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O-157事件・カイワレ大根は無罪だ!/大阪府・南野農園激白

■月刊『記録』96年9月号掲載記事

(南野芳則……1969年7月号生まれ。大阪農業大学校を卒業後、南野農園を受け継ぐ。)

■騒動は96年7月24に始まった

「ウチ、ちゃうやんか」。
 8月7日の管直人厚生大臣の記者会見で指摘された農園の特徴は、うちとはまったく違っていた。ところが「大阪府内の特定の栽培業者が納入したカイワレ大根が原因である可能性が否定できない」と、管厚相が発言したことにより、うちは病原性大腸菌O-157の感染源にされた。
 騒動の発端は7月日だった。保健所職員に「老人ホームの給食のメニューに、おたくのカイワレ大根が入っているので、とりあえず検査させてください」と訪ねてきたのだ。その時は「堺市もえらいことになっているな」と、農園がおおごとになるなんて思ってもいなかった。その日、保健所は栽培中のカイワレ大根から種子、生育に使う井戸水、排水までを持ち帰り検査した。8月2日には、「O-157はまったく発見されなかった」と結果が出て、感染したみなさんには申し訳ない言い方になるが、ほっとひと安心した。そんな中で出されたのが、8月7日の原因究明調査の中間報告だった。

■どこに牛がおるんや

 記者会見の始まる分前には保健所から、「どうやら厚生省からO-157の感染源に対する発表をするようだが、動揺しないように」という電話があった。電話の直後から、テレビをかじりつくように観ていたが、どうしても南野農園のことを話しているようには感じられなかった。
 たとえば「カイワレ大根の水耕栽培に使用された水に、もともとO-157に汚染されている牛フンなどが流れ込んだとも考えられる」という発言だ。この発言のおかげで農園に押しかけたマスコミ関係者の第一声は、「どこに牛がおるんや」だった。ところが牛舎はうちから~離れたところにしかない。そのうえ牛の運搬車も、この辺りを通らない。いったいどこから牛フンが紛れ込むのだろう。
 そんな感想を抱いた会見だったが、騒動は一気に大きくなっていった。会見が終わり、最初に駆けつけたのはNHK。工場の消毒設備などを説明するために、テレビクルーを連れて農園をひとまわりして帰ると、今度は民放各局がカメラを構えていた。私はマスコミへ対応するとともに、検査結果が出るまでカイワレ大根の出荷を自粛することを、その日に決めた。さらに6日と7日に出荷した分の回収も始めた。

  夕方には、再度保健所から連絡が入った。「再調査をお願いしたい。伝染病予防法という『伝家の宝刀』を抜きたくないので、協力してくれないか」という問い合わせだった。私自身、農園の衛生には絶対の自信を持っていたので、早く真実を突きとめてもらいたい気持ちから快く承知した。
 8・9日と、保健所は立ち入り調査を行い、培養液や作業所に隣接する自宅の浄化槽の水まで、第1回目の調査の倍に当たる検体を採取した。もちろん私を含めた従業員の検便も行われた。しかし立ち入り検査は、これだけで終わらなかった。日には、南野農園近隣4市町を対象に4河川から採水、さらに周辺の水路からも水と汚泥を採取していった。
 菌が発見されないとわかると、再度の立ち入り検査というやり方は、私達を傷つけるだけではない。保健所の職員のプライドさえも傷つけている。厚生省に従わざるを得ない職員に同情さえした。

■従業員の姿を無断で放映

 これだけ誠実に対応していたにも関わらず、マスコミを通じて流される情報はめちゃくちゃだった。
 どうやって調べたのか、水利組合の用水路が氾濫したとの報道があった。生まれてこのかた年以上、この辺りの用水路が氾濫したことはない。というのも農園の周辺にある水路は、第1の堤防を超えても、第2の堤防が水を用水路戻す仕組みになっているからだ。いったいいつ、用水路が氾濫したのか教えてほしい。
 南野農園が有機肥料を使っていると言った政治家もいた。うちでは種類の化学肥料と消毒液を混ぜてスプリンクラーで散布している。肥料からO-157が入り込む余地はない。
 つい先日もNHKと産経新聞が、日本かいわれ協会の独自調査により、南野農園近くの河川からO-157が検出されたと報道した。驚いて協会に問い合わせてみると、「協会としては、報道機関にコメントした覚えはない。何でこんなことが紙面に出たのかわからない。協会も産経新聞を読んで初めて事態を知った」との答えをいただいた。(編集部注 後日、日本かいわれ協会はO-157を採取できなかった旨の報道が流れた)
 もちろん誤報だけが、私達を苦しめるわけではない。一番腹が立ったのは、農園にパートで働きに来ている従業員を映したことだ。経営者の私が写るなら問題はない。しかし従業員には小さい子どもを持つ人もいる。子どものいじめなど、どんな影響がでるかもわからないと思い、映さないようにとお願いしたのにも関わらずテレビで放映された。きちんとした配慮をしてほしいものだ。
 新聞報道では、私の味方になってくれた記者も多かった。人によっては、農園がスケープゴートになっていると断言してくれた人もいたほどだ。ところが紙面では、農園の主張は小さく扱われている。もっとも松本サリン事件の河野義行さんに比べれば、はるかにましだとは思うが……。

 厚生省の見解と全く食い違う事実も、私の元に届いている。
 カイワレ大根は少し辛いこともあり、子どもの好き嫌いが表れる野菜だ。O-157に感染した児童が多くでた学校でも、もちろん状況は変わらない。カイワレ大根を好きな児童が、嫌いな児童3人からカイワレ大根をもらっている。ところが発病したのはカイワレ大根を食べていない3人だった。4人前のカイワレ大根を食べた児童は、まったく感染していない。3人分のカイワレ大根を食べた児童の母親から、私はこの話を直接聞いた。彼女は、南野農園が疑われていることを知り、わざわざ農園に電話をかけてきてくれたのだ。
 これだけではない。肉料理だけを食べ、カイワレ大根を残した児童がO-157に感染した事実もつかんでいる。この児童は登校拒否児で、出席した日も限定される。取引先の子どもの話だ。おかしなことに事のしだいを保健所に報告した子どもの両親は、「この話は黙っとけ」と言われている。その後、この件の調査が進んでいるとは聞いていない。
 匿名でうちに送られてきた堺市役所の職員ニュースでも、カイワレ大根を感染源とする説に疑問が噴出していた。ところが市の職員が疑問に思っていても、表には出てこない。

■もう野菜は食べられない

 そして、私がもっとも疑問に思っているのは、潜伏期間の問題だ。O-157の通常の潜伏期間は4~9日程度と報道されていた。ところが小学生を中心に大量感染が発生したのは7月日。一方、疑われている給食は8日と9日の両日だ。カイワレ大根が騒がれる前に、しきりに話題になっていた潜伏期間はどこにいったのだろうか。
 さらに8・9日から、カイワレ大根が特定された経緯もあいまいだ。8日の問題のメニューは、「パン、牛乳、とり肉とレタスの甘酢あえ、はるさめのスープ」。9日は「パン、牛乳、冷やしうどん、ウインナーソテー」が問題になっている。この2日の共通食材で、加熱しておらず、単独の製造メーカーから納入されているのがカイワレ大根ということらしい。
 米国ではハンバーグでO-157の感染が起こった例もあるというのに、どうして非加熱の製品を狙い撃ちしたのか。加熱した食品は、完全に火が通っていたといえるのだろうか。おかしい。生のダメだというのなら、野菜は食べられなくなってしまう。

 そもそも中間発表で、うちだけが名指しされたのはどうしたわけだろう。管厚相は、特定の食品を保護しようとするミエミエの発言を繰り返しているようにみえる。私にはダークサイドの情報が入ってこないので、本当のところは知るよしもないが、スケープゴートとして名指しされた部分もあるのではないか。少ないともうちが名指しされたことで、堺市に対する批判が収まったと言えるかもしれない。
 カイワレ大根の業者として、南野農園は大きいと報道されている。しかしうちは、家族経営の域を出てはいない。私と妻、そして歳を超えた父と母。それに人ほどのパートで、この農園を切り盛りしている。自主的に製品を破棄したとはいえ、その損失だけで250万円を上回る。またカイワレ大根以外の作物も、同じように市場に流すのを止めている。こちらは計算はしていないが、かなりの損失になるだろう。さらには、今後に予想される消費者のカイワレ大根離れなどを考えると、先行きはあまりにも不透明だ。家族の元気もない。
 仕事ができないくやしさは、一言では言い表せない。怒りとも違う。唯一救いがあるとすれば、生産を促すような声が取引先から出ていることだ。うちが衛生面でしっかりしていることを、知っていることもあるだろう。

 カイワレ大根の根本は、収穫半日前に4ppmの次亜塩素酸ソーダで殺菌している。作業中に使う水についても、ポンプが井戸水と次亜塩素酸ソーダを吸い上げ2~4ppmの液を自動的に作り上げる。水道水の塩素濃度の倍以上になる計算だ。種まきの時に使う水や、収穫時に使う箱、施設内を洗浄する水、培養液のための水もこのポンプから出てくる。さらに収穫直後には、ppmの濃度の次亜塩素酸ソーダでカイワレ大根を殺菌する。このときに使い終わった資材も消毒液につけ込み、オゾン水で洗い流すようにしている。これだけ徹底した消毒で作られたカイワレ大根に、O157が混入することはありえない。万に一つあったにしても、繁殖するための栄養素がない。
 管厚相は、これらの疑問に答えられるだろうか。公的な存在には公平な発言をして頂きたい。そして彼の発言が、どれだけ大きな影響を与えるのか実感してもらいたい。省のトップたる者が、国民に不安を抱かせるだけの会見をしてどうする。少なくとも大臣の側近が農園を訪れて、どこからO-157が侵入したのかを明確に説明し、断罪してくれれば納得したはずだ。
 ところがうちを名指ししながら、感染源はまだ特定されていないとの答弁。こんな逃げ腰の会見は納得できない。極端な言い方をすれば、5時間後に殺人現場を通りかかった通行人を逮捕したようなものだ。凶器もねつ造して発表。冤罪事件そのものだ。
 行政は感染源がカイワレ大根でなくとも大きな傷を負わないが、うちの農園の信用回復は簡単ではない。長年取引している業者さんや店舗は、南野農園の品質をわかっているのでまだいい。しかし一般の消費者からの信用回復は長い年月がかかるだろう。
 いますぐに「南野農園がシロだ」と、行政からはっきり公表してほしい。国民の不安を取り除く努力をしてもらいたい。あやふやなままで、終わらせてほしくない。長年にわたって築き上げた取引先と消費者の信用を、いきなり崩された者の気持ちを厚生省はわかるだろうか。

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