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靖国を歩く/第12回 きっと君は来ない……靖国のクリスマスイブを調査(奥津裕美)

■月刊『記録』03年1月号掲載記事

       *        *         *

 2003年を迎えてはやひと月。この号が出ている頃の恋人たちはバレンタインデーの話題で持ち切りだろうが、一足遅れて、靖国神社のクリスマスイブを特集。 
   2002年12月24日、北風が吹く中、私と古参編集部員2人は靖国神社へと向かった。この企画の当初から心に引っかかっていた疑問がある。「果たしてイブに靖国へ来る人はいるのだろうか」。これは、彼も同じ心境に違いない。いや、同じ心境だ。 
   改めて書くのもバカバカしいが、クリスマスとはイエス・キリストの誕生日であり、イブはその前日を祝う日だ。だから神道の靖国には何の関係もない。でも一方でイブは今や日本最大のイベントの1つであり、靖国もその影響や余波ぐらいは受けているかもしれない。そうであれば21世紀の靖国の素顔として面白いルポができるのではないか、というのが編集部の意図なのだが……。 
   靖国へ向かう坂を上りながら雑談を交わす。クリスマスの予定や、前の年のクリスマスの話で盛り上がってきたところで、靖国の第一鳥居が見えてきた。あれ? なんかいつもと違う。『初詣は靖国神社』という看板が目についたのだ。すでにクリスマスを通り越して正月モードになっている。やはり神道だからキリストの誕生日を祝うわけもない。完全に無視である。 
   午後12時の時点で人はまばらで先が思いやられる。休憩所のベンチに座りカップルの登場を待つ。 
   それにしても寒い。気温の問題ではない。世の中のカップルは、2人で熱々なクリスマスを過ごしているんだろう。イルミネーション見ようね! なんて言いながらおいしいものを食べ、プレゼントを贈りあい、夜景を見てその後は……なんて、考えただけでもはらわたが煮えくりかえる。何で私のイブだけが靖国なのだ。この聖なる日に寒さと戦わなければならないのだ! 身も心も寒い。

■サンタクロース登場!?

   お茶を飲みながら待っていると、参拝を終えた女の子2人組を見つけた。これは逃すまいと早速、取材をお願いすると、快く応じてくれた。彼女たちは、箱根駅伝の必勝祈願で訪れたらしい。部では、明治神宮へ行ったらしいが、なぜ、靖国へ来たのかと訪ねると、「政治関係で色々言われていたから、ちょっと行ってみようかな、という感じで」と答えた。 
   彼女たちは24日は部活も学校も休みだった。イブに靖国を訪れた不自然さを聞くと、イブだからこそ周りと違ったことをして反発しようと思ったとからという。参拝後は「ブラブラしようかな」と言っていた。大学を尋ねたところ國學院大學に通っているらしい。靖国と國學院は切っても切れない関係である。「それは妥当でしょう」と古参編集部員。なるほど! 
   幸先のいいスタートを切ることができて、ひょっとしたらいけるかもと気を持ち直し、はやめにもらったクリスマスプレゼントを見せびらかしながら待つこと数分、大村益次郎像の所に赤い服を着た人が見えた。
   「あれは、サンタじゃないですか?」
   「サンタだよー、あれー」 
   思わぬところでサンタに出くわしてしまった。好きな人のことを考えていたら、その人から電話が掛かってくるほどのミラクルだ。迷わずサンタに声をかける。 
   サンタになっている理由について、サンタのコスプレにサングラスをかけた好青年は、「禁煙できなかった罰ゲームで。彼女はあまり乗り気ではないみたいで」と答えた。着てみた感想は、個人的には気に入っているという。念のため一緒にいた彼女に聞くと「愉快だな……と思います」とちょっと引き気味。罰ゲームは一日中続き、どうやら靖国はこの日のデートコースの線上にあったようだ。 
   周囲の反応を聞くと、女子高生が指を指してきたり、キワモノ扱いにすると嘆いていた。サンタがイブにいてキワモノもないだろうに。 
   その後、彼らは手水舎へ……。なんて礼儀正しいサンタカップル! しかし、靖国とサンタ。英霊とサンタ。正反対な組み合わせだが、若者が参拝しに来たのだ、大目に見てください。

■売店は大掃除

   それからパッタリと人通りが絶えたので、おでんを食べることになった。たまご入り500円。お店のオジサンに今日の予定を聞くと、「今日は掃除だな」と一言。どうやら、クリスマスイブは大掃除の日らしい。おでん鍋の中をのぞくと、具が数える程度しか入っていなかった。古参編集部員とおでんをつつく12時58分。 
   寒い日はおでんがうまい、と思いながら昆布を食べていると、若い女の子二人組が神社から出てきたので声をかけたところ、「たいした参拝してません」と、逃げられてしまった。たいした参拝って何だよ、何も逃げることはないじゃない。 
   次にベンチのそばでたばこを吸っていた女性に声をかける。黒いキャスケット帽に黒マニキュア、白いコートのおしゃれな彼女はクールに答えてくれた。 
   彼女は参拝そのものは、なんてこともなかったが、遊就館でゼロ戦が見たかったけど、800円は高かった。300円くらいだといいと切実に語った。靖国に来たのは近くに会社があったからだそうで、夜はバッチリ「予定があります」とのことだ。やっぱり、予定があるのか。 
   後ろでは、掃除をする音が聞こえる。ホントに掃除をするんだ。イブなのに。 
   さらに待つこと1時間、本日、2組目のカップルが登場。30代とおぼしきカップルは、クリスマスなんぞに浮かれない靖国神社にピッタリである。 
   取材の申し入れに、上から下まで黒で固めた彼女は戸惑いを隠せない様子だったが(まあ、当たり前か。靖国のクリスマスだし)、彼氏は気持ちよく答えてくれた。
   「いや、時間があったので、ちょっと寄ってみました。僕も初めて来たのですが、歴史の重みを感じますね。日本人なら1回は来るべき場所でしょう」と、弁舌もさわやかであった。カタカナ文化なんて何するものぞ、という勢いでもあった。しかし、「夜は別の予定が?」との質問には、迷わず「ハイ」。 
   やはり、文字通り「靖国神社でクリスマスイブを過ごす」という人はなかなかいない。

■米国人には謝られ……

   ではクリスマスの本場の人はどうなのか。米国人男性1人と女性2人、日本人女性1人の4人組が、参拝から帰ってきたところをつかまえた。 
   イブの靖国神社はどうですかとの質問を唯一の日本人女性に通訳してもらうと、3人が声を揃えて「(ここでは)祈ってないよ!」と笑い出した。そうでしょうとも。
   「観光です。ちょうど靖国神社が通り道だったので寄ってみました。有名な神社ですし。これから夜には、丸の内のイルミネーションを見に行く予定です」と、日本人女性は続けた。 
   当たり前だが、米国人の3人も、イブを靖国で楽しもうとは思っていなかったようだ。取材の終わりに米国人男性から日本語で、「ごめんなさい。観光、観光」と言われた。私達を、クリスマスを許さないタイプの日本人だと思ったのだろうか。決してそうではありません。
   そうこうしているうちに靖国神社と不釣り合いなカップルが参道を歩いてきた。男性は黒のハーフコートがおしゃれである。しかも美男美女。右の耳に5つのピアスをぶら下げた彼氏は、「なるべくクリスマスっぽくなく過ごしてみようと思いまして」と照れたように答えた。

   「それで楽しかったですか」と少し意地悪な質問には、大きな瞳の彼女が、「それなりに楽しかったかな、うん(笑)」とはにかみながら答えてくれた。これからはプラネタリウムに行く予定で、その後は家に帰りますとのことだ。照れたような笑顔がかわいい 
   わかったことが2つある。1つは何らかの理由でクリスマス気分を味わいたくないなら、それで面白いかどうかは別問題としても、靖国神社に来るのは大正解だということ。もう1つは、にもかかわらずカップルの話を聞いてる限り、2人なら靖国でもどこでも楽しいということだ。

■遊就館もクリスマスの熱はなく

   取材を終わらせ、遊就館へ向かう。総ガラス張りの建物は新築のせいか美しく見えた。中へ入ると、受付には黄色い制服を着た受付嬢が2人。靖国に勤めている女性に若い人が多いのはなぜだろう。 
   券売機でチケットを買う。800円が高いかどうかは館内を見物してから決めることにして、入り口の2階に上ろうとしたらさっきまで動いていたエスカレーターが止まっているではないか。「私を靖国ライターと知っての振る舞いか!」と思うわけもなく、「なんでー?」と動揺してしまった。 
   しかし、近づくとエスカレーターが動いたではないか! なんだこの先端を行く仕掛けは。どうやら省エネ効果も狙って、人が近づいたときだけ動くようにできているらしい。靖国はハイテクなのだ。この点は次回以降でリポートしよう。 
   なかでは、1人で熱心に見物する人や、グループ、カップルなどがいたが、やはりイブ云々が関係なさそうな年配の客が多かった。それにしても模型が多い。資料館というより博物館に近い印象だ。800円を出しても惜しくないくらいのボリュームで、博物館好きの私はかなり興奮した。しかし設備だけを見ると、一般客から800円徴収しなければ元が取れないように思えた。それだけ豪華なのだ、遊就館は。 
   前日は天皇誕生日であり、巣鴨プリズンで東條英機元首相の死刑が執行された日でもあった。そのため戦争の資料館である遊蹴館の出口に置かれたルーズリーフには、山ほどの感想が書き込まれていた。しかし一夜明けたイブは、書き込みも少ない。15時の段階で、わずかに5つだ。 
   そのうちの1つ。若い女性のものと思われる筆跡で、次のような感想が書かれていた。
   「こんなに何も知らない私には、何を思えばよいのか分からない。ただ1つだけ思うことは、もっと戦争について、日本の歴史について知ろうということ。そして、もっと考えることができる人になろうということ」 
   イブでも真剣な人はいるのだ。かたやクリスマスという熱に浮かれている人もいれば、真面目に考える人もいるのだということを遊就館は教えてくれた。 
   家に帰り、深夜番組を見ていたら靖国神社のCMが流れた。正月カラー満載、靖国の印象を打ち破るようなポップさに驚くとともに、靖国のクリスマスイブの企画に改めて虚しさと寂しさを覚えた。靖国は1週間後の正月に勝負を賭けている。 (■つづく)

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