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もう一度バブルに踊ろう/第3回 いたたまれない恥ずかしさの秘密

■月刊「記録」04年3月号掲載記事

           *             *             *

 イタタタタッ、イタイ! 
 突然だが、幕張はイタイ街である。
 学生時代の女友達から電話で自宅に誘われ、頑張ってオシャレをして出向いたら、ネットワークビジネスの勧誘だったとか。昔の日記を読み返してみたら、「モテるためにはブレイクダンスを練習しなくちゃダメだ!」と本気で書いてあったとか。そんないたたまれない気まずさを、そこほこに隠し持っている街なのだ。
 例えば、幕張の高層オフィスビル「ワールドビジネスガーデン」の一階吹き抜けには、椰子の実に見立ててランプが取り付けられた金色の椰子の木が10本近く並んでいる。電柱より高い金ぴかの椰子型街灯をイメージしてもらえればよい。見た途端、私は叫んでしまった。「あー、やっちまった」と……。ちなみに、このワールドビジネスガーデンは、マリブウエストタワーとマリブイーストタワーの2つの高層ビルを持っている。このネーミングもイタイ。
 計画面積437.7ヘクタール、居住人口約2.6万人、就業人口約10万人になるはずだった幕張新都心。キャッチフレーズは、「21世紀を展望したわが国最大級の未来型都市」だ。東京湾を埋め立てたまっさらな土地に、業務研究・商業・文教・住宅の4つの要素を計画的に配置して、情報ハイテク産業の中心地に仕立て上げる予定だったという。しかし計画推進中にバブルが崩壊。研究所や支社を造る予定だった企業、進出予定だった百貨店などが軒並みに計画を撤回した。
 おかげで先ほどのワールドビジネスガーデンや、ツインタワーが目印の幕張テクノガーデンなどのビジネス用の賃貸ビルも、陽が落ちると明かりの灯らない階が歯脱けの状態で浮かび上がる。商業地区の分譲にこだわっていた千葉県も、1999年から土地の貸し付けを解禁し、20年の契約でフランスのスーパー「カルフール」やアウトレットモールなどを誘致したという。体裁など構っていられない窮余の策である。

■ちょっとだけ「エエカッコしい」

 「典型的なバブル計画の失敗ですね」と総括したいところである。しかし幕張を歩いて感じた違和感は、どうもバブルの熱狂だけでは片付けにくい。
 バブル時代の計画はバカらしいほど楽観的で、振り返れば「無茶やってたぜ、俺たち」と呟きたくなる。ともすれば青春映画のような甘酸っぱさを感じるものだ。一方の幕張には、「若さ」では括れない恥ずかしい勘違いが含まれている。
 この勘違いの秘密を読み解くためには、幕張新都心の歴史を少し紐解く必要があろう。
 幕張の埋め立てが完了したのは、1980年。当初、この土地は学園都市になる予定だった。しかし誘致の目玉だった早稲田大学にそっぽを向かれ、研究開発機構と学術教育機能を担う未来都市へと計画を変えたのである。
 そう、ここで重要なのが学園都市から引き継がれた「教育」という柱だ。清く正しい場にしたい。そんな意思が、幕張の都市計画のバックボーンに働いている。つまり、ちょっとだけ「エエカッコしい」なのであった。
 例えば、幕張新都心の中心的な存在である幕張メッセについて、建設プロジェクトに深く掛かった通産省顧問の福川伸次氏は、『幕張メッセを創った男たち』(現代日本社)で次のように語っている。
「展示場でただ、モノをみせたり、ちょっと実演したりするだけではなくて、多くの人が集まるなら、それだけ人と人の知的交流の場にしていかなければならない。交流することで、互いの知的蓄積を高めていくようにできたら素晴らしい」
 また、見本市や展示会などのコンベンション産業が、日本文化に向いている理由も、次のように解説している。
「日本人はたいへん祭好き。自分たちの持てる技術や文化的な素養はすべて祭りに集約させてきた。さまざまなイベントも、その中に溶け込んできた。つまり、日本人は文化と産業を融和させる伝統を持っている」
 幕張メッセのドル箱企画が、コンパニオン目当てで男が集まるモーターショーと、オタクの集まるゲームショーであるという現状さえ考えなければ、実に説得力に富んだ話である。
 いや、日本の村祭りは夜が深まるにつれて乱交に変わっていったという歴史的事実や、オタクの「知的蓄積」は並みではないという現実を考えれば、完全にメッセの未来を見通していたとも言えるが……。
 さらにエエカッコしいの方向を強化したのが、80年代に起こった情報化社会への過度な期待であった。
 例えば、86年11月から8ヶ月間にわたって定期的に開かれた「情報化未来都市構想検討委員会」では、情報化未来都市に働く国際ビジネスエリートを、中間報告書で次のように想定している。
・国際的な業務に従事しており、活動の場が国際的である
・広域な人的ネットワークを有し、人的交流機会が多い
・海外出張をはじめとして、国内外での移動の機会が多い
 この定義には、大手企業が大量に雇う情報系派遣社員など入っていない。まして研究と仕事に忙しい理系エリートが、「人的ネットワーク」の乏しさから結婚さえできないという現実は、予想すらしてなかったようだ。
 ただし「持続的な緊張感による精神的ストレスの発生」などは予期しており、「心身のリフレッシュ、リラックスによる活力回復」のためにも「職・住・遊の融合によるアメニティの高い複合的な街づくりが必要」だと結論づけている。
 さて、そのアミューズメントだが、「ウィークエンドや夜も人の集まる場として、国際的レストラン、24時間対応のショッピングゾーン、各種ショーやコンベンションを行う施設が必要」らしい。
 さらに「海洋性プレジャー、ハイテック・ハイタッチなマシーン、空間による擬似体験、コンベンション、アスレ・ヘルス、ショッピング、グルメ」がアーバンリゾートには必要だとも書いている。
 もうカタカナが多すぎて訳がわからんが、とりあえず赤ちょうちんで一杯なんてのは、どこにも入っていないようである。

■「房総はカリフォルニアになる」

 こうした分析に使われたアンケート調査などからして間違っているので、結果のお粗末は仕方ないのかもしれない。例えば資料として添付してある「日常余暇の実態と希望」というアンケート調査では、「最近の週末にしたこと」で最も多いのが「テレビを見る」で46%。それが「休暇が増えたらしたいこと」では4.6%に減少し、代わりに「一泊以上の国内旅行」が45.6%でトップになっている。
 断言してもよい。このアンケートに答えた人のほとんどは、休暇が多くなっても旅行には行かない。「あーあ、テレビ見てダラダラ過ごしちゃったよ」という後悔が、アンケート結果に表れたに過ぎないからだ。
 このような未来都市住民への勝手な思い込みは、幕張の都市計画において中心的役割を果たした人物の暴走によって、さらに発展していく。
「房総の温暖な気候からすれば、太陽と海とカリフォルニアのライフスタイルの実現はそう難しいことではない。(中略)房総はカリフォルニアになるのである。もはや千葉を千葉としてとらえることがまちがっている。だから、幕張は“千葉的でないものを”という発想からとり組んだのである」(『幕張メッセの全貌』ダイヤモンド社)
 いかん、遠いところに行ってしまった……。
 いや、誰が悪いわけでもない、たぶん。ただ知識人と一般庶民の感覚が違っただけだ。
 故・ナンシー関氏は、「日本のほとんどはファンシーとヤンキーで出来ている」と喝破した。キティーちゃんが大人からも好かれ、『成りあがり』を書いた矢沢永吉が武道館を満員する国。それが日本なのである。ハイソの趣味など合わないのである。
 サービス残業のオンパレードでコンピュータに向かい続け、休日は眠るしかない。それが情報産業の労働者なのである。
「会社から飲みに行くときは、大概、会社のビル内にある居酒屋です。面倒くさくないですし。ただ、ここは街に人間味がないですよね。テレビで見る平壌のようです」と、幕張の大手企業で働く情報系技術者は答えてくれた。
 「海洋性プレジャー」や「ハイテック・ハイタッチなマシーン」などより必要なものが、この町にはあるようだ。 (■つづく)

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