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靖国を歩く/第4回 都合よい死にざまの列挙(『記録』編集部)

■月刊『記録』02年3月号掲載記事

      *          *          *

 奇妙な熱気だった。 
   軽く眺めるだけなら、せいぜい10分で終わってしまうほどの狭い展示場。5~6人しかいない入館者。聞こえてくるのは、館内で流しているビデオのナレーションだけ。ただ入館者の眼差しが違った。 

   遊就館特別展「かく戦えり。近代日本」は、昨年5月に始まった。戦争関連の品物を大量に置いてある遊就館が増改修工事のため閉鎖となり、いわば“つなぎ”としてこの展覧会が開かれている。 
   私が最初に立ち止まったのは、日清戦争のコーナーに置かれた1着の軍服だった。2つに折り畳まれた上着の肩、胸に、直径3センチほどの穴が見えた。艦砲射撃の跡だという。血なのか、それとも長い歳月によるものなのか、穴の周りの生地が変色していた。そう気付いた途端、名前も知らぬ一軍人の最期が軍服を通してリアルに甦った。歴史からいきなり飛びだしてきた生身の死であった。 
   この軍服を皮切りに、私は大量の「死」と直面することになる。日露戦争、満州事変、支那事変、大東亜戦争などの各コーナーで、兵士の死にざまが紹介され、死の決意を綴った遺書や遺影をつきつけられる。

   「作江、北川、江下等三伍長(当時一等兵)は破壊筒に点火して、これを抱いて鉄条網に突入自爆粉砕した。これによって味方軍は突破口を得て進撃し、廟巻鎮の一角を占領することができた」 
   満州事変コーナーで写真が掲げられた「肉弾三勇士」の解説である。 
   サイパン島で指揮をとった南雲忠一の遺影には、「『我玉砕ヲ以テ太平洋ノ防波堤タラントス』と決別電を発して守備隊とともに総攻撃をかけた。玉砕の翌八日に指揮所で自決」と書かれていた。 
   大東亜戦争内にある特攻の展示には、もっとむごい話が続く。 
   特攻に向かう少年飛行兵の精神訓練を担当し、自身も特攻に志願した藤井一の写真には、次のように書かれていた。
   「妻子があり操縦士でなかったため、すぐには念願かなわず、部下の操縦する複座戦闘機に乗り込み特攻出撃した」 
   その藤井の横、赤ちゃんを抱いた妻の写真には、「夫の固い意志を知った福子夫人は、『私達がいては後顧の憂い。思う存分の活躍ができないでしょうから、一足お先に逝って待っています』と遺書を残し、二人の幼子と近くの荒川に入水自殺した」と説明されていた。
   「かく戦えり。近代日本」の展示場を埋め尽くしているのは、「戦い」ではない。「死」、それも都合のよい「死」であった。 

   ガダルカナル島の展示には、「壮烈な戦死を遂げた」とされる若林東一陸軍大尉の写真はあっても、食料の補給がなく、飢えとマラリアで大量に日本兵が死んだ事実には触れてない。ガダルカナル島で戦死した日本兵は1万2500人余り、一方の戦病死は4200人余りである。ちなみに対戦した米軍は戦死者1000人、餓死した兵士にいたっては1人もいない。それが事実である。
   「三週間の激戦のすえ、陸海軍守備隊四万一千人は最後まで敢闘して玉砕。在留邦人の一万人も最後まで米軍に投降することがなかった」と説明が付けられたのは、サイパン島の戦いだ。 

   しかしこの行動は、本当に「お国」のためだったのだろうか? 
   情報史を専門とする山本武利氏は、「(兵士の)自殺的攻撃、あるいは敵に追いつめられて逃げ場を失ったときの自殺は、同じ兵隊仲間が周辺にいて相互監視の状態のときになされることが多かった」(『日本兵捕虜は何をしゃべったか』文藝春秋)と、兵士の自殺を説明している。さらに米軍が作成した日本人捕虜の尋問調書を、次のように分析している。
   「(261人のうち)百六十六人が拷問や処刑を予想している。七五%の者は、拷問や処刑を恐れ、捕らえられるより自殺した方が、不名誉にも面目つぶれにもならないし、連合軍の手によって不愉快な目にあわずにすむと考えた」
   「二百二十五人の(捕虜)のうち九〇%以上が、むしろ両親らに死亡したと見られる方がよいと述べた。三百六人の約七〇%が日本に帰還する恐怖を語り、(中略)どこか知らない他の国に住みたいという」 

   反抗を許さない相互監視の目が作りあげた「玉砕」や「特攻」を、遊就館特別展はきれいに飾り付け、磨きあげている。都合の悪い事実を、すべて封印してである。 
   大儀のために死ぬのは、カッコよい。日常をコツコツと生きるより、何倍もカッコよく見えてしまう。だからこそドラマや小説になる。しかし、人は格好悪くたって生きなければならないのである。

   「守るべき人の為に自分の命を捨てるという事はなかなかできない事だと思いますが、それだけ純粋な人になりたいです」 
   入館者の感想が集められたノートに書かれた、この一文が忘れられない。刺さった小骨のように引っかり、私を不安な気持ちにさせる。 (■つづく)

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