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靖国を歩く/第20回 実録・20代意識調査-靖国神社を考える-(奥津裕美)

■月刊「記録」03年10月号掲載記事

       *       *       *

 この連載をはじめて、1年がたつ。最初は靖国神社がどんな神社なのかも知らなかったし、どんな歴史的背景があるのかもよくわからなかった。それは単純に、関心がなかったからだ。しかし1年間の連載を通し、徐々にではあるが靖国神社を理解し始めている。
 連載を引き継いだ当初の私の個人的な印象は、「毎年、終戦記念日になるといつも騒いでいる神社」である。子供でも考えそうなレベルだ。身近な存在でなかったので仕方がないと言い訳をしつつも稚拙だと思う。
 だからだろうか? この連載をはじめてから今日に至るまで、どうしても気になっていた疑問があった。私と同年代(20代)の人たちは靖国神社についてどう思っているのか、である。謎を解くべく調査してみた。

  「小泉首相で話題になるまで、戦争で亡くなった人の神社とは知らなかった」(25歳・女)との意見があったので、まず靖国神社がどのような経緯でできたかということを説明しよう。
 明治2(1869)年に、日本のために尽くした人々を国が永久に祀る、という明治天皇の言葉をもとに造られた。第二次大戦後には、GHQから「神道指令」が出され、国の管理から離れた一宗教法人となる。「国家神道に対する政府の保証、支援、保全、監督並びに公布の廃止」を謳ったこの指令は、軍国主義の精神的支柱となっていた神道を、国家から引き離すことを目的としたものだった。しかし政治家の参拝問題など、靖国神社と政治の完全な切り離しは、現在に至るまで実現していない。
  「靖国神社っていったら赤い鳥居!」(25歳・女)という意見もあったが、計4つの鳥居に赤はない。
 九段下駅で下車。九段坂をあがったところ武道館の向かいにあるのが、世界最大の第一鳥居である。色は濃い茶色。そのまま参道を歩いていくと、左側に見えてくるのが、石の大鳥居。色は灰色だ。さらに参道を進むと青銅製の第二鳥居に突き当たる。こちらの色は、言うまでなく青緑。この鳥居から徒歩1分の神門をくぐると、檜で作られた中門鳥居が目の前に。こちらは雨露にさらされ黒ずんでいる。
 鳥居は赤に近い色すらない。まあ、他の神社の鳥居と間違えたのだろう。まさか靖国を「アカ」と勘違いしたわけでもあるまい……。
 ちなみに神門の先には、靖国のシンボル・白い鳩が大量に戯れている。日本全国のマジシャンが白鳩を出すたび、ここに飛んでくるのではと疑ってしまうほどの数である。なぜかアンケートでは、誰も触れてない。

■報道効果!? 最多登場は「小泉首相」

 さて今回の調査で最も多く見かけた項目は、「小泉首相」と「参拝問題」であった。
  「私は靖國神社ってあんまりよくわからないけど……。小泉総理が参拝がどうとか前にニュースでやってたところかな? もしそこだったら連想するのは小泉さん」(25歳・女)、「靖国と聞いて思い出すものね……。それは小泉総理大臣かな」(22歳・女)、「靖國神社ときいてか、あんまり考えたことないな。戦争がどーのこーのって……。あと小泉首相が参拝して問題になった事ぐらいしか」(22歳・女)、「小泉首相で話題になるまで、戦争で亡くなった人の神社とは知らなかった。印象としては、他の神社も何かの意味があって建てられているんだから、特別視する必要はないと思う」(25歳・女)
 あまり関心がなくても毎年マスメディアで流れていると、脳にインプットされるようだ。首相による靖国参拝は、日本以外のアジア諸各国から批判が集まり、それなりのタブーとなっていた。しかし小泉首相は首相就任前から8月15の参拝を大宣伝。就任後は、いつ参拝がするかが、メディアの注目するところとなる。
 ちなみに今年の首相参拝は、1月14日だった。小泉首相は、「その日に思い立った」とコメントしている。実際、靖国の広報からによれば、今年は本当にアポなしで来たそうだ。数々の問題を引き起こしたテレビ番組「電波少年」でもあるまいに……。ただし、この首相の参拝により、韓国の金大中大統領が川口順子外務大臣との会談はキャンセルとなった。
 過去の巨大な歴史を背負った靖国神社は、位置づけが他の神社とは違う。もちろん国家を代表する首相が参拝するのと、一般市民が参拝するのでも意味が違う。靖国問題をよく知らない20代でも、さすがに違うことぐらいは強く感じている。
  「よく知らない、というのがホントのところだけど。他の神社とは、かなり扱いやイメージが異なるよね。やはり日の丸とか政治色を感じさせると思う」(24歳・男)
 そうした違いに疑問を持つ声も出てくる。
  「靖國神社のことはよくわからないんだけど、いいじゃん参拝したって」(21歳・女)
 さらにもう少し突っ込んだ意見も話してくれた人もいた。
  「確かにいろいろな問題はあるけど、総理の参拝に関して、戦争を忘れないように必要なことだと思う。亡くなった人を偲ぶのに他からとやかく言われる筋合いはないんじゃないかな」(23歳・男)
  「靖国と聞いてまず考えるのは、まず首相の参拝を他国が干渉することです。私は愛国心が強くて、教科書問題もそうですが、日本のやり方に口を出されるのが不愉快です。戦争はもちろん否定派だし、今後日本が戦争状態になるのは絶対反対だけれど、過去は過去で、死者は死者なのだから、これから日本が侵略行為に出なければ参拝するのに問題はない!と思っています」(23歳・女)
  「私は積極的に行こうとは思わないけど、近くを通ったら参拝しようかとは思うよ、日本人として。過去にこだわったとこで、大切な人が生き返るわけじゃないしさ。再び戦争を起こさないようにするにはどうすればいいのかを考えた方が、戦没者のためにも自分自身のためにもいいんじゃないかと思う」(22歳・女)
 公式・私的という問題を抜きに、首相参拝を支持する声が多かった事には驚かされた。
 首相の参拝は、中曽根康弘元総理大臣が1985年8月15日から1996年7月29日の橋本龍太郎元総理大臣までの約11年間行われなかった。タカ派と呼ばれた政治家でさえ参拝しなかった11年間と、20代の男女の多くが参拝賛成を口にする時代の温度差に驚く読者も多いだろう。

■問題解決のための提案も

 なぜ首相参拝で問題が起きるのか、どう解決すべきなのかを考えた意見もある。
  「A級戦犯とかを祀らないことにして靖国を残すか、あるいはA級戦犯抜きの無名戦士の墓とか作ればいいんじゃない? 要するに露骨な軍国主義の象徴が残っているのが問題なわけだから、それを取り除いて純粋な戦没者追悼の施設にすればいいとおもいまーす」(21歳・男)
 そういえば以前、国立追悼墓地を造るということが話題になったが、結局どうなってしまったのだろうか? 
  「『神社』っていうのは神様を祀るところだと思います。戦争でなくなった人たちを慰めるんなら、神社は違うと思うけどね。『戦犯』と呼ばれる人たちも神社ではない場所で供養したらいいと思います。神社に祀るから近隣諸国から反感を買うんでしょ」(24歳・女)
 たしかに国家神道と関係ない場所での供養なら、近隣諸国の反発も収まるかもしれない。
 ちなみに一般的に神社に祀られているのは、素戔嗚命(すさのおのみこと)、大己貴命(おおなむちのみこと)、大和武尊(やまとたける)、大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)など、日本古来からの神とされている祭神である。
 その他に、A級戦犯についての意見もあった。
  「A級戦犯を祀ったとこ。普通の被害者も祀ってたよね?って祀ってるのは神様か。あとはおじいちゃんが喜んでいくところ。個人的には行った事もないし、場所も知らない」(24歳・女)
 「陸軍の過激派(東條・小磯)とかも祀られてるんだから、軍国主義の象徴って感じはするし、右翼が過激に運動して全般的に下品に見えるからさぁ。日本人の俺でもそう思うんだから、実際に虐げられた人たちからしたらもっと露骨でしょう」(21歳・男)。ちなみに、いわゆるA級戦犯(東条英機、板垣征四郎など)が祀られたのは、1978年の10月。そのことが判明したのが約半年後の4月だった。おいおい、なんで隠していたのだ!
 韓国の若者と日本の若者の考え方の相違についての意見もあった。
  「韓国人の若者は、慰安婦問題などについてもよく知っているし、戦争についても自分の意見を持っている人が多いと思う。韓国人の知り合いは、『戦争は嫌いだが、もし戦争が起きたら国のために闘う』と言っていた。韓国人全てがそんな考えを持ってるとは思わないが、『戦争は嫌だし、死ぬのはごめんだ。誰かが何とかしてくれる』というような日本人とは意識が違う。
 日本の首相が靖国を参拝すると、韓国では、日本の植民地支配の犠牲になって亡くなった人に対する謝罪要求デモが起こる。日本人はこのデモの意味を、どのくらいのレベルで考えているのだろうか? 日本人も戦争についてもっと深く考えるべきだ、と私は考える。韓国だけじゃなく、アメリカとイラクの問題も含めて」(29歳・女)
 戦後50年以上がたった。その間、憲法第九条は日本の平和を守ってきた。いつの間にか平和は守るものではなく、当たり前にあるものに変わり、戦争について切実に考える姿勢を失ったのかもしれない。自国の軍隊を持ち戦争に備えることが、戦争について考えることだとは思わない。ただ切実さのない戦争論議が、靖国の首相参拝への賛成者を増やしていることも事実だろう。
 最後にとても興味深かった意見をひとつ。
  「現代人に神は存在しなくて、信仰だけが静かに存在する。その形が京都とか他のお寺とは違い、政治と結びつき、夏ごとに喧噪を引き起こす。それが『靖国』らしさだと思う。
 その独特な空気が『野火』などの戦争小説のようなノスタルジックな物語をつくりだす。そして『ウザったい右翼少年』は、夏にしか出てこない蝉のように、うるさく鳴く。そんなイメージです」(22歳・♀)。
 調査を始める前は、「戦争で軍人が祀られてる場所ですよね。戦争責任者も祀られているんですよね」(28歳・男)という、靖国の初歩的な解説が寄せられるのでは危惧していたが、見事にその予想が裏切られ、正直ホッとしている私でした(-_-)。 (■つづく「)

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