« 学歴は変えられるのか? 短大から大学への編入 | トップページ | 靖国を歩く/第40回 勝利祈願は靖国でOK? »

阪神大震災現地ルポ 第14回/都市計画の非人間性

■月刊『記録』96年7月号掲載記事

■ 道路ばかりが広がる区画整理 

 新長田駅前の銭湯「波止湯」には、区画整理反対を訴えるいくつもの垂れ幕が、建物いっぱいに掲げられている。この一帯「新長田駅北地区」は、震災直後に「復興」の名目で土地区画整理事業の都市計画決定を受けている。事業区域の総面積は42.6ha。幹線道路や街区道路、防災公園の整備などが計画されている。
 波止湯を営む森重光さんら反対住民は「新長田駅北地区区画整理計画中止を請願するまちづくり協議会連合」を組織して、神戸市に対して意見書を提出するなどの活動を行ってきた。「計画の大前提として、住民参加と合意があるべきだが、全く実質が伴っていない」と森さんが憤る。この地区には1町(丁目)ごとに21のまちづくり協議会があるが「神戸市が派遣した都市計画コンサルタントが提案を出してきて、住民はまだ議論もしてないのに、いきなり賛否を問う。市はこれで住民参加・合意が出来ているとすりかえている」のが実情という。

 神戸市の計画では、公共用地が震災前の5.7haから12.2haに増加するのに対し、宅地は29haから23haに減少する。森さんは「宅地の利用増進をうたいながら、これで利用増進といえるのか」と、市の計画を批判している。詳細な事業計画や予算書まであるのに、神戸市は住民には決して開示しないという。 
 よく知られているように、区画整理は減歩(私有地の一部の無償提供)や換地で公共用地を確保する。この非人間的手法は、なにも「株式会社」神戸市だけに限らない。そもそも日本の都市計画は、住民無視で非人間的な制度なのだ。 

 なかでも区画整理は、日本でだけ異様な発展を遂げた都市計画の手法だ。戦後制定された土地区画整理法の前身は明治時代の耕地整理法で、もともとは農地に適用されていた。いびつな形の農地を整然と区割りして農道を広げるためのものだった。広い農道なら農機具を積んだ自動車を乗りつけることもできる。区画されていることで機械化の効果もあがる。減歩されて地積が減少しても、生産性の向上で収入が増えるから、利益になっていたのである。 
 土地それ自体が生産手段となっている場合は、これでもよかった。それを宅地に応用したことが間違いの始まりだった。区画整理をすれば減歩されても地価が上昇するから財産価値は高まる、というのが行政など推進する側の言い分だが、土地転がしでもするならともかく、住み続ける限り、地価が上がっても借金の担保価値が増すぐらいしかメリットはない。土地が小さくなって利用範囲が狭まるデメリットと、どちらが重要だろうか。むしろ固定資産税の負担が増すだけだともいえる。宅地造成の際に実施するならまだしも(それでも問題が起きている例もある)、既成市街地に適用することが、どだい無茶苦茶な話なのである。

■ 上からの計画押しつけ 

 にもかかわらず、行政が区画整理を好んで都市計画事業に適用するのは、減歩によって道路用地をタダで確保できるからに他ならない。この「道路偏重主義」は、産業基盤としてしか道路を位置づけてこなかったこなかった経済成長至上主義のあらわれである。幹線道路やその間をつないで町中を通る道路の整備には熱心だが、その道路に挟まれた空間―これこそが市民の居住空間なのだが―の整備には、とんと関心を払わない。 

 だから新長田駅北地区でこのまま事業化が進んだ場合、たとえ高層化されても、減歩で狭くなった土地にさらに住宅が密集するようなことも考えられる。現に長田区では、過去にも戦災復興や中央幹線道路のための区画整理が実施されており、その結果として住宅集地ができあがったとしている専門家もいる。それに区画整理で整備されるのはインフラだけだから、資金に余裕のない住民は、住宅の再建に割高な難燃素材をそんなには利用できないだろう。そうなると、防災機能を高めるためという区画整理の目的は、いったいどこまで実現できるのか。甚だ疑わしい。森さん達も反対理由に挙げているように、結局は過去の例と同じで、道路整備のための区画整理ではないのか。 
 こんなことがまかり通るのも、日本の都市計画がその理念において「上から押しつける」ことを最善の策としているからである。住民はエゴむき出しでまとまりっこないから、行政が作成した計画に黙って従え、というわけである。住民がその土地でどんな生活を営み、どんな歴史を持っているかなど全く意に介さない。まるで子供の「お絵かき遊び」のように、計画図を描いていく。 

 4月26日の神戸市計画審議会と、5月29日の兵庫県都市計画案が、それぞれ原案通り承認された。455人の署名を付した約100件もの森さん達の反対意見は、ことごとく退けられた。 
 震災前は4000人ほどだった地区の住民も、現在は2000人台という。16のまちづくり協議会が実質的に賛成に回っており、反対住民も現状では少数派だ。だが住民1人1人のレベルでは決して賛成ばかりではないという。今後は行政手続法による不服申し立てや、住民側の対案を作成して、神戸市に投げ返すことを検討している。「持久戦でいく」と、森さんが語った。 (■つづく)

|

« 学歴は変えられるのか? 短大から大学への編入 | トップページ | 靖国を歩く/第40回 勝利祈願は靖国でOK? »

阪神大震災現地ルポ/和田芳隆」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/389724/6892649

この記事へのトラックバック一覧です: 阪神大震災現地ルポ 第14回/都市計画の非人間性:

« 学歴は変えられるのか? 短大から大学への編入 | トップページ | 靖国を歩く/第40回 勝利祈願は靖国でOK? »