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鎌田慧の現代を斬る/ヤラズボッタクリ介護法成立に怒る

■月刊「記録」1998年1月号掲載記事 (表記は掲載当時のままです)

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■無能無策の労働組合

 不況のうちに新年を迎えた。残念ながら、社会状況はこれからますます厳しくなりそうである。山一証券に代表されるような大型倒産続出の影響は、じわじわと日本社会に浸透していきそうだ。これらは放漫経営によるツケが労働者にまわされたものだが、最大の問題は、労働組合が完全に御用化し、なんの機能も果たしていなかったことである。
 倒産の当日まで、労働組合の幹部がまったく情報をもっていないのは信じがたい。これは経営にたいするチェック機能をもつはずの労組が、なにもしていないことを如実に物語るものだ。企業にたいするYESマンだけで執行部を形成しているから、倒産にたいしてもなんの手も打てない。さらに社員の行く末についてなんの責任ももてない状態にある。銀行・証券の経営危機につづいて、これからはゼネコンの倒産が深刻化するといわれている。すでに闇の存在である外国人労働者の解雇は、急速に進んでいる。力の弱い企業からどんどん整理されていくであろう。そんな状況で労組がまったく役立たないのは、労働者にとっての悲劇といえる。
 また倒産の憂き目をみなくとも、かなりの数の社員がリストラによって会社の外に放りだされ、派遣社員やパートタイマーに代わろうとしている。日本百貨店協会の調べによれば、九二年をピークに社員数は減少している。たとえば、九六年度一〇%だったパート比率は、九九年度には倍の二〇%になると見込まれている。これらは本社員を中心とした労働組合が、組合最大の眼目である雇用さえ守れなくなったのをしめしている。組合費を払っている組合員を守れないのでは、なんのための組合費だかわからない。
 経営者のいうがままの労働組合に破綻が生じているのは、予想された事態である。同様に国を信じきっている国民もまた、ますますひどい目に遭うことが予想される。その典型的な例が、一二月九日に成立した「介護保険法」である。
 これは強権・自民党と腰巾着・社民党などによって強行された法律だが、一口でいえば「福祉」の名を借りたヤラズボッタクリ法である。大衆収奪の極端な例だ。訳のわからない評論家の一人である樋口恵子などは、「問題が多いが条件付き推進派」などといっているが、この法案の本質をわかっているのだろうか。たしかに福祉の問題は、彼女がいうように社会全体で考える段階に入っているが、なにもボッタクリ法案に賛成する道理などない。
 高齢化社会をまじかに控え、老後の介護をどうするかは国民的な課題である。まして社会福祉の遅れている日本は、その制度の充実が期待されている。その国民の不安と期待に乗るような形で同法案を成立させたのは、極めて罪が深い。
 まずこの法案は、実施時の状況がまったく考慮されていない。この法案は二〇〇〇年四月から運用されるが、このとき保険料が一人当たりどれぐらいになるのか、さらにその保険によってどのようなサービスを受け入れるのかが明らかになっていないのである。
 具体的にいうと、二〇〇〇年四月以降に四〇歳以上のものは、加入する医療保険に応じて数千円の掛け金を強制的に払わされる。しかしサービスを受ける権利をもつ六五歳以上のうち、どれだけの人間がサービスを受けられるのかが決まっていないのである。保険料を払っているのにサービスは受けられないという「国家的詐欺(自民党議員)」(朝日新聞・一二月一〇日号)という声まである始末だ。
 そもそもこの法案は、汚職官僚・岡光序治が始めた「新ゴールドプラン」に乗ったいい加減なものである。具体的な内容が決まらないうちに、国民の金を収奪する方法だけが国会を通過したのには、驚かざるを得ない。

■7つの問題点

 介護保険の問題点については、東京都の武蔵野市が簡明にしてわかり易いパンフレット作成し、各戸に配布している。タイトルは「介護保険について、もう一度考えてみましょう。まだ間に合います。保険者とされる武蔵野市からの提言」である。
 ここで述べられている項目は次のようなものである。「一・保険あって介護なし、二・コンピュータによる介護認定は正しいか、三・困った時にサービスが受けられるか、四・選択されてしまう被保険者、五・知られていない被保険者負担、六・厚生省がすべてを管理する中央集権の制度、七・二〇〇〇億円の無駄な事務費」。これらの提言は、法案の本質をみごとに突いている。保険者(実施者)としての自治体が、住民の福祉のために体を張ってこの法案を阻止しようとする姿勢はすばらしい。 まず「保険あって介護なし」という批判については、「介護保険は、はたして、医療保険とおなじように、『いつでも、どこでも、だれでも』必要な時に必要な介護を受けられるような制度となるのでしょうか」と設問している。現在、多くの地域では介護の基板が整っていないためにサービスを供給できない状況にある。この未整備な体制の上に介護保険が導入されれば、介護サービスを受けられない市民が大量に生まれ、地域社会が大いに混乱すると武蔵野市は分析している。
 これは労働災害保険の例からみても、正しい予想だ。 現在、過労死や過労による自殺などを労働災害として申請しても、ほとんど棄却される。保険の認定が官僚の判断によると、不服申し立て申請をしても、なかなかラチがあかないのである。これこそ日本社会における長年の悪弊である。
 それだけではない。労災保険によって徴収された資金は、労働省官僚の経費として使用されているのだ。労働省のさまざまな施設が厳しい審査もなく作られるが、肝心の被災労働者への支払いは極めて姑息に制御されている。介護保険が労災の二の舞になることは、間違いない。

■保険料を払っても介護されない?

 次に武蔵野市が指摘しているのは、「要介護」「要支援」のコンピュータによる判定である。というのも介護を認めないための言い訳として、この判定を使う懸念があるからだ。
 だいたい人間の諸症状が、コンピュータや一律の基準によって「要介護」「要支援」などと判定できるのだろうか。この法案に賛成している人は、医療保険とおなじように考えている。保険証があれば、全国どこでも、だれでも、病院で治療が受けられる制度と混同しているのである。だが実際の介護保険は、介護を要するかどうかを調査員の訪問調査ののち、コンピュータでの処理・判断をさせるという。介護の要請者にたいして、膨大な却下を発生させ、「コンピュータによる基準がありますので」と要請者を締め出す可能性は高い。さらに幸運にして厳しい医療介護認定をくぐり抜けても、一律のサービスが支給され、個人の状況に応じたきめ細かい対策にはなりそうもない。
 しかも四〇歳以上、六五歳未満の人はほとんど無条件に給付されないのである。たとえば交通事故で要介護になっても、対象とはならない。いったいどんな人を介護しようとしているか、さっぱり実態がみえてこない。
 さらに最大の問題が、この法案に隠されている。それは救うべき弱者を切り捨てるシステムが内蔵されていることだ。
 まず保険料の問題がある。保険料は所得別に五段階に分けられているのだが、最低で月額一二五〇円、最高で三七五〇円の定額保険料となっている。しかも導入後はアップが確実で、二〇一〇年には平均で三六〇〇円になると見込まれている。
 先ほども述べたように、これだけ保険料を払っても認定を受けなければ介護を受けられない。さらに介護を受けるために、利用者はサービスの一〇%を負担しなければならないのである。たとえば月三〇万円のサービスを受けたとしたら、その老人は月三万円を支払わなければならなくなる。たとえば年金で月四万円ほど貰っている老人は、保険料と負担料で年金のすべてが国家に巻き上げられてしまう。となれば食べるために、介護をあきらめることになろう。
 一〇%もの負担は低所得者にとって、極めて重い負担だ。これによって、タダ掛けポイ捨ての弱者が多数発生する。しかも介護には保険外負担もあるのだ。それを全額自己負担できる人が、日本にどれほどいるだろうか。今までか細い社会福祉制度でかろうじて支えられてきた人も、保険料・利用者負担・保険外負担によって、受給から排除されることになる。
 あたかも社会福祉を充実させるようなポーズを取りながら、生活最底辺層の経費に国家が手を突っ込み、収奪してポイする法案が許されて良いはずはない。
 もちろん自治体としての問題もある。この法案は、厚生省によって実施するため、市町村にはほとんど実質的な権限があたえられていない。結局、「機関委任事務」が新たにふえたことになる。地方主権が叫ばれているなか、時代に逆行した政策が大手を振って成立したのだ。 このように国民生活に重大な影響をおよぼす新たな制度が、討論のないままに国会を通過し、国民が衆知することなく実施される。しかも社会保険料から天引きされるという最悪のパターンが決定している。これは国民の基本的な人権を剥奪するファシズム的な政策そのものだ。

■国家的火事場泥棒の時代になった

 武蔵野市が先ほど述べたようなパンフレットを作成したのは、保険者(実施者)としての現実的な不安によるものである。土屋正忠市長は、保険料未納者には市がペナルティーを課さなければならなくなると語る。なぜなら未納者が増えると保険が成立しなくなり、市の一般財源をもち出さなければならなくなるからだ。さらに医療介護状態にたいする認定でも、市に不服申し立てが続出するという不安を表明している。コミュニティで支えていく福祉の実践に挑戦してきたからこその言葉には重みがある。
 武蔵野市は介護保険法案に代わる方法として、「高齢者の自立支援・介護は全国民の連帯で支えるため、消費税賦課方式より介護財源を確保する」ことを提唱している。これは消費税方式で徴収された税金が市町村に配分され、市町村が独自のサービスを加えて提供できるように求めたものだ。
 国家がすべての金を握っている中央集権制度とは、またちがった方式である。中央が画策したヤラズボッタクリの大衆収奪法を排除するのに必要なのは、地方自治と住民の連帯による新たな福祉制度の創設であろう。一律に中央がコントロールすべきものではない。さまざまな方法によって介護は行われるべきである。
 介護問題を解決するには、個人の生活を防御する社会福祉政策をどのように充実させていくのか、そのような本質から考えるべきである。高齢化社会における介護不安を呼び水に、不安解消のかけ声で惑わせ、一挙に成立した火事場泥棒的な決定は混乱を招くだけである。それぞれの地域で生きる人の思いを含んだ政策が望まれる。ここで強調したいのは、抵抗しなければ、なにをされるかわからない時代に入ったということだ。 (■談)

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