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首都高速道路500円通行の正義 第15回/もう愚痴はいうまい

■月刊『記録』95年10月号掲載記事

■激情家・内藤国夫

 地下の小さな小料理屋のカウンター。人肌の日本酒が心地よく喉を通り過ぎます。カボチャの煮っころがしとサトイモをつっつきながら残念会が始まりました。サシツササレツ、とにかくハゲ鼠のオッサンはくやしがった。「なぜだ、なぜボツになってしまったんだ。文藝春秋も全くアホなことをしたもんだ。これだけ大きなテーマに取り組んできたのに。このテーマが理解できないなんて、何が文藝春秋だッ」と怒る、怒る。ついに、感極まって涙腺が開いてしまった。大変な激情家の内藤さんです。
 そして、「本当に和合さんには申し訳ない。これを持っていてくれ」と、返送されたボツ原稿入りの封筒をポンと投げてよこしました。今でき得る、最大の好意のつもりだったのでしょう。
「しかし、なぜボツになったのだろう?会心の作だと思っていたのに、本当のところどう思う?」と、今だ腑に落ちない様子の内藤さんをどう慰めてよいやら。私は、「内藤さんの原稿が本当に掲載されるのかという一抹の不安がありました。500円しか払っていない和合がスーパーマンとして書かれているからです。和合・和合の連発で主人公が公団ではなく和合になってしまっているからです。2000人の大組織に立ち向かう三文芝居のスーパースターというわけです」と答えました。
 私の言葉で内藤さんは我に返ったようで、「やはり和合さんのいう通り、あまりにものめり込んだのが原因か。500円通行の経験があまりにも強烈だったということか。わかった、もう愚痴はいうまい。こうなったら、あらゆるチャンスにこのことを書き続ける。文芸春秋がその時になって、シマッタ、といっても遅い」と元気になりました。シメシメ。文芸春秋一発で終わるよりその方がよっぽどいい。彼ほどの人が、全てのチャンスに書いてくれたら、世の中に問うボリュームがどれほど大きくなるか。
 彼は約束を実行しました。あらゆるメディアに書きまくったのです。「今度はここに書くから」とその都度必ず連絡がありました。代表的な自動車雑誌『ベストカー』では8回の連載を完遂しましたが、そこで彼は500円通行体験をこう書いています。
       *          *
 だらしがない、と自分をふがいなく思い、旧料金通行への果敢なる挑戦者、和合秀典氏をつくづく凄いと再認識した。普通の神経なら100回も200回ものトラブルを重ねながら挑戦し続けられないだろう。自分のやっている事は正しい、社会改革に役に立つとの強烈な使命感に支えられない限り持続するのは不可能だと和合スピリットに惚れ直した。
 和合氏から旧料金通行のノウハウを伝授され(やってみないか)と誘われた際には(面白いな、やってみる)と気軽に応じた。だが首都高団幹部に(やっても無駄、不足料金は割増金も含め三倍分を請求する。払うまでトコトン追求するので結局は損)[裏の声=オバーカサン、損得でやるのではありませーんよ、これはロマンです、さあーいらっしゃい、100円のロマンです、これほど安いロマンはありません。ロマンの価格破壊です]と警告されすっかりやる気をなくした。約束は、しかし実行しなければならない。
 体験記を記事に書く必要がある。どんなトラブルに見舞われるか。それを体験する事に意味があるのではないか。怖じける自分を叱りつけて用賀料金所に向かった。
 恥ずかしながら胸はドキドキ。血はドックンドックン。Uターンして引き返すほうが無難では、と軽率な自分を後悔した。だが料金所通過は拍子抜けするほどたやすかった。ものの10秒とかからなかった。期待した(同時に恐れていたのだが)トラブルは何一つ起こらなかった。徴収員は五百円玉を受け取り(当たり前だが)領収書は切らず、早く車を発進させろと言わんばかりの態度を示した。この間わずか10秒たらずである。後続車の抗議と催促のクラクションがしきりと鳴る。あわてて急発進、急加速をさせて首都高の車群の流れに乗り入れた。
 首都公団はこれでもう私の旧料金通行を規制出来ない。不足料金の催促さえ出来ないのだ。徴収員は車のナンバーをメモしなかった。    

      *     *     *

 100円の料金不足は犯罪か、秩序を乱す不穏の輩か、世の中の実験か、ロマンなのか。その人その人の人生観によって考え方は違うだろうと思います。有名人の内藤さんは社会改革の強烈な蟻の一穴と考え、自分自身の料金不足体験を披露し、確信犯として、チャンスある限りペンで世に問うたのです。内藤さんの、執念に近いすさまじいエネルギーはとどまるはありません。あまりにも強烈な旧料金体験とボツ原稿から発した屈辱とプライドは、少々のことで燃焼するほど薄っぺらいものではなく、ついに1冊の単行本を生み出すに至ってしまうのです。
■クレームをつける大切さ

 ダイナミックセラーズという出版社の高田さんという実に爽やかな若者が、ほんのチョッピリ有名人となった私に本を書けというのです。そのリクエストにビックリ仰天しました。文章を書くなど、遠い昔の学生時代の作文しか経験がない当時の私としてはとても無理な話です。しかし、私には内藤さんと云う伝家の宝刀があるではないか。一計を案じ高田さんに提案しました。「どうだろう。私は本を書くなどとてもできないが、内藤国夫さんならよく知っている。私とは奇妙な仲間同士なのです。彼の持っている高速道路行政の知識は本格的なものです。お互いプロ同士、ギャラなどの難しい問題もあるでしょうが、紹介させて下さい」。
 すると高田さんは、「本当ですか、内藤先生を紹介して戴けるのですか。願ってもないことです。ゼヒお願いします」と大喜び。お見合いは見事に成功し、ブスブスと半煮え状態の内藤エネルギーは思いのたけを放出できる舞台を手に入れたのです。誰にも干渉されず、書きたいことを書けばいいのです。
「怒れドライバー」とのサブ付きで『高速道路は金のなる木か!?』という名の付いたその本が店頭に並んだのは、89年2月10日です。思いのたけを吐き出した内藤さんの独壇場であるのは当然!

「500円で通過したいのですが?」 「えッ?500円では通れないですよ、ここは」。4回に渡り同じ言葉が繰り返された。これだけのやり取りで後続車の列ができた。やむを得ず、用意した名刺を渡しながら最後通告を発した。「とにかく通りますから」。
 不運な巡り合わせで私に対応するおじさんは、驚いたことに名刺を受け取ろうとせずに、身を引き加減にしてつぶやきを繰り返した。「私が困るから、困るから」。意外な消極姿勢に呆気にとられる思いで、さらに念を押した。「いいですね、通りますよ」。徴収員は「ええ」とはっきりいった。名刺は受け取らずに500円玉だけをサッと受け取り、早く行ってくれといわんばかりの態度を示した。半身に逃げる姿勢を取り、トラブル車との関わり合いを避けているのだ。私はホッとする思いで名刺をポケットにしまい込んだ。無理に渡すこともなかろうと咄嗟に判断したのである。
 和合氏の提唱に従って名刺には捺印しこう書かれてあった。「料金不足通行を体験すべくあえて500円で通る者です。逃げ隠れは致しません。首都高速道路公団様」本来は公団本社の関係部局に回されるはずの名刺が、今も記念品として机の中に保存されている。     
 彼のほとばしるエネルギーは最終ページをこう締め括る。

 クレームをつける大切さ、意味・効果が世間大衆に知れ渡る状況になかなかならない。しかし、和合氏は意気軒高である。値上げ分不払い運動はすでに1年を越え、首都公団側は抵抗のポーズを示さなくなった。クレーム提起を事実上認めているのである。
 クレームのつけかたは人によってさまざまな形態があって当然である。なかでも和合氏流の少々荒っぽい抗議行動が意外と大きな効果を上げるかもしれない。建設省などの重い腰を上げさせるにはユーザーである私達が手荒な行動に決起するしかないとさえ思われる。騒動師、扇動師役の必要性を考え、その手助けになるのであればと願う次第である。
 これはもう完全な確信犯。500円通行をこれだけ高い評価をしてくれた内藤さんにはつくづく感謝しています。この運動は大変な数のマスコミが取り上げてくれました。土井たか子さんではないけれど、「山が動いた」一時期もあった。しかし、世論は動かない。問題の解決は手の届くところに見えているのだけれど、蜃気楼のように距離が縮まらないのです。(■つづく)

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