え」と大号令をかけ、デパートで自らネクタイを買うデモンストレーションをしたことさえしていた。当時、日本企業の輸出攻勢によって貿易摩擦が激化。海外からの強い批判を輸入品の購買によってかわそうという姑息な手段で、無駄な買い物をしろと国民に強要したのだ。では企業はどうしていたかといえば、合理化を進めて現場の労働者を苦しめながら過大な超過利潤を獲得。一方で海外摩擦というツケを、勤労者の無駄な買い物によって解消させようとしていたのであった。
 バブル期の精神的な後遺症は、無駄遣いの増大と、ローン至上主義だった。これは土地や株が暴騰するという前提の上に立った価値観だ。銀行でローンを組み、不動産や株を買えば儲かるなど虚妄としかいいようがない。しかも土地の高騰は、税収入を増やし国庫を潤したのである。バカをみたのはなけなしのお金を不必要な不動産や株に投入した庶民であった。しかも地価の高騰にたいする期待が身分不相応な不動産を買う傾向につながり、いまなおローン地獄に苦しんでいるサラリーマンは、膨大な数にのぼる。バブル崩壊以降、自己破産の件数がうなぎ登りになっているのは、その証明である。
 むろん不動産業も、ゼネコンも、銀行も、生命保険も、膨大な不動産を取得したはいいが、塩漬けにしている。それが事業経営に大きな負担になってしまったのだからバカげた話だ。そして銀行は苦し紛れに、ゼネコンや証券会社への支援を打ち切らざるを得ない。輸血を止めるなら、死ぬしかない。ツケを先延ばしにして延命してきた企業に、遅ればせながら地獄が現れたのである。

■四八万人が一年以上失業

 これまでも不況はつねにあったわけだし、それに伴う解雇・首切り・リストラは続いてきた。しかし今回は、世界経済の不況も同時に起こっている(米国経済は、まだ堅調であるが)。香港の株式暴落やタイのバーツ暴落などにより、アジア各国に投資した膨大な資金を回収できるかどうか。それが今後非常に注目すべき問題となっている。
 またアジア各国の不況により、海外進出の伸びが止まった。たとえばタイのトヨタ工場は、操業中止に追い込まれた。いまにも各国で操業中止・撤退が始まろうとしている。こうなると内需拡大しか景気浮上の方法はない。しかし先ほど述べたように消費税の値上げは大きく、減税はうち切られ、医療費の値上げも実行された。そのうえ厚生年金への不透明さが将来への不安を煽り、消費へ手がまわらない。
 すでに消費税の値上げによりデパートやスーパーの消費が低落してきていたが、ついに一人勝ちを続けていたコンビニエンスストアの売り行きも落ちてきている。いま街には底冷えの気配が濃厚になってきている。
 これにともなって失業者の増大にたいする懸念も強くなってきている。いままでも大失業という見出しによって、バブル崩壊前後にも何度か不況が取り沙汰されてきた。しかし、これは大失業という脅かしにより、労働者の抵抗を抑えるという戦略的な誇大宣伝の色彩があった。しかし今回は少しちがう。
 総務庁が六月に発表した九七年の労働力特別調査によれば、完全失業者二三〇万人のうち、一年以上の長期に渡って失業している労働者は、四八万人と全体の二〇・九%を占めている。
 そもそも日本の失業率統計は、きわめて曖昧なものだ。調査期間の一週間に一日でも働いたものは、失業者に入れないという厳格な基準がある。つまりパートやアルバイトで一日でも働けば、立派な就労者として集計されるのである。さらに半失業状態の家内工業で働いているものも、就労人口のなかに組み入れられている。こういった数字の操作により日本の失業率は三%を保っているが、実態は五%強とも推測されている。こんなごまかしだらけの総務庁の統計でさえ、一年以上就労していないものが二〇・九%もあるというのは、これまでになかった非常に深刻な事態である。

■年収五〇〇万から一八〇万に

 都立労働研究所調査には、次のような事例が報告されている。
 この調査は、都内の職業安定所や専門学校へ通う四〇~六〇歳代の六五人に、研究員らが面談調査した。いくつかの実例をみてみよう。
 <2年前にレンガ製造会社を早期優遇退職した57歳の男性は、あっせんされた再就職先が倒産。自分で探した会社に移ったものの経営が不安定でこれも退職、友人と事業を起こした。が、採算はとれず、妻がパートに出始めた>
 <49歳の自営デザイナーは、得意先の倒産などで一時は500万円あった年収が180万円程度に。1995年春に廃業後、経験を生かせる再就職先はない。在学中の子供2人を抱え、妻のパート収入と預金の取り崩しでしのいでいる>
 <課長として働いていた機械設計会社が倒産した45歳の男性は、これで3度目の倒産・閉鎖。設計技術を生かそうとしても、募集は40歳まで。子供2人が在学中。妻はパートに>
 <52歳の男性は総務部長を務めていたホテルが閉鎖され、後始末のため最後まで残った。その過程で経営者と従業員の間のトラブルに巻き込まれた。人間関係への不信が始まり、1、2年で転職を繰り返すなど、定職に就けなくなった>
 <47歳の男性は印刷工場などを15年間経営していたが、バブル直前に街の再開発計画が浮上、協力するため事業をやめ、土地を売った。売却益で他の土地など資産を獲得、事業再開時の元手にしようとしたが、バブル崩壊で資産価値が低下、再開発計画も進まず、身動きが取れなくなった。やむを得ずハイヤー運転手になったが、会社が親会社に吸収され退職、無職に>
(読売新聞 九七年一月二一日)

 日本の失業者は欧米よりも深刻な問題を抱えている。なぜかといえば、雇用保険(かつての失業保険)がきわめて短いからだ。そのため若手・若年労働者は、低賃金なパートに出るしか方法がなく、中高年は行き場を失うはめになる。もちろんヨーロッパのように、失業していてもいくつかの社会保障によって生きていける福祉型社会には到達していない。
 また日本社会では、失業者が無能なものとして差別される傾向が強い。本人も昼間ぶらぶらしているのが格好悪いと感じ、仕事もないのに毎朝定時に出勤して世間体を保つという現象まで起きている。失業しても堂々と生きているヨーロッパなどと比べると、社会的な風習に大きなちがいがあるのがわかる。

■自分の権利は自分で守れ

 問題は労働組合である。
 自民党の陰謀によって、総評が解体され連合が成立した。そして多数の労働組合出身議員を抱えていた社会党が崩壊をみたのは、周知のとおりのである。これによって大企業の労働組合は、多くの機能を失ってしまった。 このたび連合会長になった鷲尾悦也のように、東大出身の官僚が労働官僚にスライドするという状況が生まれているのである。まったく労働運動の経験がなく、労働運動の精神などとは無縁の人物が労働界に君臨しているところに、大企業を中心とした労働組合の退廃が表れている。
 失業者とは、工場の塀の中から表に叩き出された労働者のことであり、労働組合とは塀の中から失業者を出さない歯止めとなるものである。しかしオイルショック以降の労働運動は、経営者の要請に合わせて労働者を組合が首にしてきた。これでは今回の不況にたいして労働組合がまったく機能しないのは当然である。そもそも労働組合の精神など、とっくに喪失しているからだ。
 一方で、中小の労働組合や地域ユニオン(コミュニティユニオン)、なんの組織もなく追い出された管理職を組織した管理職ユニオンは、依然として健闘している。これらは個人加盟の労働組合であったり、地域の労働組合が集まって組織をつくり、一人の首切りにたいしても他の労働者が駆けつけるという昔ながらの労働運動を展開している。
 大企業と大組織はすでに空洞化しているが、その周りにある中小の労働組合が、これからどれだけ失業にたいして連帯して闘争していくか、ここに可能性がある。そういった運動が、不況に名を借りた政策的なリストラにたいする歯止めとなるであろう。
 また労働者を簡単に首にはできないという信念を、個人ももつべきである。不当な解雇や嫌がらせにたいし、労働法や憲法の基本的な人権を中心とした共闘がさらに必要となってくる。この二〇数年間、日本の労働者はあまりにも安閑とし過ぎてきた。この不況にたいして無抵抗のまま、経営者の言うがままに解雇が進めば、それがさらに購買力を失わせ、不況の泥沼に落ち込んでいくであろう。
 日本およびアジアの経済の見通しは、米国経済に依拠するきわめて変則的な状態になっており、米国の株価の上下に一喜一憂する状況になっている。米国経済がどこまで好況を保ち続けるかは、保証の限りではない。こうして世界同時不況という恐怖に、いま全世界が落ち込んでいる。これらは工業生産や金融に特化し過ぎた経済行政の必然的な結末であった。本来は国際競争や企業間競争だけでなく、農業や各種産業をバランス良く発展させていくべきである。
 いずれにしても不況は深化しそうだが、いたずらに動揺すべきではない。自分たちの権利は自分たちで守るという抵抗を基にした自己防衛が必要となる。クビ切りを認めてはいけない。抵抗しても殺されるわけではない。人間のプライドをかけて、闘うべきだ。 (■談)

|

« だいじょうぶよ/第一回 殴り倒して気分は真っ暗 | トップページ | 鎌田慧の現代を斬る/ヤラズボッタクリ介護法成立に怒る »

鎌田慧の現代を斬る/鎌田慧」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/389724/6947560

この記事へのトラックバック一覧です: 鎌田慧の現代を斬る/大不況を生きる:

» 転職サイト [転職サイト]
記事参考になりました。ありがとうございます。 [続きを読む]

受信: 2007年6月27日 (水) 22時10分

» 消費者金融各社の債権回収や金融の社会問題について調べてみました [クレジット キャッシング ローンカード 消費者金融社会問題]
消費者金融、クレジット、キャッシング、ローン、カード会社の債権回収や金融の社会問題について調べてみました。 [続きを読む]

受信: 2007年6月28日 (木) 08時26分

« だいじょうぶよ/第一回 殴り倒して気分は真っ暗 | トップページ | 鎌田慧の現代を斬る/ヤラズボッタクリ介護法成立に怒る »