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内部告発・豊島区は税金泥棒/第13回 役所と闘う、もう一人の男

■月刊『記録』98年11月号掲載記事

      ※        ※        ※

■宿直廃止

 合意書を出したことで、裁判は一段落した。
 合意を決定する直前まで「最後までやる」と言い張った私を、近藤弁護士は必死で止めた。行政相手の裁判では、個人が勝てないことを、彼が知っていたからだろう。勝つために越えなければならないハードルは、民事裁判に比べてもはるかに高い。それが行政訴訟の現実なのだ。
 役所側が負ければ、区長も三役も責任をとって辞めなければならなくなる。そうなれば区民の間にも、少なからぬ混乱が起こるだろう。だからといって、行政を勝たせておいていいのだろうか。行政と闘う人に設けられたハードルが、不正の隠ぺいに利用されているのが実態ではないのか。それは「えん罪」の構図そのものだ。もちろん私の「えん罪」も、合意書ぐらいではひっくり返らなかった。
 合意書が出て二、三日後、出勤を報告しに行った私に向かって、課長が言った。
  「財源が悪化しているので、宿直の職務を廃止したい」
 つまり今後は、昼間の職員を夜間に割り振り、宿直専門の職員をなくすということだ。「そんなバカなことがあるか」と思ったが、またケンカする気にもなれず、「同意できません」とだけ言っておいた。
 たしかに合意書には、「今後、お互いの条件についてよく話し合うように」と書かれていた。しかし合意書は、宿直業務の存続を前提に作られたものだ。つまり宿直業務をなくせば、合意書そのものに意味がなくなる。「五十嵐の言う通りに改善するのは腹が立つ、こうなったら宿直業務を廃止して、すべてをチャラにしてやる」と言わんばかりの処置に、私も呆れ、そして驚愕した。
 睡眠時間を元に戻すという合意書の約束も無視されたまま、宿直業務廃止の色合いは強まっていく。しまいには、反対する者の意見などお構いなしに、昼間の職員が増員され始めた。夜間勤務に対応するための体制作りだ。
 もともとの勤務態勢としては、昼間の職員が夜勤をこなすものであった。しかしそれでは区民サービスの質が低下するという理由で、宿直業務が始まったのである。何のことはない。役所の体制が昔に逆戻りしただけだ。そもそも昼間の職員を夜働かせたところで、宿直の職員を雇うのと出費はほとんど変わらないのである。

■当局・組合・議会の密着

 こんな横暴な振る舞いでも、役所ならまかり通ってしまう。それには理由がある。役所当局・組合・議会と、本来なら独立し、お互いに監視し合うべき三つの機関が、べったりと密着し合っているからだ。
 議員だろうが、組合員だろうが、役所の上級職だろうが、カラ残業手当をもらっている。不当なお金をもらっている者同士、お互いにかばい合う。
 役所がどのように税金を使うかを監視する機能をもつ議会も、議員がこれでは動けない。実際、告発した私を、議会は全く無視してきた。こちらから連絡を取っても、これまたなしのつぶて。
 本来なら職員の側に立ち、共に闘うはずの労働組合も、既得権を手放さないように役所の上層部と手を結ぶ。私の一件では、最初は無視を決め込み、最後には役所当局と一緒になって私を潰そうととさえしたのだ。
 組合は、すべての不正に対して声を上げるわけではない。小さな問題では役所当局に噛みつくくせに、ある一線を越えると沈黙する。カラ出張・出勤問題は、明らかにその境界線を超えていた。つまり聖域に属する問題だったのだ。触れてはいけない部分に触れたため、私は組合員からも疎まれることになったのである。
 まあ、それも当然なのだろう。
 カラ超勤をもらうことで、組合員も生活を成り立たせているのだ。組合員にも養うべき家族がいる。少しでも多くお金が欲しい。そこをつけ込まれる。みんながやっているからと、不当な収入に手をつける。そして、そんな行動の積み重ねが、少しずつ倫理観をすり減らしていく。悪循環だ。
 もちろん役所内の職員全員が、不正な収入を受け取っているわけではない。多少なりとも善意の残っている職員は、カラの部分を請求せず、静かに受け取りを拒否している。静かに拒否をする職員には、役所側も無視するだけだ。
 では、そのなかから告発する職員が出るかというと、そう甘くはない。彼らが声を上げることはないのである。声を上げた途端に役所当局は牙をむき、無理難題をふっかけて職場から追放しようとすることを、みんな噂で聞いているからだ。
 以前、新宿区役所でも内部告発があったらしいが、結局、その後の話を伝え聞かない。役所当局の弾圧により、告発した者が潰されたのだろう。
 だが、奇人は常にいる。
 一九九六年、私同様、権力に孤独な戦いをのぞんでいる人にやっと出会った。情報公開で世田谷区を追い詰めた人物として、一躍、名を知られることになった世田谷行革一〇〇番の後藤さんから紹介されたのだ。
 その男性は、高橋武男氏。東京都清掃局の清掃作業員であり、かつては都清掃局職員組合、石神井支部中央委員までしていた人物だ。だが組合本部の三役が都公社に天下りの密約をしていたことに反発した件で、さまざまな摩擦に遭遇することになったのである。
 組合の脱退も許されず、裁判を起こしてやっと辞めることができたという彼の話は、役所に常識など通用しないことを改めて実感させる。
 だが、もっと彼が悲惨だったのは、通勤手当の不正を東京新聞に実名で告発してからだ。このイジメが半端ではない。私は高橋氏から直接聞いたのだが、心底ぞっとした。

■ランドセルに鉄板

 ある日、子どものランドセルのふたの部分に鉄板が貼ってあることに、高橋氏は気づいたという。
  「なぜこんなものを貼ってるんだ」という彼の質問に、「うしろから殴られても、鉄板を貼っていれば痛くないからね」と子どもが答えたという。見知らぬ人に、いきなりうしろから殴られる。そんな恐怖を、子どもは感じながら生活していたのだ。無言の脅迫が、そこここに漂っていた。
 もちろん、仲間外れなどは、日常茶飯事だった。
 組合の新聞が自分にだけ回ってこない。「高橋には見られると困る」という理由で、高橋氏が出席しなかった集会のビラが、すべて回収されるということもあったらしい。
 深夜にかかる自宅への無言電話。ゴミ回収の作業チームからの追い出し。職場での完全無視など。村八分の状態にされ、あげくには昼間にも電話がかかり、高橋氏の妻や子どもまで脅迫されたという。しかも、この脅迫行為を行っているのは、ハッキリした確証はないものの、組合員や組合上層部の人間らしいとの情報が耳に入ってきた。
 上からの圧力に独りで耐えている彼の姿は、私とダブルものがあった。圧力のかからない方法で、そっと助けてくれる人が現れている点も似ている。間違っていると言い続けることによって、見えないところにいる味方が現れるものなのだ。
 私と高橋氏、二人の闘いは、今年の七月一日に発行された月刊『中村敦夫新聞』で紹介された。私以外にも権力と私闘を演じている人がいる、そしてちゃんとどこかで誰かが見てくれている。それだけでも少し救われたような気持ちがした。
 私は、正しいことが負けるのは、正しいことが表に出ないからだと思っている。役所当局・議会・組合を、がっちりとつないでいる鎖を断ち切り、すべての悪事を白昼のもとにさらした時、私はこの裁判に勝てるはずだ。勝負を決めるのは持続力なのだ。そう信じたい。 (■つづく)

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