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鎌田慧の現代を斬る/基地縮小の声をつぶすな

■月刊「記録」1996年10月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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■最高裁判決への憤り
 沖縄問題は、政府と沖縄の関係だけではない。アメリカ政府と日本政府の関係の問題である。日本政府が、アメリカとの軍事同盟を解消すれば米軍基地はいらなくなる。この問題が解決しないのは、政府がアメリカとの対等の立場で交渉しないからである。
 9月8日、沖縄の住民投票は、沖縄の米軍基地縮小整備と日米地域協定の再編に賛否を問うための投票だった。結果は、米軍基地縮小と地域協定見直しに賛成482538票、反対46232票となった。投票率は59.53%だったが、これは8月4日に行った巻原発建設に対する住民投票の投票率より少なかった。しかし人口3万人の小さな巻町と127万人が生活する沖縄とでは、規模がまったく違う。この状況で89%もの賛成票が集められたことは、沖縄県民がいかに米軍基地問題で苦しんでいるかを明らかにものがたっている。
 投票の方法も「基地反対」が×印といったものではなく、基地縮小整備に賛成という非常にわかりにくい方式だった。無効票が12856票あったのかも気になる。 この投票は8月28日に下された最高裁判決に対する憤りも強く反映していると思う。私も判決を聞きに大法廷に出向いたが、沖縄の人達の想いを汲まない最高裁の態度に腹がたった。新聞などでも報道されているように、開廷したあと三好達裁判長は「主文、本件上告を棄却する」と言っただけで、15人の最高裁判事は全員逃げるようにして退席した。
 この時の沖縄の人達の深い失望は、その後の法廷を包んだ怒号にも表れていた。もちろん沖縄の島々で判決を知った人の失望も大きかったはずだ。傍聴に来ている人は1時間半近く法廷に座ったまま、「裁判長を出せ、どういうことだ」と声をあげ、不当な判決を追求しようとさえしていた。沖縄の戦後50年にわたる苦難の歴史をわずか数秒の判決で片付たのだ。彼らの強い怒りは当然のことだ。
 証人尋問で弁護団側が申請した23人の証人が却下された段階で、沖縄に住む人のナマの声を聞く姿勢が裁判所に全くないことは判明していた。しかし最高裁判事がここまでひどい態度で臨むとは、沖縄の人達も考えていなかったのではないか。15人の最高裁判事のうち実際に沖縄に行った人がどれだけいたのだろうか、沖縄の基地の存在による生活の不安や苦しさを、彼らはどれだけ感じることができたのか。結局、判決も杓子定規的な法律解釈に終始し、沖縄の想いは踏みにじられた。
 判決は「今回の土地使用認定に、無効となるような瑕疵(落ち度)は認められない」と断じ、地方自治に対する署名代行の申請にも違法はなく「知事の署名代行事務の執行の懈怠(怠慢)を放置することで、著しく公益が害されることは明らか」との「意見」を示した。これは大田昌秀知事を訴えた国の論理とまったく同じであって、最高裁の独自性はほとんどみられない。

■三権分立の放棄

「上告人(大田知事)の署名代行事務執行の懈怠を放置するときは、被上告人(橋本竜太郎首相)が本件各土地を駐留軍の用に供することが適正かつ合理的であると判断して使用認定をしているにもかかわらず、那覇防衛施設局長は、収容委員会に対する裁判申請をすることができないことになり、その結果、日米安全保障条約、日米地域協定に基づく我が国の国家としての義務の履行にも支障を生ずることになることが明らかであるから、上告人の署名等代行事務執行の懈怠を放置することで、著しく公益が害されることが明らかであるといわざるを得ない」。
 この判決に強調されているのは、日米安保、日米地域協定に基づく沖縄米軍基地の存続が国家としての義務だということだ。代理署名しないことが「著しく公益を害する」のであれば、公益とは何かと尋ねたくなる。
 公益を国益とする政府の見解に対して、沖縄の人達が訴えてきたのは、戦後50年にわたる米軍の占領状態や、米軍基地のおかげで個人の土地が強制収容されていることや、先祖代々の土地で米兵が度重なる人権侵害を起こしてきたことに対する切実な想いだ。さらには公益という大義名分のもとに、アメリカ本国の戦争に協力させられた悔しさだ。もうこれ以上戦争に協力したくないのに、強制的に協力させられてしまう不幸。アメリカ本国の国際戦略に沿って、沖縄が戦争に巻き込まれる現実。朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争などの国際紛争では、紛争地に向かう最前線基地として何度となく沖縄が使われたのだ。
 このような状況が公益に合致するのかどうかという議論を放棄して、最高裁の判決は下された。沖縄人民の利益と国の利益はまっこうから対立しているにもかかわらず、司法は両者の利益を判断しようともしなかった。そして最高裁判決は、「土地を駐留軍の用に供すること」を「公益」としたのだ。この判決は司法機関が3権分立を放棄し、国家機関として政府の方針に迎合する姿勢を明らかにするものだ。
 7人の裁判官から補足意見も提出されているが、これも国家と人権問題、土地の強制収容問題などを自分の頭で考えようとする熱意はない。「司法裁判所の審査に適しない性質の問題が介在している」(園部逸夫裁判官)、「司法による審査の限界を超えるもの」(大野正男裁判官など6人)。この補足意見を読んでみてもわかるだろう。彼らは自己で判断する機会を完全に放棄したのだ。
 日々発生する問題が適法で有るか否かを判断する責任を司法は持っている。にもかかわらず「外交上、行政上考慮すべき問題を比較検討すべきであるから、裁判所が一義的に判断するのに適切な事項とはいえない」と判決を下しているのだ。戦後50年経ってなお対米従属の姿勢は変わらず、変えようともしない。このような状況のどこに三権分立があるのだろう。

■住民いじめの「基地ころがし」

 行政に対する従属だけを考えた司法は、沖縄の人達の窮状については、いっさい耳を傾けなかった。
 沖縄において米軍基地に対する反対運動が起きたのは、少女暴行事件が発端だった。しかし運動が盛り上がったからといって、米軍による人権侵害がなくなったわけではない。米兵による暴行や交通事故が継続して発生し、報道されていた。
 沖縄では、戦後にもかかわらず準戦争状態が続いている。つねに戦争の危険にさらされているのが沖縄の人達だ。それは県道104号越えに実弾演習が行われていることからも明らかだろう。こういった状態を政府は放置し続け、本土に住んでいる日本人も目を向けることはなかった。自分達の生活の繁栄だけを目指して生活してきた。沖縄県民の窮状に対する無痛覚は、同じ日本人として恥ずかしい行為だ。
 少女暴行事件が報道されてから、政府は米軍基地を縮小整理する方向で話を進めている。しかしそれさえも抜本的な改革をしようとしているのではない。「基地転がし」によって、表面的な現象だけを押さえようとしている。
 臼井日出男防衛庁長官による静岡県の東富士演習場や山梨県の北富士演習場などの、実弾演習場移転候補地を抱える知事との話し合いは、まるで移転へのアリバイ作りだ。各県知事からの猛烈な反発は当然だ。日本の領土で不当に演習する米軍の駐留地を、沖縄以外の県で探そうという発想自体が間違っている。沖縄の人達が訴えてきたのは、日本全体の米軍基地そのものを具体的に整理縮小していく道筋であって、自分達の苦難を他人に引き受けてもらおうと訴えているわけではない。
 政府は国民の私有財産を守るべき責任があるのに、米国軍による「不法占拠」に向かい合おうとさえしていない。強い米国に立ち向かえない腹いせに、弱い地方住民の横面をはり倒すように「基地ころがし」をするのは、きわめて卑劣な行為だ。

■第2の琉球処分

 沖縄は太平洋戦争時に、日本で唯一日米の地上戦が行なわれ場所だ。本土決戦にそなえる時間稼ぎのために、多くの沖縄の人が死んでいった。この時行なわれた日本兵による沖縄住民の虐殺や集団自決の強制、波照間への集団移住によるマラリア患者の大量発生など、極めて悲惨な歴史を沖縄県民は忘れてはいない。被害を押しつけた本土の人間の身勝手を忘れていない。しかも戦後50年経ってなお、沖縄をくいものにする構図は変わっていないのだ。
 戦後日本の発展は、軍備を必要以上に増強せず米軍を駐留させ経済発展だけに力をつぎ込む「安保タダ乗り」によって得たものだ。もっと厳密に言えば、沖縄に米軍基地の75%を押しつけて本土の人間が繁栄をむさぼってきたのだ。日米安保の条約通り米軍を駐留させるのは国家として当然のことだといった理論を認めることはできないし、沖縄の人達に対する視点の欠落はどのように説明されても納得できない。
 国際紛争時には最前線基地となり、米兵による犯罪は多発する。そんな沖縄の状況にも、日本人(内地人)は平然と繁栄の享楽にひたっていた。日本人の沖縄問題に対する無関心は、アジアの人に対する戦後補償問題への無関心と同じだ。
 そもそも日米安保条約は、実質的な「日米戦争同盟」にほかならない。つまり日本は米国の国際紛争に参加しているのだ。このような同盟関係が、現状に即しているのかどうかを考える必要がある。
 8日に行なわれた住民投票は、基地を押しつけて知らん顔をしていた内地人に、沖縄の人達がはっきり基地縮小整理と地域協定の改善を訴えた。橋本首相も大田知事との会談で50億円の特別調整費計上を発表した。もちろん沖縄の経済振興は必要であるが、米軍基地返還の要請は先延ばしするわけにはいかない。いつまで、「琉球処分」を続けるのか。(■談)

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