« 首都高速道路500円通行の正義 第15回/もう愚痴はいうまい | トップページ | ホームレス自らを語る/美人の妻に逃げられ暗転・丸山隆一(五二歳) »

鎌田慧の現代を斬る/大蔵スキャンダルは複合汚染の土壌に咲いた毒花の群生

■月刊「記録」1998年3月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

  *        *         *

■自省心のカケラもない大蔵官僚

 大蔵省のスキャンダルは、金融検査部・金融証券検査官室長・宮川宏一、同部管理課課長補佐・谷内敏美の逮捕後、おなじノンキャリア組の銀行局総務課・大月洋一氏の自殺へと展開した。このままノンキャリア組のスキャンダルだけで決着させるのか、さらには大蔵省がどういった形で分割されるのかが、今後の焦点となっている。
 この事件で大きな問題となったのは、銀行を監督するはずの検査官が、接待のみかえりとして検査日程を銀行側に伝えていたことだ。このような大蔵省の腐敗ぶりは、まさしく悪代官と悪徳商人の関係である。官と民との歪んだ構図が、ここにある。
 だが、これだけ根深い腐敗を摘発されても、大蔵官僚たちには罪の意識のかけらもない。それが証拠に、先日放映されたNHKのスタジオ番組では、西村吉正前銀行局長が驚くべき発言をしている。
「接待というから、なにか快楽的なイメージになるのであって、会食というべきです。銀行側との会食は必要でしょう」
 このようなことを白昼堂々テレビで語るほど、大蔵官僚は「会食漬け」になっている。彼らの会食とは芸者つきの高級料亭であり、風俗営業店での飲み食いである。しかもそのあとには、高給クラブや接待ゴルフが待っている。庶民のワリカンなどの会食ではない。会う用事があるなら、支払いを折半にしたらどうだ。
 高級官僚たちが、こぞって東大法学部出身というのも気持ち悪い。大蔵省に採用されているのは、国家公務員上級職試験を通過したエリートからさらに選ばれた、いわゆる超エリートである。しかしこの超エリートの実態は、たんに勉強ができた受験秀才、あるいはガリ勉クンにすぎない。子どもの頃からひたすら丸暗記と受験技術だけで優位を勝ち取ってきた連中には、そもそも人間性の形成されるような機会も、時間もなかったはずだ。それは現代の受験システムをみれば容易に想像がつく。
 この『もやし』のような促成栽培秀才たちが大蔵省に入り、二〇代そこそこで地方に派遣され、税務所長として君臨する。地方では地元の商工会や地方官僚が、彼が中央に帰る日に備えて腫れ物に触るように扱いチヤホヤする。お呼ばれの酒席でそっくり返り、お土産をもらい続ける生活に慣れ親しんできた連中なのである。
 つまり、入省直後から当然もてはやされる者として汚職の特訓を受けてきた人間ということになる。だから接待供応が人間として極めて恥ずかしい行為であることがわからない。業界から見返りを要求され応じていた事実は棚に上げて、「会食」などといい換えて口を拭おうとする。
 このような人物が大蔵省を埋め尽くしているのだから、大蔵省の腐食は根が深い。今回の事件だけが、特殊な例では決してないことは、つぎの例からも容易に想像がつく。
 大蔵省の腐敗の歴史をひもとくと、七九年には鉄建公団の「過剰接待」が問題になり、自粛を求める官房長通達が出されている。九五年には元東京協和信用組合から香港接待などを受けた田谷広明元東京税関長や、中島義雄元主計局次長などが辞職している。このときも官房長通達が出されていたが、カエルの面にションベン。「会食」をやめる気はもうとうないようだ。

■天下り禁止以外に解決法はない

 現在、公務員倫理法が作成されようとしているが、腐敗した土壌を変えることなく規則だけ厳しくしても弊害のほうが大きい。すでに公務員は、国家公務員法によっ職務上知り得た秘密を守る義務が課せられているのである。だいたい飲ませ食わせの見返りに、相手に便宜をはかるなど、犯罪以前のモラルに属する問題だ。守られることのない法律を作ってお茶を濁し、かたや泰山鳴動して鼠一匹という終わり方など絶対に認められない。
 そもそもこのような退廃を作りだした根源は、政治献金と天下りにある。複合腐食の構造をどう切開するか、どう根絶やしにするかが問題の核心である。今回の問題はこの複合土壌に咲いた毒花が、たまたまつまみ取られただけに過ぎない。
 銀行が自民党にたいして巨額な政治献金をしていたことは、今更いうまでもない。政治献金とは、政治家にたいする明らかな買収行為である。にもかかわらず抜け穴だらけの法律を作り、疑惑がささやかれれば陳謝するという態度を繰り返してきた政治家が、今度は、飲み食いだけを取り締まるという姑息なやり方を取ろうとしているわけだ。
 また、天下りの問題も根が深い。
 帝国データバンクの調査によれば、昨年三月時点で、大蔵省や日本銀行などから全国の銀行一四六行に天下りした役員は、二三一人にもたっした。二月五日の『朝日新聞』でも、大蔵省のエリートキャリア官僚の天下りについて、次のような数字を報道している。
 都市銀行と長期信用銀行一三行のうち九行に一三人、さらに地方銀行には五〇人。銀行では不況下でのリストラが進んでいるというのに、天下り数だけはまったく同様の数字で推移していく。省庁ではさんざん接待を受け、業界に情報を漏らしたあとで、その業界に大手を振って天下って行く。この国家的逆人身売買制度には、あきれるよりほかはない
 もちろん銀行側にも問題はある。
 今回問題になったMOF担(Ministry of Finance担当)は、大手銀行では行内の出世コースにあたるのはこれまで指摘されていた。都市銀行と長信銀一三行のうち、MOF担を経験している頭取と会長が、なんと三人もいるのだ。さらにMOF担の直属の上司にあたる企画部担当の部長職経験者は、副頭取以上の役職に一〇人もいるという。国の秘密を盗んだものが出世するのが、銀行のモラルだ。
 つまり接待の席で銀行に情報を流した連中と受けた輩が、のちのち一緒になって役員幹部に収まるのである。好待遇で天下るために国家の情報をどんどん垂れ流す大蔵官僚と、その情報を使いながらも不正を隠すMOF担。醜悪な者同士が助け合って権力を握るなど、許されることではない。
 さらに天下りした連中は、ことごとく現在の官僚の先輩にあたることも忘れてはならない。おなじ東大卒の先輩と後輩の間でポストを回している現状は、構造的腐敗そのものだ。天下りを禁止する以外に、解決する方法はない。

■抜け穴指導が官僚の仕事

 先輩がいる、自分の将来の天下り先である銀行に、大蔵官僚がどれほど甘かったかは、一九九五年秋に発生した大和銀行ニューヨーク支店の巨額損失事件をみても明らかだ。当時、大蔵省が巨額損失を知りながら長い間隠していたことは報じらていた。また破綻した東京共和と安全信用組合を救済するために、債権を処理する公的機関が作られたことなど、一般企業に比べて特別処遇が過ぎる。あとに続く大阪信用金庫の破綻でも、この機関は大活躍している。そして、そんな銀行への甘やかしによって生み出されたツケは、現在も確実に大きくなっているのである。
 さらに大蔵省が甘やかしているのは銀行だけではない。
 証券会社との癒着も有名になった。自主廃業に追い込まれた山一證券の副社長(当時)にたいして、大蔵省の松野允彦証券局長が損失の簿外処理の方法を指導したという疑惑は、いまだに解決されずくすぶっている。この指導によって山一證券が悪名高い『飛ばし』に堂々と踏み切るようになったことは、ほぼ間違いない。
 あまりに明らかな官と民との共同謀議・共同正犯である。だがこれもしょせん、氷山の一角に過ぎない。民間企業の利益のために、さまざまなな法の抜け穴を指導することが、大蔵省官僚の大事な仕事となってきたからである。
 ところで大蔵省の天下り先が、銀行や証券会社だけでないことは、今回の問題以降、知られるところとなった話だ。彼らの人生を比喩する「渡り鳥人生」とは、特殊法人を転々と渡って、その度に退職金を稼いでいる事実を指した言葉である。退職したあと、五回も天下ったという剛者もいるし、退官後の退職金を一億八千二〇〇万円もせしめたという悪徳官僚もいる。
 もちろん法人内で、さらに私腹を肥やす連中も多い。日本道路公団の外債発行をむぐる汚職事件で逮捕された、元大蔵省造幣局長・井坂武彦の例は記憶に新しい。
 このように日本の経済は、倫理もモラルもまったくなく、周りからチヤホヤされて育ってきたバカ殿様に指導を任せてきたのである。その結果が官僚のやりたい放題であり、庶民の生活を破綻させた金融危機・経済危機である。

■たとえば低金利政策だ

 バブルの時期、大蔵官僚の天下り先がことごとく無茶な経営をおこない巨額な負債を発生させた。それをカバーするためにおこなわれたのが低金利政策である。
 後先考えずにおこなわれた乱脈経営の尻拭いのために、預金者の金利を極端に下げることなど許されるはずもない。この政策は、まわりまわって市民の老後の生活をも破綻させているのだ。
 なぜなら、老後の不安を覚える老人が、預金額の目減りを減らすために、悪徳商法に手を出しやすくなっている。豊田商事をはじめとして、和牛商法やオレンジ共済組合などのインチキ商売が、明らかに胡散臭さを漂わせているにもかかわらず、これほど多くの人を惹きつけてやまないのは、低金利政策と無縁のことではない。庶民の生活を疲弊させ、不安感を煽り、その出口をインチキ商法へとむけさせた責任が、大蔵省にはある。
 さらに、このようなインチキ商法を許してきた監督官庁の責任も追及されてしかるべきなのだ。にもかかわらず、被害者による国への賠償請求は一切認められないという判決が出ている。
 庶民を踏みつけながらうまい汁を吸えるだけ吸い、罰せされることもなく、責任を取りもせずにいる。大蔵官僚の行動が「無期懲役」にも匹敵する重大な犯罪にもかかわらずだ。
 日本の財政(予算配分)・国税(税金の徴収)および銀行・証券会社への指導。この国にかかわるすべての金を握った権力者が大蔵省である。絶対権力者が、絶対的に腐敗する、とはよくいわれることではあるが、大蔵省も例外ではなかった。
 現在、日本国家の中枢は完全にいかれれている。たとえていえば暴風雨の中、船を操縦する船長や一等航海士が酒を飲み、女性と戯れているようなものだ。このような船員達に任せていたなら、日本は沈没して当然である。
 しかも銀行(企業)、政治家、官僚とを結ぶ三角形は、まさに腐海のトライアングルというべき構図を作りだしている。企業は政治家に献金してさまざまな便宜を計ってもらい、政治家は見返りに産業界にとって都合のいい法律を官僚に作らせる。官僚が政治家につくらせている貸しは、資料や国会答弁などになる。その官僚を飲ませ食わせして手なずけてしまうのが民間企業である。この三つ巴が魔のトライアングルとなって、国家の政治経済という土台を腐敗させているわけだ。
 今後、大蔵省は解体される方向にあるというが、どういう形で解体されるのか。この極度の権力をもった官庁が、市民の生活のためにどう変わるかを、主権者である私たちは監視する義務がある。監視義務を怠り、政治家や官僚に土下座する生活をつづけてきた「庶民」にも、この腐敗の責任があったことを知るべきである。(■談)

|

« 首都高速道路500円通行の正義 第15回/もう愚痴はいうまい | トップページ | ホームレス自らを語る/美人の妻に逃げられ暗転・丸山隆一(五二歳) »

鎌田慧の現代を斬る/鎌田慧」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/389724/6960075

この記事へのトラックバック一覧です: 鎌田慧の現代を斬る/大蔵スキャンダルは複合汚染の土壌に咲いた毒花の群生:

« 首都高速道路500円通行の正義 第15回/もう愚痴はいうまい | トップページ | ホームレス自らを語る/美人の妻に逃げられ暗転・丸山隆一(五二歳) »