« サッチー報道についてのそれぞれの言い分 | トップページ | 内部告発・豊島区は税金泥棒・第17回 逆襲 »

阪神大震災現地ルポ 第11回/部落差別問題は避けられない

■月刊『記録』96年4月号掲載記事 

  昨年の震災直後、神戸市の生田川公園(中央区)のテント村で避難生活を送っていた中山いさ子(仮名、60)さん達は、近くの市営新生田川住宅13号棟の住民だった。築23年の13号棟は、12階建の4階の一部が押し潰される「層崩壊」で全壊した。ここでは市営住宅が2棟全壊し、3人が死亡した。 

  取材した当初は全く知らなかったが、この住宅は同和対策事業で建設された「改良住宅」で、この地域は生田川地区と呼ばれる被差別部落だった。被災住民に仮設住宅が専用的に確保されていたのは、一般の市営住宅とは異なり、部落の生活環境改善のために建てられたという経緯があるからだった。 

  当時、生田川公園を取材したのは、三宮周辺では数少ないテント村で、周囲と比較すると被害甚大という印象を受けたからだった。須磨区の西村栄泰さんを最初から在日韓国人と知って取材したわけではなかったのと同じで、最近まで被差別部落と知らずに取材を続けていた。震災取材を続けるうえで、部落差別の問題を避けて通ることはできないと以前から思っていたが、そう思いながら、自分でも知らぬまま被差別部落の人々から既に取材していたのである。 

  意識して訪ね歩いたわけではなく、出会った被災者が在日であり、そこが被差別部落だった。それは、やはりこれらの人々に被災が集中していることを意味しているのだと思う。震災の社会的格差を、ここでも痛感させられた。しかも生田川地区は、改良住宅の建設が完了していたため、被災地の部落のなかでこれでも軽微な被災だったという。以前の様子を知る中山さんも「改良住宅ができていなかったら、生田川も長田のように燃えていただろうと語っている。 

  生田川地区は、神戸開港後に形成された部落で、昔は「新川」の名で呼ばれていた。戦前から戦後にかけて活動した社会事業家の賀川豊彦が、一時期ここで暮らしキリスト教の布教を行っていたことがある。もっとも、賀川はその活動とは裏腹に部落への差別意識が強く、当時から水平社の強い非難を浴びていたが。開港前の神戸は辺鄙な場所だったというから、部落・一般を問わず、多くの人々が他の都市から神戸に流入して、都市が誕生した。神戸の差別史研究書『ミナト神戸コレラ・ペスト・スラム』(安保則夫箸)によれば、神戸市内に点在していたスラムを被差別部落の周縁部に押しつける「差別政策の結果」、新川がスラムとして肥大化していったという。差別政策は当時の市域の東西両端で実施された。東端が新川で、西端が長田区の番町地区だった。

■ 常に差別のプレッシャー 

   新生田川住宅が被差別部落と知った時、正直いって驚いた。そして考えさせられた。生田川公園テント村には、自衛隊以外に行政からの救援が皆無だったが、それは差別とは関係なかったのだろうか。テント村の被災者はほとんど全員が13号棟の住民だった。中山さんは「学校よりテントの方が気が楽だったから」と言うが、公の避難所の小野柄小学校ではなく、隣の公園に住民がまとまっていたことに「見えない壁」を感じるのは、うがちすぎだろうか。「13号棟は日頃から団結していたから助かった」と被災住民の女性が語っていたが、その日常的な団結も、被差別体験から否応なしに培われたものではなかったのだろうか。 

  中山さんは、新川のスラムで生まれ育った。生田川は各地から人が集まってつくられた被差別部落だが「両親は神戸出身ではないし、私も地区の外で育ったから、差別された経験はない」と言う。それでも、彼女の子ども達がまだ幼い頃、「地区のこと遊ぶようになってから、うちの子が悪くなった」と、人から露骨に言われたことがある。子ども達の躾に厳しかった理由を、「あんな親だから子どもも、と言われたくなかった。まして同和地区だから、と言われるんだから」と述懐しているように、常に差別のプレッシャーを意識させられてきたことも、また事実なのだった。 

   2年後には改良住宅が再建される。就職・結婚などでいまだ差別の根強く残る状況を考慮して、これまでは一般の市営住宅よりも低廉な家賃に設定されていたが、建設コストの増加などから、再建後は数倍に値上がりしそうな見込みだという。経済的な負担が増すことは避けられそうもない。中山さんもこう語るのだった。「神戸市は、一般の地区も同和地区ももう同じだという。でも山手と生田川と、芦屋と番町と、誰が同じようにみてくれるのか。決して同じには見てくれない」。 

  改良住宅以前はバラックに住んでいたという中山さんは、小学校は戦争のため満足に学べず、新制中学は貧困から途中で通学していない。働きながら、同僚達が書くのを真似て字を覚えた。夫が健康保険や年金の手続きを怠ったまま他界、彼女はそれを長い間知らずにいたため、結局、無年金状態である。65歳を過ぎないと息子さんの扶養家族には入れないから、健康保険も割高になっている。本人も「苦労のし通しだった」と今日までを振り返る。これらの苦労が本人の言葉通り部落差別とは無関係だとしても(本当は差別によるものだとしたら尚更だが)、理不尽との思いが募る。 

「長いこと生きていれば、それはいろいろなことがあるよ」と、中山さんは明るく乗り超えてきた。その明るさに魅かれて、このところ神戸に取材に行くたび、彼女のもとを訪ねている。 (■つづく)

|

« サッチー報道についてのそれぞれの言い分 | トップページ | 内部告発・豊島区は税金泥棒・第17回 逆襲 »

阪神大震災現地ルポ/和田芳隆」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/389724/6831427

この記事へのトラックバック一覧です: 阪神大震災現地ルポ 第11回/部落差別問題は避けられない:

» ◆通貨の魔術師が、今、明かすFXシークレット裏マニュアル!!◆ [資産を大事に賢く運用講座 ]
◆期間限定6月15日値上げ・30日販売終了!!◆通貨の魔術師が、今、明かす!!200兆円市場をサイフにする!!【 プロ仕様FXディーリング 】シークレット裏マニュアル!!【 本当のプロはギャンブルなんて一切やらない!! 】何故なら、【 市場という名の便利なサイフが在るのだから・・ 】プロが実際に愛用しているそれを習得するだけで全てが整い、後は同じ事を繰り返すだけです!! 本当のプロというものは、実は、決まった事以外は一切行わないのです。常にトータルで勝ち続けるプロは、同じ事を...... [続きを読む]

受信: 2007年6月21日 (木) 15時58分

» 正しい扶養控除・住宅取得控除・医療費控除を知りましょう、そして払いすぎてるかもしれない税金を取り戻しませんか [扶養控除]
正しい扶養控除・住宅取得控除・医療費控除を知りましょう、そして払いすぎてるかもしれない税金を取り戻しませんか 扶養控除・住宅取得控除・医療費控除を含む一切の公的控除を知ることが賢いあなたの嬉しい節税対策。 個人事業主・サラリーマンのあなたも正しい控除申告の知識を持ちましょう。... [続きを読む]

受信: 2007年6月21日 (木) 16時18分

« サッチー報道についてのそれぞれの言い分 | トップページ | 内部告発・豊島区は税金泥棒・第17回 逆襲 »