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内部告発・豊島区は税金泥棒/第12回 当局側と合意書を作成

■月刊『記録』98年10月号掲載記事

    ※        ※        ※

■しびれを切らして区長室へ

 一九九五年二月二八日に受けた三〇日間の停職処分に納得できなかった私は、区役所の最高責任者である区長に面談を申し込んだ。なぜ、そんな処分が下されたのか、納得できる処分理由が欲しかったからだ。
 重要な話だから面談時間を設けてほしい、と何度も申し入れた。しかし一向に返事がない。しびれを切らした私は区長室まで乗り込み、「今すぐ会たい」と秘書に告げた。
 さすがの区長も仕方ないと思ったのだろう。私との面会を拒まなかった。
  「なぜ二審の結果を待たずに、同一理由による処分を行ったのですか。これでは嫌がらせとしか言いようがないでしょう」
 こう区長に言い寄っても、「おれは指示していない。助役が勝手にしたことだ」と床に視線を落としてボソリと言う。区のトップでありながら、自分は関係ないという態度だ。「きたないな」。私は思わず、つぶやいていた。
 豊島区の職員懲戒分限審査委員会規定の第二条には、「委員会は、区長の諮問に応じ……」と、ちゃんと書いてある。区長の意志なく、物事が進むことはない。私には無茶苦茶な規則への遵守を求めながら、自分だけが治外法権とでも言わんばかりの態度に腹が立った。
  「五十嵐さん、周りが耳を貸さないのでは意味がないよ。実際、組合も議会も動かないじゃない。このままでは一般職員も離れていくばかりだよ」おまけに加藤区長は私に説教までくれようとするのだ。「冗談じゃないよ」と私は思った。

■組合も上層部も頼りにならない

  「議会、組合、一部の区政の中枢にいる職員の三者が、どんなに私を批判したり無視したとしても、そんなことは私の動きにとって何ら支障にはならない。彼らの意見や態度は、健全な区民常識に裏打ちされていませんからね」
 言い返す私に対して、反論するでもなく、彼はただ頷くだけ。意味のある話し合いは、もう望めそうもなかった。私は区長室をあとにした。
 区長室は区政の表玄関などではない。行政運営の本音と建て前の使い分けを画策する舞台裏だったのだ。私は、今回の件で、それをしみじみ実感した。
 役所の上層部も区民無視でダメ。私が新たに加入した第二組合も腰が引けて全く頼りにならない。私に下された「三〇日の停職処分を知るや否や一変して、『障らぬ神にたたりなし』の態度である。当時の組合の長であった菅道治は、処分を受けたのは、あなたであるから、あなた個人で闘ったらどうか。組合は中立を保つ」とも言う。一審の敗訴(一五日の停職)でやめておけばいいものを、さらに控訴などするからだ、と言いたげである。
 裁判闘争は厳しく、そして長い。金銭的な問題もネックとなる。
 一五日間の停職処分は、精神的にも経済的にも辛い。さらに三〇日間の停職ともなれば、非常に苦しい事態となる。そうして経済的に追い込めば、裁判闘争は困難になる。これこそが役所側の狙いなのだ。だが、この停職処分に対する提訴をやめる訳にはいかない。
 一五日の停職処分と同じ理由で処分が下されているだけに、法的に異議を唱えなければ、自分の非を認めたことになってしまう。そうなれば一五日間の停職処分を巡って争われている第二審でも負けてしまう。経済的に追い込まれるか、それとも負けを認めるか。役所側は周到でかつ陰険な手口で攻撃してきたのだった。

■架空事実の捏造まではできまい

 九五年三月一七日、三〇日間の停職処分の取り消しを求め、私は提訴した。一五日間の停職と三〇日間の停職、二つの処分の取り消しを同時に戦わなくてはならなくなった。
 平行する一審と二審の裁判において役所側は、相変わらずデタラメな主張を継続していた。例えば区長が二度にわたって、私を処分した理由について役所側は、「五十嵐は睡眠を取っていて睡眠中に発生した業務の対応を怠っていたからだ」と主張する。
 しかし役所側の主張は抽象的な指摘にとどまるのみで、具体的な事実の指摘にまでは踏み込もうとしない。
 それもそのはず。原因は役所側、つまり総務課の手もとに保管されている宿直日誌にあった。日誌には私の手で、私が睡眠時間中に対応した、すべての業務の内容と時間が逐一記入されていたからである。
 つまり役所側は、私が睡眠中の勤務を怠っていないという具体的事実が日誌上に存在するのを知っていたのである。だから敢えて、具体的な架空事実の指摘にまでは踏み込んでこられなかったのだ。
 なお、この当該宿直日誌は、三〇日の取り消し処分訴訟のなかで、証拠として私の側からも提出した。しかしその際、役所側からの反論は皆無であった。
 ちなみに当該宿直日誌のすべてにわたり、上司である総務課長、係長の確認印が押印されている。平成五年二月一日の一五日の停職処分に同意した総務課長は堀田徳夫。平成七年二月二八日の三〇日の停職処分に同意した総務課長は中島康博。
 重ねて言うが両名いずれも私のかつての上司である。

■合意書を作成して一次撤退
 
 こういったやり取りが繰り返されるばかりで、裁判は遅々として進まなかった。そんななか、高裁の裁判官から合意書の作成を提案された。
 合意書とは、和解案のようなものと考えてもらえばよい。互いに譲れるところを譲り、争議を解決しようとするものだ。判決のようにハッキリした裁定が下されない代わりに、少なからず自分の意見を合意書に盛り込むことも可能だ。そして何より、裁判を維持する費用や労力から解放される。
 役所側は即座に作成に同意した。役所側が即座に、裁判所長の提案に同意したのは、私の性格上、私が裁判長の提案を蹴って、さらに判決まで審理の続行を主張すると判断したからであろう。
 だが、私はとりあえず「考えさせてください」と答えるにとどめ、確答を避けた。それから二、三日、近藤勝弁護士との論争が続く。「最後までやらせてほしい。骨になってもいい」と言い張る私を、彼は必死でとめた。「この裁判の継続は危険度が高い。敗訴の可能性もある。先を見て今回は、この辺で退こう」と、くいさがる私を放り出すこともなく、論理的に繰り返し説いてくれた。
 結局、私は、裁判のプロでもあり、人間的にも信頼していた近藤弁護士の助言を選択し、合意書を作ることに同意した。次回の法廷で、近藤弁護士が裁判長に「原告は合意書の作成に同意します。と伝えると、裁判長が同弁護士に「よく説得しましたね」と言い、「うん、うん」と言いながら何度も頷いていた。今もなぜか印象に残っている。
 そんな彼のアドバイスが正しかったことを身をもって知ったのは、一年後に六ヵ月間の停職処分を受けた時であった。もし、合意書の作成を蹴ってその裁判で負けていたら、確実に私は解雇されただろう。そうなると、外部から解雇無効の訴訟を起こさざるを得ず、結局、裁判を続けること自体が難しくなっていたはずだ。
 合意書は裁判長が原案を作り、それに対して私と役所当局、双方が提案していく形で作られることになった。私の要求がしごくまっとうなものだったからだろう。私の提案の半分以上は合意書に書き込まれ、結果として役所側の提案は半分にも満たない文書となった。裁判官が合意書の作成を提案して二ヵ月後の九五年九月二九日、私達は合意書を交わし、一五日間の停職処分をめぐる裁判は終わりを告げる。合意書の作成と受け取りは別室で行われた。
 合意文書の作成手続きが終わるやいなや、総務課の法規係長と区政会館の指定代理人が顔を真っ赤にして憤然と席から立ち上がった。一審が終わった時には、私の背中に向けて「ザマーミロ」と言い放った連中が、今回は硬直した表情で、こちらを見ることもなく文字通りサーッと帰っていったのだ。
 判決が下ったわけでもなく、勝った気はしなかった。しかし役所側がダメージを受けたことは間違いなかった。合意書には、「五十嵐に不利益にならないようにする事」という一文も加えられていたからだ。一審の敗訴を考えれば、逆転ともいえるような内容かもしれない。少なくとも「やってよかった」という気持ちで裁判を終えることができたのである。
 区議会に裁判結果を報告するため、合意書に添書を同封して各党の幹事長に普通書留で送付した。添書には「私の一五日及び三〇日の停職処分は、同封合意書の通りですので、御了承ください」と記載した。送付先の党は、自民・共産・公明・社会党系及び無所属議員で構成されている「区民クラブ」である。
 この送付に対する返答は皆無であった。見事なほどの無視にあった。
 第二組合にも結果報告は行った。組合員の反応はまちまちであった。「また、取り下げか」あるいは「まあまあじゃないの」という者、何も言わない者もいた。また、組合の長であった菅道治に至っては「訴訟費用はいくらかかったの」であった。
 孤独な闘いは、まだ続いていた。 (■つづく)

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