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靖国を歩く/第3回 まんじゅう狂乱の夏(『記録』編集部)

■月刊『記録』02年1月号掲載記事

     *        *        *

   時は三国時代。『三国志』でも有名な知将・諸葛孔明に率いられた蜀の軍は、風雨で荒れ狂った河に帰路を阻まれる。地元の将である孟獲は「49人の生首を神に捧げなければ、川は治まらない」と進言。しかし天候が変われば川も静まると知っていた諸葛孔明は、羊や豚の肉を小麦粉の皮で包んだ料理を作らせ、人頭の代わりにお供えしたという。これこそ日本でもおなじみ「まんじゅう」の起源である。

さて、このまんじゅうが売れている。
  「親子3代、ここで商売をさせてもらっていますが、こんなにお土産が売れたのは初めてです」と、靖国神社の土産物屋の店員に言わせるのだからすごい。ヒット商品の名前は、「ガンバレ純ちゃん好景気まんじゅう」。そう、小泉純一郎首相にちなんだまんじゅうである。
  「(お菓子の)業者さんから、小泉さんのまんじゅうがあると聞いてね。私も小泉さんを嫌いじゃないし、試しに8月5日から置いたら売れたんですよ」 
   この「試し」が当たった。店主の杉浦克幸さんによれば、最高で1日で1080個を売った日もあったという。1箱800円とお土産として手頃な値段とはいえ、随分と売れたものだ。 
   1ケース18個が15分で売れ切れた。店頭に並んだ「純ちゃんまんじゅう」を、どっちが取ったかでお客が言い争いを始めた。日を改めて6回も買いに来たお客さんがいた、などなど。とにかくその狂乱ぶりは、すさまじいものだったらしい。このまんじゅうを製造したお菓子メーカー大藤の担当者でさえ、「商品の企画を立てたのは7月でしたが、ここまで売れるとは思っていませんでした」と予想外の売れ行きに驚いているほどである。 

では、なぜここまで売れたのか? 
当時の小泉内閣の支持率は、現在よりも0.2ポイント高い73.1パーセント(ニュースステーション調べ)。まんじゅうの1ヵ月前に売り出されたキーホルダーが好評により品切れになったことを考えれば、同じ小泉グッズが売れたこと自体、何の不思議もない。また味の評価も上々とのことで、商品力の勝利と言えなくもない。 

しかしである。
「ガンバレ純ちゃん好景気まんじゅう」は、東京を中心とした観光名所、例えば東京タワーや浅草の仲見世など約30ヵ所で売られていた。どこもそれなりに好評だったとはいえ、靖国神社ほど爆発的には売れなかったという。つまり靖国神社と小泉首相の組み合わせこそが、大ヒットの原因だったのである。

■繰り返された妥協 

   さて、ここで少し小泉首相と靖国参拝の流れを、簡単に確認しておきたい。 
   2001年4月、総裁選を前にした小泉氏は、靖国神社への公式参拝について「敬意と感謝の意を表すのは当然」と発言していた。当時は8月15日に参拝するのはもちろんのこと、「公式参拝」も肯定。それどころか憲法9条の改正にまで言及していた。小泉氏の勝利を誰も予想しないなか、過激な発言だけで存在感を示していた時期であった。 
   しかし「地滑り的勝利」で首相の座を射止めて以後、靖国問題は日を追うごとにおおごとになっていった。7月末には、田中真紀子外務大臣から「(首相は参拝に)行かないでいただきたい」と、意見までされている。今では考えられないことだが、ほんの5ヵ月前には田中外相から小泉首相に、まともな意見を述べることもあったのである。 

そして8月1日。変われば変わるものだ。「私は質問をされた時だけ答える。靖国参拝を強調したか? 一つも強調していない。公約ではない」と、これまでの発言を大きく訂正。5日には、諸外国からの批判を和らげるため、首相の歴史認識を示す「小泉談話」を発表する可能性があると、山崎拓幹事長が発言した。6日には「賛否両論あるが、虚心坦懐、熟慮している最中だ。いずれ結論を出さなければならないが、もう少し時間をいただきたい」と、強心臓でならした小泉首相が、公式参拝に慎重な姿勢をみせ始める。その一方で連立相手の公明党が求めた「8月15日以外の私的参拝」は、まだ抵抗しているとの報道もあった。 

7日、時とともに弱気な発言が目立つようになった小泉首相を刺激しようと、「小泉首相の靖国神社参拝を実現させる超党派国会議員有志の会」が結成される。この設立総会には、議員の代理を含め105人が集まった。現役国会議員からは、「外国から言われて(参拝を)やめるようなことがあってはならない」との声も挙がったという。 
   しかし11日、ついに小泉首相は15日の参拝を見送る方針を決める。与党の3人の幹事長が反対している上に、福田康夫官房長官も慎重な態度を示したことが大きかったそうだ。「どんな批判を受けようが必ず8月15日に参拝する」という発言は、完全に忘れられた。また同日、15日の参拝が見送られた場合に備えて、首相が献花料を支払い、13日から1週間の期間、首相名の花輪が靖国神社本殿に飾られることになった。 
   そして13日。いきなりの靖国への私的参拝が決行された。

■若者が靖国に戻ってきた!?  

   8月に入ってから、靖国神社は異様な雰囲気に包まれていたという。マスコミ各社の取材が繰り返され、賛成派と反対派が神社に押し掛けたからである。また首相の参拝問題が報道されたことによって、一般の参拝者も激増した。神社の発表によれば、参拝者数は昨年より7万人多い12万5000人。あまりの人の多さに、開門時間を午後8時まで1時間延長したほどの混雑ぶりだった。

「今年は参拝者が多かったですよ。いつもは15日だけですから。それが今年は8月に入ってからずっとでしょ。しかも例年と違って若い参拝者が目立ちました」と、土産物店の店員も語ってくれた。本誌編集部も靖国神社には近いが、観光バスのと右翼の宣伝カーの数は、確かに例年にないほど多かったと記憶している。 
   こうした熱気と対立陣営の緊迫感が漂う中、純ちゃんまんじゅうはテレビや新聞のネタとなり、各局・各紙で報道されたのである。 

土産物店の店員は言う。
  「マスコミは怖いなと思いましたよ。報道されて、一気にお客さんが押し寄せましたから」 
小泉首相が靖国神社を政治問題化させたことで、国民の関心が引き起こされ、さらに小泉人気とメディアの報道が政治問題をバラエティー化させた。だからこそ、タレントショップの商品と同じように、多くの参拝者が純ちゃんまんじゅうを購入し、いままで靖国神社に見向きもしなかった若い世代が参拝に来たのではないか。メディアの露出に長けた小泉首相の出現が、眠っていた愛国心をたたき起こしたといえよう。 
   靖国神社は右傾化する「魅力」に満ちた場所であるらしい。土産店にも「必勝」と書かれた日の丸ハチマキや、菊の御紋のついたグッズなどが並んでいる。驚いたことには、菊の御紋輝く金のタイピンなどはかなりの人気商品だという。ファッション的には、なかなかネクタイと合わせにくい代物だと思うのだが、店によれば「右翼っぽくない、普通の方がけっこう買っていきますよ」とのことである。 

 ちなみに、今、もっとも売れ筋のお土産は、「徳仁親王殿下 おめでとうございます 雅子様 雅子皇太子妃」と書かれた内親王誕生記念まんじゅうである。 
   だからこそ7万人という参拝者の増加に戸惑ってしまう。ある種の熱気のなかで見ると、前回取り上げた九六式15インチ榴弾砲の話などは、どう映るのだろうか? 
   人命を救うために考え出されたまんじゅう。しかしアフガニスタンへの派兵などを見ている限り、今回のまんじゅうに描かれた人物が、平和のために活躍するとは思えない。まんじゅうの代わりに人頭を差し出す時代が来ないとは言い切れるだろうか?

 小泉首相の顔が焼き付けられた純ちゃんまんじゅうをつまみながらこの原稿を書いた。どこにでもありそうなまんじゅうだったが、なかなか美味しく、ついつい4つも食べてしまった。案の定、気持ちが悪い。(本当です)
  「甘い」小泉に気をつけろとの警告か? 不景気ばかりか、こんなところでも小泉から攻撃を食らうとは……。  (■つづく)

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