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阪神大震災現地ルポ 第10回/1年後それぞれの現実

■月刊『記録』96年3月号

■ 1月14日
 
 三宮の「旧居留地」を遠藤義子さんと歩く。倒壊した大丸デパートやダイエーの辺りの道路は整備されて見違えるほどだ。しかし中心部を離れ裏道に入ると凸凹だらけ。壊れた歩道は砂で埋めただけのままだ。雨が降るとあちこちで水と泥が溜まる。「目立つところばかり直す」と慨嘆していた被災者のことを思い出した。 
「1年が近づいて、当時を思い出すと怖い」と遠藤さんが言う。そのせいか、ここ数日体調を崩していた。この1年、怒ったり泣いたり感情の起伏が激しくなったという。年金をもらえるのは数年先。その間の仕事はない。いま働いているのは娘の美和さんだけだ。「貯金も底をついてきた。仮設住宅と違い、私達は家賃を払っている。仮設住宅に入っていない被災者も大変なんです」と、力なく語った。 
 昨年3月に訪ねた長田区に住む在日朝鮮人の清本吉伸さんを再訪した。全壊と認定された自宅は修復を済ませていた。「建て直すと建蔽率の関係で小さくなってしまうので、修理して住むことにした」と話す。一戸建住宅における「既存不適格」だ。修復とはいえ、費用には500万円かかっている。これでは住宅助成義援金30万円は「焼け石に水」にもならない。少額すぎる。 
 運送業を自営している清本さんは、震災後、中古のダンプを購入し、倒壊家屋の廃材を運んでいた。「捨場はトラックで長蛇の列。5時間待ちで1日1回しか運べなかった」という。いまは家屋の土台用コンクリートを運んでいる。「ほんまえらいめ遭うた」と震災を回想し「行政の援助もないし、結局、本人が頑張らないとどうにもならない。これからの方が大変だ」と心境を語った。

■ 1月15日
 
 地震で横倒しになった本山交通公園(東灘区)の蒸気機関車は、1年後もそのままだった。更地の上に家を再建できる人とできない人との格差も目立つ。「借金しようにもできなくて家を建てられない人が近所にも多い」と、田中比早子さんが語った。 
 震災直後、田中さん達とともに福井池公園に避難していた朝倉有子さんと再会した。逞しく明るいその姿は1年前と変わらなかった。朝倉さん一家は三田市に仮住まいし、まもなく自宅の再建が始まる。「狭い土地に建てるから規格品でなく注文建築になるので割高。全部あわせると4千万ほどかかる」と言う。倒壊した家は築4年しか経っていなかった。二重ローンがかさむ。朝倉さんは「ただ金をくれとは言わない。もっと国の方で貸してくれないものかと思う」と話す。県と市の震災復興融資は、住宅金融公庫からの融資がない被災者は受けられない。公庫の方も、既存ローンが残っている被災者には、ほとんど融資しない。その例が田中さんだ。被災地では「住専を税金で救済するなら、我々の方も何とかしてほしい」と、多くの人達が訴えている。まともに配分されているのかさえわからない義援金だけでは足りない。そもそも国家が公費で救済しない「冷酷」を、義援金という「厚意」でいつまでも糊塗し続けていいのか。解決策は、国家が公費で「個人補償」するしかない。

 朝倉さんと田中さんは「価値観は根こそぎ変わった。あまり物を欲しいとは思わなくなった。借金しても家を建てられるだけ幸せ」と、震災後を振り返る。田中さんは2~3月頃に家が建ち、朝倉さんは春頃に上棟式の予定だ。

■ 1月16日
 
 深夜から翌朝にかけて「震災を語り継ぐ夜-朝まで長田」が開催された。三谷真さんも主催者の1人だ。「市民語り部キャラバン」が行った東京での2度の集会の締め括りとして、この夜の集いがある。地元住民やボランティアが100人ほど集まった。 
 まちづくりについて、ボランティアについて、在日外国人と日本人との共生・共死について、様々な意見が出た。長田がケミカルシューズの町であることからの比喩だろうか、「いままでは靴(道路など)に合わせてまちをつくった。これからは足(住民)に合わせてまちをつくらなければ」との発言が印象的だった。

■ 1月17日
 
「朝まで長田」は午前5時から菅原市場での追悼集会「鎮魂と再生の集い」へと続いた。主催者の1人の森栗茂一さんが「震災から半年ほど、長田では火を見るのが怖かった。でも今日は希望の火。どうしてもこの日だけはここで迎えたかった」と語った。参加者の多くが同じことを思っていた。それぞれの思いを込めて、鎮魂の火を灯し、献花した。そして。 
 5時46分、参加者は思い思いに黙祷・祈りを捧げた。 集会の後、須磨区の西村栄泰さんに会いに行った。驚いたことに、自宅再建で詐欺に遭っていた。工事を頼んだ建設会社の社員に手付金350万円を騙し取られていたのだ。家の基礎部分の工費に匹敵する金額で、神戸市から借りた分を丸々詐取されたことになる。詐欺とわかったのは1ヶ月前。さすがの西村さんも、今回は見るからに落胆していた。「騙すよりは騙される方がまし。生きていけるだけの金があればいい。犯人のように欲を出すとろくなことはない」と嘆息するばかりだった。 
 西村さんの仕事の取引先は3分の2ほどが震災でなくなってしまった。「商売もきつくなっている」という。「この1年は早かった。何とか生きてこれた。また1年生きていければいい。生きていればこそ、こうして会うこともできる」。(■つづく)

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