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畳職人を怒らせたアース製薬・ダニには効かない?ダニアース

(月刊『記録』98年1月号掲載)

■畳をねらい打ち

 原因は一本のテレビコマーシャルだった。
 畳を丸くくり抜き、そこから顔を出す作家の野坂昭如氏。その異様な姿のまま「畳、畳、畳、ダニ、ダニ、ダニ」と連呼するCMは、97年六~8月の3ヵ月間、日本全国ほとんどの地域で放映された。アース製薬のダニ駆除剤・ダニアースの宣伝である。
 このCMについて、全日本畳組合連合会の今川喜三一事務局長は、「畳だけを標的にした広告ですからね。ダニの発生原因は不明なのに……。製薬会社にすれば、畳にダニがいると強調すれば宣伝しやすいのでしょう。アース製薬の薬害をたてにとって、訴訟でも起こそうかという意見までありましたよ」と怒りを隠さない。
 7月18日、その全日本畳組合連合会が行動を起こす。日本広告審査機構(JARO)に調査を依頼したのである。彼らの主張は、しごく簡単な内容だった。ダニの発生原因でもない畳を、ダニの温床といわんばかりに表現する広告が、畳のイメージをひどく傷つけていること。そして広告で示された畳内での薬剤散布範囲が誇大であること。根拠なくダニの温床であるとA級戦犯に仕立て上げられたのだから、畳業界の抗議はもっともだ。
 ところが、JAROはダニの発生と畳の関係に着目することなく、表現の自由を理由にアース製薬のCMにお墨付きを与えたのである。もちろんアース製薬へのおとがめはなかった。
「タレントが畳をかぶっていることで、畳の印象が強くなっています。しかし当該商品が畳やソファーでのダニ駆除剤であることを考えると表現に無理があるとは思えません。用途が特殊化されたものである以上、広告表現もその用途を明確に表現する必要に迫られることになります。(中略)薬剤の噴霧描写はイメージとはいえ、誇張され過ぎているようにも、見受けられます。この点に関しては何らかの改善をアース製薬にお願いしようと思います」。
 これがJAROの回答の要旨である。JAROによれば、ダニアースが畳用の駆除剤だから、畳はダニの温床だと表現してもいいらしい。しかも誇張された表現と認めても、改善を「お願いする」のが解決方法だという。
 表現の自由は絶対に尊重されるべきだが、それは本来弱者・少数者の権利を擁護するために考えられた概念である。いきなり全国のテレビCMで標的にされ、反論するメディアさえ持たない畳業界はどうすればいいのか。対抗手段を持たない映像の暴力を許さないのもJAROの大きな仕事のはずだが、状況改善を促すでもなかった。先述した今川氏も、「アース製薬から直接回答が来るわけでもなし。まったく役に立たなかった」と呆れ顔だ。

■誠意なき回答

 変わらない現状に業を煮やし、さらに強力な対抗策を打ち出したのは、新潟県畳業組合連合会だった。同連合会の浅井忠雄副理事長は、次のように語る。
「CMですから、製品を売り込むのは仕方がないと思っております。しかしそのCMによって消費者から誤解され、日本文化の象徴でもある畳に泥が塗られるのは許されません。放っておけば大企業は繰り返し攻撃をしてきます。だから直接抗議することにしたのです。
 アース製薬が抗議を無視するのが不安だったので、とりあえず弁護士に相談しました。すると『現在の日本は、弱者の声がまったく届かないまま攻撃をされ続けることが多すぎる。ぜひ、きちんとした抗議をアース製薬にしましょう』と、弁護士さんも意義に賛同してくれたのです。
 私達は正式な文章を作るために弁護士と相談を重ね、3週間かけて申し入れ書を作成しました」
 9月19日、新潟県畳業組合連合会が作成した申し入れ書は、アース製薬の社長宛に送りつけられた。主張は3点。
①薬剤の注入対象を畳だけにした理由を明確にすること。
②日本の情や文化を肯定的に描く作家を使い、日本の伝統的な畳のイメージをおとしめるような映像をことさらに放映した理由について説明すること。
③注入薬剤の残留に対する人体の影響について説明すること。
 申し入れ書を無視することなく、10月6日付でアース製薬は回答をよこした。しかしその回答は、誠意のかけらも見当たらないものであった。回答の一部をそのまま抜き出してみよう。
「この製品の最大の特徴であります畳注入用であることをアピールする必要があります。このためには、畳をCMに取り入れなければ、消費者にはこの製品の良さは伝わりません。当社としては、ダニアースが畳をいつまでも清潔に維持出来る便利な製品であればこそ、消費者に幅広くご使用頂いているものと考えております」
 これが①の質問に対する回答である。畳に注入する商品だから畳を攻撃させてもらうといったロジックは、ほとんどヤクザなみだ。
 ②に対する回答も素晴らしい。
  「一方では強烈な印象を与えると共に、他方ではユーモラスなCMではありますが簡単に害虫駆除処理の難しい畳であってもこの便利な製品を使用すれば、いつでも誰でも簡単に畳の害虫駆除処理ができることを、畳を用いて宣伝したのであります」
  「強烈な印象」と「ユーモラスな」作りが、そのまま畳のイメージを悪くしていることなど、はなから無視している。
 さらに③に対しては、ほとんどお役所回答で切り抜けている。
  「当社では、商品化にあたり前もって信頼出来る第三者の試験期間によって、安全性を確認しております。又、厚生省から医薬部外品として承認を取得しております」
 エイズ問題で血友病患者を塗炭の苦しみに陥れた厚生省の承認に、どれだけの価値があるのだろうか。さらに回答では実験結果を添付しないなど、安全性を証明する気など、これっぽっちも感じられない。
 前述の浅井さんも、「謝罪の言葉はまったくありませんからね。回答に納得しているわけではありません。企業姿勢としては当たり前なんでしょうが。
 まあ、抗議に対する回答が来たことで、われわれの姿勢は示せましたから、一歩前進でしょうか。もし、うちにアースと同等の予算があれば、ダニアースに対抗するCMを作ることも可能なんですがね」とつぶやいた。
 アース製薬もJAROも、畳への侮辱は表現の範囲内であるという。アース製薬にいたっては、「害虫駆除処理の難しい畳」がダニアースよって快適に使えると、ダニの駆除処理が畳で必要であるかのように答えている。本当だろうか?

■危険なのは絨毯だ

 一口にダニといっても、現在命名されているだけで世界で3万種、日本だけも約1500種もいる。もちろん種類によって、習性・住む場所・人間への被害などが変わる。屋内だけに限っても、かなりの種類のダニが生息している。ただし屋内で繁殖し、人に大きな被害を与えるダニは、おおよそ二種に絞られる。ぜんそくや鼻アレルギーを起こすヒョウヒダニと、人を刺すツメダニである。
 まず、ヒョウヒダニから説明しよう。
 ダニの権威として20冊以上の著作を持つ東京都立衛生研究所の吉川翠氏は、ダニがどれだけ増殖するのかは人間の生活の仕方が大きいと断ったうえで、次のように解説してくれた。
「アレルギー疾患に関していえば、一番危ないのが畳とじゅうたん、畳と花ござなどの床材の二枚重ね。次がじゅうたん・寝具そのもの。そして3番目に畳です。
 生きているダニの数を比べれば、畳の内部が最も多くなりますが、アレルギー反応を引き起こすヒョウヒダニの糞は、きめの細かい畳からは出てこられないのです。一方、表面にいるダニの数はじゅうたんが圧倒的。しかもじゅうたんの根本の部分は掃除がしにくいわりに、糞などは舞い上がりやすいのです。
 寝具もヒョウヒダニの好物であるフケやアカが多いため、食べ物を求めてダニが集まります。そして布団の内部で排泄された糞は、布団の移動で舞い上がるのです」
 絨毯の危険性を指摘するのは、ダニの専門家ばかりではない。アレルギーの原因の検査結果を伝える資料には、次のような記述がある。「ダニ数は板・畳・絨毯=1・10・100 床は板やリノリウムを用い、絨毯はできる限りやめる」。
 畳に以上にじゅうたんが危ないことは、ダニアレルギーを語る上ではすでに常識なのである。

■全ワラ畳は7%

 また、畳自体も以前とは大きく変わっている。
 1968年、東京都町田市の鶴川団地において、入居直後に畳から多量のケナガコナダニが発生し、マスコミをにぎわせた。この大量発生の原因は、湿気を逃がさない集合住宅の構造と、水分を含んだままのワラを使ったことによる。もちろん当時の畳は、い草の下にワラが使われていた。
 ところが現在使われている畳は、ほとんどワラが使われていないのである。すべてワラで作った畳の生産量はわずか7%であり、一部でもワラが使われている畳でさえ生産量の30%にしか満たない。残り63%の畳は、い草に下にホームポレスチレンという発泡スチロールのような石油製品を使っているのである。さすがにワラがなければ、ダニが住めるはずもない。さらに全国に出荷される畳の20%ほどがJIS規定を通っているため、たとえワラを使っていても、ダニが繁殖しにくい構造になっているのである。
 つまり畳のダニ問題は、かなり解決しつつあるのが現状なのだ。いくら畳に針を突き刺して薬剤を噴射しても、絨毯や寝具に注意を払わなければ、ダニアレルギーが改善されることはない。
 では、ツメダニに関してはどうだろうか。
 じゅうたんよりも湿度の高い畳は、じゅうたん以上に増殖する可能性が高い。だが先述した通り、畳の63%はワラを使っていない。そのため「ツメダニの数は減っている」と吉川氏も語っている。さらに重要なことは、たとえツメダニが発生しても、ダニアースでは増殖をくい止められないということだ。
「防虫シートの品質検査基準について」と題された資料が手元にある。これは95年7月、反農薬東京グループが起こした防虫加工紙の使用中止運動に対して、日本畳防虫紙工業会が作成したものだ。そこに興味深い表が掲載されている。コナダニ・ミナミツメダニ・コナヒョウヒダニ・ケナガコナダニの四種類のダニを、1グラム/㎡、10グラム/㎡の薬量でダニに接触させ、24時間後の致死率を調べたものだ。
 この表でダニアースの主成分であるピレスロイド系フェノトリンは、検査した七種類の薬剤の中で最も低い致死率を示している。例えば、1グラム/㎡の濃度で行われたコナヒョウヒダニに対する実験では、他のほとんどの薬剤が100%の致死率を示しているなか、堂々の35.7%。さらに、問題のミナミツメダニは既存の殺虫剤に対して極めて強い抵抗力を持っており、フェノトリンなど効くはずもない。この資料はツメダニに対する殺虫効果について、次のように書いている。
「(ダニを)10グラム/㎡という常識では考えられない薬量を含む残渣面に接触させても、有機燐剤、カーバメイト剤、ピレスロイド剤(アースの主要成分)のいずれも致死量がほとんど得られていないという、驚くべき結果が示されている」
 同じような実験で、ハエ・蚊が通常0.25グラム/㎡の濃度で死ぬことを考えれば、この実験のすさまじさがわかるだろう。吉川氏も、「直接ダニ吹き付けなければ、ピレスロイド系の殺虫剤ではツメダニは死ににくい」と語っている。

■薬は広がらない

 ダニアースが効かないのは、薬剤の効果が薄いからだけではない。この殺虫剤には決定的な欠陥がある。それは畳に薬剤が浸透しないことだ。写真①をみてほしい。
 これはダニアースの噴射口にインクを仕込み、畳の中でどれほど薬が広がるかを編集部で実験したものだ。ダニアースの説明書には「1ヶ所に3秒の割合で」と書いてあったが、親切心で6秒噴射を3回繰り返した。結果は6センチ四方、高さ1.2センチに広がっただけ。これでどうやって畳のダニを駆除するつもりなのか。ダニは危険を察知すると、畳の下へ下へと逃げていく。針は畳の底まで届かないのだから、畳を上げて下から針を刺さなければ、逃げたダニは殺せない。
 たとえ底のダニを無視したとしても問題は残る。ダニアースの使用説明には、「1畳につき6ヵ所以上に注入噴射してください」と書いてあるが、全国的に使われている畳一畳は、88センチ×176センチもの大きさなのだ。6センチ四方しか広まらないダニアースを畳全体に注入するには、なんと430回も針を打たなければならない。ほとんど百人針の世界である。
 じつは畳に薬剤を浸透させようという実験は、他のメーカーでも行われていた。大手家庭品メーカーの花王は、畳に効く界面活性剤の開発に失敗したと伝えられている。良識的なメーカーであれば、薬剤が浸透しないなら商品化などあきらめるものだ。
 それだけではない。ダニアースにはまだ問題がある。
 ワラの代わりにホームポリエスチレンが使われている場合、薬剤の噴霧によってホームポレスチレンが熔けてしまうのだ。外から見ても、ワラなのかホームポレスチレンなのか素人にはわからないので防ぎようもない。「足で踏むとわかるほど、ホームポレスチレンが熔けてしまった例もあります。処置なしです」と、今川事務局長も語る。
 いったいアースは何様のつもりなのか。ダニの主要原因に言及せず、消費者の不安をあおり、効力のない殺虫剤を売りつけ、なおかつ畳を壊す。経営姿勢に大きな問題があるとしか思えない。

■気にくわなければ圧力

 じつは取材の過程で知り合った薬剤の関係者が、誌面に一切名前を掲載しないことを条件に、アース製薬にまつわる思い出を語ってくれた。
「かつてアース製薬の薬が効かないということを講演で話してしまったことがあるんです。それがアースの耳に入ったのか、その後の講演会では、アースの社員らしき人が講演を邪魔するような質問を繰り返しました。しかも講演の場所が決まると、所属する大学にアースから電話がかかり、講演中止を求めたりするのです」
 まだある。取材の過程で、編集部はダニアース以外の製品にもごまかしがあることを知った。
 殺虫成分を煙とともに発生させる加熱蒸散殺虫剤・アースレッドWの説明書には、イエダニに有効と書かれている。ところが、この表現がくせ者なのだ。消費者の多くはダニの種類など多くは知らなくて当然だから「イエダニ」といわれれば家の中にいるダニの多くを連想するであろう。
 ところが、学術的な意味での「イエダニ」とはネズミに寄生するダニの一種に過ぎない。イエダニはネズミが天井を歩くため、主に天井などに生息する。つまり殺虫成分が上に昇るアースレッドWは、たしかにイエダニを殺す。ところが人への被害の大きいヒョウヒダニやツメダニなどへの効果はほとんどないのだ。結果的に消費者は予想の範囲を大きく下回った効力しか発揮しない薬剤を買わされることとなる。
 さらに94年2月、アース製薬が企画し、学習研究社が作成した高校家庭科ビデオの台本には、「畳の部屋でのダニの大量発生を防ぐためには、畳の内部に住むダニを駆除することが大切です。畳の内部のダニ駆除には、エアゾール状の薬剤を使います」と書かれている。効かない薬が高校の教材にまで使われていることには、驚かざるを得ない。
 先述した吉川氏は、「1年を通じて被害の出るダニを、殺虫剤で退治するのは限界があります。まず屋内湿度を低くし、身の回りをきれいにすることから始めてください」と、ダニの対策法をアドバイスしてくれた。
 効力のない薬を撒き散らすなど、ナンセンスもこの上ないのである。

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コメント

アース製薬のCMは、食事の時間帯にもお構いなしに、ゴキブリやダニのリアルなCGを出して、気が利かないというか、恐怖心を煽っているというか、変な圧力だなぁと思ってましたが、一言で言えば、やはりオカシナ会社なんですね…。

投稿: | 2008年10月24日 (金) 10時01分

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