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24時間風呂騒動のウラに東京ガス?

(月刊『記録』 97年5月号掲載記事)

「幸田電機製作所の社長には、もう少し頑張れと言ったんですけれども。破産してからは、携帯電話にかけても誰も出ない状態が続いています。借金の取り立てなどもあるから、おそらく電話にも出られないんですよ。『通産省を相手に訴訟を起こしたいぐらいだ』と、彼もこの騒動にはずいぶんと怒っていました」。そう力なく語り、二四時間風呂協議会の幹事・酒井応速氏は、しばらく口を閉ざした。

 幸田電機製作所は二月五日に負債総額八億円で破産宣言。ジハードも二月一〇日に負債総額約七億円を抱えて事実上倒産。いずれも二四時間風呂のメーカだ。さらに規模の小さい販売店なども、経営危機に直面している。
 大手企業も、大きな痛手を受けた。二四時間風呂のメーカーで最大シェアを占める蛇の目ミシン工業では、九七年三月期の決算で経常損益が一九億円の赤字になるとの見通しを発表している。二四時間風呂の売り上げは、年間で一三〇億円と見込んでいたが、九〇億円にとどまる見込みだ。この騒動のマイナス分が、そのまま赤字になった計算だ。
 これらの原因は、放漫経営でも景気の悪化でもない。通商産業省のあるプレス発表だった。

 一九九六年一二月一八日、通産省は二四時間風呂の製造・販売業者に対する安全対策の要請と第一回二四時間風呂衛生問題検討専門家会議の開催、そしてプレス発表を同時に行った。同省が作成した資料には、このような要請を行った理由が、次のように書かれている。
「『二四時間風呂』を設置した浴槽水中においてレジオネラ属菌(感染の主要症状は肺炎等で重症者は致死率が高い)の高いレベルでの繁殖が高率で観察される事例が学会等で近時、報告されている。また、その他の雑菌によるものと思われる細菌感染等のクレームが数件、各地の消費生活センター等に寄せられている。(中略)『二四時間風呂』については、現時点では、これを感染源とするレジオネラ肺炎の報告事例は承知しておらず、危害発生の蓋然性は疫学的評価によらざるを得ない状況にあるものの、以上のような衛生面の問題が提起されるに至っている」(要旨)。
 二四時間風呂でレジオネラ肺炎に感染した事例がないにもかかわらず、危険性予防のために情報を公開し、専門家による会議を開催したというのだから、お役所にしてはずいぶんと素早い対応だ。何といっても二四時間風呂の製造・販売業者には、通産省のこのような動きが寝耳に水の話だったというのだから、どれだけ素早かったのかがわかるだろう。

■素早過ぎる対応の意味

 調べてみるうちに通産省はこの件に限っては「素早い」どころか「素早過ぎる」ことがわかった。同省が作成したホームページには、国立予防衛生研究所の遠藤卓郎室長が、二四時間風呂とレジオネラ菌について講演したのが九六年一二月六日で、愛知医科大学微生物研究室の薮内英子客員教授が、二四時間風呂とレジオネラ菌に関する論文を発表したのが、九六年の一二月一六日とある。これでは情報を聞いてから二週間ほどで専門家会議まで設定したことになる。常識では間に合うはずはない。

 この点について二四時間風呂の問題を担当している通産省生活産業局住宅産業課の小野洋太課長補佐は、「この問題について通産省が動き始めたのは一一月ごろです。住宅産業課の高橋武秀課長が、『二四時間風呂には問題があるかもしれない』という話を聞きつけ、調査が始まりました」と語り、ホームページ掲載の情報以前に疑っていたことを告白する。
 ならばそのことも公開して何ら問題はないはずである。ところが高橋課長がどこから情報を聞きつけてきたのかを質問すると、「課長はノーコメントです」という答えが返ってきた。妙なところで扉が閉まるものだ。
 「素早過ぎる」背景には他にも不思議なことがある。例えばレジオネラ菌に対しての安全基準はこれまで厚生省が担当していた。いくら二四時間風呂が製品として通産省住宅産業課に属していても、いきなりレジオネラ菌との関係を調査するのは不自然ではないか。しかも、通産省が厚生省に協力を要請したのは、一二月に入ってからだと厚生省側は証言しているのである。

■スポンサーは東京ガス

 この疑問を解決するキーパーソンとみられるのがレジオネラ属菌の第一人者であり、専門家会議の中心的な人物である薮内英子氏である。過去に厚生省からの予算を得て、温泉浴槽内のレジオネラ菌に関する「レジオネラ属菌防除指針」を作り上げた薮内氏が、自ら通産省に売り込みにいっているのは、「薮内先生から、こういう実験(二四時間風呂とレジオネラ菌についての実験)をするのですがと、情報を寄せてくださったのです」との小野課長補佐の証言でわかった。薮内氏の論文の完成を通産省が急がせたという噂も関係者の間でささやかれている。

 もう一人のキーパーソンが内村泰教授である。彼は九七年一月二九日に行われた第二回専門家会議に、ゲストスピーカーとして出席し、九六年七月から行っていた彼の研究の中間報告を行っている。それは、二四時間風呂を新規に設置した六つのモニターから、毎週決まった時間に水をくみ取り、レジオネラ菌の量を測定するというものだ。実験では、さまざまなメーカーの二四時間風呂を使い、説明書通りに浴水の交換や洗浄などを行ったにもかかわらず、すべての浴槽から高濃度のレジオネラ菌が検出されていた。つまり二四時間風呂の危険性を証明するには、またとない実験結果だったのだ。
 学会で発表されてもいない実験途中の研究を、あえて俎上に上げた理由として小野課長補佐は「私どもが委員会を開いているのを聞いて内村先生が情報を寄せてきた」と発言している。

 要するに藪内氏と内村氏という学者が自らの研究を自発的に通産省に知らせ、同省も打てば響くように一学究の声に応えて迅速に結論を出したといいたいようである。確かにありえない話ではない。だが普段の学者と役人の姿を思い起こすにつけ「素早過ぎる」との違和感が拭えない。さらに取材を続けると意外な事実がわかった。
 実は、通産省は内村氏から情報を得たのではなく、内村氏の研究のスポンサーから情報を得ていたのである。一ヶ月に一度、内村氏がスポンサーに提出していた情報を通産省は確認し、内村氏への専門家会議への出席を依頼したである。そのスポンサーとは東京ガスである。

■二四時間風呂叩きに二千万円投入

 内村氏は本誌の取材に対し、「(東京ガスからの依頼は)九五年の一二月頃に、隣の研究室の後輩が『研究費がつくけれども、実験をしないか』と声を掛けてきたんです。ちょうど、その時は卒論論文の研究も始まっていましたし、学生の手配なども考えるとできる状況ではなかったので、『やってもいいけれど、四月があけてからだね』と答えました。
 その実験は、私に紹介してくれた後輩の友人が、ある会社の社長と知り合いで、その会社をパイプ役にして任された仕事なんです。その実験に、私から出した注文は、一つの会社をいじめることにならないように、二四時間風呂の機種をいくつか使うことでした」と打ち明ける。

 人の紹介で研究依頼が来ること自体は、理系の研究室では当たり前のことだが、研究費のかけ方は普通ではなかった。実験器具はもちろんのこと、実験に使う新品の二四時間風呂まで購入し、モニターの風呂に備え付けたという。これらの総額は一千万円。その上、仲介の会社にも同額のお金を支払っているだろうと、内村氏は語っている。
 いったい二千万円もの研究費を、東京ガスは何を目的に支出したのだろうか。東京ガスは二四時間風呂を製造していないので二四時間風呂のレジオネラ菌を調べる理由は全く見あたらない。厳密にいえば、東京ガスは九五年一〇月に二四時間風呂を発売する予定で商品開発を進めていたが、同年春頃にレジオネラ菌が繁殖する危険を察知し、結局安全な基準まで水を浄化することができず、いままで発売を見合わせている経緯がある。
 つまり東京ガスは自社の製品でレジオネラ菌を減らせないことが明らかになった後に、大金をかけて他社のレジオネラ菌の数を学者に調べさせ、その情報を通産省に売り込んだという構図になる。東京ガスが何を狙ったのか勘ぐるなといっても難しい話ではないか。
 内村氏によれば、通産省の役人と東京ガスの社員、そして内村氏で合った時、通産省側は「何でそちらでやらないんですか」と、研究資料だけをため込み自社開発に結びつけようとしない東京ガスの態度に驚いたという。通産省でなくとも他社製品の危険性を確かめるために二千万円ものお金を使うのは、とても理解できない。唯一、合理的な説明がつくとすれば、初めから東京ガスは他社の二四時間風呂製品が持つ欠陥を宣伝するためだけに、実験を行ったということだ。
 それを裏付ける内村氏の証言もある。「実は九六年一二月に、私は自分の研究結果を新聞社に提供しようと考えたことがありました。ところがどうも通産省が動いていると聞いたので、私が先んじる必要もないと思い直しました」。

■レジオネラ菌は周りにウヨウヨ

 さらに不思議なのは二四時間風呂騒動の決定打となった「レジオネラ菌」なる細菌である。商品化の過程でレジオネラ菌の存在に気づいた東京ガスが、義憤にかられて危険な他社製品を告発した・・・・という筋立ても考えられなくはないが、それはレジオネラ菌が本当に危険でなければなるまい。

 まず確認しておきたいのはレジオネラ菌は、どこにでもいる菌である上に、どれだけ菌がいれば危ないのかという基準も確立していないということだ。
 菌は自然界にウヨウヨしている他、人工の環境では温かい水のあるところが大好きだ。たとえば加湿器や、温水器、温泉などにも普通に存在している。どこの風呂にもかなりの確率で存在するといっても過言ではない。だから二四時間風呂が微生物を使った「バイオ方式」という浄化装置や紫外線・オゾンなど、レジオネラ菌に効果がない殺菌装置に頼っている限り、レジオネラ菌は確実に浴槽に入り込む。一般の浴槽にもレジオネラ菌はウヨウヨいるが、増殖するためにはかなりの日数が必要なために、水を入れ替える分だけ二四時間風呂ほど高濃度にならないというだけの話だ。
 問題は、この菌を含む水などのエアロゾルや土埃を人間が吸引すると、レジオネラ肺炎を発病する場合があることである。この菌は、一九七六年年七月五日から八月一六日までに、ペンシルベニア州で二二一人の肺炎患者を発生させ、そのうち二九人を死亡させた原因菌として最初に注目された。適切で強力な治療を受けなければ、発病後数日以内に死亡するといわれている。患者で最も多いのは、老人や子どもやなど抵抗力のない人だが、健康な人でも発病する場合もあるという。
 つまりレジオネラ菌とはテレビドラマみたいなものだ。日常にあふれかえっており、中には犯罪に結びつく内容を含んだものもあろうが、気にしていても排除できるものではないし、目くじら立てて根絶するほどでもないといったところだ。
 例えば、九三年三月に行われた国民生活センターの調査では、大腸菌の数や、一般細菌の数を調査しているがレジオネラ菌の調査はしていない。そして「公衆浴場水質基準を十分に満たしている」「二ヶ月経ってもお湯がきれいなので、浄化効果がある間は浴槽の掃除は不要だといえるだろう」と結論づけている。
 これらの事実からもわかる通り、東京ガスの調査は「二四時間風呂にはどこにでもいる菌がいた」ということを大金かけて証明したことになる。

■何者かが騒動を大きくした

 次に東京ガスの動きに呼応した通産省の思惑を考察したい。
 レジオネラ菌は、普通の細菌用培地では増殖しない。全国旅環境衛生同業組合連合会が作成した「レジオネラ属菌防除指針」から引用すれば、「レジオネラ菌は通常の細菌学用培地には発生しないので、一般水質検査のための細菌検査をどれほど入念に実施しても決して発見されない。純培養菌はグラム陰性細菌であるが、検査材料をスライドグラスに直接塗抹して染色しても見いだせない」というほど大作業なのである。レジオネラ菌はそれを調べることを目的としなければ、絶対に見つからない菌なのである。

 これで通産省が動き出したのが一一月という事実も合点がいく。内村氏がレジオネラ菌の数を最初に測定した浴槽水は、一〇月二一日に浴槽から取り出されたものだった。レジオネラ菌は、培地に移してすぐ育つものではないため、三六度で五~七日、培養する必要がある。つまり一〇月二一日に取り出された菌は、早くても一〇月二六日にならないと、結果が出せなかった計算になる。
 レジオネラ菌の数の推移を調べる検査は、この後、一〇月二八日と、一一月五日に行われているため、一一月初めごろにはレジオネラ菌の数がかなりわかっていたものと思われる。つまり通産省が動き始めた時期は、東京ガスが検査結果を手にした時期と一致する。

 通産省の勘ぐりたくなる動きは他にもある。
 レジオネラ菌対策を練るために官庁が有識者を集めたのは、通産省が初めてではない。九四年には、ビルなどに設置されている水冷式冷却塔の冷却水の危険性が専門家より指摘され、厚生省生活衛生局が動き出して、「レジオネラ症防止指針」を監修・発表している。さらに同年四月には、温泉浴槽での危険が指摘されたため、全国旅館環境衛生同業組合連合が厚生省に働きかけ、同省の予算を獲得し、再度温泉を調査。九五年三月には「レジオネラ属菌防除指針」を作成している。しかし、どちらも「騒動」と呼ばれるほど大きな混乱を起こさず、指針が発表されているのである。ここが二四時間風呂騒動との大きな違いなのだ。
「レジオネラ症防止指針」を監修した厚生省生活衛生局企画課によれば、安全基準を定めるために、所轄の官庁が有識者の検討会を作るのは、しごく当たり前の方法だという。つまり、通産省が「専門家会議」を開いたこと自体は異例でも何でもない。気になるのがマスコミへの対応である。

 通産省が記者発表した翌日の一二月一九日、『朝日新聞』の朝刊には、「二四時間ぶろにレジオネラ菌 通産省が対策要請」という記事を掲載している。扱いはあまり大きいものではなかった。前述の酒井氏によれば、当時は売り上げが激減するような事態にはならなかったという。
 事態が深刻化したのは、一月二七日だった。『産業経済新聞』が朝刊で、一部メーカーが販売を中止することをスッパ抜いたのだ。その翌日には『日本経済新聞』が、九段抜きで詳細を報じた。「各社に電話が殺到して、とても通常の業務をできる状態ではなくなりました」と、酒井氏は当時のことを語っている。
 通産省が製造・販売を中止している企業があると、正式に認めたのは一月二九日だ。いったい『産経新聞』のネタは、どこから流れてきたのだろうか? 当時、各社の対応をすべて知っていたのが誰なのかを考えると、通産省から漏れたという噂にも信憑性がわく。
 しかし、二四時間風呂の問題を担当している通産省生活産業局住宅産業課の小野洋太課長補佐は、「私達は知りませんよ。新聞社が調べたんでしょ」とつれない。
 記者クラブを通じて各社に情報を流すのと、一社だけに情報を流すのでは、新聞社の食いつきは変わってくる。記者クラブからの情報だけだったなら、これほど大きな扱いになっただろうか?

 また当時、通産省に電話で詳細を問い合わした男性は、次のように語っている。
「通産省に電話をかけると、『ばい菌がウジャウジャいるんですよ。すぐ取り外しなさい』と言われました。二四時間風呂を欠陥商品だと決めつけた言いぐさでした」。
 通産省が二四時間風呂を取り上げたのは、消費者の前に製造元が隠している情報を公開するのが目的だったと聞いている。初めから欠陥商品だと決めつけたような電話の対応など、論外である。

■ガス使用量の低下阻止が動機か?

 東京ガスが通産省と結託して二四時間風呂を追い落とそうとした理由は何なのだろうか。最も有力だと思われるのは、ガス給湯器・風呂釜から二四時間風呂へ移行することに伴う、ガス使用量の低下だろう。二四時間風呂の熱源にはガスと電気の両方があるが、ガスは施設にお金がかかるため電気ほどのシェアを得てはいなかったからだ。

 国民生活センターの試算によれば、二〇〇リットルの水を沸かすためには一回五〇~五五円の料金がかかる。一ヶ月では、一五一二~一六三八円かかるという。さらに、家族前任が入るために追い炊きが数回行われると考えられ、この値段の最大二倍程度が実状と考られる。つまり、一世帯が一ヶ月あたりに風呂を沸かすのに使うガス代は、三〇二四~三二七六円ということになる。
 さらに、二四時間風呂協議会によれば、この騒動がなく順調に売り上げが伸びていれば、九九年には二〇〇万台を越えて普及すると予測されていた。この数字から、ガス用の二四時間風呂の個数を除いて一六〇万台と仮定すると、三一〇〇円で計算しても、九九年には月額四九億六千円ものガス代が消えることになる。年額では、なんと五九五億二千万円もの損害を被ることになるのである。九五年度における東京ガスの総売上が八三一七億円もあるとはいえ、売り上げの七%強が自動的に消えるのを防ぐための二千万円など安いものだ。

 また、これ以外の理由として、二四時間風呂の関係者の間で出回った怪文書には、面白い理由が書かれている。
  「ご存じの通り佐藤通産大臣の妻は、東京ガスの安西家から来た人です。このチャンスを逃す手はないということで、早速二四時間風呂つぶしがはじまったのです。通産省も認めているように、今までただの一人も二四時間風呂による感染者が無いにもかかわらず、強引に新聞発表を強行し大混乱に陥れようと画策したのです。
 おまけに高橋課長という人物が塩川前代議士の娘と結婚しており、遠からず地盤を継いで立候補する予定らしいが、これといって業績らしい業績もないので、このへんで何かやらなくてはということで尻馬に乗ってしまったのです」。
 真偽はとにかく、興味深い内容であることは間違いない。

■なぜ目の敵にし続けるのか

 衛生学・細菌学の権威であり、山野美容芸術短期大学教授でもある中原英臣氏は、「この問題は難しいと思いますね。神経質になり過ぎる必要はないと思いますが、感染したら危険であることは間違いないありません。だからといって患者が出ていない製品を、禁止することもできません。結局、自分の頭で考えて危険だと思うなら、近づかないことです。ただし、レジオネラ菌だけを取り上げて騒ぐのは、お役所のお節介のような気がします」と騒動を総括してくれた。二四時間風呂でレジオネラ菌が繁殖していることは間違いない。しかし、レジオネラ菌の危険性を強調するかのような通産省の姿勢と、その裏に見え隠れする東京ガスの影は、レジオネラ菌以上に危険な臭いがする。

 通産省の小野氏は、「よく情報公開のモデルケースなどと言われますが、私どもには選択肢はありませんでした。国内では感染例がないものの、アメリカにおいてはクルージング船の循環式渦流浴装置の湯が感染源となって、レジオネラ肺炎が集団発生しているのです。通産省が持っている情報を公開して、消費者に利便性と危険性を判断してもらうしかないのです」と語る。
 小野氏の言うことはもっともだ。しかし、強制力を持たない基準を早々とつくった温泉旅館は何の打撃を受けることなく営業を続けており、一方で二四時間風呂は完膚なきまでの打撃を受けたという不公平な事実への答えにはなっていない。
 通産省の執拗な二四時間風呂攻撃は現在も続いている。同省消費経済課では九六年度に行われた商品テストの結果をまとめている。同課は前年度に消費者からの苦情が多かった製品をチェックしているのだが、この中で二四時間風呂は火災の可能性まで含んだ浴槽への悪影響を指摘されているという。

 通産省が「消費者センターに寄せられた声なども反映している」というので調べてみると、九五年に同センターに寄せられた二四時間風呂への苦情は全国で八七〇件あったが、そのほとんどは売り方に関するもので安全衛生にかかわる苦情は、わずか二八件だった。
 そこで事実をぶつけようと消費経済課に電話取材をお願いすると、「(その件は)住宅産業課が管轄している」と、ひどく慌てた様子で答えた。語るに落ちたとはこのことだ。商品テストは間違いなく消費経済課である。その課が思わず口走った「住宅産業課」は前述のように二四時間風呂を管轄している。住宅産業課が消費経済課に二四時間風呂を特定して調査を依頼しなければ、このような対応になるはずがない。通産省は、まだ二四時間風呂をいじめ足りないらしい。
 官僚と大企業が結託した姿がみえるこの騒動のなかで、「一五年かかって作り上げた市場を、たった二ヶ月で失ったのです」と語った酒井氏の言葉が胸に重くのしかかっている。
研究開発は続いている

――二四時間風呂の開発の経緯を教えてください。
 当社が二四時間風呂の販売を内定したのは、一九九四年の秋です。九五年秋の発売を目標に、研究開発を続けていたのです。ところが同年の春に、開発セクションから二四時間風呂にはレジオネラ菌が繁殖する可能性があることを指摘され、どうなるかわからないので発売という表現は控えることにしました。その後も開発は続いてきましたが、夏を過ぎてもレジオネラ菌が目標の数値を下回ることがなかったため、開発は続けるものの発売は延期することにしました。
 レジオネラ菌には明確な安全基準がありませんが、少なくともも空調の基準である「レジオネラ症防止指針」を下回らない限りは、当社では販売ができないと考えています。万が一事故が起こった場合、責任の取りようがないからです。

――発売延期ということは、現在でも研究開発は続いていますか
 続いています。ただし商品というレベルまで達していません。

――どうして内村泰氏に実験をお願いしたのですか。
 当社が苦しんでいるレジオネラ菌の基準を、他社がクリアしているのか知りたかったからです。先生に依頼したのは、昨年の春ごろでした。結果はご存じの通り、レジオネラ菌が高濃度で観測されたわけですが、私としては「やっぱりな」という感じでした。

――では、内村氏が実験を行っている情報は、どこから通産省に流れたのですか。
 通産省がプレス発表を行った九六年一二月一八日の少し前に、同省から「二四時間風呂の販売を延期した理由を教えてくれ」という要望がきたのです。通産省との会談の席では、内村先生の実験も話題にのぼりました。すると通産省側が「ぜひ、そのデータを欲しい」と言い出しまして、私どもも「出せない」とは言えない立場ですから、実験した二四時間風呂のメーカー名を教えないという約束で、データをお渡ししたのです。そのデータを見て、通産省から「ぜひ専門家会議に出席してください」と、内村先生に要請がありました。この時の会合は開発担当者が出向いたのですが、当時通産省は二四時間風呂について、すでにかなり詳しい情報を持っていたと聞いております。

――内村氏が、九六年末に研究結果をマスコミに流そうとしたことはご承知でしたか。
 当社は、内村先生の実験のスポンサーですが、実験結果の公表については先生の一存に任せておりました。ですから内村先生が年末にマスコミにデータを流そうとした件については何も知りません。

――今回の二四時間風呂騒動の鍵を握っている薮内英子氏に、意見を求めたことはありますか。
 レジオネラ菌の問題が浮かび上がってきた時、当社でも二人ほどの専門家に意見を伺いましたが、薮内英子先生にはコンタクトを取っていません。

■課は消滅、課長は逃走

「レジオネラ属菌の浴水中の存在量とヒトへの感染との関係を、学術的な確実さを持った『閾値(ある系に注目する反応を起こさせるのに必要な作用の大きさ、強度の最小値)』の形で示すことは、現下の研究の状況では不可能。不検出を目指すことが望ましいが、製品にどのような性能を付与すべきかは製造者の判断と責任によって決定されるものである」

 これは、九六年一二月一八日から四回にわたって開催された「二四時間風呂衛生問題検討専門家会議」の結論として、九七年五月二二日に出された「二四時間風呂衛生問題検討専門家会議所見」である。お役所言葉の典型ともいえる文章のため意味がわかりにくいが、要約すれば「通商産業省では水質の基準を決められないので、業界がきちんとやれ」と言っているだけだ。なんと無責任な回答だろう。マスコミを焚きつけて二四時間風呂がいかに危険であるかを宣伝し、二四時間風呂業界で四社も倒産させた通産省が、何の指針も示さず何の責任もとらずに騒動は終わりを迎えたのである。
 それだけではない。なんと六月三〇日をもって、騒動の火元である生活産業局住宅産業課は窯業建材課と統合され、住宅産業窯業建材課となった。騒動の最中に出回った怪文書で、国会議員へ立候補するための業績欲しさに二四時間風呂潰しを画策したといわれる高橋武秀課長は当然のことながら移動。騒ぐだけ騒いでおいて、課は消滅、課長は逃走という事態には怒りを通り越してあきれるばかりだ。

 じつは今年の四月には、「通産省は問題を解決する気がない」「専門家会議でも建設的な意見は出ていない」といった噂がマスコミや業界関係者でささやかれていた。これらの情報が正しかったことは専門家会議の所見により図らずも明らかになったが、もともとレジオネラ菌には対策の立てようがない事情があることも判明した。
 今回の騒動では注目されていなかったが、レジオネラ菌は日和見感染を特徴とする。しかも全身の抵抗力がかなり落ち込むほどの病気にかかっているときに感染する菌なのである。通常の健康状態ならば、水のあるところならどこにでもいると言われるレジオネラ菌を恐れる必要はない。
 たしかに集団感染は存在する。通産省が何度も引き合いに出し、レジオネラ菌の発見にもつながった七六年アメリカのフィラデルフィアで起こった集団感染では、感染者二二一人、死亡者二一人と報告されている。しかしその後の調査で、この集団感染はかなり特殊な状況で起こったことが明らかになっている。
 まず第二次世界大戦を体験したかなりの高齢者が、在郷軍人会のパーティーのために集まっていたこと。さらに彼らが宿泊しているホテル屋上にある冷却塔のパイプに細かな穴が開き、レジオネラ菌を含む水が霧状になって窓から入り込んできたことである。

■抑えられた情報

 レジオネラ菌は肺に入らなければ感染しない。つまり水に住むレジオネラ菌への感染は、エアロゾルつまり細かい水の粒になって空気と一緒に肺に入ったときか、または水におぼれるなどして肺に水が流れ込んだときに起こる。そう考えるとわかるだろう。レジオネラ菌に感染するのは、かなり大変なのである。おぼれるのはもちろん、エアロゾルを含んだ空気を吸い続ける機会などなかなかあるものではない。まして全身の抵抗力が衰えるほどの病気や高齢でなければ感染しないというのだから、菌がいるから即危険といった認識は誤りであり、集団感染などは諸処の事情が組み合わさって初めて発生するのである。

 二四時間風呂を問題にした時点で、これぐらいの情報は通産省ならば当然入手していたはずだ。ところが現在に至るまで通産省は、レジオネラ菌が容易に感染するかのような発表を行っているのである。さらに衝撃的な報告もある。
 フィラデルフィアの集団感染の翌年にあたる七七年、細菌分類学者の坂崎利一氏が厚生省に働きかけ、東京と大阪の大きなビルの冷却塔タンクを調べた事実を、訪問販売の専門紙『訪販ニュース』紙上のインタビューで明らかにしている。
 その記事によれば、タンクの半数以上からレジオネラ菌が発見され、そのなかには一日一トン以上も冷却水が飛散する大きなタンクが含まれていた。にもかかわらずビル内には発病者はいなかったという。さらに地下鉄の工事現場の地下水の場合、すべての検査箇所からレジオネラ菌が検出されたが、ここでも発病例はなかったとされる。対策方法もなく被害もない状況を見て、坂崎氏はパニックを起こさないために公表を差し控えたと語っている。
 このような事実に照らしてみると、厚生省管轄のビルの冷却塔や温泉に対するレジオネラ菌の基準が、大騒ぎされることもなく粛々と作られたのも頷ける。厚生省はパニックを起こす必要のないことを知っていたのである。
 必要のないパニックが起きる可能性を鑑みて公表を差し控えられたレジオネラ菌の情報が、パニックを起こすために二〇年の時を経て亡霊のように立ち現われるとは、誰が予想していただろう。亡霊を担ぎ出しパニックに乗じて敵を叩くなど、三文小説もいいところだ。

 二四時間風呂におけるレジオネラ菌の危険性については、まだ問題がある。二四時間風呂とエアロゾルの関係だ。専門家会議の所見でやり玉に挙がっているのは、二四時間風呂に併設してある気泡発生器(ジェットバス)やシャワーの機能だが、本当に危険なのだろうか。某大手電機メーカーでは、測定誤差ありすぎて公表できないとはしているものの、ジェットバスやシャワーではエアロゾルまで小さい水滴にならないという実験結果を持っている。百歩譲ってエアロゾルが発生したとしても、一日一トン以上が飛散する大型冷却塔や、空中に水をまき散らす加湿器などと比べて、どちらが危険かは判断を待たないはずだ。

■何があってもしらんよ

 何処にでもいるが条件が整うと猛威を振るう菌など、専門家会議にどれだけ高名な学者を集めても対策の立てようがない。ましてPL法が施行された現在、ことによっては製造物責任の肩代わりさえ求められる水質基準を通産省が作れるわけがない。案の定、専門家会議の所見では「製造業者が自己の製造にかかる設備・器具を感染とする疾病発生のリスクは製造業者が負うものであり、さらに、自ら設けた『閾値』の正当性についての責任を、製造業者が負うものである」と書いてある。あいも変わらずわかりにくい文章だが、結局「俺は関係ない」と言っているだけだ。騒動の初めから指針など出せないと知っていながら騒ぎ立て、あげくの果てにはこれである。さすがはお役所。

 これだけ明らかな業界潰しが平然と行なわれたことも驚くべき事実だが、さらに信じられない事実が発覚した。この騒動が起こる三ヶ月も前の九六年九月から、通産省産業政策局消費経済課の九州支所製品評価技術センターで、二四時間風呂の商品テストが進められていたのである。なぜかこのテストは極秘扱いとされ、電話取材でも九州支所はテストの事実を認めていないが、テストの結果は公表されている。しかもこのテストには、二四時間風呂の専門家としてメーカー側の民間人が参加し、研究に必要な資料や情報が一個人から提供されているのである。しかも将来的に厚生省から指摘される可能性を予見して、レジオネラ菌と緑膿菌の検出検査まで消費経済課に彼が進言し、検出されなかったという報告まで受けているのである。

 同じ通産省で、どうしてこうも違った見解が出ているのだろか?
 九七年六月三〇日、このような矛盾を問いただした質問書が、試験に参加した本人から住宅産業課に提出された。しかし通産省自体が持っている矛盾を指摘するために来庁した個人に対する言葉は、脅しだった。
「おやじさん、会社や個人に何があってもしらんよ」。通産省の一課長補佐に過ぎない田坂勝芳氏に何ができるのかは知らないが、企業や個人など自由になると思っている態度にはあきれかえるばかりだ。もちろん書類提出の四日後に送られてきた回答も、すでに公開しているインターネットのホームページをコピーするだけというバカにしきった内容だった。
 これだけの矛盾を指摘されても、非を認めるどころか牙をむく官僚に、瞬時に何%も企業規模を縮小させられた経営者の痛みなどわかる日はこないのだろう。

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受信: 2007年5月31日 (木) 20時41分

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受信: 2007年6月 1日 (金) 10時21分

» センター 試験 [センター試験英語を極めよう!]
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受信: 2007年6月 3日 (日) 08時23分

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受信: 2007年6月 4日 (月) 03時19分

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受信: 2007年6月 4日 (月) 13時27分

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