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鎌田慧の現代を斬る/悪魔の物質が日本を侵す

■月刊「記録」1998年6月号掲載記事(表記は掲載当時のままです)

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■平和利用技術が原爆に

 五月一二日、二四年ぶりにインドが核実験を再開した。米国・ロシア・中国・イギリス・フランス五ヶ国による核爆弾の独占体制は、この事件によって大きく揺らいだことになる。事件後、核保有国である五大国は一斉にインドを批判。一九七〇年に発行された核拡散防止条約(NPT)体制の崩壊が叫ばれている。
 しかし、この事件の背景としてもう一つ重要なのは、核保有国である五大国自身が核爆弾や核兵器の縮小にさほど熱意をしめしていない現実だ。冷戦が終わり緊張緩和の時代となったにも関わらず、九六年一月にはフランスが核実験をおこない、現在でも米国などは爆発を必要としない核実験・臨界前実験を続けている。こういった五大国の静かな核開発と、核保有を狙う諸各国の開発競争が核戦争の危機をさらに高めることはまちがいない。実際、インドの隣国パキスタンでも、核実験実施の動きがある。
 じつはこのパキスタンの核開発には、中国の原発技術が大きく影響しているといわれている。パキスタンの核研究施設で生産している濃縮ウランは、「平和利用」の代名詞を使い中国の原発技術が造りだした代物なのだ。 いうまでもなく原発は原爆の商業利用である。つまり、人殺しの技術を商売に転用するかたちで発展してきたのだ。その原発と原爆の関係は、核保有五大国がいずれも早期から原発を抱えていた国であり、イギリス・フランスにいたっては再処理によって、大量のプルトニウムを生産していることからも確認できよう。原発技術はいつでも原爆製造技術に転化しうるのである。
 そうなると、気になるのが日本の動向だ。
 再処理を終え、フランスからぞくぞくともどってきているプルトニウムは、国内にたまりだした。だから、日本が核爆弾をつくるのではないかという、アジア各国の疑念は晴れることはない。
 本来、再処理工場で発生したプルトニウムは、増殖炉や転換炉で使う方針だった。しかし増殖炉構想がもんじゅの事故によって事実上破綻したため、今後はプルトニウムが大量に余りつづけることになる。対策として福井県の原発地帯を手はじめに、MOX燃料を使う方針が打ちだされた。これはプルサーマル計画といわれるもので、プルトニウムとウランの混合酸化物燃料(MOX燃料)を、いまの原発施設で燃やす方法だ。だがこの急場しのぎの方法には、安全性に関する保障がまったくとれない。
 結局、原発を動かし再処理を続けようとする限り、日本は増え続けるプルトニウムの利用方法に悩まされ続けられることになる。そしてプルトニウムが余りつづければ、将来、憲法改悪とセットになって原爆製造という悪魔の道に迷い込む可能性さえある。インドやパキスタン、イスラエルなど、核開発を目指している国を批判するだけでなく、自分の問題として考える段階に日本もきているということだ。

■核廃棄物問題を知らない原発旗振り役

 だが問題は、プルトニウムの扱いだけにとどまらない。
 原発の使用済み燃料は、高レベル放射性廃棄物として、青森県六ヶ所村へはこばれている。ここでは、二〇〇三年の操業にむけ再処理工場が建設されている。高レベル放射性廃棄物の最終処分地は、いまだに決定されず、六ヶ所村にしても、一時的に受け入れているだけである。
 最終処分地をどこかにつくりあげようと、政府はあせっている。北海道の幌延町には「深地層試験場」なるものを建設し、そこでの実験を突破口に最終処分地に選定しようとしたが、住民の反対が強く、ことしの二月には科学技術庁が白紙撤回を打ちださざるを得なくなった。岐阜県の土岐市にも同様の施設が計画され、最終処分場としての疑惑がもたれている。しかし、これもさほど計画が進展しているわけではない。
 また先述したプルサーマル計画によって、またまた発生する廃棄物をどこに捨てるのかという問題も、今後の大きな課題になる。福井県などは廃棄を了承したようだが、捨てる場所さえ決まっていないのに了承するなど無責任もはなはだしい。
 そんな状況のなか、電気事業連合会(電事連)会長の荒木浩会長が、原子力委員会の懇談会で発言した内容が新聞に報道され、読むものを唖然とさせた(四月二五日『朝日新聞』)。
 荒木会長は原発推進の代表者でもあるが、なんと「電気事業者でありながら、こんなに大変な問題であることをはじめて知った」と、高レベル放射性廃棄物の問題について語ったという。そのうえ「原子力を始めた当初、(高レベル放射性廃棄物は)一生使っても、豆粒一つぐらいと思っていた」と言ってのけたというのだ。こんな程度の認識しかない男が、原子力推進の旗振りをし、日本を核汚染列島にしようとしているのだから、お粗末というだけでは済まされない。この無責任さは糾弾されるべきである。
 彼はさらに「もう少し国民に(原子力についての的確な)情報を発信してほしい」と国に要望したというが、原発反対運動では放射性廃棄物の問題を数十年も前から批判してきた。この発言によって、彼が反対意見にまったくきく耳をもたなかった事実も明らかになった。
 さらに、この日の懇談会では、これまでの方針のように廃棄物は地下数百メートルの地中層に埋めることを合意したほかに、「発生者負担の原則」から電気事業者と民間主体の組織が処分を担うことも合意されたという。これは最終的に電力会社そのものが核廃棄物の責任をもつのではなく、民間下請け企業に処分を任せるといった無責任な方針の決定を意味する。人類にもっとも危険な高レベル放射性廃棄物を、これほどいいかげに扱うとは呆れるほかない。

■原発1つで霞ヶ関ビル3個分

 では低レベルの廃棄物について処理方法がきちんと決まっているのかといえば、これまたいいかげんことのうえない。
 三月三一日に運転が停止され、解体が決まった茨城県東海村の原発は、日本における廃炉時代の先駆けともいえるものだ。だが、この一六万六千キロワットの小型原発でさえ、解体されれば、霞ヶ関ビル三個分の鉄骨コンクリートの廃棄物に変わるという。
 現在稼働している原発の多くは、この一〇倍にあたる、百十万数キロワットの発電量を誇るマンモス原発である。これを廃炉にした場合には、なんと確実に霞ヶ関ビル一〇個分以上の廃棄物となる。つまりこれから廃炉時代が進むにつれて、使用済み核燃料以外にも、膨大な核汚染物質が発生することになるのである。もちろんその始末の仕方も決まっているはずがない。高レベル廃棄物の回収処分地も決まっておらず、廃炉による廃材の処分も決まっていないのにもかかわらず、政府はいまだに原発の建設を増進しようとしている。
 四月二五日の『朝日新聞』の記事によれば、通産省・資源エネルギー庁は、二〇一〇年度までに二一基の原発増設が必要だとほざいている。そうしなければ、温室効果ガス削減の国際公約達成のため、エネルギーの使用削減が強制的におこなわれるようになるため、国内総生産(GDP)が押し下げられ、七三~二二五万人の失業者が発生すると脅迫している。
 この不況時代にさらに失業がでるぞと脅し、原発誘導にむけようとはまさしく火事場泥棒。原発にたいしての反対世論が強まり、打つ手がなくなった通産省・資源エネルギー庁の姑息なやり方がよく表れている。
 だいたい「二〇一〇年までに二一基の原発を建設する」といった数字は尋常ではない。現在、日本では一八ヶ所、五二基の原発が建設されている。これらは国内初の商業炉である東海原発の運転開始から現在まで、三二年間に建設されたものだ。一二年間で二一基という計画がどれほど強引かわかるだろう。
 じつは二酸化炭素の削減を名目にした、原発関係者の原発増設へむけての巻き返しは、日本のだけのことではない。米国でも平均寿命を四〇年としていた原発を、さらに一〇~二〇年稼働させるという恐るべき方針を打ちだしている。
 しかし、考えてみるがいい。地球温暖化という危機的現象を、もっとも危険な原発によってくいとめようという発想が、そもそも主客転倒している。人類がいま問われているのは、エネルギーの消費をどういう形で少なくし、どのような文明を創造していくべきかという選択の方法なのである。まず、今後もエネルギー需要が伸び続けることを前提にしているという、恐ろしく時代遅れな発想は根本から間違っている。エネルギー需要や産業高率だけを視野に入れた主張では、もはや誰も納得しない。

■安全性よりフル操業

 ところが原発関係者は、時代の必然ともいえる意識改革の必要性に気づいていない。その典型例が、原発における定期検査期間の短縮だ。これは稼働率を引き上げるために、定期検査による炉の休止期間を短くするというというものである。この方針により、福井県内の原発は前年度より二・四ヶ月も短縮されてた。つまり安全性よりもフル操業を選んだわけだ。
 たしかに最近、わずかながら原発の事故件数が減っている。だが原子炉を停止するほど大規模な重大事故も、全国で一二件も起こっているのである。もっと細かな事故をふくめると、福井県内の一四基だけをみても二一件にものぼるという。もんじゅは運転中止となり、ふげんは七件もの事故が発生し、敦賀原発一号機が三件、大飯発の二号・四号基でも二件ずつ事故が起こっている。このような状況で、検査日数を減らすのは自殺行為である。

■自衛隊の武器使用まで

 原発が破壊するのは、自然環境だけではない。地域の環境までも大きく変えてしまうのである。
 現在、原発周辺でよく聞かれるのは、原発の所在地付近で厳戒体制がとられていることだ。監視カメラやセンサー、警備員が大量に配置され、その結果、住民情報が原発サイドに徹底的に収集されているという。地域住民の反原発運動の高まりを警戒してのことである。
 一方で、住民の意識をうまく利用しようとする人物も現れている。ことし三月、使用済み核燃料の搬入おこなわれた青森県では、県知事の木村守男が橋本龍太郎首相に面会を要請した。このパフォーマンスは大いに話題になったが、二人が原発にたいしてどのような意見を交換したのかは、明らかにされていない。原発や再処理工場の建設、あるいは高レベルの廃棄物の搬入について、木村知事は反対を表明したことがない。そして首相の考えていることは、原発に関わる問題を既成事実化することだけだ。皮肉なことに、このパフォーマンスで明らかになったのは、強行手段を用いなければ、原発問題について首相が地元の知事と話し合うことさえありえないという現実だけだった。
 さらにもっと悪質な形で原発を利用しようという輩もいる。
 フランスから日本までのプルトニウム運搬は、以前から核ジャックが懸念され、運送護衛手段の強化が世界各国から要請されていた。現在、日本では海上保安庁が防衛にあたっているが、最近、政府内には自衛隊を活用する方針が検討され、武器使用まで確定されようとしている。警備会社や警察力では対応できないといういい方によって、自衛隊の治安出動への道がひらかれようとしているのだ。
 結局、原発は造れば造るほど、処理不能な高レベル廃棄物を発生させ、廃炉も増え、日本を放射漬けにする。そして厳戒国家となる。そればかりか各国からは核兵器製造の疑惑をかけられ、対策としてプルトニウムを燃料化すれば新たな危険を生む。そのうえ地域環境を壊し、国内の軍事態勢の強化までも導きかねない。これがどんづまりにきた、悪魔の物質「核」をとりまく現実なのである。 (■談)

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