中央線自殺多発の真相・誰がどうして死んだのか
■自殺の状況に6つの特徴・自殺が映す現代の病理
JR東日本のまとめによれば、列車に30分以上遅れが出たケースに限っても、95年4月~今年1月末までに31件の自殺が起こっている。94年度が14件、93年度が13件だから、10ヶ月間で2倍以上の自殺者が出たことになる。さらに今年度上半期に起きた数を他の路線と比べても、中央線の自殺者は17件と、山手線5件、総武線4件、常磐線6件と比較しても際立っている。昨年11月30日には、中央線沿線の駅長が集まり都内4ヶ所で安全祈願のお払いを受けたほどだ。
原因も、「中央線の沿線の景観が他に比べて良い」「中央線が自殺の名所になってしまったから」など諸説入り乱れているものの決定打がない。JR東日本広報部も、「時間や場所に偏りはみられないので、たまたま起きたのではないでしょうか」と語り、中野警察署の担当も、「不思議だとしかいいようがない」と話す。だが、国立精神・衛生センター武蔵病院の医師であり自殺の研究者としても有名な吉川武彦氏に分析を依頼した結果、いくつかの特徴が見えてきた。
特徴① 同日・翌日に集中
まず事件の日付が重なっている。7月17日に3件、9月14日に2件、10月11日に1件起こった後、翌12日に2件、10月24日に2件、11月13・14日に1件づつ起こっている。1年間の集計にしては偏り過ぎてはいないか。全32件の37%にあたる12件が同じ日か、次の日に起こっているのだ(表1参照)。
[吉川氏分析]
このような現象は自殺では珍しくない。第1の自殺が次の自殺を誘発する。鉄道各社が人身事故の際に流す状況説明の社内放送も問題。自殺のあった駅のみならず、前線で何時間も放送されるため、自殺願望を持った人が誘発される可能性が高くなっている。
特徴② 高級イメージ
他の路線と違って、高級住宅街で総体的に高学歴・高収入の住民が多く住んでいる「中央線沿線」のもつハイソサエティーなイメージに憧れての場所設定である可能性も高い。
[吉川氏分析]
自殺をアピールの手段として使う「アピール自殺」のケースでは、場所の設定が重要な要素となる。「ここに住みたい。この場所で一生を終えたい」と思う場所を選ぶ場合は多い。
特徴③ 多くが沿線住民
受験エリートである高学歴・高収入者の精神的な危機が感じ取られる。自殺者は社会現象に敏感に反応するもので、高学歴・高収入者が持つ閉塞感が、かなり広まっていることを示している。
オウム真理教信者が次々と逮捕されるなかで、どうしてこれだけ高学歴の学生がだまされたのかと話題になったが、実は彼れのような立場の悩みは深い。高学歴を取得するために、受験戦争を、さらに就職活動を乗り切る。そのような人が自分の人生を振り替える年齢になった時、受験能力だけを身につけてきたのではないか、自分はからっぽではではないか、人生の選択は正しかったのかと悩む。本当の意味での知力が育っていないため自信が持てない。そんな空虚さが自殺やオウム真理教のような存在を必要とする。
特徴④ 「飛び込み」に集中
中央線は三鷹より東側が高架になっており、11月までの自殺集計を参考にすれば、三鷹以東の自殺者の70%以上がホームから飛び込んでいる。
[吉川氏分析]
忘れがちだが、列車への飛び込みが自殺の方法としてポピュラーである。表2でわかるように、駅構内と鉄道路線での自殺数を加えると年間1100件以上起こっている。思い悩んでいる人にとってたいした準備もなくいきなり死ねる鉄道は、格好の死に場所となってしまうのだ。
特徴⑤ 帰宅時のラッシュアワー
帰宅時のラッシュと重なる時間に自殺者が多い
[吉川氏分析]
自殺は夜と明け方に多いといわれているため、電車の動いている時間を考えると、夜が多いのは頷けるが、それ以外に家庭に帰りたくなくなった人が自殺したと考えられる。
踏切や路線には行って死ぬ場合はともかく、駅から飛び込む人は決断に要する時間は短い。死にたいと思っている人が、駅の外で自殺を決断し、わざわざ切符を買って飛び込むとは思えない。
とすれば通勤通学で中央線を使っている人、中央線を使って目的もなく移動していた人が、家に帰る緊張感に耐えかねて発作的に自殺した可能性は大いにある。高学歴・高収入のために働いてきた者が、自分の空虚さに気付いた時、家庭は自分にとって重荷になっていくのではないだろうか。
特徴⑥ 若年層の高比率
自殺者のうち8人が20歳代の若者だ。比率でみると全体の25%にも及んでいる。1985年前後から全国で起こった30歳未満13%前後を推移している。この数字から比べると、25%は少し多い(グラフ1参照)。
[吉川氏分析]
自殺は常にマイナスイメージだけでとらえられるが、実は自閉症気味の人より治療は簡単だ。それは自殺をする人が、自閉症ぎみの人より行動力を持っていることに起因する。自殺をするには、かなりの勇気と行動力が必要となる。だから自殺未遂者が立ち直り、行動力や勇気がプラスの方向に転化すれば大きく成長する。このように考えると中央線沿線の20歳代の若者は全国平均より多少骨のある若者といえるかもしれない。
■「メディア影響」は過大評価
最近、「自殺に関する報道が自殺願望者を刺激する」とよくいわれるが、今回の中央線自殺の増加については、マスコミ報道は一切関係がない。最初に新聞に大きく取りあげられたのが、10月17日の読売新聞。ついで10月23日朝日新聞が掲載し、おはらいの話が記事になったのが12月1日だ。また1番早く掲載した週刊誌も11月5日であることを考えると、自殺が収束に向かっている段階でマスメディアをにぎわせていたことがわかる。(表1参照)
JR東日本広報課は、「自殺を抑制するために、報道機関に記事を掲載してもらった」と語る。自殺者に共通する危機感を分析し、取り除く環境を作ることこそが重要だ。
[吉川氏分析]
マスメディアの報道が直接自殺を誘発するわけではないということだろう。短期的には情報が自殺を誘発することはあるが長期的にみるとあまり影響はないと考えている。マスメディアに対して情報の自己規制を求める動きもあるが、マスメディアに対して情報の自己規制を求める動きもあるが、あおりたてるような興味本位のものはともかく、情報コントロールを行うことは、長い目で見ると危険だ。
■すでにピークは越えた
実は7~11月の5ヶ月間で中央線自殺のピークは終わった。悪夢の再来はないのか。
[吉川氏分析]
自殺の方法や場所が長期間はやり続けることはまずない。長くて半年、普通は3ヶ月ほどで流行は収束していく。単純に自殺に関する情報が増えたため、自殺が急増するものでもない。
1986年、アイドル歌手の岡田有希子が所属プロダクションの入ったビルから飛び降り自殺をした時、確かに若年層の自殺が増加し、「ユッコシンドローム」として大きく騒がれたが、やはり3ヶ月~半年で後追い自殺も収まってしまった。有名な高島平団地の自殺も、新聞が100人目の自殺者の存在を報じたため、自殺者が高島平団地に集まったようだが、共用通路に柵を取り付け自殺ができないようになるとともに、他の場所でも高層マンションが増えるにつれて自殺はなくなっていった。
病気は、本人・病原・環境の3者の相関によって拡大するし収束もする。病原になるものをたたきつぶすことや病気が広がりやすい環境をかえることも大切だが、病気にかかりにくい人を増やすことが重要である。いま、公衆衛生はそこを目標にしている。予防の観点から自殺を考えると、自殺は病気ではないが、その意味でも、本人の「こころの健康」こそ重視されなければならないし、抜本的解決にならない。
これでも自殺しますか 藪内繁樹(鉄道整備士)
肌色のミンチ
事故を起こした車両は、事故後2~3日して整備所に送られてくる。初めて事故車両を見たときは、「こんなものかな」といった印象だった。血糊がべっとり付いているわけでもなく、車両のへこみも自動車事故ほどではない。人を1人はねたにしては、大きな痕跡が残っていない。ところが車輪の下に整備を始めて、事故の悲惨さを知った。
車輪と車輪周辺部の機械に肌色をした小さな物体が無数に付いている。赤味はなく、まるでささみのミンチのようだ。最初人間の肉だとは思わなかった。その時は車両正面にぶつかってはね飛ばされた状況ではなく、線路に寝ている人を巻き込んでしまったため、肉片は4両目まで飛び散っていた。機械故障の原因となる肉片は丁寧に取り除かれる。しかしミンチ状の肉片を集めても、どの部分の肉なのかさえわからなかった。
■生首がゴロン
事故そのものが近くで起こり、おもしろ半分に見に行ったこともある。線路の周りには警察や社員が、ゴミ袋を持って歩き回っている。人によっては線路から10mも離れた場所を動き回っているのだ。何をしているのかと思って近寄ると、隣の警察官のゴミ袋から生首が転げ落ちた。見に来たことを後悔したがもう遅い、目に焼き付いて生首が脳裏から離れなかった。それ以来、事故現場に足を運ぶ気持ちは起きなくなった。
さらに気の毒なのは、自殺者をひいてしまった運転手だ。電車はたいてい目視してからでは止まれない。飛び込んできた自向かって、即座にブレーキをかけるが手の打ちようもなく、姿を確認しながらひいてしまう。さらに事故後は、警察に呼ばれ事故の様子を再確認しなければならない。私の知り合いの中には、自殺者をひいてノイローゼにかかった人もいる。
駅が近づくとブレーキをつい踏んでしまう。いつ人が飛び出してくるのか不安で、踏まずにはいられないという。もちろん運転手としては致命傷だ。特急や急行の運転がまったくできなくなったのだから…。
ひいてしまった遺族の方にも、賠償金がかせられるときく。遺体の状況もかなりむごいものだ。バラバラになった遺体を確認しなければならない親族の気持ちを考えると気が滅入る。
自殺者自身、親族、整備士、運転手、すべての人を不幸にする鉄道自殺は、何としても思いとどまってほしい。
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