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鎌田慧の現代を斬る/ご都合主義政権なクビ切りにはダンコ抵抗を!

■月刊「記録」1998年5月号掲載記事(表記は記載当時のままです)

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■将来を暗示する三人の社長の自殺

 新年度を迎えたが、日本経済は土壇場になっている。昨年度の倒産件数は一万七千四三九件に、負債総額も一五兆一千二〇三億円にも達し、戦後最悪だった前年度を六五%も上回った。大型倒産の予想記事などが週刊誌などでもしきりに掲載されているように、依然として暗い見通しにあるのに変わりはない。
 ことしの二月二六日、国立市のホテルで三人の社長が心中するという事件が発生した。これから日本各地で頻発するであろう悲劇の幕開けを感じさせる事件だった。 九六年六月期の決算において、三人の社長が経営する会社は六四億三千万円、二七億七千万円、一三億一千万円もの売上高をあげていた。金額を見てもらえばわかる通り、中堅の企業といえる。だが銀行の貸し渋りもあり、三人とも資金繰りに困って自殺していったのだ。一見、非常に特異な事件のように思えるが、よくよく見てみるとここには日本経済の将来が暗示されている。
 この事件の特徴は、自動車関連業種であったことと、三人がたがいに密接な取引関係にあったことである。好況をつづけてきた自動車業界にあって、三人はそれぞれ、車内装飾メーカー、その卸商、そして小売業者という関係にあった。しかも彼らは頻繁に会っている友人だったのだ。
 彼らは密接な取引関係にあったために、連鎖的な経済が一挙に崩壊していく。このもたれ合いは、日本の産業システムの縮図そのものだ。しかも、このような崩壊が、日本経済を長年ささえつづけてきた自動車産業で起こった事実は、経済全体の見通しに暗い影を投げかけている。
 なにも自殺などしなくともよかった。多くの人がそう考えたであろう。だが自分の身体を抵当にして保険金を貰う以外、自社の再建見通しがつかなかった事実は、いまの資本主義の根源的な矛盾をあらわしている。
 現在の不況は、橋本内閣の無責任・無能体制にある。彼らは調子に乗って財政改革などを旗印にした。年金を圧縮し、公共料金を上げ、医療費を上げ、税金を上げ、消費税を上げ、弱いものいじめを繰り返した。まさに人民殺しの経済政策だ。国民がカゼをひいている状態を知りながら、内閣は減税を止めるという形で布団をはいだのだ。結果、日本国民は四〇度以上の高熱にうなされ続けている。そんな状態に、いささか慌てたのか、ようやく今頃になって減税を含めた財政出動八兆円などを政府は発表した。だが、これも容態をずいぶんこじらせてからのハナ薬だ。
 これによって、またぞろ公共事業を増やすことになる。今の経済不安を解決するために、国の資金を使うことには反対しない。だが本当に国民のために使われるのかというと、疑問が残る。これまでの銀行の救済策とおなじような大企業救済策で、悪名高い公共事業の大幅復活で、財界寄りの政策でしかない。疲弊した国民生活を直接的に救済するには、どうすればいいのかといった方針がまったくみえない。不況を利用した財界救護策というしかない。
 橋本内閣のとんでもない経済政策として触れておかねばならないのは、こればかりではない。PKO(株価維持策)などは想像を絶するシロモノだ。この政策は株価を政府資金でつり上げようとするものだが、そもそも投機を目的とするバクチ的な株式市場に政府資金をつぎ込むなど尋常のサタではない。

■まやかしの失業率

 総務庁の発表によれば、失業率は三・六%、完全失業者は前月より八万人多い二四六万人に達した。一九五三年の調査開始以来、最悪の数字である。
 もう少し細かく見てみると、男性の失業率は三・七%。女性は前月より〇・二ポイント悪化の三・四%となっている。まっ先にリストラの対象ともなる五五~六四歳の男性の失業率は六・二%である。さらに世帯単位でとらえた世帯主の失業率は、二・七%にまで上がっている。
 だが、この数字でさえまやかしなのである。かつて指摘したように日本の失業率は、完全に失業しているものと職業安定所を通じて求職しているものを基準に統計を取っている。そのため実質的には五%前後の失業率だと考えられている。パートタイマーも家内労働者もすべて就業者に入れている数字のマジックが存在する。このようなごまかしからも、政府が雇用危機をどう考えているかわかろうというものだ。
 産業別の就業者の統計も厳しい。前年比で製造業は六四万人が、建設業では一四万人が減少している。これだけ就業者が減りだすと、これからのリストラにたいする不安もあって庶民は財布の紐をきつく締める。その影響を受け、百貨店の売り上げも一年以上もの間、下がり続けている。このまま失業者の増大、消費の低迷、コストの下落という悪循環に陥れば、待っているのはデフレ経済である。
 五〇年前のアーサー・ミラーの作品『セールスマンの死』とおなじような状況が、日本のあちこちで起こりつつあるのだ。『セールスマンの死』は三〇年以上おなじ会社に勤めたセールスマンが、成績が悪くなったのを理由に解雇され、住宅ローンを保険金で払うために自殺する、という米国の悲劇だった。だがこの話は、対岸の火事ではない。それどころかもっと深刻な様相を呈しはじめている。
 九七年度の個人破産件数は七万一二九九件となり、前年の五万六四九四件をはるかに上回ったという報告がある。とくに住宅ローンを払いきれず破産する例は、あとを絶たない。
 不動産業者や銀行にそそのかされ、最高値で住宅を売りつけられ、無担保の融資に踊った庶民の傷は深い。家をもつような身分でもなかったのにもかかわらず自宅を構え、残業が減ったためローンが払えなくなっているケースが多い。生活水準に比べて基本給が決して高いとはいえない日本では、持ち家は残業で建てるほかない。ここにも世界一といわれた日本経済が隠しもつ貧弱さがある。
 ローンが払えなければ、家を売るしかない。だがこの不景気では売れるはずもない。結局、購入時の三分の一で競売されるといった悲劇が、無数に発生している。
 身分不相応な行動を起こしていたのは、個人だけにとどまらない。かつて金余りの日本企業は米国に進出し、米国内の不動産を買いまくった。ところが今や、日本の焦げ付いた担保物件が米国資本に買われるという逆流現象が起こっている。
 日本企業の進出は米国ばかりではなかった。アジアにも競って投資した。それが現在、大きな焦げ付きとなっている。結果どうなったかといえば、日本資本の「オーバープレゼンス」が問題になったインドネシア・タイなどの国で経済混乱が起こっているのである。アジア経済混乱を引き起こしたのは、やはり日本だったわけだ。かつての戦争とおなじような罪過を犯したことになる。
 思い返してみれば、バブル期は経営者も労働者も酒に酔っぱらったような状態だった。それをあおったのが銀行であり不動産屋であり、そこから多額の広告収入を得ていた新聞社なのだ。社会の木鐸といわる新聞の正体までがこれである。いま、必要なのは、批判的なジャーナリズムである。

■大量のリストラ予備軍

 不況を利用した極端なリストラも深刻である。
 現在、リストラ対象者は定年間近の就業者だけではない。三〇歳を過ぎればリストラの対象になる。『朝日新聞』三月二八日の朝刊には、最近の主なリストラが掲載されていたので抜き出してみた。このあとに発表されたリストラ計画も加えておいたので、眺めてみてほしい。 レナウンは五〇〇人の希望退職募集。新日軽は四〇〇人の希望退職募集。レナウンルックは二〇〇人の希望退職募集。吉富製薬は早期退職に一三二人が募集。サクラダは希望退職に一〇〇人弱が応募。鐘紡は早期退職制度などでグループ全体で一万八千九〇〇人を二〇〇〇年度に二千四〇〇人削減。全日本空輸は選択定年などで一万四千七〇〇人を二〇〇〇年度までに千人削減。大阪ガスは退職者補充の抑制などで一万二〇〇人を二〇一〇年までに二千二〇〇人削減。東急建設は出向などで四千九〇〇人を二〇〇〇年度までに九〇〇人削減。ジャパンエナジーは三千二五〇人を二〇〇一年までに七五〇人削減。ヤクルトは二千八〇〇人の従業員を二年間で三〇〇人削減。清水建設は九千人を三年間で千人削減。
 大手企業では千人規模のリストラが、当たり前のようにおこなわれようとしている。しかもこの表にはあらわれていない中小企業からこれ以上の大量の労働者が放出されるのだ。これでは庶民が消費を控えるのも当たり前である。
 もちろんリストラと同時に新規採用も減らされている。四月六日に『朝日新聞』朝刊が報じたところによれば、来春の新卒採用に関する主要企業二〇〇社を対象にしたアンケートにおいて、「『増やす』が二九社(一四・五%)、『減らす』が六六社(三三%)、『前年並』が六九社(三四・五%)、『未定』は三六社(一八%)だった。去年六月にまとめた今春の採用計画アンケート(対象百社)では、五三%が『増やす』と答え、『減らす』は一三%だった。対象数がちがうので、正確な比較はできないが、今回は採用抑制の傾向がはっきりとうかがえる」と書いている。企業は社員を欲していない。いつでもクビが切れ、人件費もかからない派遣労働者を望んでいる。ここに大きな問題がある。
 いま財界と労働者を御用学者と企業側ですすめているのが、労働基準法の改悪、労働者の総パート化、総アルバイター化である。能力賃金など、能力のないものは、「死ね」との分断政策である。

■組合意識も雲散霧消

 こういった不景気ほど労働組合にがんばってほしいのだが、相変わらず彼らはだらしがない。
 たとえば鉄鋼労使などは、二年間の賃上げを固定させる「隔年春闘」を打ち出した。来年もおなじ額の賃上げが保障されたとして、この制度を喜ぶむきもあるが、それが恒常化すると賃上げ闘争など消えてしまう。賃上げ闘争はたんに賃金を上げるばかりではない。労働運動の中心に位置する柱なのである。それが解体されてしまえば、もはや労働組合などまったく存在理由がなくなるだろう。
 いまや政府および経営者のやりたい放題が続いているが、それにたいするチェック機能はない。これが日本最大の悲劇である。現在、コミュニティーユニオンや管理職組合などが、個人個人の労働者の権利をかろうじて守っている。本来ならもっと大がかりに労働組合が対処すべきであろう。だが自分の身分の安定しか考えていない連合の幹部などには、そういった意識はまるでない。連合会長が経営者と同窓であり、おなじ様な身分であることが日本の労働運動の退廃を象徴的に物語っている。
 これから必要なのは、各現場でのクビ切りを認めず、失業者をこれ以上増やさないこと。失業者の闘争をつくり出していくこと。さらにはローンの破綻者の運動を形作ること。この三点だろう。
 現在噴出している資本主義の矛盾にたいして、もっと個別な現象から大胆な運動の提起が必要とされている。 (■談)

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