« 靖国を歩く/第24回 靖国「青空骨董市」紀行(奥津裕美) | トップページ | 靖国を歩く/第26回 ドラマティックな遺書たち(奥津裕美) »

靖国を歩く/第25回 靖国マニアックカレンダー(奥津裕美)

■月刊「記録」04年3月号掲載記事

       *         *          *

 一家に一つは確実にあるであろうカレンダー。日にち、曜日、時間に気をとられていた(今もそのはずなのだが)学生時代は必ず購入していたのだが、現在の私は月刊誌の進行が根底にあるせいか、カレンダーに対してのこだわりや必要性が、以前より低くなっている。そのお陰で、締め切り日の近い2月11日が祝日だということをその日の夕方に知った。
 ちまたではカレンダーは、だいたい10月か11月ころから売り出しが始まる。カレンダーに情熱を注いでいたころは、一度下見をしてから買いに行っていた。テレビの情報番組やランキング番組のチェックはもちろん、書店や画材店なども行く。画材店は、おしゃれなものやデザイン性のあるものが多く、書店はアイドルやスターのものが多い。書店に置いてある売れ残りのポスターを見ると切なくなるのはなぜだろう。
 靖国には『英霊にこたえる会』という会があるのだが、そこが出しているカレンダーがたまたま手に入った。調べたところによると、1本500円(送料270円)するらしい。どのような因果かわからないが、私の手元へやってきたのだからこれを取り上げないわけにはいかない。
 カレンダーの解説に入る前に、このカレンダーを製作した「英霊にこたえる会」とはどのような会なのだろうか。簡潔にいうと、8月15日に靖国へ、総理大臣はじめ三権のトップ、さらに天皇の参拝をできるようにすることを目標にしているそうだ。それが英霊にこたえる道なのだそうである。
 会の定例行事には、毎年8月15日に「全国戦没者慰霊大祭」「戦没者追悼中央国民集会」、4月の第一土曜日に、「靖国神社の桜の花の下で“同期の桜”を歌う会」を行っているそうだ。けっこう精力的に活動しているようだ。

■「集合場所は、靖国神社の桜の下」

 さて、このカレンダーなのだが、かなり大きい。タテ62センチ、ヨコ39センチ。表紙の色は銀。金文字で『靖國』と菊と桜をあしらった社章が中央にあり、上部には明治天皇の御製が書かれている。何と書かれているかは読めません。御製というのは、天皇がつくった詩や歌のことである。だいぶ前の特集で取りあげたおみくじの回でも触れたが、明治神宮のおみくじにはこの御製が書かれている。
 次々とめくっていこう。このカレンダーは1ページにつき、2ヶ月分が載っている。1月と2月は『雲上の富士』という、びっしりと広がった雲の上(たぶん撮影した日の地上は曇りと思われる)に頂上だけが出ている富士山の写真、その下には明治、大正、昭和の天皇に加え、「今上」と書かれている現天皇など、歴代天皇の御製が書かれている。表紙にも明治天皇の御製が書かれているが、それとは別のものが載っている。
 短歌を見ているといつも思うのだが、どうしたらこういう詩が詠めるようになるのだろうか。資料などを見ていても、天皇に限らず軍人も詠んでいたりする。直接なにかを伝えたりするのではなく、短歌や俳句に託して何かを伝える文化がまだこの頃までは根強く残っていたのだろうか。
 日付の欄を見ると、祝日は赤の文字に日の丸が二つ並んで書かれている。ちょっと左上部を目をずらすと、元旦や成人の日に紛れて、毎月靖国で行われる行事が書かれていて、しかも一目でわかる親切な作りである。例大祭がいつ行われるか、みたま祭りがいつ行われるかもこれがあれば、一目瞭然。
 3月、4月は、春ということで『靖国の桜と新装なった遊就館』という写真が載っている。靖国の桜は、開花宣言に使われる木や、歌にもよく出てくるほど有名であり、木の数もすごい。その下には、戦死した軍人の写真とともに、彼にまつわるエピソードが記されている。写真の男性の年齢を見ると21歳とある。私と一歳しか変わらない。
 読んでみるとどうやら、遊就館といっしょに写っている桜ではないが、桜がキーワードの文章が載っている。どうやら桜にはなにやら特別な意味があるらしい。これによると、「俺達が死んでからの集合場所は、靖國神社の審問を入って右側の二本目の桜の下。誰が先に行っても必ず待ち、全員が揃ったところで一緒に神社に入る」ということを、出撃前に言ったそうだ。
 さらに、奥さんと落ち合う場所もその桜の木の下と決めていたようである。よくラブストーリーなどで、「10年後にあの木の下でまた会おう」というようなセリフがあるが、それと同じようなノリである。ただ戦時中ということがそのことをよりドラマティックにしている。
 桜は、待ち合わせるときのシンボルとして多用されたのであろう。今でいう新宿アルタ前とか、三越ライオン前、渋谷ハチ公前といった、当時の待ち合わせスポットというところだろうか。
 5月、6月は、「戦艦大和慰霊碑(鹿児島県徳之島)」の写真だ。夕日にむかってそびえ立つ慰霊碑が荘厳な写真だ。
 その下には、前月に続き写真とエピソードが載っている。神風特別攻撃隊員だった彼は、22歳で戦死している。私と同じ年ではないか。複雑である。
 どうやら彼には恋人がいたそうだが、大分の基地から出撃基地のある鹿児島へ行くことになった日、家族とは会えたものの、恋人とは会えなかったそうである。その日の日記には、「皆何と感じられたか知りませんが心から私が愛した、たった一人の可愛い女性です。純な人です」、出撃の日の日記には「心爽やか大空の如し。こうしているのもあと暫くです」と書かれている。同じ年でこうも違うものかと痛感した。時代が時代だからこそ、精神年齢が私たちよりも高そうに見えるのだろう。

■「今の若者も兵学校に」

 7月、8月は、みたま祭りの写真である。靖国のはっぴを着た若者達が、御輿を担いでいるところだ。ちなみにはっぴは赤い記事に黒文字で「靖國」と書かれている。といっても、かなりのくずし文字だが。
 躍動感あふれる写真の下には、新遊就館自由記述ノートからの抜粋ということで、遊就館に置かれているノートに書かれた、拝観者が書いた感想文を載せている。
 なかに、「今の若者も精神をきたえる為に兵学校に一年訓練するとよい」と書かれているのだが、たった一年の訓練で、根っこから染みついた甘ったれた精神がよくなるのだろうか。
 8月といえば、終戦記念日というのがあるが、行事予定をみると終戦記念日ではなく、「戦没者を追悼し平和を祈念する日(英霊の日)」というふうになっている。見逃してはいけない。「英霊の日」とは、戦没者を追悼して平和を祈るとの意味なのだろうか。どうやら、靖国では終戦記念日ではなく英霊の日となるらしい。英霊を祀っている神社だからそうか。
 10月、11月の写真は、「トラック諸島の夕暮れ(ミクロネシア連邦)」だ。空が青紫! 海はアクアマリンの色。超キレイ! ポストカードがあったら欲しい。沖縄の海もキレイで大好きなのだが、海外の孤島の景色はそれ以上に好きだ。しかし、海底に何十、何百という霊が沈んでいるということを考えると、ちょっとゾッとしてしまう。
 その下にはいつものように、写真とエピソードである。どうやら人間魚雷回天に乗っていたようである。いつも思うのだが、魚雷の中に人が入る意味はあるのだろうか。いくら国のために散るといっても、さっぱりわからない。人が入っていようがいまいが命中率は本当に上がるのか。どうやらこの少尉は、国のために血を流し、人のために涙を流し、自分のために汗を流すということがモットーだったようで、非常に真面目な正義感の強い青年だったと思われる。

■私の部屋には飾れません

 11月、12月は、「雪の靖国」という写真で、雪が降り積もった参道が写っている。雪が織りなす清らかな光景を神社のイメージに重ねるのは適切だが、積もった量によっては坂道で雪が溶けて凍ったつるつるした道となり、歩くときの恐怖は計り知れないものがある。靖国の大鳥居へ向かう坂道は結構きつい。雪が溶けかかってる頃には行きたくはないかも。
 最後を飾るのは、陸軍少尉の話である。こうも同年齢のひとの話を持ってこられると、胸が痛くなる。戦争をしたからこそ今の私たちがいるという論もあるが、逆に戦争がなければ彼らは死ぬこともなかっただろうし、国が生き残るために犠牲になるという事もなかったはずだ。
 遊就館へわざわざ行かなくとも、戦争とは、平和とは、歴史とは、と考えさせることができるテキストとして、このカレンダーは役立つに違いない。たかがカレンダー、されどカレンダーである。
 しかし、私の部屋にはすでにカレンダーが飾ってあるのでこれは飾れません。念のため。 (■つづく)

|

« 靖国を歩く/第24回 靖国「青空骨董市」紀行(奥津裕美) | トップページ | 靖国を歩く/第26回 ドラマティックな遺書たち(奥津裕美) »

靖国を歩く/奥津裕美・『記録』編集部」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/389724/6794990

この記事へのトラックバック一覧です: 靖国を歩く/第25回 靖国マニアックカレンダー(奥津裕美):

» 銀座三越 [銀座三越]
銀座三越に行くなら銀座三越ライオンの前で待ち合わせ! 銀座を十分に楽しむなら銀座三越は欠かせませんよね! 銀座三越デパ地下でスイーツを堪能しません? [続きを読む]

受信: 2007年7月11日 (水) 20時10分

« 靖国を歩く/第24回 靖国「青空骨董市」紀行(奥津裕美) | トップページ | 靖国を歩く/第26回 ドラマティックな遺書たち(奥津裕美) »